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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第三部 クロガネ、鉄を打つ
102/214

第99話 『北峰のヌシ』

かつて。

ナミートの酒場でモーゼルが聞かせてくれた英雄譚。


ーー北のドラゴンとの一騎打ちーー


大陸の中央に聳える山脈。数千メートルの山々が連なる人跡未踏の地。

その峰にはヌシが居て、周辺の村々を襲っていた。

家畜を襲い、時に人も攫っていった。


幾度となく討伐隊が結成されたが、いずれも返り討ち。

矮小な人間には、ヌシの住処まで遠征するだけで、命がけの冒険となる。


ヌシが支配する山をカザム峰という。


そこから付けられたドラゴンの名前は、カザム峰のカザムレンジ頂の王ピークロード


その男、金色のオーラを纏った野蛮な笑顔の持ち主は、5千メートルクラスの山の頂で、羽を広げた白色の羽を持つ赤龍と対峙していた。

濃い青色の空。白く固く積る雪。凍った岩肌。

赤龍が羽を広げた威容は、三十メートル近い巨大さ。対する男はあまりにも小さい。


矮小な男が、派手な雪煙を巻き上げて走り出した。


雪の坂道を、爆煙を上げながら迫り来る金色の人間に、ヌシはこれまでに感じたことのない脅威を覚えながら、吠えた。


光る口の中から、生物の攻撃とは思えない光線。炎熱が収束され、もはやビームのような線となって発射される。


当たらなければどうということもない。

それを地でいくモーゼルの動きに龍は怒る。


首を左右に振りながら、小賢しい敵を殲滅すべく、雪を射抜く。

雪が舞い上がり、煙が視界を遮る。


モーゼルの拳が、ついに巨大なドラゴンの首筋に食い込む。


しかし。


その強固な鱗は、攻撃を跳ね返し、ビクともしない。


巨龍は吠え、その牙でモーゼルを引き裂こうと顎門を向けた。


金色に輝くモーゼルの体が、牙を殴り、その反動で距離をとる。


戦いは4時間に及んだ。

何十、何百と叩き込んだ拳が、ついに龍の鱗を砕いた。


全身血まみれのモーゼル。龍の血か、己の血か分からない。

なまじの剣でも傷つかないモーゼルの強靭な皮膚も、龍の鱗の硬さの前では、無傷というわけにはいかなかった。


そして何よりその体重差。

おそらく20トンは優に超える龍の巨体。

象の体重がおよそ6トン。体長が象の数倍もある龍ならば、体重もその何倍もある。


踏まれただけで普通の人間なら、瞬殺圧死。

前足で払われただけで、城塞すら吹き飛ばす。


モーゼルは、真っ向からその体重を受け止め、拳で渡り合った。


胸に拳を突き刺され、血を流しながら、ゆっくりと倒れる巨大な龍。


人知れぬ山の頂で行われたその戦いを知るものは、モーゼルとその龍しかいない。


他の誰が語ろうと夢物語にしか聞こえないその話は、モーゼルが語ったかつての冒険。

クロガネが聞いたその話。そのものの威容が、眼前に迫っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


鑑定の結果。

名前が出た。

カザム峰のカザムレンジ頂の死神ピークエンド


モーゼルが倒したというドラゴンの子供か。それともツガイか。

大きさから言って、おそらくつがいだろう。


空から火の玉を打ってくる。何か知らんが、ものすごく怒っている気配がする。


だが、全く近寄ってくる気配がない。遠距離から、火の玉を飛ばしてくる。

流石にあそこまでは届かん。


さて、どうするか。

一つアイデアを思いついた。グリフィンを呼べば来ると言っていた。というか、あのグリフィンはいったい何処にいるのだろうか。


一旦、屋根を降りて、部屋に戻る。


田中が、心配そうにベッドの上の少女を見ていた。

「おい、田中。ドラゴンに襲われてる。巨大な奴だ。グリフィンを呼べるか」


田中は目を見開き、

「ドラゴン! ドランゴですか!?」

ドランゴって何?

「見たい見たい見たい!!! 見たいいい」

と興奮した。そっちかよ。


落ち着け田中。

「ああ、ドラゴンが出た。グリフォン呼べるか、早くしろ。列車が燃やされてしまう」


「ドールですか。ここに呼ぶんですね」

田中が背中のリュックから、笛を取り出した。


「魔法の笛です。犬笛みたいにこれで呼べば、何処でも来てくれますけど。時間かかるかもしれませんよ」


「話は良い。急げ。その娘は寝てる。急がないと全員、燃やされてしまう」

田中は慌てて立ち上がり、部屋を出ようとするが、少女に未練があるようで、心配そうな視線を向けて、振り切るように走り出した。


別の窓を壊して屋根に出る。

田中は、しがみつきながら、なんとか屋根の上に上がる。

「呼びますよ!」


フーと息を吹く音。これで聞こえているのか。そういえば、以前、レイアもモーゼルを犬笛で呼んでいた。


そんなことを考えていたら、グリフィンが一瞬で現れた。


これはもしかしたら、グリフィンは、実体ではなく異空間から呼び出した霊体か何かかもしれないと、思った。


召喚獣という存在が、どのように普段暮らしているのか。それは、大いなる謎だ。


空中で翼をはためかせ待機するグリフィンの背中に飛び乗る。


大きな円を描くように、列車を中心に上空を飛びながら、火を吹く巨龍。

幸い連発はできないようで、火を吹く間隔は緩慢だ。ただ、一撃はデカイ。


列車の一部が燃えている。遠くからの火砲なので、幸い精度は高くない。被弾はそれほどではない。


俺たちを乗せたグリフィンが上空へ昇る。列車が遠のいていく。

巨龍が俺たちに気づいた。

咆哮を上げて、こちらへ頭を向けて迫ってくる。


「どうするんですか。あのファイアブレスを食らったら、一撃ですよ」

田中が後ろから大声で叫ぶ。

さっきまで見たいって叫んでたのに。攻撃を見てビビったか?


ドラゴンが口を開き、火の息を溜めた。

「避けろ」

グリフィンが旋回して、火の息を避ける。数メートル横を通り過ぎただけで、熱気を感じる。


「こっちは攻撃手段がないんですよ」

「お前、拳銃持ってるんだろ、撃てよ」

「ええええ?」

田中が慌ててリュックからマグナムを取り出した。


弾を確認し、構えて、撃つ。

ドンという音がしてマグナムが火を噴いた。

が、距離があるため、当たらない。


「もっと近寄らないと、当たらないです」


巨龍が旋回して、こちらに向き直る。

グリフィンも旋回し、お互いに正面で向き合う。距離は百メートルほど。


お互いにどんどん近づいていく。

「グリフィン、ドラゴンの上を避けろ」


大口を開けるドラゴンの手前。口の中が光る瞬間に上空へ急上昇する。


下をドラゴンが通り過ぎるその瞬間、俺はグリフィンの背中から飛び降りた。


俺は、鉄の剣を持ち、空中で錬成。

操鉄術が使えた頃のようにはいかないが、剣を鞭に変形してドラゴンへ巻きつける。以前は、ワイヤーを自在に飛ばせたが、錬成だけではそこまでできない。


巨大なドラゴンの首へ、俺の鉄鞭が巻きついた。


行き違う速度で、腕がちぎれそうになる。右手の鞭を手に縛りつけるように変形し、なんとか吹き飛ばされないようにする。


ものすごい風速。息ができない。


鞭を手繰り寄せ、龍の背中に這い寄る。


龍も俺に気づいたようで、翼をはためかせ、左右に体を振りながら、なんとか俺を振り落とそうと踠いている。


落とされてたまるか。

龍の背中はでかく、鱗もギザギザ。


背中に乗っているだけで、大根のようにおろされそうなくらいに足場が悪い。


服がすでにボロボロだ。

下着としている神衣は一切無事だが、その上にきている巡礼服は、切り裂かれてしまっている。


腕や足から、知らない間に血が出ている。それだけドラゴンの鱗は鋭利だった。


空の上での、危険なロデオが続く。

龍は怒り、首を上下に振りながら、火を吐く。


飛行も先程までの滑空と異なり、巨体を揺らしコウモリのような乱暴な飛び方に変わった。


俺は、振り落とされないように必死で捕まるのみ。


時間的にはどれくらいだろうか。

1分よりは長く、5分よりは短いだろう。


身体強化を駆使しても、物凄い筋力が必要になる。


まるでジェット機にしがみついているようだ。


上下に振られ、なんとか絡めた鞭で体勢を保っている。


その時、声が聞こえた。

私の坊や。

と。


坊やって誰だ。


そう疑問に思うと、お前たちが盗んだ坊やよ、と声が聞こえた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


クロガネが優雅な空中ロデオを楽しんでいる頃。


フォンハイゼンの殺害現場に駆けつけたスケルトとレイアは、その光景にたじろいだ。

「くそ、遅かったか」


死んだはずのフォンハイゼンが起き上がり、乗務員二人を串刺しにして食べていた。


串刺しにしているのは、フォンハイゼンの口から伸びた触手。

真っ青な顔をしたフォンハイゼンの顔に生気はない。


「これが狙いか」


フォンハイゼン。いや、元フォンハイゼンだったモノに寄生した何か。


間違いなくあの暗殺者・異世界人ヒカリが運んできた厄介事である。


レベル的には厄介とと言う言葉では軽すぎる。もはや厄災、というレベルの事態が進行していた。


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