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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第一部  鉄の勇者のサバイバル
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第1話 『女神からのウェルカム』

西に広がる広大なサーグ砂漠。

コーンポタージュ粉のような色をした砂がどこまでも広がる灼熱の乾燥地獄。


その砂漠に馬上の男が一人。男は3メートルの長さがある巨大な鉄槍を馬上で構えて、蜃気楼がゆらめく地平線を見据えていた。

黒鉄の鎧をまとった男と、これまた漆黒の鎧をまとう馬。


砂漠は見渡す限り広がり、青空の下、白い砂が太陽を反射している。


遠くに砂煙が見え始め、煙はやがて延焼する山火事のように広がっていく。


巨獣軍団13万。


神聖教国ザイオンにある水都オルベリオンへの魔王軍の進撃である。

13万の大群が砂漠を越えてやってくる。


それに対峙する男の名前は、黒金くろがね  鉄男てつお

男は、異世界人であり、魔王討伐のために女神に遣わされた救世主である。

男はニヤリと唇を釣り上げると、怒気を孕んだ咆哮を上げた。


望まずして戦いの神に愛された男。


男は、単騎で大軍と向き合う。少しでも被害を減らすべく。これが一番の方法だと、男は確信していた。


男のはるか後ろ、2キロほど離れたところ、砂漠の端っこに、約5千の騎兵隊が後詰している。取りこぼした獣を狩るための部隊だった。

騎兵隊員の多くは、あまりの敵の多さに緊張を隠せずにいた。


オルベリオンの兵、2万に対して、敵のモンスターの数は13万。人類同士の戦いではなく、相手は全て巨獣である。巨獣1体を倒すために一流の冒険者数名が必要になる。敵は危険な怪物だらけだった。


諸処の事情によりクロガネの正体を知らされていない騎兵隊員の多くは思った。本当にあんな男一人に任せて大丈夫なのか、と。隊員は死を半ば覚悟しながら、砂煙を眺めていた。


やがて、男を呑み込む津波のごとく、巨大な獣の軍団が姿を現した。軍は不思議と統制されていて塊になって押し寄せてくる。

象のような巨体をもつ2足歩行の怪物や、ミノタウロスやケンタウロスといった良く名を知られる怪物の姿も見えた。ミルメコレオと呼ばれるライオンの頭の昆虫や、キマイラ、空からはガルーダやサンダーバードといった数多の種類の怪物が男めがけて押し寄せてくる。


雄叫びを合図に、

1対13万の戦いが始まる。


望遠鏡を通して、その光景を将軍は見ていた。

オルベリオンの外郭の塔の上から、砂漠の煙を、その中の男の黒い影を見ていた。


獣たちの巻き上げる砂が、視界を遮るが、次の一瞬で、その砂煙は血煙に変わった。男の攻撃が、獣たちをまるで紙でもちぎるかのように肉塊に変えていく。

13万に及ぶ敵の戦陣は横に伸びるが、ある線を境に、獣は前に進むことができない。


あるものは上下を断たれ、首を飛ばされ、足を千切られて、進むことができないでいる。後ろの軍団に押される先陣は、まるで見えない壁に押されるように潰されていき、細い網で千切られるように細切れになって潰されていく。


見ているうちに男の周りに巨大な鉄の要塞が作り上げられ、瞬時に形を変えていく。

続いて、巨大な鉄の塊が空から降り注ぎ、鉄の壁が逃げ惑う巨獣の行く手を遮る。難攻不落の鉄塊の城塞。


一人要塞ワンマンフォートレス


まるで見たこともない固有魔法オリジナルが、大群を相手に炸裂していた。

それでも流石に、所々、防衛線を超える獣が現れたが、個々に分断された傷だらけの獣など、オルベリオンの軍隊にすれば対処はたやすい。


弓を構えた騎兵に追い立てられ、今のところ、獣は一匹たりとも、オルベリオンの街に近づくこともできない。

遠くからその戦いを見つめるオルベリオン軍司令官は、後ろで誰かがこう呟く声を聞いた。


――鉄塊の化け物チート

と。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーそのおよそ1年前



目が覚めると、白い部屋にいた。見渡す限り白い。壁かと思ったら、永遠に白いだけの空間だった。天井も白く、床も白い。光はたっぷりあり、どこまでも見えるが、ただただ白い。


自分の手を、体を見る。裸だった。


最後の記憶は・・・・


確か、工場からの帰り道で、暴走トラックに撥ねられそうになっていた小さい子供を抱え上げたところまでは覚えている。


ん? で、気づいたらここにいた?

ここは? どこだ?


「目が覚めましたね、鉄男さん」

振り返ると、女の人が2人、いつの間にか立っていた。


一人は青っぽい髪を腰まで伸ばした大人しそうな女性。


一人は赤っぽい髪がボブのようなカールを描く活発そうな女性。


どちらも凄い美人だった。


「さぞ、驚いているでしょうね、テツオさん」

「こ、ここは?」


驚いて俺が尋ねると、青い髪の女性が言った。


「私の名前はオリビエ、こちらはパートナーのメラです」

メラと呼ばれた赤いほうが、首だけで会釈する。


二人とも見たこともないような美人。何かきらめくオーラのような何かに包まれている。


「鉄男さん、あなたは死んでしまいました。幼い子供を助けて」

「!」


はあ? 俺が死んでる? 感覚は普通だが・・・

「お、おい、変な夢か。ちょ、ちょっと待て・・」


混乱する俺を尻目に、赤い髪の方が言った。

黒金くろがね鉄男てつお、39歳、シングルファーザー、鉄工所経営。17歳の長男と、12歳の娘」


俺のプロフィールをいきなり話し始めた。


こいつはなぜ、俺のことを?


赤い髪の美女は、気の強そうな顔で、ファイルを読んでいる。


夢だから、なんでもありだが、夢にしてはちょっと感覚が鮮明過ぎないか?


夢ならもうちょっとぼやっとしている、そんなことを考えていると、青い方が言った。


「私たちは、あなた方の言う、女神、と言う存在です。

にわかには信じられないかもしれませんが、あなたにお願いがあって、こうして肉体を復活させて呼び寄せました。

まずは、あなたを強制的に呼び寄せたことに対してお詫びを申し上げます」


青い髪、オリビエと名乗った女性が軽く頭を下げた。


女神?


俺は益々混乱してきた。わけが分からない。痛みもないので、死んだことが信じられない。怒りもわかない。とにかく実感がなさ過ぎた。


「こちらをご覧ください」

タレ目が特徴の青い女が目を向けると、そこには空中に浮かんだような窓が空いていて、モニターのように何かを映していた。


見覚えのある顔があった。息子鉄一郎と、娘の徹子が、学生服を着て泣いている。隣に棺桶があり、祭壇に写真が飾ってあった。


写真には笑顔の俺がいた。


葬式の様子だった。


「現在、地球では貴方の葬儀の真っ最中です。残酷ですが、これは全て現実です。申し訳ありません」

青い女は目を伏せ、うつむいたまま、そう言った。


「いやいや、ちょっと待ってくれ、お、俺が死んだ? じゃあ、子供達はこれからどうするんだ、会社は? 誰が面倒を見るんだ! 俺にだってやりたい事がまだあるぞ!」


俺は崩れ落ちた。死んだのか? 俺は。

え? 痛みとか、全く感じないんだが。


「鉄男さん、そこであなたに提案があります」

俺が目を上げると、青い髪が優しく微笑んでいた。


提案? 提案ってなんだよ?


青い女神がまっすぐに俺の目を見つめる。

「まず、状況を説明させてください」


女神は、語り始めた。


この世界には、神と呼ばれる存在がいる。神はいくつかの世界、宇宙単位といこともあれば、惑星単位ということもあるが、それぞれに統治している。


統治と言いつつ、基本は放任だが、ある程度の知的生命が誕生すると監視を行う。

知的生命はやがて、半神となり、神へ至る。

これはほぼ必然らしい。


神は大きく分けると2種類あるそうで、俗にいう、善神と悪神である。


善神の目的はごくごく単純にいうとすべての生命を健やかに進化を促しやがては神の仲間として迎えたい。


対して悪神は自分以外の神に至る可能性のある生物はことごとく滅ぼして神の地位を独占したいと考えている。


で、問題は、善神も悪神も力は拮抗しており、今は善神が勝っているから安定しているが、時には悪神が勝って宇宙を丸ごと滅ぼしたりしながら、戦いを繰り返しているらしい。


悪神が勝つと、規模にもよるが、数億年単位で再開発が必要になるという。


数億年とか。


正直、スケールが大き過ぎて、話についていけない。それに話が長い。覚えるのが大変・・・。


「今、一つの世界が危機に瀕しています。名をエ・ルガイアと呼ばれる世界です。私たちのチームは7つの世界を管轄しています。エ・ルガイアと地球はそのチームに入ります」


うーむ、神の階級構造ヒエラルキーがよく分からん。


俺は問いただす。

「ちょっと待て、神と言うくらいだから、なんでも、なんとでもなるのではないか? 俺なんか人間に、提案って一体・・」

俺に何ができるというのか・・


青い髪の方が答える。


「そうですね、神について少し補足します。

神と言う言葉は抽象的ですが、皆さんのいう神という言葉の意味するところは3つあります。1つ、全知全能でこの世界を作った神のこと 2つ、人の能力を大きく超えた存在、そして3つ、概念としての神性ですね。

我々は、この2つ目の存在です」


青い髪の喋り方はゆっくりで、丁寧だが、横で赤い髪の女神?がイライラした表情で、腕を組んでいる。

青い女神が説明を続ける。


「私たちは、精神および肉体が人としての能力を大きく超え、空間や時間からの束縛から著しく解き放たれた存在です。

我々は、人間よりも絶大な力を持ちますが、残念がながら全知全能、万能ではありません。

全知全能の神は、絶対神と呼ばれかつては実在したと言われています。


しかし、絶対神は、はるか昔に御隠れになり、今はどこにいるかも分かりません。

絶対神は、宇宙そのものにも全く無関心です。

全てを知る、と言うことはそういうことだと理解しています。

あ、これは、絶対神に会ったことのある先輩から聞いた話です。

我々は、神として、神と言う役目を担っているに過ぎません。なぜなら我々も不滅の存在ではなく、同じ神からの攻撃により互いに消し合うことができます」


正直、興味もないしどうでも良い話ではある。つうか、そういうことを聞いているのではない。

俺にできることなどないと言いたいだけなのだが・・・。


赤い髪の方がしびれを切らしたように話し出した。

「ちょっとオリビエ! いつまで説明続けてんのよ、さっさと核心話して、動かさないと、間に合わないよ! 今スケジュールから20秒オーバー!」


メラと呼ばれた赤い方は短気なようだ。何かにひどく焦っている。


「そうですね、本題に入りましょう」

青い方、オリビエが頷いた。


「善神と悪神には力の秘密があります。


神として互いの力が拮抗するため、普通に戦えばどちらも消滅します。そのため、眷属を作りその力を使って相手の神を倒すのです。力を限界まで蓄えた眷属は、神にも届くほどです。


今、エ・ルガイアに、3人の魔王が存在します。魔王は、言うまでもなく悪神の眷属です。


3人の魔王は強く、間も無く神に届くような力をつけようとしています。

そして、善神側の戦力は数は多いものの、個々の力は微小。今まさにこのタイミングで戦力を投下しないと、一つの大陸が悪神に支配されようとしています。


魔王の勢力が星を完全に支配した時、悪神、その世界で邪神と呼ばれる神が復活し、世界は崩壊します。そして、我々が治める7つの世界も連鎖的に飲み込まれ、しばらくの間、邪神とごく少数の邪神の眷属しか存在しない、地獄のような世界が続くことになります」


俺は息を飲んだ。女神の迫真の顔に圧倒されたと言った方が正確だが。


地獄・・・。


「しばらくって、どのくらい?」


恐る恐る聞いてみると、

「そうですね、短くて数百万年、長いと数十億年ですね」


数億とか、数十億とか。改めて言おう。

アホか。スケールでかすぎるわ。


「ちょっとどんどん時間過ぎてくよ! 侵攻が始まっちゃう」

赤髪よ、落ち着け。


「ちょっ、聞けば聞くほど、俺なんかに何ができるのか、全く不明なんだが、呼んだからには俺に頼みって、まさか・・・」


テンプレ展開すぎないか? まさか召喚勇者的な・・・?

最近流行りのやつですやん!


二人の女神はニッコリ笑い、親指を立てた。


「正解です! 鉄男さん! あなたは勇者に選ばれました!」

俺は、見事にずっこけた。

クロガネのスペック

年齢39歳で死亡 → 18歳の肉体で強制転生

身長178.5

体重 73kg

黒髪 黒目

二児の父

幼馴染の妻に先立たれる


好きな食べ物 スルメイカ

嫌いな食べ物 チョコレート



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