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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第三部 クロガネ、鉄を打つ
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第104話 『平原の冒険』

彼女が覚えていることを全て話すのに、それほど時間はかからなかった。

異世界に来てからのことは、ほとんど記憶にないという。


俺は憤慨していた。

人をこれほどまでに傷つける魔族に対して。人を人とも思わない所業に対して。


話を総合するに、ヒカリという女が転移したのは、運悪く第二の魔王城の中だったようだ。

死体廃棄場。そこに転移したらしい。

そこで、魔族に捕まり、有用なスキルのおかげで、殺されることなく、道具として生かされた。


そういう話だろう。


嗚咽が止まらない中、そんな話を必死でする彼女は、懺悔だろうか、後悔だろうか、自身を許せないと何度も言った。


田中は、彼女を必死で慰め、もう大丈夫だから、もう大丈夫だから、と繰り返した。

手を握り、優しく、何度も繰り返した。

それは、単純に親切心からなのか、ミーハー魂からなのかは、不明である。後者だと俺は疑っている。


「何にせよ、災難だったな。ひとまず安心だが、まだキミは呪われている。また魔族に出会えば、残酷な殺人マシンに戻るかもしれない。完全に呪文を解けるまで、それまでは申し訳ないが拘束させてもらう」


俺は運転しながら言った。田中に言わせるのは忍びないと思い、嫌われ役を買った。


「はい」

エンジン音でかき消されるほどのか細い声で、返事をした。


車を走らせて、数時間。昼過ぎ、一度休憩することとなった。

荒地の真ん中である。


草木がまばらの茶色の地平。

アメリカの映画にこんな場所があった。

分類としてはここも砂漠なのだろうか。岩がゴロゴロしていて、まばらに草が生えている。

周囲には、所々に、家くらいの大きさの岩がある。

それ以外は起伏はなく、ただただ地平。


「アミット平地の真ん中ですね。陸サメと、アバオアクーが危険です。見たところ周りにはいませんが。蠍もいるので気をつけてくださいね」


アバオアクー。聞いたことがない。


「透明な竜です。ドラゴンタイプではなく東洋の龍タイプですね。蛇に近い体で、空中を漂い、獲物を襲います」

透明な龍ね。聞くからに厄介そう。

周囲を見渡す。


ほとんど草も生えない平原。小石が続く風景。サボテンのような木や、下草がちらほら。

狙われたら、隠れるところはほとんどない。

鳥が飛んでいくのが見える。


遠くに巨大な鳥。あれは、ローだな。以前に倒したことがある。


その時、ローを見て、ふと思い出した。


ピノコ。


ピノコはあのローに食べられて魔大陸まで運ばれたのだろうか。


風呂敷を広げ、元ピノコを取り出す。以前のメンタルなら辛すぎて直視できなかった。


枯れ果てたピノコ。シワシワの干し椎茸のような硬さになり、しおれてよれたエリンギ。もう喋らない・・・。


ピノコの死骸は、必ず水都で埋葬してやろう。


俺は改めて誓った。

ウエジは絶対に許さん。ボコる。必ずボコる。


皆、車から降り、それぞれに肩を回したり、屈伸したりしている。長時間の悪路走行、体に堪える。身体強化を突き抜けて腰が痛い。


「食事はどうする?」

俺が問いかけると、スケルトが言った。

「グリフィンで飛んで、ケルーとかヌーとかを探してはどうだ」


おそらくだが。ケルーとかヌーってのは、食べられる動物だろう。


「田中、そのケルーとかヌーってのはわかるか? 俺が狩るから一緒にきてくれ」

「いや僕はヒカリちゃんのそばに、いてててて」

耳を引っ張って無理やり連れてくる。

「レイアに任しておけよ。お前の道具で楽に狩れるかもしれんし、手伝え」


いてててて。


グリフィンに乗り、荒地の空へと舞い上がる。

晴れた空。

乾いた風が心地よい。


動いてるものは。遠くの方に、動物の気配。


6頭ほどのバッファローの群れが見える。あれは。


近寄り名前鑑定。ヌーとでた。


以前、一度見たことがある。モーゼルの息子を助けに行った時、ローを爆散させた時、群れていた巨獣だ。


「あの牛がヌーか?」

「ええ、そうですね。でかいですね」

「象くらいあるな・・・。1頭で十分だが・・・。どうする」


「どうするも。一頭仕留めて、追い払うしかないんじゃないですか」

まあ、単純にそうなるわな。

大人しく逃げてくれれば良いが。


僕が倒してもいいですか? と田中が聞くので頷く。やりたければどうぞ。


「じゃあ、僕が倒しますね。経験値いただきます!」


グリフィンが急降下して、田中がマグナムを構える。

右目を閉じて、舌を出す。憎たらしい顔だ。


ドフンという音とともに、頭から血をぶちまけるヌー。驚いた仲間が、前足を浮かせて立ち上がる。


「臆病な動物ですからね、空から襲撃されたらホラ」


一斉に逃げ出した。死体を置き去りに。


「流石にあれは、グリフィンでは運べないな。この場で解体して、食えるところだけ往復で運ぶか、それとも車を持ってくるか」


「じゃあ、僕、このままグリフィンで戻って、車を持ってきますね」

と田中。無免許だけど、咎める者はいないし、構わないだろう。事故だけは起こすなよ、と。


俺はその間に解体を進めておこう。


俺が地面に飛び降り、早速ヌーの遺体を解体する。

解体については、不慣れながらもフライドチンキ商隊の狩りで何度かは体験した。ここまでデカイ獲物ではなかったが。


さて、解体は、血抜きと筋切りと皮剥と骨切りと、それぞれ順番がある。

まず、大動脈がある関節部に傷を入れて血を抜く。

しばらく放置した後、筋を切っていく。これで、大きな部分を切り分けることが容易になる。

そして、皮を剥ぐ。先に筋を切っておけば皮剥が楽だ。

最後に骨の部分を取り除き解体完了となる。


身体強化と錬成を持つ俺にかかれば、いくらデカかろうと、簡単に斬れる。

解体はスムーズに進んだ。


ちょっと血まみれになったけども。


しばらくして田中が車を運んできた時には、すでに部分に分けられた肉が並んでいた。


そこまでは良かったのだが、こんな広いところで解体を行なったのは、失敗でもあった。

平原の魔獣が血の匂いを嗅ぎつけたのだ。


ぐらりと揺れる地面。

次の瞬間、

地面がパックリ割れ、大きな牙が並ぶ巨大な口が飛び出してきた。


「陸ザメです! 逃げてください!」


車の窓から田中が叫ぶ。その位置。お前もやばそうだけど。


「いや、もう終わってるんだけど」


地面から飛び出た陸ザメが、俺の目の前で止まった。

体に数十ものワイヤーを食い込ませて、巨大な槍に体を貫かれて、止まった。


「な!」

田中が目を丸くする。


気配察知で敵に感づいた俺は、すでに罠を仕掛けていた。

錬成でワイヤーを地面に張り巡らせ、巨大な槍や、銛も地中に仕掛けていたのだ。

まさか地面にそんなものが埋まっているとは思わないだろう。案の定引っかかってくれた。


「ていうか、こんな奴がいっぱいいるのかよ、やばいな異世界は、相変わらず」


「そんな簡単に対処して、それはないでしょお」田中が突っ込んでくる。

いや、俺だから良いけど、他の人は大変でしょうよ。


そんなことより、こいつは食えるのだろうか。知識の書が無いことが悔やまれる。

「おい、田中。こいつは食えるのか?」

「確か食えますけど、美味しく無いって書いてましたよ。なんでもアンモニア臭いらしいです」

「じゃあ、放置な。ていうか、ビニール袋とか、保冷ボックスとか出せるんじゃ無いのか。ちょっと出してくれよ」


田中がしかめっ面をする。

「最近、ものを出しすぎてお金が尽きました。お金くれたら出せます」

「ああ、いくらだ?」

「ビニール袋は、ああ、高いですね。1千万です。クーラーボックスは50万」

ふざけんなよ! スーパーで1枚5円じゃねえのかよ。

「それは円なのか、ゴルドなのか、どっちだよ! 高すぎる!」

「円ですよ。ただ、1ゴルド1円で換算されます」

もうわけわからない。

ビニール袋は諦める。まさかこいつ、ふっかけて無いだろうな。

信じるぞ、田中。


「じゃあ、血まみれだけど、このまま乗せるしかないか」

「ちょっと待ってくださいね。これでどうです?」

田中は車から降りて、何もない空間から木の板を出した。

「これなら1円でした。裏技で、こっちでも簡単に手に入るものはほとんどタダになるんですよ。石ころとか、木の枝とか。不思議でしょ」


木板の上に、肉を並べていく。車の後部座席のシートを寝かせて、そのまま木の板ごと肉を積む。


その時、気配がした。上空。ローが飛ぶ。

遠目で見ると、つま先に何かぶら下げている。


あれは。


「グリフィン、来い」

田中を置き去りに、グリフィンに飛び乗る。

「え、なんですか」田中が驚く。


遠くからかすかに聞こえる声。助けてくれえええ。

という声。


ローの足に掴まれる人間の姿。


おお、俺がいてラッキーだね。助けましょうとも。

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