表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第一部  鉄の勇者のサバイバル
15/214

閑話 青春の思い出

すでにお気づきかと思いますが、クロガネは割とサイコパスです。

夜の河原。

バイクに乗ったもの、角材を肩で担ぐもの、リーゼントに鉢巻、特攻服のもの。

釘バット、そして野次。

俺は、横並びのヤンキー達の前に一人で立つ。結構な数だった。

「マジで来たぜ、頭いかれてんのか」

そんな声が聞こえた。

幼馴染の優香は、俺が最も大切にする人。そんな優香を人質に、河原へ呼び出す卑怯者。

それが、目の前にいる集団のリーダー、鬼頭トオル。暴走族鬼蜘蛛の3代目総長だとか。俺には関係ないし、知らん。

集団を見渡す。揃いも揃って、威嚇的。おー怖い。

「優香は無事か?」

俺はつい大声になった。ギャラリーの声が大きすぎて、叫ばないと声が届かない気がしたからだ。

「おい、連れてこい」

黒いマスクをつけた鬼ゾリのチンピラが、制服が破かれた優香を連れてくる。

はい、あいつは死んだな。

「テツくん! 逃げて」

優香が叫んだ。

「うるせえ、このアマ」

鬼ゾリチンピラが、優香の頬を叩いた。

うーん。3回死んだな。

俺は覚悟を決めていた。ここで死のうと。

優香には悪いが、汚されるくらいなら死んだほうがマシと思うに違いない。

運よく生き延びたら、その時はラッキー。優香が汚されたとしても、俺は気にしないが。一生愛してやろうと誓う。

ざっと見て100人くらい。死ぬ気で行かねば、殺される。

「一つ聞く」

俺は大声を上げた。

「お前ら、死ぬ気で来たんだな」

ヒャヒャヒャと大爆笑。

「人数みて物言えや、くそガキが」「誰が殺すって、おら」「勝てる気でいんのか」

飛び交う罵声。

俺は首を回す。

「謝っても許さんぞ。二度とこんなことをする気が起きないように、きっちり教育してやる。優香、ちょっとだけ待ってろよ」

思えば、きっかけは大したことではないと記憶している。

鬼頭に敬語を使わなかったとか、そんなことから始まり、手下に首根っこをつままれたので、反撃した。そんなことだった。

それ以降、ちょっとした脅しを無視。襲ってきたやつを返り討ちにして、相手は勝ち目がないと悟り、今日に至る。

まあ、それが選択ミスだったことを、徹底的に思い知らせてやる。10人は殺す。マジで殺す。

ゆっくりと近づいていく。

「オラー死ねや」角材を持ったチンピラが振りかぶる。

バイクのライトで逆光になった男の影。

角材を素手の右手で受け止め、左手で鼻を折る。

激しく吹き飛ぶチンピラ。

それを見た他の連中が激昂して、押し寄せてくる。

俺は、冷静で、取り囲まれないように集団をコントロールする。

こういった場合、戦法は大きく2つ。弱そうなやつから倒すか、強そうなやつから倒すか。

だが、今の俺には関係ない。向かってくる奴を丁寧に叩き潰す。

二人掛かりで、釘バットとメリケンサックが襲ってきた。

遅い攻撃。スタミナを消費しないよう、最小限の動きでかわす。


俺は昔から特技がいくつかあった。

まず、動体視力。父親に連れて行かれたパチスロのドラムは、すべてゆっくり見えた。他の人があまり見えないと知って、驚いた。

こいつらのパンチは、あくびが出るほど遅い。

特技2つ目。

俺は気配を感じるのが得意だ。

耳が良いのか、鼻が良いのか。今、二人が後ろに回り込んだ。大勢に囲まれつつある状況で、どこに行けば、囲まれないかが、瞬間でわかる。

大きくバックステップをして、左斜め後ろに下がると、右手に回り込んだ奴らがいる。

そいつらはぎょっとして、慌てて殴りかかってくる。

すり抜けて、耳の後ろに拳を叩き込む。つんのめってこける男の脇腹につま先蹴り。

残った一人の挙動を観察、パンチを打とうとする前に、逆に動いて力を入れさせない。

これが特技3。姿勢や視線から、相手の動きを読む能力。力みや踏み込みで、相手の体内の力の加減がわかる。

動体視力と観察眼があれば、あとは、リズムゲーみたいな感じだ。

モグラ叩きにも似ている。

間合いを制し、攻撃モーションを見極め、攻撃される前に順番に叩き潰していく。

2、30人くらいをいなしていったところで、さすがにちょっと疲れてきたのもあり、シャツを掴まれてしまった。

「捕まえたぜ、死ねや」

そう聞こえた時には、頭に角材の衝撃が走った。一瞬、真っ白になり、鉄の味がした。

俺は怒りで吠えた。その後は、はっきりとは覚えていない。

ただ、目の前の標的を、的確にぶちのめしていった。

俺が意識を取り戻したのは、パトカーの中だった。

背中に回された両手が手錠で繋がれている。

「? ここは」

と俺が聞くと、

「なんだよ、喋れるのかよ」と忌々しそうに言う警官。

前の席の警官が「乱闘罪だ、お前ら。事情は署で聞く」

と淡々と言う。

俺はその時思い出した。

「優香は? 優香は無事か」

「女の子なら、無事保護している。お前らで集団レイプしようとしてたんだろう」

と警官が決めつけるように言った。


―――――――――――――――――――――――――――――


警察署を出たのは、次の日の夕方だった。

親父が迎えに来ていた。その横に優香と優香の母親。

優香が俺を見るなり抱きついてきた。

「ありがとうテツくん! 助けてくれてありがとう!」

泣きながらお礼を言う優香に、なんだか照れくさくなって、

「遅くなって悪かったな」とだけ言った。

親父は難しそうな顔をしていた。褒めて良いのか、叱るべきなのかわからないと言った顔だった。

警官に聞いたら、俺以外のほとんどは病院送りになったらしい。

幸い死人や意識不明者はいないが、大数が骨折していた。

事情を優香から聞いた警官は、呆れるように言った。

一人で立ち向かうなぞ、命がいくらあっても足らんぞ。と。

「次からは警察を呼ぶんだよ、いいね」と諭すように言われた。

俺は、大切なのはこれからだと思った。

二度とこんなことが起こらないように、奴らにはたっぷり分からせてやる。

俺はそう誓った。


それから1ヶ月くらいして、事件の整理がついた。俺が未成年であること、また誘拐や傷害は相手側の暴走族にあるとして、俺は不起訴処分。

相手の暴走族は、事件を引き起こしたものの、怪我を負わされたとして保護観察処分となった。

少年院に放り込まれることがなくて、俺はホッとした。

これからやることがあるからだ。


俺は、族につながりのある人間を片っ端から訪問することにした。鬼頭の家を探すためだ。

皆、俺の名を告げると怯えた顔をした。

100人殺しという伝説が、知らないところで生まれていた。俺は、そんなことどうでも良かった。俺のせいで優香が襲われたことも、俺が奴らに舐められたせいだと思っていた。俺がケンカが弱かったら、事態は違っていただろうが、優香が襲われないという保証はない。

何人かに聞いたところで、鬼頭の家がわかった。


俺の家から自転車で30分ほどのところ、住宅街に鬼頭の家はあった。

汚い家で、今にも崩れそうだった。

俺は、玄関の扉を叩いて「鬼頭くんいますか」と叫んだ。

すると家の中から、「いねえよ」と怒鳴り声。

酒ビンを持ったおっさんが出てきた。鬼頭の父親だと思われる。

「鬼頭くんのお父さんですか。僕は、黒金と言います。初めまして」

礼儀良く言った。

「何時頃帰ってきますか?」

「さあ、あいつも子供じゃねえし、知らんよ」

と扉を閉めようとするから、とっさに足を挟んで、

「僕が鬼頭くんを半殺しにした黒鉄ですよ、お父さん」

と微笑んでやった。

鬼頭の父親は目を剥いて、何か言いたげだったが、その後、目を泳がせて口をパクパクさせた。

そして絞り出すような声で言った。

「な、なんだよその目はよ。なんだ、まだやり足りねえのか、狂ってんのか」

「息子さんの行きそうなところに心当たりはありますかね?」

と聞くと、知らんと言って逃げるように扉を閉めた。

「僕が来たことをちゃんと伝えてくださいね」

その日は、そう言って帰った。


もしかしたら、あの家には帰らないかもしれないな、不良のことだから溜まり場とかもあるのだろう。そう考えて、再び、暴走族関係者を手当たり次第に捕まえて情報蒐集した。

すると、駅前のビリヤード場の上に寝泊まりしているという話が出てきた。

俺がビリヤード場へ向かうと、入り口にたむろしていたチンピラが早速絡んできた。

「てめえ、誰だよ、何しに来たんだ、おら」

どうも俺のことを知らないらしい。

「やあ、俺はクロガネって言うんだよ、知らないか」

と笑顔で言うと、腰を引っ込めて後ろに下がった。

「く、クロガネ。あの100人殺しの」

「おい、逃げようぜ、やばいってこいつ」

そう言って、逃げていった。

階段を上がり店に入ると、包帯やら松葉杖やらをついたヤンキーが10人ほど居た。

「う、黒金だ」と誰かが叫んだ。

「てめえ、殺されてえのか」と凄むチンピラに近寄り耳元で「やれるもんならやるか」と言うと、目を泳がせたので、別のチンピラに向かって聞いた。

「鬼頭くんはどこだ?」

その言葉に反応して、何人かが奥の部屋を見た。あそこか。

俺は無言で部屋を進む。誰も俺を止めない。

奥の部屋の扉を開いて、中へ入ると、頭に包帯をぐるぐる巻きにした男がソファーに座ってタバコを吸っていた。

「ああ? てめえ」

と言った後、クロガネ! と叫んで立ち上がった。

「やあ、鬼頭くん」

俺は笑顔で言う。

「仕返しとか怖いからさ、お願いに来たんだよ」

と俺は笑顔で言う。

「ぐっ」鬼頭の息を飲む声がした。

「こないださあ、家まで行ったんだよ。お父さんに聞いた?」

沈黙。

俺は黙って鬼頭を睨む。

鬼頭は汗をダラダラ流しながら、何も言えずにいる。

「お、俺には、バックがいるんだ。お前を殺すようにお願いしている」

へえ、バックねえ。

「ヤクザ? 暗殺者? 俺、金ないよ」

と笑顔で返す。

それに。と付け加える。

「もしさ、俺の周りが襲われたら、誰の仕業だろうと、鬼頭くん、君に仕返しするからね」

と言った後、鼓膜を割るつもりで叫んだ。

「てめえの心が折れるまで、地の果てまで追ってでも毎日来てやるからなあ。覚悟しとけよ」

俺が凄むと、鬼頭は泣きそうな顔になった。案外、器が小さいのかもしれない。


その後、10日くらい鬼頭を付け回してやったら、10日目に鬼頭が土下座してきた。

「勘弁してください。もう、関わりませんから、お願いします」

こうして俺は平穏を取り戻した。

一部の学校の友達や、女子連中から、怖がられたのが嫌な思い出だ。


今となっては微笑ましい。

ずっと忘れていたことを、久々に夢で見た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ