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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第三部 クロガネ、鉄を打つ
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第101話 『眠り姫の谷間』

列車の一番先頭車両の操縦室には、運転手ともう一人が乗っている。


その人物は、まだ新人感が抜けきらない若い男の探知術者。


名を ナナブライト=ジョエリという。


探知術者は、列車の先頭で、危険物の探知や、障害物の有無を探知する重要な役割を担っている。

危険溢れる荒野を爆走する列車の安全を一手に担っていると言っても過言ではない。


レールの破損、危険生物による進行阻害、魔族の破壊工作の察知など、やるべきことは多い。

列車はすぐには止まれない。そのため、1キロ先の危険を事前に察知して、安全に停車させることが、探知術師の仕事である。


今、魔族による襲撃を撃退し、運転を再開した矢先。

巨大な龍が背後から追ってくるのを感じていた。


列車は空を飛ぶ巨龍を振り切るべく、中速で走行を続けている。


止まれば狙い撃ちにされるし、高速で逃げれば被弾の際の被害が尋常ではなくなる。そのため、いつでも止まれる程度の速度を維持しながら、走行を続けていた。


ナナブライトは手に印を組み、神経を集中させていた。

かなりの複雑な事態だと捉えていた。


今日起こったこと。

まず、空からの複数の襲撃。12号車の乗客が、ナナブライトの探知より早く警戒を告げてきた。


おそらく凄腕の冒険者か、探知術者がいるのだろう。


そのおかげで、空襲には気づけた。

空襲に気づいた後の対処は、各乗務員連絡。

襲撃に備えて列車を停止させ、対空砲にて撃退。


マニュアル通りの対応で、敵はあっさり引き返していった。


外部に気配がないかを探る。


この時、暗殺者が侵入していたのだが、ナナブライトは気づかなかった。


言い訳にはなるが、彼はまだ経験が浅かったこと、空からの攻撃に備えてそちらに気が行っていたこと、乗客の多くの気配の中に薄い気配の暗殺者が紛れ込んだこと。

それらの状況で、侵入を許したのは、責められる状況ではなかった。

逆に感知できたスケルトの性能が高すぎたと言える。


ナナブライトが暗殺者に気づくことなく、その後、列車が空襲からの安全を確かめ動き出した後、強烈な気配が再び空から近づいてきた。


今回は、その気配の大きさから、災害クラスのモンスターが近づいてきていることは間違いなく、ナナブライトもすぐに気づいた。その気配の巨大さから、列車の装備で対抗できる範囲を超えていることは間違いない。


そのため、探知術師のナナブライトが下した結論は、最寄りの駅へ一刻も早く辿り着き、脅威を追い返す以外に手段がないと言う判断。

列車の速度を多少緩めながら、対空防壁にて列車への攻撃を防ぎつつ、現在に至る。


運転室のドアが激しく叩かれたのは、その時で、「開けろ開けろ、緊急事態だ」という叫び声が聞こえた。


乗務員のマニュアルでは、こうした時、扉を開いてはいけないルールになっている。

扉を開けた際、相手が武装していたら、乗務員が人質に取られ列車が乗っ取られるなどのテロ被害が拡大するためだ。


今、運転室には、探知術者のナナブライトと運転手のトーマスしかいない。

運転手が席を離れるわけにもいかず、ナナブライトは集中を途切れさせられたことを不満に思いながらも、ドアに近づいた。


「どちら様ですか。現在、緊急事態中です。お部屋にお戻りください。危険は乗務員にて対処しております」


「乗客だ。冒険者をしているスケルトと言う。二つ、事態が進行している。一つ、暗殺者が乗り込み死体に傀儡虫を仕込んだ。

浄化を行い無力化したが、最寄りの駅で必ず処置し、万全の対処をするように依頼する。これに伴い、乗務員が少なくとも2人死んだ。

もう一つ、空からの襲撃は山のヌシが何者かに誘い出されたものだ。

ヌシの子供が攫われ、それが誘導に利用されている。

早急に子龍を見つけ、親元へ返せば事態は収まる可能性が高い。

優先順は、山のヌシ、巨龍への対処。

現在は俺の仲間が空で龍を食い止めている。

ここへ来たのは探知を手伝ってもらいたい」


ナナブライトは新人ゆえ、返事をためらったが、一つ思い至った。


「先ほど12号車から連絡してくれたのはあなたですか」


「ああ」

ドアの向こうから返事があった。


「一体どうやって探知したんですか。

私よりも早かった。あなたも探知術をお持ちなのではないのですか」

探知術師という職業は、引き合いも多く、給与も高い。


スキルに依存する部分もあるが、多くは魔力操作を体系的に鍛え、平たく言えば、魔力操作に長けていれば最悪スキルがなくとも探知術を使える。


そう言う意味では、絵が上手いことと画家かどうかが関係ないように、探知術師かどうかは関係なく探知術に優れるものも多い。

特に日々危険と直面する冒険者にとって探知技術は必須であり、体系的に探知技術を習うことなく一流の探知能力を持つものも存在する。


スケルトの技術はその類のものだと安易に想像できた。それが新人の探知術者を頼る理由がわからない。


自分で探せるのではないか。


ナナブライトはそうも思ったが、現在自身はプロとしてこの列車を任されている立場。

複雑な心境だった。


ナナブライトの問いにスケルトは即答した。

「探知術は持っていない。

俺はスキルの発動を感知できる。それだけだ。

探して欲しいのは子龍。子龍はスキルは使わない。

もしくは眠らされているか、拘束されているか。

状態は不明だが、俺には探せない」


理由に納得したナナブライトは頷き、返事をした。

だがその内容は否定的だった。


「ドアを開くわけにはいきません。状況は理解しました。しかし私にはこの列車の安全を守る義務があります。いるかどうかわからない子龍を探すことは」


そこまで言った時、ドアの向こうから怒鳴り声が返ってきた。

「状況判断を誤るな! 巨龍を探知したところで危機は去らない。

根本原因を探る必要があることを理解しろ、今すぐ子龍を探せ! 今すぐだ」


声には有無を言わせぬ強さがあり、新人の探知術者は小さくヒイと声をあげて、言われた通りに子龍の気配を探した。


爆走する列車の近く、子龍の気配。

巨大な龍の気配に似ているはず。

周囲に気配は無い。

しかしそれならば、なぜ巨龍は列車を襲ってくるのか。


ナナブライトの探知術は、妄想視覚型と言われる探知で、探るものの映像がなんとなく浮かぶ。

気配を察知し、そのことに意識を向けると頭の中に映像が浮かぶ。


子龍がいる。そう仮定して隠す方法は? 

一つ、列車の近くに先ほどの騎竜部隊がいて引き寄せている。

一つ、なんらかの方法で列車内に隠す。それ以外の方法はあり得るか?


巨龍が追ってくるのは、おそらく、匂いか、気配か、声か。このどれかを頼ってだろうが。


巨龍は列車に攻撃をしてくる。


と言うことは、竜の部隊に子龍を繋いで誘き寄せている、というのは可能性が薄い。 それならば、巨龍はそちらを狙うはず。


龍は列車を攻撃している。

となると、列車の中。どこかに忍ばせているのか。


確かに、生物を小さくして閉じ込めるマジックアイテムはある。しかし、そうなると小さすぎて見つけるのが困難だ。

それは巨龍も同じ。


匂いが漏れるようなマジックアイテムと仮定する。それならば、龍が列車を襲うことも妥当性がある。


ナナブライトはそう推察して、列車の中を探知する。


匂いが頼りだ。


ターゲットがある程度定まれば探しやすい。

すぐさま、異様な気配を見つけた。


だが場所から察するに、これは、さっき言っていた傀儡虫の気配だろう。死んだ傀儡虫が頭に浮かぶ。


異様な匂いを感じさせる気配。

だが、その様子はすでに沈静化しており、女性が一人、祈っている姿が見えた。


そして次の違和感。


ベッドの横に横たわる女性。


黒づくめの服。綺麗な寝顔。


その衣服の下に、ほんのわずかだが。

巨龍と同じような気配がする・・・。


だが、子龍とは言え、親から比較すると最低でも数メートルの大きさはあるはず。

となるとやはり、小さくする魔道具が使われているのか。それとも単なる残り香か。


ナナブライトは自分の回答に自信を持てず、逡巡した。


「どうだ、何かわかったか!?」


「はい、12号車あたりに、女性の姿が見えます。その辺りから気配が」

「!! そうか」


走り出す気配。「助かった。外の警戒に戻ってくれ、しばらくで解決するはずだ」


男はドアの向こうでそう言い残して消えた。



スケルトが猛烈な速度で列車内を走る。

鎧姿の大男が横切るのを、不安そうに見つめる乗客もいた。


先頭車から12号車まで戻ると、特に何の異変もなく、部屋の中に暗殺者の女が寝ていた。


ヒカル。いや、ヒカリか。

田中がそう呼んだ異世界人だ。


意識はまだ失ったまま。


スケルトは、乱暴に女の衣服を引きちぎった。

黒装束の胸元がはだけ、谷間が露わになる。


「どこだ。どこにある」


あった。


女の胸の谷間、サラシが巻かれた間に、結晶石が一つ。


これは、封印術の結晶で、生物を閉じ込めておける貴重な魔導具である。

傀儡虫と、子龍の2段構え。用意周到な敵である。


スケルトは耳元のボタンを押さえて「見つけた」と叫んだ。


窓の外にグリフィンの影。


その背中に、敵意をむき出しにして目を吊り上げる田中。

「ヒカリちゃんに何をしたあああああああ」


いや、あの、これは。


スケルトが柄にもなく目を丸くした。


「そんなことを言ってる場合じゃない。これをレイアに渡せ!」

スケルトは気をとりなおし、叫び返した。


てのひらくらいの煌めく石を投げてよこす。


「封印術の魔石だ。解呪して親元へ届けろ!」


「ヒカリちゃんに手を出したら承知しないぞ!!!」

田中はそう言って再び飛び上がった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺にしてみれば、空の上で宙ぶらりんの状態で、ギザギザの鱗に傷だらけになりながら、龍の怒りの声をなだめ、必死のパッチで過ごした時間は、それはそれは長かった。


もう勘弁してくれと何度も思ったし、実際、手から鉄がすり抜けそうになり、錬成を駆使して手に巻き付けたりと、休まる暇も無かった。


――ああ、私の坊や! ああ――


安堵の声が聞こえた。


何事かと見ると、田中を乗せたグリフィンが、その爪先にドラゴンをぶら下げて、巨龍の前に現れた。


「大丈夫だ。無事に子供は取り返した。田中、そのまま、列車から離れろ」


田中は頷き、巨龍の前を横切り、元来た山の方へ飛び始めた。


夜の空。

月明かりが森を照らす。


満天の星の下、子龍を運ぶグリフィンと、それを追う巨龍。


俺は必死に龍に声をかける。

「このまま、送り届けてやる。子供は無事だ。よし、大丈夫だ」


――ああ、私の坊や! ああ――

――よかった、生きている――

――魔獣の爪で傷をつけるなよ――

――そっとだ、そっと運べ――


そんな声が聞こえてきた。先ほどまでの怒りは多少、収まったようだ。

巨龍は首を上下に振りながら、グリフィンの後を追う。


――奴らだ! 奴らの気配がする。許すまじ――


遠くから、複数の気配。

この気配は何度も感じたことのある・・・。


魔族だ。


計画が失敗したとみて、直接襲いかかってきたようだ。


「おい龍よ、復讐戦と行かないか。大人しく乗せてくれたら、あいつらの死体をお前にくれてやる」


龍の気配が膨れ上がった。言葉にせずとも分かる。

やる気だ。


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