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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第三部 クロガネ、鉄を打つ
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第109話 『はじめまして! トキミのババア!』

ドアが開き、俺は咄嗟にしゃがんで衣装の隙間に隠れた。ロングドレスに隠れて見えないはずだ。


廊下から人物が入ってきた。


「ようこそ、いずれやも知れぬお人よ。お主が来ることは分かっておった。さあ、隠れず、顔を出しなさい。お主の話を聞こうぞ」


聞き覚えのある声。


理由は不明だが、バレていたようだ。

俺は衣装の中から立ち上がり、顔を覆っていた布を取った。


「俺を覚えているか、トキミの婆さん」

婆さん?

以前見たときより、若くねえ?


婆さんと言えば、婆さんだが、以前のようなシワクチャではなく、熟女っぽい雰囲気で、まるで別人のようだ。


声は同じだが、あの日は夜だったし、あの時の婆さんは疲れていたのだろうか。


「誰が婆さんじゃ! お主のことなど知らんぞ。人違いじゃ」

「いや、あの時、ガードナーの路地で、あんたに会った。これを買った。1千万で。そこまで言えば思い出しただろう」

俺が懐から鰹節を取り出して見せると、ニャアと鳴いた猫が鰹節を俺の手から奪った。

咥えた鰹節を、トキミの婆さんに渡す。


「これは!?」


目を見開くトキミの婆さん。


じっと鰹節を見たのち。俺をじっと見つめる。そして。


「・・・・お主とはじっくり話す必要があるようじゃ。今日はもう客は返そう。茶でも飲みながらゆっくりとな・・・。お客人」


トキミの婆さんが部屋を出て行く。

なぜ、俺が来ることを知っていた? そのくせ、俺のことを知らないというのは何だ? まるで初対面のような態度。

全く意味が不明だ。


事情が理解不能。

奇妙な事態に俺は警戒しながら部屋を出て、階段を降りて行くトキミの婆さんを追う。

特に襲われるような気配はない。


トキミの婆さんが部屋に入って行く。俺も続く。

入った部屋は、占いの部屋のようで、カラスの剥製、得体の知れない瓶、古めかしい本が部屋に並んでいる。

机の向こうにトキミの婆さんは周り座った。机の上には水晶玉が置かれている。


「そこに座りなさい」

婆さんが椅子を勧めてくる。相談者用の椅子だろう。


言われるまま椅子に腰掛け、問う。

「一つはっきりさせたいのだが。・・・俺はあんたに会ったことがある。とぼけているのか、それとも記憶喪失か。そこははっきりさせてくれ」


なんというか、気持ちの悪い話だ。俺は相手を知っている。相手は俺を知らない。それともあれはトキミの名を語った別人なのだろうか。


「・・・お主が会ったのは、おそらくワシじゃろう。・・・だが、そこは、説明が難しい。

時がくれば語らずとも、いずれ分かるじゃろう。今はそれで納得してくれんかな」


歯切れが悪いというか、なんというか。


「・・・納得はできないが。説明するつもりはないんだろう?・・・俺が来ることは知っていたのか」


「まあのう。こちとら、占い師じゃからのう。わしにとって重要なものが今日、あの部屋に来るというのは、知っておった」


「なら事情は全て“ご存知”ってことで良いんだな」


トキミの婆さんが首を振る。

「・・・若者よ。占いとはそのようなものではない。答えはあれども意味は分からず。

わしが見るのは運命じゃ。

運命とは大きな流れ。

変えることのできない運命をわしは見る。・・・じゃから、お主が水を飲むか、それとも飲まぬか。そんな瑣末なことはわしには見えん。もしお主が水を飲み、そこに毒が入っておってお主が死ねば、その時はワシにも運命として見える。占いとはそういうもの」


以前に会った時も、トキミの婆さんはそんなことを言っていた。

石が落ちてきて云々。運命とは流れる川のようなもの。


「以前も、あんたそんなことを言ってたな。運命は流れる川のようなもの。だったか」


トキミの婆さんは、右の眉を大きく上げて、怪訝そうな顔をした。厚化粧にもほどがある。


「こうしてお主と話すのは運命。まずは、相談を聞こうじゃないか。クロガネとやら」


トキミ婆さんの肩に猫が乗り、ニャアと鳴いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


話し終えるのに1時間ほどかかった。


いつか物語をまとめて小冊子でも作ろうかと考えた。何度も説明するのは大変だ。

田中あたりそういうの得意そうだが、面倒くさがりなので、嫌がるだろうか。


トキミの婆さんは、さすが手慣れたもので、聞き上手。時折、水晶玉に手をかざしながら、質問を返してくる。


で、今ここにいる。というところまで話したところで、トキミの婆さんが言った。


「ふむふむ。整理すると、お主の目的は。

1、ウエジという異世界人を見つけて能力と盗まれたものを取り返す。

2、記憶の回廊へ行き、女神からの言いつけを達成する。

3、ウイユベールなる少女の奪還。

4、ヒカリという少女の呪いを解く。

5、邪神を滅するため魔王を倒し、人類を平和に導く。

何ともはや、業腹ごうばらじゃのう。やることが大量じゃ」


「いや、あんたに聞きたいのはウエジの場所だけだ。あとは何とかする」

一度に全てが解決するなど思っていない。


「ふむ」

トキミの婆さんは、ちらりと横目で猫を見た。

「ニャア」

猫が鳴いた。


なんか、目と目で通じ合う感じで、まるで会話をしたような二人。

知り合いか?


「では早速占ってしんぜよう。

うんにゃまからかあ、ほげほげまからあ!!!!!!!!」


意味不明の祝詞のりとを唱えながら、手を上下に振るババア。

ババアのカラフルな巫女服の振袖が揺れる。


突然のハイテンションに俺は置いてけぼり。

「・・・・」俺は無言。髪を振り乱して祈るババアを見守る。


その時扉が開き。

隣の部屋から、巫女服の従業員が入ってきて、

「お茶かお水か、どちらがよろしいですか」と聞いてきた。


トランス状態のババアを横目に、事務をこなす従業員。

俺は戸惑いながら、「お茶で」と答えた。


このタイミングでお茶。どうやら、ここから長いのか。普段から休憩タイムのようなもので、ここでお茶が出るのか・・・。


お茶を待っている間も、トキミのババアが呪文を唱え続ける。

前の時は、こんな仕草はなかったが。今日は本気なのか?


ふにゃらかまかまか、せかまか。


しばらくしてお茶が届けられた。

お茶が届いて、俺がちょうどお茶を飲み終えた頃・・・。


「は!」

と言い、トキミのババアが目を見開いた。


「見えました。黒く小さいスライムです。よくよく目を凝らして見るのです」


は?


スライム? 黒く、小さい、スライム?

なんのことだ?


ん? 俺の周りで黒いスライムといえばクロちゃんしかいない。

今、俺のそばにあるといえば・・・。


クロちゃんのカケラ? クロちゃんのカケラのことを言っているのか。


ウエジが逃げる直前。プルプル震えて分裂したかけら?


ババアが目を閉じ、言った。

「では、行くのじゃ」


「それだけか?」

「そうじゃ。運命の糸は紡がれたのじゃ」


「・・・」

なんだか釈然としない。


しかしこれが占いの結果なら、信じるしかない・・・。


立ち上がって部屋を出ようとする俺を、ババアが呼び止めた。


「お支払いを。500マンゴルドじゃ」

ババアは目を閉じて言った。


俺は立ったまま、固まる。


「え? 金とるの?」

運命とか言ってたじゃん。何、この流れ・・・。タダじゃないの?

500マン・・・・。持ってるわけないだろうよ。

え? マジ? マジで言ってる?

有料はさておき。以前は一千万。今日は五百万。ぼったくりに過ぎないか?


ババアは薄目を開けて、言う。


「と、本来ならニコニコ現金払いのところを・・・今回は特別に、カツオブシ(これ)で対価としてやろう。

では良い旅を。女神の勇者よ」

トキミのババアは、右手を上げて、鰹節を振った。


「ちょ、おま」


「この魚のミイラは、大変貴重なもの。通常5百万ゴルドの鑑定料を、今回だけは特別にこれで支払うことを認めてやるわい」

ちょとマテヨ。

それお前が俺に1千万で売りつけたんだろうが!


なんというマッチポンプ!


このババア、俺からいくら巻き上げるつもりだ。1千万払って、500万がチャラ。鰹節がなくなり、俺は合計1千万の損? いや、500万の対価だから、500万か? それとも全てひっくるめて1千500万か?

うおおおお、訳がわからねええ。こういう小難しい問題は嫌いなんだよ!


頭を掻きむしり、ババアを睨み、部屋を飛び出す。


言葉にできない悔しさに、俺は歯を食いしばって、家を出た。


後ろからトコトコと付いてくる猫、アクロがニャアと鳴いた。


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