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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第三部 クロガネ、鉄を打つ
109/214

第106話 『諮問兵に囲まれて』

クロガネに助けられたプロントが仲間の元に戻ると、白い馬に乗った僧兵が居た。プロントの仲間は同じく敗残兵、4名。おっさんばかり。


仲間のそばには、いずれも白い馬に乗った僧兵が3人居た。

仲間が頼ったのだろうか。プロントが近寄ると、仲間が驚いた顔をして、続いて笑顔になった。


「プロント! 大丈夫かあ」


赤ら顔のレミーが、涙を浮かべながら抱きついてくる。


「どうやって助かったんだ! 死んだかと思ったぞ」

「兵士さんを呼んできて、今から捜索隊を出してもらうお願いをしていたんだ」


水都に近づくにつれ、神聖教会の影響力が強くなる。この辺りの街道は、中央街道との呼び名の他に、覇王街道とも呼ばれ、はるか昔、覇王ゼルガイアが切り開いた遠征路だと言われている。覇王街道には、衛士、僧兵、警備兵が多く行き交っている。

プロントは頭を掻きながら、

「いやあ、ガーネさんというお方に助けてもらったんだよ。グリフォンに乗って、ローの首を一撃で撥ねたんだ」

横で聞いていた僧兵の目が厳しくなった。


「グリフィンと言ったか」

「おい、貴様。今、ガーネと言ったか。詳しく聞かせて貰おうか」


僧兵の威圧的な言葉にプロントは首を縮めた。


「え、ええ。何なりと」


兵士とはいえ後方部隊。負け戦に慣れた元兵士は、僧兵の威圧に気圧されてしまった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


肉を焼き、焚き火の跡を片付け、車に乗り込む。


ちなみに、焚き火の上に張っていた布は、煙を消すための工夫らしい。狼煙という言葉があるように煙は遠くまで届く信号のようなもので、だだっ広い場所で焚き火をすれば、かなり遠くからでも見つかるに違いない。


まだは日が高い。夕暮れまではしばらく時間がある。日差しはきつく、秋だというのに汗ばむ。あの真夏の航海。赤道からかなり北に移動したが、平原の日差しもきつい。まあ、あの灼熱地獄に比べれば、汗がにじむ程度の暑さだが。


グリフィンは、山へ返した。巨体が空に浮いているだけで、目立つからだ。

グリフィンという動物は、一体、どのように暮らしているのだろうか。召喚獣ということは、普段はどこか緑豊かな異界にいて、魔法で呼び出すと現れるのだろうか。ウイユベールがいなくても元気に存在しているということは、どこかの山で獣でも狩って自立しているのだろうか。

全く謎だ。


そんなことを考えながらも車を走らせる。

太陽の位置で大体の方向はわかるから、路面に注意しながら車は爆走する。


俺は運転席。田中が出してくれたサングラスをかけて、平原を進む。

車には一応冷房も付いているので、車内は快適。ケツが痛いことを除けば。

車は3列シートなので、後部座席の田中、最後部のレイアは寝そべっている。田中に至っては、ヒカリと密着して寝ている。この野郎。腹が立つ。

ヒカリはともかく、バックミラー越しに二人を見るたびにイラっとする。くつろぎやがって。


残った肉は、レイアの保存魔法をかけてもらい、風呂敷収納にしまってある。収納カバンがない今、こういう魔法技術は、すごく便利である。


「地平線ってのを、目で見るのは初めてだな」


見渡す限りの草原。山もなく、はるか広がる地平。

薄い色の砂と、薄茶色の下草。木もほとんどなく、ただただ平ら。


空は青空で、雲も薄く伸びている。


日本では到底見ることのできない景色だ。

もしかしたら北海道あたりなら似たような景色は見えるのだろうか。

写真か何かで見た、モンゴルとかあっちの方の景色がこんな感じだったような気がする。


「この辺りはフェイ大平原って言う場所で、古い戦場だと言います。サハラ砂漠並みにデカいんですって。僕は空の上から見ただけですけど、壮大な景色ですよね」


田中が言う。そういえば田中は経験済みの景色だったな。


「このまま進んでどうする。街でもあるのか」


「いや、街は危険だ。今頃、列車で話題になっているはずだ。乗客が消えたんだから身元を洗っているだろう。まあ、俺たちのことはバレていると思って行動した方が良いな」

スケルトが分析する。まあ論理的だな。


「もう神聖教の活動圏です。覇王街道は巡礼者や僧兵が多く通ります。平原を突っ切って魔法学園都市まで一気に行った方が良いですね」


「ってことは野営か」


「このまま行けば、明日の夜までには魔法学園都市に着くだろうが、途中休まないと体がもたない。目立たない安全な場所を見つけたらそこで野宿だな」


「車があるし、お金をくれたらキャンプグッズ出せると思いますよ。あ、僕はもうお金がほとんど無いんで」


「ちょっと、お手洗いとか困るんだけど・・・」

考えてみればレイアは紅一点。


ホテルや客車ならばトイレは完備されていたが、今朝から見通しの良い平原の旅。ずっと我慢してるのだろうか。ちょっと可哀相になった。


「レイア、我慢は良く無いぞ。岩陰で足してこい」

「ちょっと、無神経ね! ふん」

なぜか怒られた。


「平原を抜けると渓谷がある。夜に渓谷に突っ込むと危険だ。平原のどこかで野営の準備をしよう」

「簡易トイレも出せますよ。お金くださいね」

田中よ。金がないのはわかった。


「ちぃ」

助手席のスケルトが舌打ちをした。

「車を止めろ。奴らが居る」


地平の向こうに人影。馬に乗っている人が、複数人。

10人程度か。


奴ら。

姿かたちはまだ見えないが、雰囲気で分かる。諮問兵だ。先回りされたらしい。


「どうする、迂回するか」


「いや、無駄だな」


屋根の上から、ドンと音がした。巨大な鳥の影。何者かが車の屋根に乗った音だ。

影がいくつか通り過ぎ、人影が車の周りに降りてくる。


進路を奪うように人が立ちはだかる。轢き殺すわけにもいかない。ブレーキを踏み、車を止める。


車の周りを獲物を追うように回る影は、巨大な鷹。

「ホーリーバード隊ですね。精鋭部隊です」


1、2、3、4・・・・8人か。


「後ろからも来たな。数は30名ほど・・・殺すか」

スケルトがボソッと言ったが、本気とも冗談ともつかない。


馬に乗った人物が、車の前に立った。

そして、豪華な装飾の兜の前を開け、顔を見せた。


「やあ、裏切りの勇者様。これから臨時審問会を開きます。結果は決まってますがね。死刑で」

それは、あの日、ウイユベールを捕らえていったレイモンドとか言う男だった。


レイモンドが、馬上に積んでいた男を掴んで投げた。

地面に傷だらけの男が投げ出された。


先ほど、俺が街道まで送り届けた男。プロントだった。


ひどいことをしやがる。


後部座席から身を乗り出してきた田中が俺の耳元で言う。

「あのレイモンドって人、マクベそっくりですね!」

誰だよマクベって。

「知らん。お前、何を喜んでるんだよ。状況考えろ」

ええ?ギャンですよ、知らないですか。と田中が常識を疑うような目で見てくるが、知らん。


「厄介な数だな」

かつて魔王軍500体を相手取った俺にしてみれば、全力を出せば勝てるだろう。

が、相手も無事では済まない。大軍相手に手加減できるほど、俺は器用ではない。


さらにその前に、あの拘束してくる魔法が厄介だ。

攻撃力がない代わりに、即時性や効力が強い。


対抗策がなければ、避け続けることは不可能。全力を出せずに動きを封じられて終わり。


そんな状況下で、相手を一人でも殺そうものなら、俺の未来は詰む。


完全に神聖教の敵になる。


今は誤解だとしても、ここで相手を傷つけた場合。

恨みが残る。


「手加減できる数じゃないな」

俺が言うと、助手席からスケルトが前を向いたまま言った。


「俺に任せろ。得意な相手だ」


スケルトがドアを開け、車の前に進む。


「聞け、神聖教の諮問官よ。某の名はスケルト。故あり、女神の勇者クロガネに助太刀いたす。

潔く退くならし。退かぬなら、多少痛い目を見てもらう事になる」


はっはっは! 周囲から爆笑が起こる。

「おい、貴様、目は見えているか。こちらは50人以上。そちらは見たところ4人か。お前一人で全員相手にするって言うのか? 我々から逃れたものはおらん!」


スケルトは懐の収納から、長い鉄棒を取り出した。デカいスケルトの身長よりも長い。二メートルはある鉄の棒を、地面に突き立て、叫んだ。

「痛い目を見たいやつから前に出ろ」


馬に乗った兵、白銀の狼の群れを連れた兵、鷹を伴った兵。

相手は3種類の兵の混成部隊のようだ。


俺はまだ車中。

放っておいて大丈夫かと思いつつ、田中に聞く。

「あの狼はなんだ?」

「守護獣ですよ。神聖教国のファングウルフ部隊ですね。追跡と捕獲が得意です」

「あの鷹は?」

「あれがさっき言ったホーリーバードですよ。グリフィンと同じ守護獣ですね」


周囲を見渡す。じりじりと距離を詰めてくる諮問兵たち。

右側の兵が動いた。スケルトに向かって手を伸ばした。次の瞬間、スケルトの足に青白く光る枷が現れた。

「くっ」

スケルトが驚いたと思った次の瞬間、スケルトの肩に枷がかけられた。

「動きを封じろ、一気に無力化するのだ!」

レイモンドが叫んだ。

スケルトの関節という関節に次々、枷がかけられている。


あああ、あれだけ大見得切ったのに。

スケルトはすでに青白い枷だらけになって、バランスを崩して地面に倒れた。


「クロガネさん! 助けないと」

と田中が言った瞬間、俺の首にも枷が現れた。座席に強制的に押し付けられる。次々現れる枷。

「ぐ!」


「クロガネさん、助けて」

田中が、座席の下に落ちてもがいている。


かろうじて動かせる首で振り返ったら、最後部座席のレイアも口を塞がれて、悶えていた。

まだ眠ったままのヒカリにも拘束具が巻かれている。


「はっはっは、口ほどにもない。さあ、引っ立てい」

馬上からスケルトを見下ろすレイモンド。

何人かの衛兵がスケルトに近づき、その巨体を引きづろうと、足を持った。


万事休す。

俺も座席にくくりつけられた。錬成で鉄の剣を変形させ、枷を壊そうとするが、硬くて切れない。勢いをつけることができないので、なんとか隙間に挟んで、テコの要領で枷を外そうとするが、痛いだけで外れる気配がない。

もう一度言う。万事休す。


諦めかけたその時、スケルトの体の枷が。

一気に粉々になった。


「うお!」

スケルトを取り囲んでいた衛兵が驚く。


ほぼ同時に、俺と田中の枷も全て弾け飛んだ。粉々になって、空気に溶けるように消えた。魔力で作った枷だから、こんな壊れ方をするのだろう。


スケルトが立ち上がり、鉄の棒で周囲の諮問兵を叩きのめした。


ブヘエと惨めな声をあげて吹き飛ぶ雑魚兵。


「まんまと近寄ってくれたな」

スケルトがニヤリとする。


「ええい何をしている。拘束せよ。拘束が無理なら魔法で焼き殺せ」


レイモンドの怒声に触発されて、周囲の兵がスケルトに手をかざす。

が、左右の手を交互に出しても、何も起こらないことに怪訝な顔をして、困惑した。


その隙をスケルトが見逃すはずもなく、鉄の棒を兵に叩きつける。

3人の兵が倒れた。


「貴様らのようなスキル頼りの雑兵は、それがしの大好物。さあ、どうした。もう諦めたのか」

スケルトの安い挑発に、周囲で戸惑っていた兵が目の色を変えて飛びかかる。


しかし、スキルの使えない環境下、スケルトの敵ではない。

素早い立ち回りから、集団に囲まれることなく、適切に相手の戦闘力を奪っていく。


次々と倒れていく諮問兵。

「ええい、何をしている。相手は一人だ!」

「隊長ぉ、強いです」

「泣き言を言うな、守護獣で当たれ」


手の内を大声で言ってくれる。余程、動揺していると見える。


言葉通りに、狼と鷹をけしかけてきた。だが歴戦の冒険者スケルトの動きは見事で、身体強化を使わずにあそこまで動けると言うのは、日頃の鍛錬の証だろう。


狼の連携攻撃に対して、的確に動きを読み、寄ってくる狼から順番に叩き飛ばしていく。空から降ってくる鷹も、警戒を怠ることなく、棒を叩き込む。背中にも目がついているような動きだ。


決して派手ではないが、最小の動きで、最短の足運びで、次々に敵を倒していく。

だが、さすがのスケルトも人間、振りかぶった後の隙に、鷹が背後から突っ込んできた。


が、銃声がして、どさりと鷹が落ちた。


「僕も加勢しますよ」

車の横に出た田中が煙の立ち上がるライフルを構えて言った。


「クロガネさんのお金で、象も眠らせる強力な麻酔銃を買いました」

田中の笑顔の言葉が荒野に響く。


残った兵が一斉に田中に向く。

田中は小声で「ひい」と言った。


まあ、もちろん俺が居る。

あの魔法の枷がないのなら、相手はただの雑兵。こちらもスキルは使えないが、負けるつもりは無い。


ゴードンから貰った武器の中から、最適なものを選ぶ。

疲労の斧。


肉厚の手斧で、無骨な作りだ。

リーチは短いが、この武器には名前の通りの追加効果がある。

接触した相手を疲れさせる。それも武器、防具越しに。


相手は躱さなければ、強制的に疲労が蓄積する。

作り手の性格の悪さが伺える。


田中に迫る雑兵の槍を手斧で弾く。

田中は、後ろから、麻酔銃で近寄ってくる相手を撃つ。


スケルトが追撃を加え、兵が一人、また一人と倒れていく。

数名は弓兵のようで、離れたところから、こちらに狙いを定めている。

弓が射られる。


その隙に、兵が下がり、隊列を整える。

さすが諮問兵。ただの雑兵というわけではないようだ。


馬上のレイモンドが忌々しそうに言う。

「スキル無効か。円陣結界を組め、物理強化のエンチャントで捻じ伏せろ」

レイモンドという男は、そこそこ優秀らしい。


スケルトのスキル無効を見抜き、対処法も知っているらしい。


「結界術ですね、魔法を封じられた時に結界を作り、自身に優位な環境を作る術です。スケルトさんのスキル無効を見抜いて咄嗟に対処してきました」

田中、解説ご苦労。


スケルトが俺の耳元で呟く。

「引っかかった。向かってきた奴らから鉄で拘束しろ」


「うおおおお」

円陣内は、スキルが使えるようで、順番にエンチャントをかけてもらった僧兵が、力を漲らせて吠える。

真っ赤なオーラが見えるような勢いで、円陣を飛び出してこちらに飛びかかってきた。

エンチャントには身体強化のような効果があり、即時に筋力を何倍にもする。


とはいえ、急場の対処で力を強くしたところで、理と経験に勝るスケルトには叶わない。


突っ込んできた兵がなぎ倒され、俺はその相手に錬成を使い鉄を巻きつける。


スキルが使える? スケルトがスキル無効のオンオフを、瞬時に切り替えているのだろう。スキルを無効したと見せかけて、味方のスキルだけ使えるようにする。エグい高度技術だ。


次々と拘束される僧兵たちに、レイモンドが苛立ちを隠さない。

「距離を詰めろ! 一斉にかかれば相手は少数だ!」


次の瞬間。

バンという音の後、レイモンドが馬から落ちた。

田中が銃を構える。麻酔銃でレイモンドを狙ったのだ。


「命中しましたね」

と安堵の表情の田中。


「貴様らの将は無力化した。これ以上、やると言うなら手加減はせん!」


スケルトの威圧がトドメとなり、僧兵たちは武器を手放して、項垂れた。


「クロガネ、レイモンドを拘束しろ、急げ」


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