リスタート
瑠奈の愛用のパールピンクのリップクリーム、肌馴染みのよい頬紅を施された瑠奈はまるで眠っているかのように棺に横たわって笑みを浮かべているかのようだった。通夜の弔問客が途切れ、親族が別室に引き上げると凌達は瑠奈の棺を囲んで最期の別れを惜しんでいた。
今まで泣くのをこらえていた優里は堰を切ったように泣きだした。潤が肩を抱き寄せただけでそこにいた誰も優里に「泣くな。」と言わなかった。凌も潤も拓也も声こそ上げないが、泣いていた。
「明日は葬儀だな。まだ瑠奈が死んだなんて実感がない。目の前に亡骸があるのに・・・な。」
「俺もだ。明日、グラウンドに行ったら瑠奈がいるんじゃないかって思うよ。」
「ずっと一緒だと思ってた。卒業も、成人式も、その先もずっと友達で一緒にいられると思ってた。」
優里がすすり泣きながらいうと、皆、頷いた。
それぞれが瑠奈との思い出を脳裏に巡らせた。そして、沈黙のまま瑠奈の傍にいつまでも寄り添っていた。
次の日 別れをどんなに惜しんでも、時は容赦なく流れ、手慣れた葬儀のスタッフの段取りに従って瑠奈の延べ送りは滞りなく済んだ。凌は深い喪失感を持て余していた。しかし、瑠奈が自分が存在しないことを分かっていながらも時空の輪を断ち切ってくれた未来をしっかりと前に進んでいくことが瑠奈の願いだと。そして、瑠奈の言った未来の出会いを信じて日々を過ごしていくことにした。
瑠奈がいなくなっても今までと変わらずに葛城藤は行きかう学生たちを見下ろしながら、今年も花を咲かせる準備を始めている。
「ねえ、瑠奈とは1年くらいだったけどもっともっと長くいた気がするの。」
ある日、優里がポツリと言った。
「そうだな。俺もなんかもっとずっと前から知ってた気がするよ。」
潤も同意した。凌は背中越しに二人の会話聞いていた。
「瑠奈、みんな覚えているよ。君が繰り返した日々は毎回、リセットされていなかったんだ。君が繰り返した時間はみんなの記憶刻まれているよ。君が時空のメビウスの輪を切り離したことで確かに時間は前に進み始めた。君は一人じゃないよ。早くまた、君に巡り合いたいよ。待ってるから。」
と、瑠奈との最期の時をはっきりと思い出して胸が熱くなった。
時は止まることなく流れていく。凌は瑠奈の事を胸に、はサッカーを続け、夏の大会で再び県大会出場を決めると後輩に後を譲り、大学受験へとシフトし、翌年の四月、凌は大きな目標を胸に国立大学の医学部へ進学した。