異世界召喚されてイケメンに求婚されてるけどそれどころじゃない
「どうか私の愛を受け入れていただけませんか、聖なる乙女よ」
広がる青空の下、わたしは絶世のイケメンと寄り添いながら、背高い一本の木の枝に腰かけていた。
もうここしか1人になれそうな場所がなかったから、命がけで登ったんだけどなぁ。
地面から5mはありそうな高い枝なのに、長い手足で簡単にわたしの隣を陣取ったこの男。
彼は、この国の王様だ。
腰を抱かれ、緊張と恐怖でわたしの心臓はずっと早鐘を打っている。
「光栄なんですけど、その、今は、そういうタイミングじゃないっていうか」
わたしはイケメンを直視できず、かといって下を見るのも怖く、うろうろと視線をさ迷わせた。
「すみません。しかし、貴方はいつも上手に逃げてしまわれる……今ならじっくりと話せるのではないかと思いまして」
たしかに、わたしはこの国に召喚されたときから、ずっと逃げ回っていた。
今日はついに追い詰められたというわけだ。
「そりゃわたしも、逃げずにゆっくり、前向きに検討したいとは思いますが。その、召喚されてこのかた、パニック状態で……少し落ち着いて考えられる環境が欲しいと言いますか……」
「もちろん、貴方の気持ちが固まるまで待つ覚悟はしています……ですが、あまり焦らされると、つまみ食いしてしまいたくなるかもしれませんね」
穏やかでないことを冗談交じりに言いながら、おキレイな笑顔に詰め寄られてギョッとした。
脅迫されている気分である。
「ふふ、慌てる顔も可愛らしい。本意ではないですが、つい揶揄いたくなってしまいます」
「え、あ、そう、ですか。よかった。揶揄っただけなんですね」
「もちろん、貴方への告白は揶揄いではありませんよ。これほど好きになった人はいません。本当です」
「……えぇ、信じてますよ」
短い付き合いだけど、このイケメンが本気でわたしを口説いているのは疑ってない。
「人、いないですもんね」
わたしは眼下に蠢く、幾百の腐敗したジャパーナ国民達を流し見た。目にも頭蓋骨にも蛆が沸いている。
彼らのターゲットはわたしだ。わたしだけだ。
なぜなら、国民は王様を襲わない。
なん で だよ !! ツッコミどころしかねぇよ!!
百歩譲って王が人間でもいい! だったら王妃は自国民から選べ! 異世界人を召喚すんじゃねぇ!
千歩譲って召喚してもいい! せめてターゲットにならないヤツを召喚しろ!!
召喚された瞬間から、ゾンビ達はわたしに這い寄ってきた。
イケメンが「彼らは臣下だ」っていうから意思疎通が取れるのかと思ったら。
ぜんっぜん、まったく! 話通じない! 近寄らないでって言っても止まらないし! 噛もうとするし! 100%感染させる意図しか感じない!!
あろうことかこのイケメン、ゾンビ達を信頼しきってるときた!
わたしが何から逃げ回ってると思ってんだ! 接近禁止令出してもお前の命令誰も聞かねーじゃねーか! なのにお前に冷たくすると凶暴性増すんだよこいつら! 腐っても国民か! ……比喩表現が役立たず!
棒倒し競技のように、じわじわとわたし目掛けて登り詰めてくる国民達。
あああぁ、どんどん増えてるうぅ……これもう城下町からも集まってるやつぅぅ……
わたしの涙腺は崩壊した。
「涙する姿も美しい……貴方ような美しい女性はこの世に存在しません」
「それはそうでしょうけど」
女として、いや、人としてゾンビより醜いとは思いたくない。
「国母となってともに国の未来を支えてくれませんか」
「国母の前に国民になる未来しか見えません」
おねがいだから嫁より先に救世主召喚してくれ。
ホラーに落とし込むなら、“ 多分 召喚は 初めてじゃない ”
ご高覧ありがとうございました。