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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第三部 クロガネ、鉄を打つ
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第105話 『ヨーラスの敗残兵』

グリフィンで、声の主にどんどん近づく。


怪鳥ロー。大空を飛ぶ巨大鳥。

やっぱり、鳥が爪先で捕まえているのは、人間だった。


「助けてくれえええ」

近くにつれ声がはっきり聞こえる。


「待ってろよ、今助ける」

俺が大声で叫ぶ。


ローも振り向いて、こちらを見た。


体長十メートルはある巨鳥、ロー。

ほんの昨夜、巨龍と戯れた俺からすれば、ただデカイだけの鳥。


俺の目の前で人を攫うとは、良い度胸だ。


ローに捕まっている人は、兵士のように見える。成人男性。鑑定するとプロント・ポンツと名前がでた。

なんだか、カカッと、とか言いそうな名前だ。


前に戦った時は、まだ操鉄術があった。今は少し戦い方が違う。

左手に持つ剣をふり、ルアーを飛ばす要領でローの首に巻きつける。


そして、そのまま力任せに切る。

俺の能力の極限まで細くした鉄のワイヤーが、首を刎ねる。


巨鳥の首がすっぽりと落ちた。バランスを崩して斜めに倒れていく巨鳥の体。

錬成を使い、すでにポンツという男の身柄は確保した。ワイヤーでぐるぐる巻きにしてある。もちろん、こちらは太くて編み込んだ安全なワイヤーだ。


ローの足首を切り落とし、足首ごとグリフィンで牽引する。

緩やかに地面に下ろす。


すぐ横にはローの亡骸。

ちなみに、ローは美味しいのだろうか。あとで捌いて持って帰ろう。


「おい、あんた大丈夫か」

「おおお。助かった。もう死んだかと思った。ヨーラスから命がけで逃げたのに、こんな最後と覚悟したが、ありがとう、ありがとう、あんたは恩人だ。お礼はさせてもらう! なんでも言ってくれ」


勢いでこういうこと言う人いるよね。でもお礼つっても、素性も知らないし、別にお礼が欲しくて助けたわけじゃないんだからねっ!


と、ツンデレごっこはさておき。


「俺はガーネ。旅の冒険者だ。俺がいて良かったな。何があった?」


「ガーネさん。陸路でトレンから西に旅していたんだが、街道で空からローに狙われて。あとはご覧の通りだ」


「それは災難だったな。街道近くまでなら送ってやる。どうだ」


「本当か! 助かる、お願いする!」



男を乗せて車に乗る。男は助手席に乗せる。田中は肉の横、後部座席。

地面が悪い。ガランガランと揺れる車内。


男は見慣れない車に少し驚いたようだが、この世界にも車はある。そこまで驚いている様子でもなかった。


戻る車の中で男の身の上話を聞いた。

男は自身の名前をプロントと告げた。鑑定結果通りで嘘はついていない。


ユーラスからの帰還兵だと言う。


ヨーラスの戦場での話に興味があった。俺が救うはずだったと言う、ヨーラスの話に。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

プロントがヨーラスに赴任したのは、2年前。中央のバランタウンの防衛戦から、数度にわたる撤退戦を経験したと言う。

立場としては、オルベリオンの神聖騎士団の工兵で、戦闘員ではなく補給担当として参加していた。


プロントが語ったのは、死人の軍団の恐怖だった。疲れることなく、24時間、常に攻めてくる大量の兵隊。

倒せど、倒せども、起き上がってくる地獄の軍団。味方が取り込まれ、戦力が減るほど、敵の勢力が増えるという絶望。


遠くの山間から溢れた黒い蟻のような軍勢。地面を覆い尽くすほどの数は、動き回る絨毯のようであり、生理的な嫌悪を掻き立てる光景だった。

侵略の速度は決して早くはないが、昼夜続く地獄の行軍相手。何をしようと止めるすべのない大軍を相手にして、常に戦線は撤退の連続だった。


衝突を繰り返し、一部の敵軍に穴を開けるが、押し寄せる数の暴力にそれもすぐに塞がれ、黒い波の勢いを止めるとこはできない。

もちろん、接近戦はなるべく避け、神聖魔法や火を利用した武器で遠方から攻撃するが、ほとんど効果なし。数量が足らない。焼石に水、どころか、マグマの火口にしょんべん程度。


難民を西に逃がしながら、戦線を一秒でも長く保たせるためだけに戦いに身を投じる。

女神の名を呼びながら、兵士は死んでいく。


煙と血と腐臭と火薬と、嗅いだことのない死の匂い。

地獄というものがあるとすれば、目の前の光景だ。プロントはそう感じたという。


敗戦に次ぐ敗戦の日々。戦いを拒んでも、相手は容赦してくれない。敵は死骸。対話も講和も望めない中、ただただ疲労が蓄積していく。


仲間がどんどん死んでいく中、前線の兵士達は次第に母国の対応への不信感を感じ、積み上がる死体に女神の無力を呪った。

士気の低下は、逃亡兵を大量に産み、戦力は減るという最悪のスパイラルに陥る。

ヨーラスでの戦いの日々が1年過ぎた頃、人類に残された大地はいよいよ少なくなってきた。


ある晩、船が出るという話を仲の良い兵士が耳打ちしてきた。目を泳がせながら迷いに迷った。

プロントは精神的にもはや限界で、結果、仮設のボロい兵舎を抜け出し、船に乗った。


遠くに燃える森。黒い油のような海。星の光も差さない闇の中、燃える街の影が目に焼きついた。

プロントはその光景を一生忘れないと言った。



「で、そのあとは、シーワルドのスラムで隠れていたが、敗残兵が大量に戻ってきたから、俺もその中に紛れて国に帰ろうと思ってな。仲間数人と、神聖国へ戻ることにした」


「列車には乗らないのか?」

「敗残逃亡兵に金があるわけないだろう」

「って言うか、初対面の相手に逃亡兵とか話して大丈夫なのか」

「ははっ、憲兵にも査問官にも見えないが。あんたは俺を助けてくれた。身の上を正直に話すのは最低限の礼儀だ。それとも俺を突き出すか? 1ゴルドにもならんぞ」

プロントは車の中で饒舌だった。

ヨーラスの戦役を経験した人物から直接、話を聞いたのは初めてだ。今、この大陸にはこうした人々が大量に存在するのだろう。


「一つ聞きたいんだが」


俺が問うと、なんだとプロントが言う。


「女神の勇者ってのは聞いたことはあるか」


運転しながら、ちらりとプロントの横顔を見たら、ものすごい忌々しそうな顔をした。


「裏切ったとか言うやつか。もはや女神様、いや女神になんの力もない。あの地獄を見れば、分かるだろう。その勇者とかに何ができるかは知らんが、もし会えるなら、こう言ってやりたいな。役ただずとな」


役立たず、か。さもあらん。


「勇者が嫌いか?」


俺が聞き返したら、即答した。

「嫌いも何もない。ただ、変な希望を持たせて、裏切るってのは、どうかなあとは思う」


「そうか」


勇者のことは知っているようだ。


遠くに人影。街道らしいものが見えてきた。

あまり目立つのも何だから、ここで車を降りる。


「こっちの都合であれなんだが、あまり目立ちたくはない。ここからは歩いていくが、許してくれ」


「ああ、十分だ。助かった。もうここで良い。ありがとう。お礼もできないが、また何処かで会ったら、なんでも言ってくれ」


プロントはそう言って歩いて行った。


「人助けできてよかったですね」

田中が後部座席から言う。


「ああ、そうだな。さあ、帰ろう」


グリフィンは隠しておいたが、再び呼んだ。


「さあ、案内してくれ」


グリフィンの飛ぶに合わせてついていく。

しばらく、荒野を戻るとスケルトとレイアが、焚き火を熾して待っていた。

冒険者の知恵だろうか、焚き火の上、背の高さくらいに、布が広げられていた。


「待たせたな。色々あった」

車を降り、荷台から板に乗せた肉を出す。


「無事、獲物は取れたようだな。ヌーの肉か。早速焼いて食うぞ」


スケルトが手伝ってくれる。手際が良い。


どこからか用意した鉄の串に肉を刺し、火の周囲に並べる。


「で、何があった?」

陸ザメの話、プロントの話をした。

スケルトは、肉の焼け具合を気にしながら、話を聞いてくれた。


スケルトが苦い顔で言う。

「まずいかも知れんな。先を急いだ方が良いだろう。肉が焼けたら、ここを発とう」

「まずい? そうか?」

スケルトは慎重過ぎないか。人助けができてよかったと思い、なんと言うか水を差された気分になった。


「話を聞くに。かなりのおしゃべりのようだ。街道に戻って仲間と合流したら、ペラペラと助けられた話をするだろう。

さらに言えば、ここは中央街道の外れ。聖教徒の行き来も多い。諮問官も、お前たちが出会ったエドモンドだかレイモンドだかの部隊以外にも連絡が回っているだろう。どこに捜査網が敷かれているか、いや、どこもかしこも怪しいと思って進む必要がある」


人助けをして、警戒心を抱かねばならんとは、世知辛い異世界だ。


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