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夕日の沈む足下で  作者: 久保ゆう
6/12

芽吹く心

夏休みが近くなった。


いつものように昼休みに訪れていた屋上は、暑すぎて日陰でも我慢できない。だから行かない。

本当は誰もいない場所に行きたいけど、仕方なく教室で過ごすことにした。

丁度僕の席は誰も使っていなかったようだし。はあ、夏中は我慢だな。


「春奈の今日のお弁当は何かな~?」


「ちょっとー、食べちゃダメだからね。見るだけだよ」


「わかってるよ。そんなに食いしん坊じゃありませーん」


きゃっはは!


女子の笑い声が響く。イヤホンでも持ってくるべきだったな。

明日から持ってこう。


あの日から、滝谷さんは学校で僕に話しかけなくなった。

この時間、屋上にいるときだけ毎日のように話しかけられたけど、夏に入ってからはなくなった。

うんざりしていたところだから、ちょうどいいけど。


あー、今思い出すと恥ずかしいな。なんで俺、自分のこと色々話しちゃったんだろう。

聞いてほしかったわけでもないのに、俺って口軽いな。気をつけないと。


「滝谷って言いよな」


近くで固まっている男子が、滝谷さんの話をしていた。

僕は黙って聞いていた、ていうか聞こえてしまった。


「学年で一番可愛いよな、俺彼女にほしい」


「お前じゃ無理だよ。まずそのお腹どうにかしな」


「ああ!?」


滝谷さんって、やっぱり人気だけじゃないんだな。

確かに、あの綺麗な瞳を見たら目はそらせない。これは観覧車に乗ったときの体験談だ。

引き込まれるような淡い青色。


忘れられない、今でも脳裏に焼きついている。


「彼氏いるんだろうな」


「あー年上タイプ、面食いらしい」


「へえ」


年上のイケメンか、僕にとっては一人しか思い浮かばない。

兄さんだ。やめろ、やめろ。また気分が悪くなる。

確かに可愛くないわけではないけど、好きになるほどでもない。

なんて誰かに言ったら僕の人生は終わりそうだな。



「春奈どこ見てるの?」


「ん?ううん、なんでも。ボーッとしてたの」


「そう」


女子は、春奈が見ていた視線の先を見る。


「・・・・・・渡辺?」


女子は、嫌な顔をした。



「彼氏いるのかきいてこいよ」


「やだよ。こういうのは、人を使うんだ。なっ、渡辺!」



「?」



「頼むよ、滝谷に彼氏いるかどうか聞いてくれない?」


「一生のお願い」


もちろん断る。


「悪いけど他に頼んで」


なんで僕が聞かないといけないんだ、意気地無しだな。

それに使える時だけ使うのやめてほしい。僕は君らのものでもないし、

これを本人たちに面と向かって言えたらいいのにな、

虐められるのが怖くて、何も言えやしない、意気地無しは僕のほうか。


「まあ、そうなるよな。さんきゅ」


「放課後呼び出して聞いてみる」


「やめとけよ。先輩たちが狙ってるんだから、ぼこぼこにされるぞ」


学年をまたいでまでモテるのか。兄さんを見ているようで、イライラする。

顔を伏せて寝ていれば、何も聞こえないだろう。

僕は本を鞄に入れて、そのまま眠りに入ろうとした。

でも眠れなかった、落ち着かなかった。



「あれ、春奈って本読むの?」


「最近読み始めたんだ。読んでみる?」


「いいよ、寝ちゃうもん」


「あはは、確かに」


「ちょ!バカにしてるでしょ!」



あの二人はいつも楽しそうだ。

でお僕は少し不思議に思った。なんで人気者なのに、話す人は少ないんだろう。

大体、男子が話しかけているところしか知らない。女子とはそういうもんなのか。

それでも違和感があった。胸の奥がザワザワしていた。


「・・・・・・あ、あのさ」


僕はさっき声をかけてくれた男子に声をかけた。


「さっきの話、まだ有効?」


「全然有効!」


僕は彼らに条件を出した。

滝谷さんに彼氏がいるかいないかを確認するから、滝谷さんの友人関係について教えてくれと。

きっと、僕が彼女を好きだと勘違いされたと思う。だからあとでしっかり弁解しておかないと、


「今聞ける?」


「うん」


高校に入ってから、誰かに話しかけたのは初めてだ。これも彼女のせいだな。



「滝谷さん、ちょっといい?」


「はあ?なんであんたみたいなやつが」


「いいよ。大丈夫だよ、悪い人じゃないもん」


僕のことを良いように言ってくれる。


「廊下出れない?」


「うん、大丈夫」


二人は教室を出た。その様子をクラスのみんなは見逃さなかった。


「初めてだね、声かけてくるの。もしかして告白?」


冗談で言ったんだろうけど、僕は本気にしてしまった。


「ば、バカ。頼まれたから聞きに来たんだ」


「ふーん、珍しいね。それで?」


「彼氏いる?」


「へ?」


急に顔を赤らめて、視線をいろんな方向に向けて慌てふためいた。


「な、何言ってるの。それ本当に誰かから頼まれたの?」


「僕が自分からこんなこと思うわけないだろ」


「あ、あはは。そうだよね。うん、いないよ?」


「そうなんだ。それだけ、ありがとう」


彼女を廊下に残して教室に入ると、男子の視線が痛かった。

僕はあとで何をされrんだろうか、やっぱり聞かなければ良かった。


「どうだった?」


「いないって」


「おーよかった。じゃあ俺らも教えるよ、今日の放課後空いてる?」


「ん、今日は、空いてる」


丁度息抜きでもしようかと考えていた。それにどうしても気になった。



こうして昼休みは終わる。約束していた放課後を迎え、僕は男子と共に階段に座っていた。

やっぱり屋上に行く人はいないから、屋上に行くための階段には誰もいない。涼しかった。



「友人関係だよな。知ってると思うけど、いつも一緒にいる伊藤玲那って女が幼馴染み」


伊藤玲那か、初めて聞いた。クラスの人の名前は大体覚えていたはずだけど、人と関わらないからかな。


「あとは、可愛いから男子に人気でよく告白されている」


「でもそのせいで、女子に目をつけられてるんだ」


だから、いつもはあの二人なのか。滝谷さんと一緒にいると、他の女子に目をつけられるかもしれない、

とか思ってるんだろうな。女子の世界は面倒臭いな、男に生まれてよかった。


「あと噂されているのは、社会人と付き合ってるみたいだ」


「社会人?」


「うん、新卒だって。すげえイケメンなの!それでいてうちの高校の元生徒会長だった人」


僕は目を見開いた。瞬きを忘れていた。


「ハイスペックだよな。今でもよく話してるらしいから、付き合ってるんじゃないかって噂が出てる」


「でもそれより、滝谷の一方的な片思いじゃないかって噂のほうを信じてる」



「それ、って、名前わかる?」



「うん。渡辺裕樹先輩」



息ができなくなったように、過呼吸を覚えた。



「おい、大丈夫か?」


「・・・・・・その二人、いつから知り合いなの」


「去年だよ、去年の春」


去年の春は、兄さんが就職活動に必死だった頃だ。毎日のように家にいた。

僕も受験生だから部屋に籠もって勉強していたな。

もしかして、その時か。僕が勉強している間に、二人はどこかで会っていた。



「病院で会ったらしいよ」


「びょ、病院?」


「滝谷が体調悪すぎて、病院内で倒れたんだよ。その時に助けてもらってから」



そういえば胃腸炎だとかなんとか言っていたな。過剰なストレスが原因だって。

勉強のしすぎ、就職について考えすぎて病院に行って、出会った?

でも兄さんの頭ならどこにでもいけるから悩むことなんてないか。



「滝谷のこと好きだったんだな?」


「違うよ、ただ人気者がいつも少人数でいるからおかしいなと思っただけだ」


「まっ、いいんじゃね?俺達帰るね」


「ありがとう」


普通に話せてよかった。

でも、疑問が残る。直接兄さんに聞いてみるしかないか。


てかなんでこんなに気になるんだ。

滝谷さんが誰と仲が良くたって僕には関係ないじゃないか。

兄さんが絡んでるから、だよな。そう思いたい。



僕は帰った後、すぐに眠りについた。



ミーーン、ミーーン



蝉の声が、うっとおしい。

明日から夏休みだけど、学校行っても家にいてもさほど変わりはない。

僕は夏が嫌いだ。アイスを身体に被ったようにベトベトするからだ。

冷房をガンガンにつけて、費用を無駄にするのも嫌だ。あまり金を使いたくない。

うちは一軒家で、兄さんと二人暮らしだ。まあ、高校卒業したら一人暮らしの予定だけど。

そのためにあまりお金を使いたくないんだ。エコは環境にもいいっていうしな。

それに僕が生活できるのは、両親の財産と兄さんの収入のおかげなんだ。

僕が稼いでいるわけじゃない、そうだ、バイト始めようかな。季節限定なら良さそうだ。

夏は、無理だ。冬にしよう、僕は冬のほうが好きだ。

夏だとエコなんて言っていられない。冷房をつけないと身体が熱で溶けてしまうくらい大変だ。

明日からは、図書館にでも行って涼むか。


グダグダしながらも、学校に到着。


「あっつい」


ラッシュには引っかからなかったからよかった。今日はたまたま乗車数が少なかった。

ふう、と息をもらすと、後ろから誰かに背中を軽く押された。


「?なんだよ、お前か」


「お前じゃないですぅ。滝谷春奈だもん」


「はいはい。暑いんだよ、近づくな」


「ほんっと、けち。ね、連絡先交換しよう?」


「やだよ。夏休みに振り回すつもりか」


「そうだよ!」と元気な声だ。僕は暑すぎて、何も考えていなかった。

とりあえず早く教室に入って涼みたかった。


「はい、私の番号。登録しておいてね。どうせSNSはメールだけでしょ?」


「バカにしてんのか、MINEくらいやってる」


「垢交換!」


「いいよ」


「え?」


「すぐブロックできるし」


「やっぱり性格悪い!」


「なんとでも言え」



それにあの日から僕は兄さんに会えていない。僕が寝ている時に帰ってきて、職場に行ったりする。

だからこいつとの関係を聞き出せないでいる。


「期末テストどうだった?」


「いつも通り」


「学年一位かぁ、いいね」


「そっちこそ、いくつ」


「私二番だよ?」



「悪い、バカだとばかり思っていた」


「ひどーい、これでも勉強かなりしてるほうだよ。去年の春だって、勉強のしすぎで病院で倒れちゃった」


「!! 」


暑さで気がもうろうとしていても、その言葉には瞬時に反応した



「誰に運んでもらったの」


「知らない?これかなり有名な話よ?」


「いいから、誰」


「渡辺裕樹さん! もう本当にかっこいいんだぁ」


いきなり笑顔になった。僕と話しているときとは違う顔。

僕の前で初めて見せたその顔は、気を動転させた。


「髪切ってみたら?裕樹さんに似るかも?」


「興味ない」


「あら、そう?」


本当に、僕たちが血の繋がった兄弟だということは知らないんだな。

ていうかみんな信じない、当たり前だ。似ても似つかないからな。

性格も真反対で、外見も全く違う。でも逆にそれでよかった。

滝谷さんは、僕に気を使わないだろうから。



終業式はすぐに終わり、夏休みを迎えた。


彼女のアカウントは、はるなとひらがなで書かれている。

僕は最寄り駅に着くまで、ずっとそれを意味もなく見ていた。



家に帰ると、珍しく兄さんがいた。



「おかえり!話すの久しぶりだな」


「そうだね」


「どう?友達とか」


「いないよ」


「・・・・・・そっか」


「聞きたいことがあるんだけど、今いい?」


「うん」


水をコップに注いで、椅子に腰かける。


「滝谷春奈って子知ってるよね」


「な、なんで知ってるんだ?」


「有名だよ。去年の春に病院に行ったって聞いたけど、本当に胃腸炎?」


「うん。そりゃ本当だよ」


「その時に彼女に会ったのも?」


「そうだよ」


ということは、あの噂は本当だったのか。


「付き合ってるの?」


沈黙が続いた。僕は怪しいと思った、絶対何か隠している。


「付き合ってはないよ」


「じゃあ何?」


「関係ないよ。ほら、着替えなよ、暑いだろ」


話をそらされた。どういう関係なのか、聞きたいだけなのに。

誰にも言えない関係なのか?


滝谷さんの一方的な片思いにうんざりしているから、話を避けたとか?

でもその噂は回っている、つじつまならあうけど。果たしてどうだろう。


気になって気になって、仕方がなかった。

そんな時、彼女からメッセージが送られてきた。



やっほー、よろしくね


スタンプつきのメッセージ。


僕は、うん、と打ち返した。


うんってなーにー!


よろしくと言ってほしかったのか、怒っている。


返信は早かった。でもそれが嬉しいと思っている自分がいた。



僕たちは毎日話した。

くだらない話だ。課題のこと、気温のこと、授業のこと、本のこと、どこに出かけたか。

これといって深い意味もない話ばかりだけど、僕にとっては楽しかった。

そんな中、僕と話していない間に兄さんと連絡を取り合っているのかなと思うとむかついた。

なんの嫉妬だよ。


ある日、彼女から電話がかかってきた。少し間をおいてから出ると、鼓膜が破れそうなくらいの

大きな声が聞こえた。



「今日!!一七時!!神社!!」



プツ、と無理矢理きられる。本当に耳が痛かった。


「夏祭りか」


まあ、行ってもいいかな。


兄さんは仕事で帰ってこないし。


僕は服を着替えて外出する。



神社に着くと、沢山人がいた。

やっぱり来なければ良かった、蒸し暑い。




「ごめんね、待った?」



後ろから聞き慣れた声がして振り向くと、浴衣姿の滝谷さんがいた、



「なんで浴衣着てこないのよ」


「めんどくさいんだよ」


「ちぇー、まあいいや。行こう?」



いつもと違う彼女が、僕の手をひく。

いつもなら反抗したけど、今日は何故かしなかった。



お参りしてから、屋台を回った。


「あのぬいぐるみ可愛い」


「ふーん」


「とって?」


「え?」


俺こういうの苦手なんだよな。

それでもやってみた。


「勝負ね、いくよ!よーい、スタート!」


彼女は何故か競争し始めた。多分、ゲーム感覚なんだろうな。

僕は遊びでも競争はしないタイプだ。ていうか競争で虐めが深まったこともあったんだ。

嫌な思い出しかない。それなのに、滝谷さんといるとその嫌な思い出が上書きされていく。

競争と言われて思いつくのが、夏祭りの屋台で鉄砲の勝負をしたこと、になる日がくる。

未来のことを想像すると、少し楽しくなった。



滝谷春奈の、影響なんだな。



「あ~!! 全部外れた! 」


「ドンマイ姉ちゃん」



僕も本気になって、やってみようか


カチャッと構える



「渡辺く・・・・・・、! 」



三発撃った、三発中三発、全部当たった。



「す、すげえな」



「ふぅ、久しぶりに集中した。って、何?」



驚くように僕を見ていた。

ああ、僕が運動できないのを知っているからかいきなりでびっくりしたんだな。



「はいよ、ぬいぐるみとお菓子二つ!」



僕はそれを受け取ったら、お菓子だけポケットに閉まった。

そしてぬいぐるみは彼女にプレゼントした。



「ん、あげる。僕いらないから」


「あ、ありがと」



なんだか様子がおかしかった。



「どうかした?」


「あ、えっと・・・・・。かっこよかった、よ」


「え?」



僕は体中が暑くなった。心底、嬉しかったんだろうな。

でもその後の言葉で、僕は一気に熱が冷めた。



「裕樹さんに似てて、びっくりした」



一番、滝谷さんに言われたくなかった言葉だ。

僕たちのことを知らないとはいえ、あまりにも傷ついた。



「い、行こう!花火とかあるし」


「うん」



僕は胸が痛かった。

高台に行くと、花火がよく見えた。

でも花火なんて目に入ってこなかった、僕はずっと隣にいる滝谷さんを見ていた。

でも、良い気分ではなかった。



「もう遅いから、帰ろう」


「うん、来てくれてありがとね」


「ううん、丁度外に出たいと思ってたし。家どっち?」


「向こう」


僕と方面は一緒だった。


「送ってく」


「いいよ」


「いいから。行こう」


「・・・・・・うん」


滝谷さんは嬉しそうな顔をみせた。

僕は安心した。


「楽しかった」


「本当?」


「うん。夏休み中も話せてたし、退屈しのぎにはなったよ」


「ふふっ、なにそれ。褒めてるの?」


「最高の褒め言葉だろ」


「ありがとう」


よかった、いつも通り話せている。


「私の家、ここなの」



なんだ、俺の家と距離はさほど変わらないな



「あの、八月三一日に花火大会があるの」


「行く?」


「えっ?」


僕はいたって真面目だった。



「退屈しのぎ」


僕は照れくさくて顔をそらした。



「うん! 行く! 」



途端、ガチャッとドアが開く音が聞こえる。

僕は口をポカンと開けていた。



「あ、裕樹さん! 」



滝谷さんの家から出てきた陽とは、兄さんだったから




「え、ふ、冬樹?」




今一番会いたくない人に会った


それも嫌な場所から登場してきた

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