表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夕日の沈む足下で  作者: 久保ゆう
3/12

高校の入学式

一年F組


教室に入ると一人も生徒がいないから、僕は思ったよりも緊張しなかった。


僕の苗字は渡辺だから、一番最後の四十番か。



「良い景色だ・・・・・・」



頬杖をついて外を見ていた


一番後ろの窓側の席は、小中学生はみんなうらやましがっていた


俺はいつもそのうらやましい席に、一番最初に座っていた。



急に外の風が窓から入り、僕の髪がなびく。



僕はふと思った。このまま誰もこなければいいのに__。



そんな時誰かが教室に入ってきた。



「わぁ!見晴らしいい!」


「そうだね。春奈席どこ?」


「私は、あー!一番前・・・」


「教卓の目前って、寝ちゃダメだよ?」


「わかってるよ~」


残念気味に呟く女子。


僕は黙って、本を読んでいた。


「あの子・・・・・・」


「他のクラス見に行こうよ!内部生来てるって」


「あ!うん」


春奈と呼ばれた女子は一瞬僕のことを見ていたみたいだが、気にもされないだろうな。

僕は誰かとじゃれ合う気はない、ただ兄さんを超えることだけしか考えてないんだから。


時間は経ち、入学式がやってきた。

入学式が始まる前に、僕以外の生徒は立ち上がって友達を作っていた。

ある男子が僕に話しかけてきたけど、素っ気ない態度をとった。

それを気にしたのか舌打ちをして、別の男子グループに移る。


「あの人、コミュ障?」


「友達いなそう」


女子はすぐそう言う。

原因をつくっているのは俺だけど、わざわざ言うことでもないだろう。

でもそんなの慣れっ子だから、僕は気にせず本を読み自分の世界に入った。



入学式が終わると、教室に戻って鞄を持ってすぐに学校を出た。

僕が一番乗りだった。


桜が僕の肩に落ちる。



桜って長くは生きられないんだよな。

いいな、僕も桜になりたいよ。


はやくこの世界からいなくなれば、苦しむこともないのに。



「・・・・・・帰ろ」



家に帰ると、ビジネスバッグに荷物を詰めていた兄がいた。



「ごめんな、これから仕事入ってるんだ」


「いいよ。どうせ今日も会社泊まりでしょ?」


「ああ、悪い。それじゃあ行ってくる! 昼食作っといたぞ」


僕に手を振って、走って外に出る。


「忙しいなら、入学式なんて来るなよ」


僕はうんざりしていた。

母さんと父さんが生きていたら、兄は入学式に来なかっただろうに。


両親は交通事故で亡くなった、らしい。

僕は親の顔を知らない、本当に小さい頃に亡くなったみたいだから。


「ねえ。僕、このまま独りで生きて、独りで死んでくのかな」


誰もいない部屋で、誰かに聞いた。


「ははっ、なんて」


笑い気味に言ったが、心の奥では胸がしめつけられるような思いだった。



「未来なんて、なくていいよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ