第108話 『魔法学園都市 パンマギオン』
平原。
俺は、魔王学園都市を遠くの高台から眺める。
街道は賑わい、人通りが多い。そしてその道の続く先。
そこには、異世界に来て、一番異世界らしい街並みがあった。
空に浮かぶ銀色の金属。紙吹雪が風に舞い、広告になる。花が舞い、煌めくラインが走る壁。
“魔法は至高。ようこそ魔法学園へ!”
“余ったお金は魔法で増やそう。パンマギオン銀行!”
“最新の治癒魔法を用いた欠損回復! マギー製薬”
広告が色々移り変わる。なんて賑やかな街だ。
遠くから見ても目立つ、銀色の塔。
水銀の塔。
ゆっくりと伸びたり縮んだりしながら、陽光を浴びて輝いている。
スケボーに乗った若者が空を飛ぶ。馬車が空を飛ぶ。ペガサスが飛び、飛竜が飛ぶ。
賑わい。喧騒。
ダブダブの服を着た魔法使いらしい魔法使いが、ゆっくりと道を歩く。
犬が喋り、猫が歌う。
門の前に来た俺は、冒険者証を見せる。ガードンと書かれた冒険者証。
俺の名前は、今日はガードンだ。
フルフェイスの兜の下は、田中が出してくれた変装グッズを着用中。ヒゲモジャアフロ姿。
まあ、余程でなければ、兜は脱ぐまい。
「ふん。田舎武者か。大層な鎧か。この街では流行らんぞ。弱いと言っているようなものだ。目的は?」
カラフルな烏帽子のような帽子を頭に乗せた丸いヒゲの男が言う。
「護衛だ。魔法学園に客を待たせている」
「B級ねえ。こんな鎧がボロボロで、大丈夫なのかしら」
とんがり帽子の女が言う。見るからに魔女。服は黒いローブに星形の七色の模様。想像より服が派手だ。
男と女が門番をしている。
俺は、分厚い鉄の鎧に身を包んでいる。重いが仕方ない。これも訓練と思い、歩いて来た。
多分、総重量100キロを超えている。それほどの重量を着て自由に動ける。身体強化LV4は伊達ではない。
鎧は平原で集めた鉄で作った使い捨て。いざとなったら、錬成で脱ぎ、脱兎のごとく逃げる。
一応、無礼な発言には怒っておこう。舐められても困る。
「貴様、武士を愚弄するか!!!」
一歩踏み出し、威圧する。俺の下手な演技も、鎧を着ていたらばれないだろう。
もちろん演技なので、武器は抜かない。剣に手をかけるフリだけ。
「ちょ、ごめんなさい。いいわ、通りなさい」
女の方はヘタレのようだ。慌てた素振りで、一歩下がる。
「以後、気をつけい」
俺は捨て台詞を吐き、内心、ビクビクしながら門をくぐった。
街に入るとすぐに広場があり、カラフルな建物に、カラフルな光のサインが浮かんでいる。魔法の力だろう。人々も浮かんだり、滑ったり、不思議な動きが目立つ。マインのように獣人や冒険者風の人は少なく思える。
予想通り、神聖教の諮問兵がゾロゾロいた。
テントを張り、通りを見張っている。
鑑定士らしい人物が、手をかざして人々を鑑定している。
あ、ウイユベールが居る。
なんか安物の机に座らされて、ぼーっと前を見ていた。やる気は全く感じられない。
洗脳されたような感じでもない。
目にクマができている。強要されているのだろうか。
雰囲気的には、授業中に机ごと廊下に出された生徒のようだ。見せしめだろうか。罰ゲームだろうか。
うーむ、助けたいが、ここでは無理だ。
すまん。心の中で謝る。
まさか、ウイユベールが裏切るとは思えないが、洗脳なり、記憶変換のある世界。ウイユベールが操られている可能性も一応は考慮して、あそこには近寄らないようにして。まあ、そんな感じには見えないが、万一もある。
ウイユベール以外の他の鑑定士ならば、偽装で誤魔化せるはず。
ウイユベールとは逆方向に進む。
路地裏に身を滑り込ませる。重装備なので、多少不自然に見えはしないだろうか。
事前にスケルトから聞いた情報によると、トキミの占い屋敷は、水銀の塔のほど近く。行列が絶えないから、すぐにわかると言う。
水銀の塔は、街のシンボルであり、どこからでも見える。あれを目指せば良いとなれば、迷うことはない。
「よお、おのぼりさん。ようこそ魔法の街へ」
「ヘイ、筋肉バカサン。ちょっとメグンデくれよ」
なんと言うか、サンフランシスコの路地裏にいそうな、タンクトップの刺青男と、ローブをまとったのっぽが道を塞ぐ。
タンクトップの男が、風船ガムを膨らませて、割った。
周囲を見渡すが、人の気配が無い。街の入り口近くで絡まれるとは、迂闊だった。
「この街では、冒険者に絡むのが礼儀なのか。通すならよし。通さぬなら、痛い目を覚悟しろよ」
一応警告する。これで逃げてくれたらラッキーだが・・・。
「へえ、やるってのか? この街じゃ、力は役に立たないぜ。魔法で勝負だ」
「ヘイユー。カネをオイテイキナ」
腰を落として構えてくる。なんと言うか、魔法に自信があるのだろうか。だとしても、相手の力量も測れないこいつらは、雑魚に違いない。
と、思ったが、俺の右腕が勝手に動き、壁に張り付いた。
凄まじい拘束力。
のっぽの方が、右手から炎を出した。
「さあ、モエな」
右手が動かない。くそお。こんなことなら、田中に教えてもらった念動力の訓練をもっとやっておくんだった。
力量を計れない雑魚は、こっちでした!
汗。
「こら! あなたたち! 何をしているの!」
上から水の塊が降って来た。バケツをひっくり返したような、いや、プールをひっくり返したような水量が空から降り注ぐ。
水浸しになる路地裏。俺もびしゃびしゃ。
それに驚いたチンピラが、上を向いた瞬間に、俺の拘束は解けた。
「げ、あの服は。プロフェッサー、に、逃げろ」
声のした方を向くと、着物のような服を着た女性がいた。祝賀パーティで見るような派手な三角帽子。キラキラした星が帽子に付いている。着物は肩のところが広がり、まるでカミシモのようだが、フォルムが流線型。ふわふわ生地が浮いている。
柔和な顔の美人。
よく見ると、地面から数センチ浮かんでいる。
「危ないところでしたね。旅の方。ご安心ください。魔法学園都市は治安の良い街です。時折、あのような増長した輩が旅人を脅すと聞いていましたが。
お怪我はありませんか」
鎧の面から見たその女性は、柔和な顔で兜の下を覗き込んでくる。
「面目無い。助かった。腕には自信があったが、あの念動力に手も足も出なかった。改めて礼を言う」
「あら、あなた」
女性が驚いたような顔をした。バレたか。
「何か?」
「すごい魔力ですね。まさか魔族ですか」
ぬ? いらぬ疑いをされても困る。
顔を出し、否定する。アフロと髭だが。
「いや、普通の人間だ。魔力は多いと言われるが、魔法はまだ使えない」
ガシッと肩を掴まれた。
「ぜひ、魔法学園にいらしてください。あなたの魔力ならば、稀代の魔法使いになれるやもしれません。
ああ、自己紹介が遅れました。私の名はマーゴット。魔法学園で教師をしております。ここでお会いしたのもの何かの縁ですね。私が推薦いたしますので、入学費も免除にして差し上げます」
おっと、話を聞かないタイプの人。俺の苦手なやつだ。
「いやあ、すまない、故あって、名前はあかせない。助けてもらって感謝している。先を急ぐので、これにて失礼させてもらう」
頭を下げ、脇を通り過ぎようとしたところで、腕を掴まれた。
「そうですか。またいつかお会いしましょう」
目の前で女性が指を開く動作をした一瞬、目がちかっとしたが、次の瞬間、プロフェッサーと呼ばれた女は消えていた。まるで魔法のように。
「なんだ、今のは」
俺は一連の出来事を飲み込めずにいたが、いつまでも惚けてもられない。
さっきぶちまけられた水が、全て乾いていた。俺の鎧もびちゃびちゃになったはずだが・・・。あれは幻覚か? それとも、現実でその後、一瞬で全てを乾かしたか。いずれにせよ、凄い魔法使いなのは確かだ。
無事で何より。
先を急ぐ。
また絡めれるのは嫌だから、路地裏は避けて表通りに出た。入り口に比べると諮問兵の姿は少ない。
出来るだけ目立たないように水銀の塔を目指す。
それにしても変わった街だ。
建物がまるで生き物のように動き、水が下から上に流れている。
魔法技術を誇示するように、いたるところに不思議なものが溢れている。
大通りには、短い杖を持ち、風をくるくる回して遊んでいる子供達。木の葉が小さい竜巻の真ん中でくるくる回っている。
絵描きのような人、杖を持った老人。ペットを連れた貴婦人。いろんな人が歩いているが、皆、なんらかの魔法を使っている。
不思議な光景だった。
広場を見渡す。雑多な建物が並ぶ。色とりどの看板が目に付く。
水銀の塔に近づくと、ひときわ派手な看板の建物がある。
「世紀の占い 運命の館 TOKIMIハウス」
と書いてある。ああ、目立ちたがりの典型のような派手な装飾。
あれか。
ずらりと行列が並んでいる。3年待ちで、さらに行列か。
気が狂っているのだろうか。
いや、みな将来が不安なのだろう。必ず当たる占いならそれくらいは。
さて、どうするか。
「おい貴様」
振り向いたら、白い鎧を着た神聖教の諮問兵が居た。
バレたか!?
と思ったが、慌てず対処。
「なんだ? 俺に用か?」
心臓がバクバク言う。
「冒険者か。これを落としたぞ」
兵士が手に冒険者証を持っている。
胸を探ると、プレートがなくなっている。
「ああ、すまん、拾ってくれたのか」
「ん、ガードン。B級か。最近は魔族も活発だ。偽勇者がうろついているとの情報がある。見かけたら、通報するように。ではな。大事なものを落とすなよ」
そう言って兵は去っていった。ふう。心臓に悪い。
いつの間にか落としていたのか。気をつけよう。
行列に並ぶわけにもいかず。緊急だと言って割り込もうか。従業員に事情を話すのはどうか。
それとも、忍び込むか。
まずは正攻法で行くべきか。
建物に近づき、列の先頭へ割り込む。迷惑そうな顔をする並んでいる人々。
列の案内をしている女を見つけて声をかける。
「トキミの婆さんに用があってきた。クロガネと言えば取り次いでもらえるはずだ」
だが目の前の女は、無表情で言った。
「困ります。お客様、何人だろうと、たとえ王族でも並んでいただいております。予約を受けていただき、その日になったら、またお越しください」
有無を言わせぬ言葉。埒が開かない。従業員の女はこうした事態に慣れているのだろう。中に取り次ぐこともなく、にべもなく言った。
予約をして3年も待っている暇はない。
仕方ない強行突破か。
そう思った瞬間。
足元に感触があった。鎧に当たる何か。見ると、猫。アクロがなぜか此処にいた。
「おい、お前、勝手についてきたのか」
ニャアと鳴く。
そしてスルスルと人を避けて、建物の裏手へ向かう。
「ついて来いと言うのか」
猫に誘われるのは二度目。以前は、色ボケ勇者ぽっくんに出会った時。
この猫には必ず何かの秘密がある。
とぼけた態度だが、魔力暴走を食ったり、俺を意図的に導いたり。
敵ではないとは思うが。
猫は建物の裏手へ向かう。大通りから路地裏に入り、木箱やゴミ箱が積まれた薄暗い路地。
猫が木箱を駆け上がり、塀に登った。
ニャアと呑気に鳴く。
建物の2階の窓。開いている。
あそこから忍び込めるか。気配察知によると、2階に人はいない。
鉄の鎧を着たまま木箱に登るのは、不可能。
周囲を見渡し人気が無い事を確認して、鎧を脱ぐ。汗でひっついて脱ぎにくい。
錬成でパーツを柔らかくしながら、なんとか脱ぎ終える。木箱に鎧を隠す。
鎧の下は黒い装束。
側から見たら怪しいだろう。
木箱を踏み台に、塀に登り、身体強化を使って窓に飛び込む。
飛び込んだそこは衣装部屋のようで、服が大量にかけてある。
さてどうしようかと思いあぐねていると、ドアが開いた。




