第11話 君の名は?
草むらに倒れこむバーナと呼ばれた魔族。魔族も頭が無くなれば死ぬらしい。
なんとか1対1に持ち込めた。ゆっくりと下がり白い箱のところまで戻る。
「俺は、黒金! クロガネテツオだ。お前の名前は?」
魔族の男が目を細めた。
「何を企んでいる、俺はお前を遠くから嬲り殺すだけだ。女神の結界があろうとお前は無力だ。
俺は宣言する。命は奪わんが、お前を傷だらけにする。お前は、失血により気絶する。俺は遠くから、いろんなものを投げよう、この辺りは投げるものには困らない。急所は避けてやるが、腕や足が千切れるかもしれない。やがてお前は、疲れ果て力尽きる。これは覆せない事実だ」
さらっと、恐ろしいことを言う。
ひとまず膠着状態に持ち込めたのは、一歩前進だ。
あんな化け物を2人も相手にしてはいられなかった。1人になれば、勝機は単純に2倍だ。
「俺の国では、戦士は互いに名乗り合うのが習わし。お前には誇りはないのか!! 貴様には魔族の誇りはないのか!」
と、怒鳴る演技をする。江戸時代の果たし合いでもないので、今の私の国にそんな常識はない。
「貴様、私を挑発するか。見上げた根性だ。良いだろう、私は死にゆくものには寛大だ。私の名はボーゲン。魔王ブーゲ=ンビリアの直属12将の11番。烈風のボーゲン」
引っかかりやがった!
どうも鑑定は種族名しか映さないような縛りがあるらしい。初めて知ったが。(だって魔物に名前なんてないもん)
俺はボーゲンと呟くと、すぐさま本を開き中を見た。クロちゃんに石弾の警戒をお願いする。
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ボーゲン
ボーゲン=ボンバンホーゲン 危険度 S
魔族 通称 烈風のボーゲン 食用ギリギリアウト(魂的に)
魔王ブーゲの直属の部下。冷静沈着。風属性の魔法を操る。特にエアスラッシュは無詠唱で、不可視。攻撃音もしないことから、絶空との異名もある。チョコレートが大好物。
スキル 風魔法Lv9
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風魔法。俺の腕を切ったのは、やはり魔法か。見えない、というのはかなり厄介だ。届かないだけで、白いコンテナめがけて風魔法を連発しているのかもしれない。
よし。思いついた。
作戦は決まった。俺は走り出した。白いコンテナに右腕はしまってある。
「貴様! 逃げても無駄だと言っただろう、本など読んで何のつもりだ。ほう、その動きからして魔導書の類か、ふん小賢しい」
背後から、ビュンビュン石が飛んでくる。草むらをジグザグに避けながら、森の中を駆け抜ける。
狙いはアイツ。
しばらく走り回ると、遠くから気配を感じた。間違いなくアイツの気配。
そう、レンジベア、熱熊だ。身体強化の限りを尽くして俺は走った。
やがて、その巨体を見つけた。3メートルほどの大きさの熊。見た目、普通の熊。だが何度も戦った俺はわかる。あれは熱熊だ。
白いコンテナを抱えたまま、熱グマの背後に回り込む。突然のことに驚く熱熊。
ボーゲンのエアスラッシュが、熊の背中を切り裂く。が、浅い。獣の分厚い皮を引き裂くには浅かった。熊を怒らせてしまった。
「何!? 熊 だと!」呆然とするボーゲン。
そう、熱熊は普通のクマに見えるのだ。
次の瞬間、圧倒的な熱波がボーゲンを襲う。ボーゲンは、エアスラッシュの応用技、断空を使って熱を遮る。
しかし、周りの木々があっという間に燃え始めた。ボーゲンの生み出す風で煽られ、見ている間に、森林火災が発生した。熱熊は、火炎耐性があるのか、平気な顔をしている。離れていても次第にものすごい暑さを感じてきた。
熱気で空気が歪む。これこそ、求めていた状況だ。
チャンス!
俺は白いコンテナを置き去りに、ボーゲンに向かっていった。凄い熱! 肌が焼けていく。
熊はとりあえず無視。
「貴様、これが狙いか!」
ボーゲンが叫ぶ。エアスラッシュを放つ。
熱波と薄煙の中、エアスラッシュの軌道が丸見えだった。蜃気楼を断ち切るように、筋が一閃。いくら早くても軌道さえ見えれば、俺ならば避けられる。ドッヂボールで鍛えた、この俺ならば。
身体強化の運動力は凄まじく、ボーゲンに肉薄する。
俺の右腕のドリル(クロちゃん)が唸る。
ボーゲンが初めて驚いた顔をしながら、身をよじる。頬をドリルが切り裂く。
そこへ熊!
俺は退場!
熊の2秒ルールは危険すぎるから、ジグザグに動いて白いコンテナへ回避。
背中を切られた熊は激昂していた。それはそれは怒っていた。
ボーゲンの右目を一瞬(2秒)で炎上させ、両手を上げて吠えた。
ボーゲンの顔面が炎上する。「おのれ! ニンゲン! 貴様、許さんぞ!」
熊がボーゲンの喉めがけて牙を食い込ませた。
炎の柱が立って、ボーゲンと熊の姿が霞む。
俺は、急いで、その場を後にした。
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焼け跡から、人影が立ち上がった。煤だらけで、真っ黒。
その人影は、炭化した真っ黒な熊の首を持ち上げていた。
男は焼け野原をしばらく歩いて、太ったシルエットの首なしの死体の元まで歩くと、ボツリと言った。
「バーナ、起きろ、いつまで寝ている」
死体の腕がピクリと動いた。やがて首元が、モコモコと蠢くと、ぬるりとした粘膜に包まれた頭部が生えた。
「お前? 誰だ? ボーゲンか? チッ、油断したぜ」
ボーゲンは真っ黒で、表情も読めないような黒一色の炭のような顔だった。
「核の魔力を使いすぎた。一旦、引いて、アイツは必ず殺す」
「ああ、だから最初から殺せと言ったんだ。変に手加減するからこんなことになるんだ」
「・・・」
あのクロガネと名乗った男、戦闘力は稚戯に等しいが、戦闘センスは異常。
素の戦闘力だけを見れば、私と比較すれば微塵にも満たない戦力。身体強化はレベルも低く、たかが知れている。本気で殴りあえば我々が毛ほども傷も付くことはない。
しかしながら機転と度胸は末恐ろしいものがある。周りを利用する応用力、判断力、決断力は、これからの成長を考えると危険すぎると感じられた。
さらに、ライブメタルと、あの本。女神の支給品か知らんが、危険だ。召喚系の能力だろうか、あれほど巧みにライブメタルを操るとは。さらに鑑定系の能力が有する情報収拾能力は戦闘の可能性を大幅に増やす。
何れにせよ早く排除するに越したことはない。
だがこの現状。
アイツの後をすぐに追うにせよ、魔素を手繰る探索を用いても、あの火事の後で痕跡を探すことは難しいだろう。
何より、我々は魔力を失いすぎた。
核からの身体再生は魔力の消費が激しい。
熱熊は、我々でも正面から相手するには危険な魔物だ。
もちろん単なる獣だから、頭を使って戦えば、全く問題にもならない相手ではあるが。
至近距離で戦うとなれば、熱熊は流石に、我々とて無視できるような相手ではない。
それをあの場で、右腕を失いながら、判断したというのか。
自分に置き換えたらどうか。
百倍も強大な相手を眼前にして、同じように逃げ切れるだろうか。
否。そんなことができる奴などいない。窮鼠が猫を噛むのは、猫だからだ。ドラゴンには勝てない。
クロガネ。女神の勇者。ブーゲが警戒するのも頷ける。奴の本当の危険性は、その戦闘センスと成長性にある。
対峙した俺しか、俺たちしかまだ知らない。だが、魔族にとって、これから奴は、死神のような存在になるかも知れない。
ひとまず戻り、12将に奴の危険性を説かねばなるまい。
悔しいが、全身の火傷を回復するには、もう魔力が足りない。
命拾いしたなクロガネよ。次に会うときが貴様の命日だ。




