アリサ 3/2
アリサが京子を連れて、彫り師のじっちゃんの家に行った。
9月の熱い日の日曜日、彫り師のじっちゃんは、女性の身体に刺青をしていた。左肩にボタンの花が咲いている。
アリサは京子は、ショーは、1時間ぐらい、正座している。
化膿止めの薬を飲んだお姉さん。
「どう、アリサ。」
と、聞いた。
「ウン。綺麗。ボタンの花が。」
鏡を見るお姉さん。
「足。楽にしなさい。」
彫り師の孫娘が、ショーに言った。
「痛い。」
ショーに、アリサ、京子が、足を崩した。
「で、ショーが入れるのか?」
彫り師のじっちゃんが聞いた。
「私です。」
アリサとショーの間に居る女の子が言った。
フリル付きのスカートを来ている、京子。
この場にふさわしくない姿でいる。
京子が話をした。
ボタンのお姉さん。浴衣を羽織っている。
孫娘のお姉さん。背中に、桜と女の人がいる。彫り師のじっちゃんの背中には、龍が登っている。
弟子の男の人は、鷲を背負っている。
じっちゃんはあぐらをかいている。ふたりは、正座している。
聞いた、じっちゃん。
「で!あんたの親は?」
「金はあるのかい?」
黙った、京子。
「あんたの気持ちはわかった。」
「わしも、これで食っているンだ。」
「あんたの親の同意書とか言うのを、持ってきな。」
「変な事、なしだよ。」
お姉さんが言った。
「それと、ローンに学割なんかないから。」
京子をにらんだ、お姉さん。
数日後。
タクシーが、止まった。
彫り師の家に京子と、両親が入って来た。
玄関で、母親が口早に話はじめた。
玄関で聞いていた弟子、上がるように進めた。
女の人が、座布団を出した。襖は開けられている。
老人が、上裸で、座っている。
浴衣姿の女の人が、裸になって、布団に寝た。
いくつもの針筆で、彫る老人。
色をのせた。
背中に、虎が描かれている。
「よし。ここまでだ。」
薬を飲む、女の人。
浴衣を羽織って、麦茶を飲む。
1時間はたっていただろう。
京子が正座して座っているので、父親も母親も正座した。
終わった時は、足を崩なかった。足が痺れて苦しんでいた。
「どうだね。刺青を入れるのを見るのは?」
聞いた、じっちゃん。
孫娘が次の予約を取っている。
京子は見ているので、大丈夫だったが、父親と母親が、血の気をなくしていた。
それでも、母親は菓子箱をとり出して、じっちゃんにお願いをした。
孫娘が菓子箱を開けて、じっちゃんの前においた。
弟子がお茶を入れている。
昔ながらのしきたりで、お客を迎える刺青師。その堅苦しさに、困る京子の両親。
孫娘が、菓子を皿に置いて出した。
「お母さんの話は、わかった。」
言う、彫り師のじっちゃん。
「では。」
母親が乗り出した。
「しかし、これは、わしのすることではないな。」
「彫るのが、仕事でな。」
「学校もろくに出てなかった。」
「腕ひとつで、生きてきたんだ。」
「カネさえもらえば18の娘さんでも入れる。」
「わしが言うことでないだろう。」
笑うじっちゃん。
「それでは! 話が!!」
孫娘が畳を叩いた。
「入れる入れないは、京子さんの自由。」
「そして、刺青を入れた責任も、本人が背負っていく責任。」
にらみつける、客人のお姉さん。
悲鳴を上げるお母さん。
「やめなさい。」
言う、じっちゃん。
「素人相手にすることではないよ。」
「京子さん。お帰り。アリサんとこのコーヒー飲んで帰りな。」
「うめえぞ。」
と、追い出した。
京子に、菓子をいくつか渡して。
レストランインファントでは、タトゥーを見せながら、動き回っている女の人が、何人か働いていた。
そして、お客の中にも。
「アリサ!」
飛びつこうとする京子に。
「まて。マテ。待て。」
「えっ?なぜ?」
両手に、クラッシュアイスの山盛りのマグカップと、サイフォンコーヒーを持っている。
目の前まで上げた、アリサ。
それをテーブルに置いて、サイフォンコーヒーを注いだ。
音をたてて崩れる後の山。
「それを見ているカップル。」
「ごゆっくり。」
アリサが言う。
「ありがとう。アリサ。」
「ショー君は? アリサ。」
聞く、女の人。
「休み。ショーのお兄さんとお出かけ。」
そして、目を細める。
アリサ。参考書やパソコンを直して、テーブルを明けた。
そのテーブルに、アケミが案内した。
ケーキセットを注文した京子の家族。
アリサが持って来てくれた。
エプロンを外して、京子の横に座った。
「どうしたの?」
京子ママが怒っている。
「なんだ。そんなことか。」
水を入れたコップと、カウンターに置いている、茹でタマゴを持って、座り直した。
「なんだとは、なんですか!」
京子ママがアリサに。
アリサママも、スタッフも、笑っている。
「私ら。」
アケミがアリサに抱きついて、話をする。
「じっちゃん。って呼んでいるけど、よく、高級外国車が止まっているよ。」
「よく、出前持って行ったとき、お菓子くれたよ。」
イスを持って、アリサの横に座った。
アリサは、茹でタマゴの殻を剥いている。
「菓子箱の下に、きんいろのお菓子あったけど、食べられなかったね。」
「じっちゃんと、おじさん。笑っていたけどね。お姉ちゃん。」
「あの時、食べられるお菓子の方が、宝物でさ。」
「たくさん、いつも、もらったよね。」
笑う、アケミとアリサ。
「それって!」
「なに?」
笑うふたり。
「この子、じっちゃんに頼んで、入れてもらったの。15で。」
「お姉ちゃんも入れたのに!」
と、姉妹ゲンカを。
ふたりの後ろに立つ、お姉さん達。
手には、業務用の、柄の長いお玉が。
ゲンカしているふたりの頭を叩くお姉さん達。
「ハイ。」
みんなが笑っている。
「まあ、そんな人だから。」
「おばさん。じっちゃんに頼んだんだろう。」
「えっ! なにを?」
タトゥーを指したふたり。
「その反対です。」
京子ママが。
「京子に止めさせるように、説得してもらおうと。」
京子パパが。
「だったら;じっちゃんに頼むのは、間違いだろうね。」
アリサが言った。
「じゃあ、海渡さんが。」
京子ママが言った。
「私? ムリムリ。入れた人間が、やめろって。」
「アリサに言うこと、おかしいよ。」
笑う、アケミ。
黙っている、京子。
「他人に頼むことではないでしょう。」
アケミが。
「お父さん。お母さんが、説得することでしょう。」
アリサが、言った。
「京子の気持ち。京子の家族の気持ち。」
「京子パパ、ママが、京子を説得しないと。」
「なんで、他人の私達が言わないといけないの。」
アリサとアケミが笑った。
「で、言ったの? 入れたいって。」
「そしたら、パパもママも、猛反対で。」
「どうして?」
「決まっているでしょ。娘が刺青を入れたなんて、わかったら、なにを言われるか。」
「どんな教育をしているのか、って言われるし。」
京子パパとママが、アリサママを見て言った。
「なんだ。京子ちゃんのこと、思っていないんだ。」
アリサが。
「世間体を気にしているだけか。」
スタッフのお姉さん達が見ている。
「かわいそう。京子。」
「京子のこと、思ってないんだ。」
つぶやく、アケミ。
「クラスの人をあてにしちゃあダメよ。」
スタッフのお姉さんが言った。
「私、入れたい。」
「だから、私、身体、売る。」
パパとママは驚き、店内は、大爆笑になった。
アリサは、イスから転げ落ちて、床に顔をうずめて笑っている。
「ウ、ウン。アリサの友達。面白い。」
「アリサ、仕事に戻りな。」
お姉さん達が、アリサの両手を引っ張って立たせた。
「あ~。笑った。笑った。」
「ゆっくり、考えて。」
エプロンをして、仕事に戻った。
「あの子、死ぬね。」
スタッフのお姉さん達が話している。
「親も親だね。」
言うお姉さんも。
「なぜ、笑うの?」
「ひとりで出来ないからさ。」
と、話すお姉さん。
タバコに火を点けて、煙を京子に吹きかけた。
「私もやっていたからね。」
「手、付けたら、あんた、死ぬよ。」
お姉さんの身体から、冷たいものが出ている。
「あなたは?」
ツバを飲み込んで、言った。京子。
「私。ウンがよかっただけ。」
京子に左手を見せた。小指が無い。
「死ぬところを助けられたんだ、兄さん達に。」
「その人達の紹介で、ここにいるの。」
「病気になって、死ぬ人もいる。」
「京子さんだっけ。アリサから、話は聞いているよ。」
「でも、入れたら、消せないよ。」
「一生、後悔することになるよ。」
言う、お姉さん。
「アリサは?」
「その覚悟の上で、したんだから。」
立って、仕事に戻った。




