高校の入学式
一年F組
教室に入ると一人も生徒がいないから、僕は思ったよりも緊張しなかった。
僕の苗字は渡辺だから、一番最後の四十番か。
「良い景色だ・・・・・・」
頬杖をついて外を見ていた
一番後ろの窓側の席は、小中学生はみんなうらやましがっていた
俺はいつもそのうらやましい席に、一番最初に座っていた。
急に外の風が窓から入り、僕の髪がなびく。
僕はふと思った。このまま誰もこなければいいのに__。
そんな時誰かが教室に入ってきた。
「わぁ!見晴らしいい!」
「そうだね。春奈席どこ?」
「私は、あー!一番前・・・」
「教卓の目前って、寝ちゃダメだよ?」
「わかってるよ~」
残念気味に呟く女子。
僕は黙って、本を読んでいた。
「あの子・・・・・・」
「他のクラス見に行こうよ!内部生来てるって」
「あ!うん」
春奈と呼ばれた女子は一瞬僕のことを見ていたみたいだが、気にもされないだろうな。
僕は誰かとじゃれ合う気はない、ただ兄さんを超えることだけしか考えてないんだから。
時間は経ち、入学式がやってきた。
入学式が始まる前に、僕以外の生徒は立ち上がって友達を作っていた。
ある男子が僕に話しかけてきたけど、素っ気ない態度をとった。
それを気にしたのか舌打ちをして、別の男子グループに移る。
「あの人、コミュ障?」
「友達いなそう」
女子はすぐそう言う。
原因をつくっているのは俺だけど、わざわざ言うことでもないだろう。
でもそんなの慣れっ子だから、僕は気にせず本を読み自分の世界に入った。
入学式が終わると、教室に戻って鞄を持ってすぐに学校を出た。
僕が一番乗りだった。
桜が僕の肩に落ちる。
桜って長くは生きられないんだよな。
いいな、僕も桜になりたいよ。
はやくこの世界からいなくなれば、苦しむこともないのに。
「・・・・・・帰ろ」
家に帰ると、ビジネスバッグに荷物を詰めていた兄がいた。
「ごめんな、これから仕事入ってるんだ」
「いいよ。どうせ今日も会社泊まりでしょ?」
「ああ、悪い。それじゃあ行ってくる! 昼食作っといたぞ」
僕に手を振って、走って外に出る。
「忙しいなら、入学式なんて来るなよ」
僕はうんざりしていた。
母さんと父さんが生きていたら、兄は入学式に来なかっただろうに。
両親は交通事故で亡くなった、らしい。
僕は親の顔を知らない、本当に小さい頃に亡くなったみたいだから。
「ねえ。僕、このまま独りで生きて、独りで死んでくのかな」
誰もいない部屋で、誰かに聞いた。
「ははっ、なんて」
笑い気味に言ったが、心の奥では胸がしめつけられるような思いだった。
「未来なんて、なくていいよ」