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夕日の沈む足下で  作者: 久保ゆう
7/12

友達ではない?

僕は人生で一番驚いた、と思う。

口をポカンと開けて、突っ立っていた。


「知り合いなの?」


滝谷さんは不思議そうに兄さんと僕を交互に見て言った。

しばらくして兄さんは口を開く。


「俺の、弟だよ」


兄さんは僕とは違って平然としていた。

驚いた様子もなく、ただただ普通の顔をしていた。

僕が弟だと知った瞬間、滝谷さんは信じられないような顔をした。

目を見開いて、僕の顔を見ていた。


兄さんと似ても似つかないような僕のことを、どう思ったんだろう。


馬鹿にしてるかな。全然似てないって、心の中で思ってるのかな。

胸が痛かった。

人生で一番、胸が痛かった。


「なんで兄さんがここにいるんだよ」


声が震えた、上手く声が出せない。

僕はずっと、拳を握っていた。

二人はどんな関係なのか、気になった。

もしかして本当に付き合ってるのかな。そうなったら、僕は滝谷さんに嘘をつかれたことになる。

彼女は僕に、兄さんとは付き合っていないと言ったんだ。あの日、昼休みの廊下で。


「春奈のお姉さんが、俺の職場仲間なんだ。前に話しただろ?去年、春奈のこと助けたって。

それ聞いたら、お礼するって言うから、夕飯食べに来たんだ」


つじつまがあう。僕は少しだけホッとした。

そっか、同期の人目当てか。てっきり滝谷さん目当てで来たのかと思った。

あ、でも滝谷さんは兄さんのことが好きかもしれないんだった。


「えっと、相手は冬樹だったんだ?」


「うん。あはは、兄弟だったんだ。びっくりしちゃった・・・・・・」


「弟がいることしか言ってないもんな」


二人は、お似合いだった。

滝谷さんは綺麗で色っぽいし、兄さんはそこらの人より以上に顔が整っている。

うらやましいと、思ってしまった。二人にだ。

なんで僕が今ここにいるんだろう。邪魔者じゃん。

握りしめていた拳を緩めた。


「僕、帰る」


足を動かして家に向かった。


そのとき、「待って。よかったら一緒に食べようよ」と彼女に誘われたけど、僕は断ってすぐ家に帰った。その場にいることが苦痛でしかなかった。


滝谷さんに、比べられただろうな。


家に帰ったら風呂に入って、何も食べずにそのまま寝た。

祭でも食べたし、十分だった。





その頃、滝谷家では__。


「ごめんなさい、お姉ちゃん酔いやすいの」


お酒を飲んでいた姉は酔いつぶれてソファに寝転がっていた。


「そうなんだな」


裕樹は、机の上に置いてあるぬいぐるみに目をつけた。


「そのぬいぐるみ、どうしたの?」


「お祭りで渡辺君がとってくれたの」


「へえ、あの冬樹が」


裕樹は耳を疑った。内向的な冬樹がお祭りに参加するのは珍しいからだ。

春奈はその様子に少し戸惑っていた。


「昔から、大人しかったの?」


「ううん、中学までは友達もいたしよく外で遊んでいたよ」


「そ、そうだったんだ」


慌てて下を向く。裕樹は勘づいた。


「冬樹から何か聞いてるでしょ。俺のこと」


「少しだけ」


「そっか。全部、俺のせいなんだよな」


裕樹ははき出すように話し始める。


「俺が目立つから、あいつは劣等感持っちゃって。俺は冬樹の気持ちを理解してあげたいけど、うわべだけで」


春奈は「誰だって、比べられるのは嫌よ」と、まるで経験があるかのように呟いた。


「私、冬樹君のこと好きよ。最近はよく話してくれるし、素直な一面も見れるし、楽しい」


今までの思い出を思い出すようにそう言う春奈を見て、裕樹は残念そうな顔をした。


「それは恋愛?」


「え? うーん、わかんない」


困ったような顔をして、笑って誤魔化す。

春奈は自分の気持ちがよくわからなかった。

裕樹は意地悪なことを言ったなと反省し、「ははっ、友達としてだろ?」と訂正。

そして春奈の頬に触れた。


「俺のこと、まだ好き?」


春奈は、裕樹に恋をしている。去年助けてもらったあの時からずっと好きだ。

それからは積極的に話しかけていた。だから返答に迷いはなかったのだ。

それでも少し間を開けてから答えた。


「うん、好き」


微妙な答えだったことに本人は気付いていたけれど、裕樹は気付かなかった。


「俺と付き合わない?」


だから、そんな言葉を普通に言えた。はずかしめもなく、ただ真面目に真っ直ぐな目で。





八月の中旬に入った頃、冬樹は図書館に通っていた。

冷房の効いている二階の自習室で一通り課題を終わらせた後、一階に下がり本棚を見ていた。

これといって読みたい本もないから、ゆっくり歩いては足を止めてパラパラと本をめくり、本棚の元あった場所に戻す。それをずっと繰り返していた。


おかしい。

いつもなんでも読む僕が、パラパラ見るだけで済ましている。

思えばあの夏祭りの日以来からだ。滝谷さんのことが気になっている。

本を読みたくても集中できない。課題をやっているときもチラチラと彼女の顔が頭にチラついていた。

おかしくなってしまったのだろうか。

兄さんと僕が兄弟だと知った後に、僕の顔をジッと見つめる彼女の顔が忘れられない。

あの時、滝谷さんは何を思ったんだろう。それが気になるんだ。

次会うのは、八月三十一日の一八時。花火大会の日だ。それでまで会うことは特にない。

連絡先も知ってるしそこで彼女に聞くことはできるけど、なんだか怖じ気づいてしまって何も聞けない。

あの日から話すのは気まずいが、彼女はなんとも思ってないのだろう。

緊張するようなこともなくいつもと同じようにくだらない世間話をしている。

今日の夕飯の話だったり、友達とスイーツを食べに行ったとか、そういういつもと同じような話。

でもそっちのほうが僕は楽だった。滝谷さんと普通に話していたかったからだ。

僕は密かに、彼女と話すのをいつも楽しみにしていた。今までそんな友達いなかったからだ。

夏祭りの次の日、兄さんはお昼ぐらいに普通に家に帰ってきた。「今日は休みだけど、また後で出かける」と言ってすぐ外に出た。人気者は違うな、どうせ友達と遊びに行くんだろうなって考えていた。

だけどそんなことより、滝谷さんの家で一泊してきたことが気にくわなかった。

やっぱり僕もあの時一緒に夕飯をご馳走になるべきだったかと思ったが、情緒不安定だったから後悔はしなかった。一泊するとき、滝谷さんと何かしたのかなとか、部屋はどんな感じなのか気になった。聞きたいけど、僕がそんな事聞いたら、僕が滝谷さんを好きだと勘違いされるし、恥ずかしいし聞けない。滝谷さんにも兄さんにも、聞きたいことが聞けない。やっぱり僕は意気地無しだなと心底思わされる。

荷物を持って図書館を出ると、日向に当たる。まぶしすぎて目を細めた。

早く花火大会の日が訪れてほしかった。無性に彼女に会いたかった。

メールだけじゃ足りないんだ。電話だけじゃダメなんだ。直接顔が見たいんだ。


僕はこの気持ちが何か、まだ気づいていなかった。


花火大会の日はあっという間にやってきた。僕は浴衣に着替えて外に出た。

兄さんも、今日は花火大会に参加するらしいけど一緒には行かない。

待ち合わせ場所に行くと、滝谷さんはまだ来ていなかった。

また五分遅れてくるんだろうなと思うと、フッと小さな笑いがこみ上げた。

そして五分後、滝谷さんは来た。


「ごめんね、また待ったよね?」


「僕も今来たとこ」と、気を使った。誰かに気を遣うのは初めてかもしれない。


「珍しいこともあるんだね」


「まあね。早く場所とろう」


「いいところがあるの! 誰もいない静かな所だよ」


滝谷さんはいつものように僕の手をひいて歩き出す。


「人が多いから、気をつけてね?」


確かに、いつもより人が多い気がする。兄さんも仕事ないし、今日は仕事ない人が多いのかな。

家族や友達、恋人と時間を過ごす人が多いのかもしれない。

僕たちは、家族でも友達でも、ましてや恋人同士でもないけど。


?じゃあ一体なんだろう。


「ここだよ」


本当に誰もいなかった。周りは木々に囲まれていて、ベンチが一つポツンと寂しげにおいてある。


「私いつも家族とここに来るんだ~」


「僕に教えて良かったの?」


「うん。だって渡辺君人混み嫌いでしょ?」


胸がしめつけられた。僕の気持ちを考えてくれてたんだ。


「ありがとう」


素直に嬉しかった。


「ふふっ、まだ始まらないから座ってようよ」


「そうだな」


花火があがるまで話をしていた。


「今更だけど、浴衣似合うね?」


「かなり久しぶりに着たよ。それはどうも」


「私のために着てきてくれたの?」


「・・・・・・そうだな、そうかもしれない」


前着てこなかったとき残念な顔をされたから、僕はそれを気にしていたんだ。


「やけに素直だね。鳥肌がたったよ」


「失礼だな」


滝谷さんは「ふふっ」と笑った。それを見て、僕も口元だけ微笑んだ。


「聞きたいことがあるんだ」


勇気を出してみよう。あの時のこと聞かないと。


「珍しいね、何?」


「僕と裕樹兄さんが兄弟だって知って、どう思った?」


沈黙の時間が流れた。僕は彼女の顔を見なかった。

どんな顔をしているのか気になったけど、見てしまった誤魔化してしまう自信があったから。

そんなことしたら、もう一生聞けなくなってしまう。彼女の前では素直でいたかった。

彼女はやっと話し始めた。


「悪いこと、言ったなって反省しました」


いきなり敬語になったのは、僕に悪いことをした自覚があったからか。

でも反省されるようなことされたっけ。


「鉄砲の屋台で、私、裕樹さんに似てるって言ったでしょ?」



「渡辺君前に、お兄さんと比べられるのが嫌だって言ってたから。気にしたかなって」


僕は唖然とした。そんなことを考えていたのか。

てっきり全然似てないとか思われたのかと思ったのに、僕の妄想か。


「もし気にしていたら、本当にごめんなさい」


僕は彼女の目を見た。反省している目だった。それは人目でわかった。

なんだ、そんなことかと拍子抜けした。


「気にしてないよ。僕のほうこそ謝らないといけない。夕飯に誘ってくれたのに素っ気なく断って帰ってしまったから、態度が悪かったよね」


「そんなことないよ! 気にしないもん」


僕たちは交互に謝って、仲直り?をした。

聞いて良かった。すっきりした。


「あとさ、もう一つ」


「何?」


「兄さんが一泊していったでしょ? だからその、お世話になったというか」


「あ、ああ、ううん。そんなこと・・・・・・」


目をそらした。もしかして兄さんと何かあったのかな。


「喧嘩でもしたの?」


「う、ううん。するわけないよ」


隠している、絶対何か隠している。


「教えてよ、別に何も驚かないから」


嘘をついた。ことによっては兄さんを拒絶してしまうかもしれない。

なんで拒絶するのかはわからんかったけど、なんとなく嫌な予感がした。

でもそれだけで言ってくれるとは思わなかったから、「僕も、何か教えるからさ」と気持ちを和ませた。


「・・・・・・実はね」


ドーン!と花火があがった。

でも花火の音なんかより、彼女の言った言葉に気をとられていた。


「裕樹さんと、付き合うことになった」


はっきりそう聞こえた。

僕は兄さんに、いろんなものをとられていく。

人と関わる時間も、僕が生きたいと思える時間も、誰かを好きと思えるこの気持ちも。

やっぱり兄さんが嫌いだ。

僕は「おめでとう」と言ってあげた。滝谷さんは「ありがとう」と言ったが、その時の嬉しそうな顔が目に焼きついてしまって、その後は無言が続いた。

黙って、花火を見ていた。


もしかしてあの夜、兄さんと滝谷さんは二人で寝ていたのかな。

だから兄さんは昼頃に帰ってきたのかもしれない。

気分が悪くなった。


「でも! 私あなたとまだ一緒に遊んでいたい。だめ?」


ずるいことを言う。きっと彼女にとって僕はただの知り合いなんだろうな。

だからそんなこと言えるんだよな。僕は、なんとも思われていないんだ。


「滝谷さんにとって、僕ってどんな存在?」


なんていうんだろう。


「どんなって、友達、だけど」


聞かなければよかった。


「・・・・・・僕は友達だなんて思ったことないよ」


滝谷さんは黙ってしまった。

僕は息をするのを忘れていた。途中、ハッと我に返り滝谷さんを見ると、悲しそうな顔をされた。

僕は頭の中が真っ白になって何も考えられなくなって、何も言わずにその場から走って逃げた。

気がつくと、もう花火は終わっていた。

この日から僕たちは連絡を交わすこともなくなってしまった。


僕たちの夏は、こうして終わった。


夏休みが終わって学校が始まる。少しだけ日差しは弱まったように思える。

それからは僕は昼休みを屋上で過ごしていた。


兄さんと滝谷さんが付き合っているという話しが全校中に広まって一躍話題になった。


渡辺裕樹が僕の兄だということは、滝谷さん以外誰も知らない。

好都合だったけど、気分は優れなかった。


そして月日が経ち、文化祭を迎えた。僕のクラスはコスプレ喫茶で、執事服を無理矢理着させられた。

僕には似合わないだろうと思ってたけど、ある女子が髪型変えてみたらと言い出した。


「いいよ、このままで」


「えー、絶対似合うよ?」


「いいってば」


最近、女子によく話しかけられる。なんでだろう、怖いな。


「春奈? どうしたの?」


「え? あ、ごめん」


「どこ見てるのよ。早く着替えないと始まっちゃうよ!」


今日は文化祭の予行日だった。明日は学校外から多くの人たちが来る。



「・・・・・・確かに、最近邪魔だなとは思ってきたけど」


「よし決まり!今日の放課後空いてるよね。私の家美容院だから、無料でやってあげるよ」


「お金は払うよ、でもありがとう」



「あの二人よく話してるな」


「彩花ね。美容のことになると真っ直ぐだからそのせいよ」


「なるほどな~」


男女に噂される。

僕は余り目立ちたくはないけど、兄さんと兄弟だとバレなければ大丈夫だということに気がついた。

成績も優秀になってきたし、運動はぼちぼちだけど普段運動するようになった。

性格も直していかないと逆に目立つよな。普通の距離で、普通に接しよう。


「そういえばどんな髪型がタイプなの?」


考えたこともない。

だけどそう言われて、ある人が僕の頭の中をよぎった。

滝谷さんだ。もう関わらないと決めたのに、どうしてこんな時に彼女のことを考えてしまうんだろう。


「しょ、ショートカット」


「え! 意外だね。私ショートカットだけど気になったりする?」


「全然」


この、白石彩花さんという女子は、滝谷さんに少しだけ似ていた。

ちょっとしつこいところ、自己主張をたまにするところ、誰にでも優しいところ。

ただ一つだけ違うところはある。

学校内で、みんながいる場所で、普通に僕に話しかけてくるところだ。

滝谷さんは昼休みの屋上でしか話しかけてくれなかったけど、白石さんはそんなこと気にしないようだ。

僕は少しだけ気が楽になっていた。白石さんと話していると、滝谷さんのことを考えなくて良いからだ。


「白石さん、運動部だもんね」


「バレー部ね、大変だよ。冬樹は部活入らないの?」



ゴンッ!


鈍い音がした。


「ちょ、春奈大丈夫?」


滝谷さんが教室のドアに頭をぶつけた音だった。


「う、うん。ボーッとしてて、あはは」


また何か隠している顔だ。嘘をつくのが得意じゃないのか。



「私も春奈みたいな顔がほしかったな~」


「・・・白石さんは、そのままでも可愛いよ」



ガチャンッ!


「うお、あっぶね!!」


「春奈ちゃん、体調悪い?」


「ご、ごめん!! 大丈夫だよ」



今度は、お皿を落としてしまいそうになったところを男子が助けたってところか。

さっきからどうしたんだろう、すごい慌てている。あんな顔を見たのは初めてだ。


こうして予行の文化祭が始まった。

僕のシフトは午後から入っていたから、一人でどっか行こうと思っていた。

その時、白石さんが声をかけてくれた。


「冬樹って彼女作る気ないの?」


「今のところは」


「お試しでも?」


「相手に失礼だし、僕自身も嫌だよ」


「好きな人いたこともないわけ?」


好きな人と聞いて、また滝谷さんの顔を思い浮かべたけどすぐ消し去った。

あれは、気になるってだけで好きでもない。人として好きだなと思っていただけだろう。


「ないよ」


「私が彼女になってあげようか!」


「冗談だろ」


「失礼ね」


話しやすかった。無愛想な僕に付き合ってくれる人は、滝谷さんと白石さんくらいだったから。


「うちのクラス行こうよ」


「ああ、うん」


僕は適当に返事をした。別に文化祭なんてどうでもよかったから。


「ねえ、なんで僕にかまうの」


この質問、滝谷さんにも吉穴。あの時は気になったからって言われたけど。

白石さんはなんでだろう。夏が終わってから急に近づいてきたけど。


「九月の初めくらいにね、私冬樹の悪口言ってたんだ~」


ずいぶん、はっきりと言う子だな。


「その時、春奈が急に言ったの」



「実際話してみると、全然違うよ? 何を考えているのかわからないし無愛想だけどね。

他の人とはちょっと違うところに惹かれるかもよ?」



「私はそれ聞いたとき、話しかけてみようと思ったの。さばさばしてるから、私友達あんまいないんだよね。冬樹も友達いないでしょ? だから、仲良くなってみようかなって」


「そんなこと、言ったんだ」


九月の初めってことは、花火大会過ぎたあたりか。

あの時何も言わずに家に帰ったから、僕のこと最低な人だと思っただろうに。


「いらっしゃいませーって、お前ら二人で回ってるの?」


「文句ある?」


「ありません! ごゆっくり~」


ニヤニヤしんがら手招きされる。


「ご主人様・・・・・・ って。二人だけ?」


みんな聞いてくる。適当に「そうだよ」と白石さんは答えていった。

けっこう人がいて繁盛していた。

午後はこんなに多くの人を相手に接客をするのか、嫌だな。


席に座って店員をよんだ。


「おまたせいたしまし、た」


滝谷さんだった。メイド服を着て、髪を一つに結わいている。

いつも髪を下ろしていたから、新鮮だった。


「オムレツ一つください。冬樹は?」


「じゃあ、同じの一つ」


話すの久しぶりすぎて、戸惑った。話すって言ってもこんな形でだけど。


「かしこまりました。少々お待ち下さい」



「春奈のメイド服姿かわいすぎる。あとで写真撮っておこ」


「あのさ、さっき言ってたけど僕たちは友達なの?」


「うん、違うの?」


そんなこと言われるのは二度目だ。でもはっきり言われたのは初めてでドキッとした。


「そっか、これ友達か」


「何子どもみたいなこと言ってるの。あははっ」


楽しそうに笑っていた。


「友達いないの?」


「・・・・・・友達なのかわからない」


それは本当だ。僕は本当に滝谷さんのことを友達だと思っていなかった。

別の感情があったからかな。友達だとは思わなかった。

ただの気になる同級生ってだけだ。


「じゃあ私が最初の友達? やった~」


一人で喜んでいる。まあでも、そうなるよな。


「そうだな」


はっきり言ってやると、白石さんは驚いていた。



「お待たせ致しました、オムレツです」


なんか僕のだけ酷くケチャップが多い、嫌がらせか?とか思ったら、文字がかいてある。



私がさいしょのともだちでしょ、バカ



僕は彼女を見た。久しぶりに目があった気がする。

べっと舌を出して、すねたように僕を見ていた。


「店員さん、おねがいしまーす」


「はーい!」


客の呼び出しと共に向こうに行ってしまった。


「・・・・・・」


僕は今顔が赤いだろうな。だって暑いんだもん。

なんだこれ、ずるくないか?さっきの顔。

すねてるところ、可愛いって一瞬思った。

僕はまだ滝谷春奈さんが気になってるのか。


「いただきます! ん、うまっ」


「うん、おいしい」


帰ったら久しぶりにメールでもしようかな。



そして午後になり、自分の仕事をした。

注文を聞くだけで汗をかいた。

少し経つと、滝谷さんと、いつも一緒にいる伊藤さんが来た。


「オムレツ二つください」


「かしこまりました」


オムレツが出される。ケチャップは僕がつけるのか、丁度良い。

文字を書いて、彼女たちに送った。


「わ-、おいしそう」


滝谷さんは文字を読んでいた。

そしてすごく嬉しそうな顔をして、僕に向かってニッコリ微笑んだ。

僕はその笑顔にキュンとした。


「何ニヤニヤしてるの?」


「ごほんっ!」


僕は咳払いをして誤魔化した。

彼女は「なんでもないよ」と言って、食べ始めた。


僕はオムレツにこう書いた。



はいはい



この四文字のみ。なんで嬉しそうに微笑まれたのかはよくわからなかったけど、あっちも久しぶりに話せて嬉しかったのかな。それとも、一番最初の友達っていうのが嬉しかったんだろうな。



僕は単純だ。

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