僕たちのクリスマス
僕たちは思いを互いに告げ合って、仲直りのようなものをして、何日か経った。
僕は風邪をひいてから三日間程度眠っていたらしい。
こんなに寝たのは初めてだ。
風邪が治ってからはちゃんと学校に登校した。
彩花は、僕のことをとても心配してくれていた。
休みの間も僕に連絡をくれていたから、感謝している。
授業はいつの間にか結構進んでいて、もうテストも近いから焦っていた。
欠席の分、テストで頑張らないといけない。
でも僕はその時、兄さんよりいい成績をとろう、ということは考えていなかった。
なんでだろう、今までそのために勉強頑張ってきたのに。
急に、どうでもよくなった。
僕と滝谷さんは、学校内でも少しずつ話すようになった。
昼休み、今日は彩花とではなく、滝谷さんと屋上で食べていた。
「あーあ、クリぼっちだ」
兄さんと別れていた滝谷さんは、そんなことをぶっきらぼうに言い出した。
僕は一つため息をついた。
「家族がいるんだ、ぼっちじゃない」
「そういう意味じゃなくてね?」
「僕、もう約束してる人いるから」
「また彩花?」
冷たい声だったから、驚いて彼女の顔を見る。
また、という言葉にびびった。
その意味は聞かずとも分かる。前にも同じようなことがあったから。
「ヤキモチ、妬いたね?」
僕は意地悪く言った。
すると頬を膨らませて、プイッと横を向いてしまった。
かわいいな、と思いながら少しだけ笑った。
意地悪したことに対して、僕は少し反省した。
だから、こんな提案をしたのだ。
「夜なら、空いてる。大体一六時くらいからどこか行く?」
滝谷さんはさっきとは逆に、喜んで「うん!」と答えた。
「どこに行こうかな~」とリズムにのって歌ってる。
そんなにクリぼっちから回避して用ができたのが嬉しいのか、それとも、僕と一緒がいいのか。
自意識過剰なことを思うのはやめるか。告白の返事だって聞いてない。
「ケーキ食べたい、イルミネーションも見て、ディナーも食べる!」
「どんだけ食べるの。吐かないでよ?」
「大丈夫だよ」
クリスマスが楽しみだった。
そして当日、滝谷さんとは十六時に駅前で待ち合わせ。
それまでは彩花と遊んでいた。
「よしっ、じゃあ行こ!」
どこに向かうんだろうと、緊張していた。
ついたのは、水族館。
クリスマスのムードですごかった。
「かわいいね」
「うん」
僕はこういう生き物が好きだった。
特にクラゲとか、かわいい。もわもわしてて、見入ってしまう。
触ってみたいけど、怖くて触れない。
水族館の後は、雑貨屋をまわった。
ネックレスやアクセサリーを見ていた。
女子はこういうのが好きなのか。
「これ、渡された人、絶対喜ぶ」
目をキラキラさせて彩花が見ていたのは、ハートのネックレス。
「誰でも、嬉しい?」
「もちろん。好きな人から渡されたいよ」
目を少し細くして、うらやましそうに想像している。
僕は、そなんだなと思うだけ。
ジッと、そのネックレスを眺めていた。
そしてあっという間に時間は訪れて、約束の時間に迫ったから、お別れした。
「楽しかった。ありがとう」
本心だった。クリスマスに誰かと遊ぶことはなかったから。
彩花は笑って、そのまま帰って行った。
僕はスマホを取り出して、滝谷さんに連絡をした。
「少し遅れる」
そして僕は一〇分遅れてきた。
滝谷さんは、十六時には来ていたという、
「遅~い! 何してたのさ」
ミニスカートをはいていて少し寒そうだったけど、ブーツがあったかそうに見えた。
白のコートも、似合っていて可愛かった。
「なんでも。行こう」
「うん!」
僕たちはまずケーキを食べに、少しばかり電車に乗った。
「カップルが多いね」
みんなくっつきあってる。席に座っている大人は手を繋いでいる。
僕たちの目の前にいる、同じくらいの年かな。彼らも手を繋いだり、彼氏のほうは彼女を引き寄せていた。
「そうだね」
僕は目のやり場に迷って、ずっと滝谷さんを見ていた。
「は、恥ずかしいから、あまり見ないでほしいな~、なんて」
顔を真っ赤にして、目をそらして言われた。
「ご、ごめん」
周りにいた人達がクスクス笑って、「初々しいね」と言っているのが聞こえた。
僕は恥ずかしくなった。付き合っているわけでもないから緊張したり恥ずかしがるのは、違う。
それでも、ちょっと・・・・・・。
僕が何もしない人だと思われている。絶対、思われている。
目の前にいるカップルが、「草食男子?」と彼氏と話している。
イラッときてしまった。
なんでだろう、男は女よりも強くないといけないっていう倫理に囚われている。
僕は負けず嫌いだった。
「つ、次だね」
気まずそうにそう言った。今すぐこの箱から出たそうだった。
なら、大胆に行ったほうが、いいかもしれない。
僕は彼女の手をとった。
凄く驚いていた、俯いていた顔を上げて、僕を見ていた。
僕も彼女を見て、恥ずかしそうな顔をした。
「ちょっと、我慢」
僕はコソッと彼女の耳に囁いた。
初々しいなんて思わせない。僕たちは、ずっと一緒にいたんだ。
ずっとって言ったら語弊があるけど。
どうしても、周りにそんなこと思われたくなかった。
目的の駅に着くと、僕は彼女と手を繋いだまま、僕から先に出た。
「わ、渡辺君・・・・・・」
僕の名前を呼ぶ彼女を無視して、改札口を出た。
少し慌てていたのか。
「ごめん」
「ううん。もうちょっと繋いでいよ?」
彼女は僕の手を握る。さっきよりも体温が伝わった。
そしてケーキを食べに、お店に入った。
「やっぱり人気なお店だけあるね」
おしゃれな風情。白をモチーフにしていた。
僕には似合わない。
「ここ初めて来るんだ~。ずっと来たかったの」
「女子って、こういう場所好きそうだよね」
滝谷さんは、「何、その偏見」とジトッとした目で見てくる。
「インスタ映えとか。言ってるじゃん」
「私は、あんまり興味わかないな~」
「へぇ、そんな風に見えないけど」
僕は頬杖をついた。
こういう食べる場で頬杖をつくのもどうかと思うけど。
「ほんとだよ? でもプリは撮る! あとで沢山撮ろうね」
「・・・・・・まあ、いいけど」
頼んでいたケーキがきた。
クリスマスと言ったら、やっぱり生クリームで囲んだいちごケーキだ。
僕はこれが大好物だったから、食べたときほっぺが落ちたように幸せになった。
滝谷さんもすごく満たされたような顔をしていた。
いとんな話しをしながら食べていたら、あっという間に食べ終わった。
「甘い物は食べ過ぎると気持ちが悪くなっちゃうもんね」
確かに、そうだ。ほどほどにしよう。
「ご馳走様! よし、次いこ! 案内してね?」
「ご馳走様。もちろん」
外に出ると、もう暗かった。
僕たちは手を繋いで、イルミネーションを見に、ゆっくり歩いた。
寒かったから、彼女の体温を感じられて嬉しいというか、ほっこりするというか。
もう寒さなんて忘れそうだった。
イルミネーションの場所は、僕が探していた。
ちょうど、この近くに言いスポットがある。
「ここだよ」
「! ここ・・・・・・」
驚くように僕を見る。
昔来たことがあったかな。
「ふふっ、ロマンチックな場所選ぶのね」
嫌に屋しながら僕の顔をのぞいてくる。
何を言っているのかわからなかった。
すると、周りにいた子どもが、ジンクスの話しを出した。
「ここのジンクス知ってる?」
「そりゃね。キスしたら結ばれるんだろ?」
僕は途端、頭が沸騰して爆発したような気分になった。
き、き、き、キスしたら、む、結ばれる?
初めて聞いたぞ、そんなの。
「バカ」
滝谷さんは舌をベッと出す。
「い、いや、待ってよ。し、知らなかったんだ・・・・・・」
恥ずかしくて、彼女と繋いでいた手を緩めた。
すると、彼女は僕の腕にしがみついてきた。
「こっちのほうがいいかも」
顔が見えなかったけど、気分が良さそうなのはわかった。
僕たちは近くのベンチに座った。
そこでも滝谷さんは僕の腕に軽く触れていた。
距離がもっと近くなった気がして、緊張した。
香水は、遣ってるのかな。良いにおいがする。
「渡辺君、お願いがあるんだけど」
「無茶なこと言うなよ?」
「私そんな怪しくないよ!」と怒鳴られる。でも彼女はクスクス笑った。
どんなお願いだろう。
ドキドキした。
「私のこと、名前で呼んで?」
彩花と同じことを言う。
「・・・・・・名前、なんだっけ」
「ひどい! いつも遊んでた仲なのに!」
「ははっ、冗談」と僕は少し意地悪してやった。
もちろん、知ってる。ずっと呼びたいなとは心のどこかで思っていたから。
「じゃあ僕のお願いも聞いて」
彼女は不思議そうに首をかしげた。そして「エッチなことは駄目ね」といった。
僕は首を横に振った。そして彼女のいるほうと反対側のポケットに手を突っ込んだ。
滝谷さんは僕の腕から離れた。
「目、つぶってよ」
静花に、言うことを聞いて、目をつぶる。
ああ、キスしてしまいそうだ。
もうあたりは真っ暗だった。
もうすぐイルミネーションが僕たちを灯すだろう。
僕は、彼女の首に手をまわした。
その時、ツリーが光った。イルミネーションが始まったんだ。
僕は、「目を開けて」と指示をする。彼女がゆっくり目を開けると、ツリーに目を回す。
イルミネーションの綺麗な光が彼女の瞳に映っていた。
星のように、輝いていて、とても愛おしい。
滝谷さんは何かに気がついたのか、首元に手を触れる。
ハッとして、驚いて、その輝いた目を僕に向けた。
「これ・・・・・・」
「メリークリスマス、春奈」
僕はきっと、本当の笑顔を彼女に向けられたと思う。
僕は彼女のおでこに、自分のおでこを軽くよせて、目をつぶって言った。
「そのネックレス、ずっとつけてて。これが僕のお願い」
誰よりも愛おしい君へ送る、僕からの初めてのプレゼント。
出会ってから今までいろんなことがあった。まだ1年も経ってないけど。
これからもずっと一緒にいたいという、僕の気持ち。
言わなくても、伝わりますように。
春奈の目には涙がたまっていた。
イルミネーションの光と、涙がマッチして、すごく美しい。
「ありがとう」
最高の笑顔だった。
僕たちのクリスマスはこうして終わる、なんて思っていたけど、彼女にはまだやりたいことがあったらしい。そうだ、写真を撮ること。
「実はね、私も同じの買ってたの」
男子用の、少し青のかかったハートのネックレス。
僕も泣きそうになった。
春奈は「目、つぶって?」と言い、僕はいうとおりに目をつぶる。
「ま、まだだよ?」
上手くつけられないのか、戸惑っている。
僕が「自分でやるよ」と言うと、「それじゃあ意味ないよ」と拒まれる。
確かにそうだ。彼女につけてもらうから、意味があるんだ。
しばらく経っても、僕の目を開けさせてもらえなかった。
どうしたんだろう、と思ったけど黙っていた。
「ふ、冬樹」
突然、僕の名前を呼ばれた。春奈が僕の名前を呼んでくれた。
それは緊張しているのが、見なくても分かった。
気になって僕は目を開けようとしたが、やめて、彼女の声を聞いていた。
「私ね、ずっと冬樹って呼びたかった。でもずっと渡辺君と滝谷さん、だったから、なんだか寂しくて。
他の人が普通に冬樹って言ってるの聞いて・・・・・・ 独り占め、したかったんだと思う。
ううん、独り占めしたかったの。ずっと、ずっと。
二人で映画を見たとき、冬樹、私にキスをしたでしょう?
私ね、本当は、嬉しかった、嬉しかったはずなのに、駅でビンタしちゃって。
たぶん、あの場所でキスされたのが嫌だったのかな。
周りのムードにのっただけで、何の意味もないキスだって思ってたからかな。
わがままだね、あはは・・・・・・」
笑っていたけど、すぐにかき消されるような笑い方で、辛そうだった。
「私、裕樹と付き合ってたけど、しっくりこなかったんだ。
だからね、きっと冬樹に初めて会った日、入学式の日から好きだったんだと思う。
私は、冬樹に一目惚れしたの。好きなの、大好きな・・・・・・の」
僕は、目をつぶったまま顔を前に出して、顔女にキスをした。
柔らかい部分に当たったから、当たっていた。
僕は春奈の口にキスをしている。
「もう目、開けていい?」
「・・・・・・だめだよ」
春奈は顔が真っ赤なんだろうな。
僕は勝手に開けた。
本当に真っ赤だった。りんごみたいだ。
「だめって言ったじゃん」
怒っているはずなのに、笑っていた。
僕は嬉しくなった。こんなに嬉しいことはない。
「僕と付き合って」
「うん」
またキスを交わした。
僕たちは、結ばれたんだ。
僕は誓った、これから絶対、春奈のことを悲しませないって。
こうして、僕たちのクリスマスは幕を閉じた。




