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夕日の沈む足下で  作者: 久保ゆう
2/12

僕と兄

「渡辺さん、入学おめでとう」


近所のおばさんが、わざわざ僕を出待ちして家の前にいた。


「ありがとうございます」


そうだ。


この春、僕は高校一年生になった。

桜は満開で、その日は快晴の良い天気。


だけど僕は外に出たくなかった。



「冬樹、母さんと父さんも喜んでるよ?」


スーツ姿で隣に立っているのは、兄の裕樹。

飾り気もなく、おしゃれしたわけでもないのに目立っていた。


「今日はいつにもましてかっこいいんじゃない?」


「裕樹君も大きくなったわ。有名な商社に就職したのよね、出来る子はすごいわ」


兄さんは気にするように時計を見た。


「冬樹、行こう。遅刻するからね」


僕たちはその場を去り、電車に乗った。



さっきおばさんは、俺と兄を比べるように言っていた。


兄は昔から出来る子だった。

テストはいつも満点で、成績はいつでもオール5。数学の全国模試は1位だ。

女子にモテる容姿で明るい性格だから、友達も多く人望が厚い。高校では生徒会長を務めていた。


対して僕は、昔から勉強も運動もそこそこでオール5なんてとったことない。

内向的でコミュニケーションを苦手とする僕は、友達なんて一人もつくったことがない。

いつも図書室に行って本を読んでいた。委員会は入らず、毎年余っていた鍵係に就任。


笑える。兄弟で反対なんだ、なにもかもね。

そんな僕は兄と比べられて、言葉や暴力による虐めを受けていた。

気にくわないなら放っておけないいのに。

精神的に胸が痛くて、辛かった。

その時に決心したんだ、兄よりも上をいく人間になるって。


「ついたよ!懐かしいな、俺の母校」


だから、僕は兄と同じ高校を選んだ。

勉強は大変だったけど、苦ではなかった。


「冬樹?」


「ああ、うん。よかったね」


「素っ気ないな。友達たくさんつくれよ?」


はにかんで言われたけど、僕は兄さんの目を見れなかった。

オーラが、あまりにも僕と違いすぎる。



「あの人かっこいいね」


「隣の子が弟さんかな」



近くを歩く僕と同じ新入生だ。やばい、気分が悪くなってきた。



「教室に行くから」


「うん。俺は先に体育館にでも行ってくるよ」



そして僕たちは別れた。

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