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氷のお侍さん

「これが異世界…」


仲間を集める為に異世界初の外出を試みた俺は、目の前に広がる景色に思わず見とれてしまった。


「では改めて、ようこそリルオンド王国へ!この国は世界有数の大国です、なにかお困りの際は私に言ってくださればご案内致します!」


「本当に異世界に来たんだな俺…」


風景は想像通りの中世ヨーロッパ風の大都会、ただ違うのは魔法関係。

投影されたスクリーンやら、目の前に見える魔法の輪っかが巻きついた謎のオブジェによって外見と内面の文明度合いが異なっている。

このジャンルの作者であれば、資料として写真を撮りまくるんだろうなと想像出来る。


「本当なら召喚した責任者としてショータさんをまず案内するのが筋なのですが、それは後で。今の時期を逃せばこんなチャンス来年までありませんからね」


「そうだな、まずは外堀から埋めていかないとな」


正直今すぐにでも大通りを駆け抜けてその先の景色を見たいものだが、下手に動いて変な事件に巻き込まれるのはごめんだ。

ただでさえ名目上は勇者扱いなんだから。


「それじゃあ、ここら辺にしましょうか」


謎のオブジェが存在感を放つ王城の目の前に位置する広場。

フィアナその広場の噴水を陣取って立て看板を設置した。

なになに…『一緒に働ける方を募集!笑顔溢れる楽しい職場です!』…………なんだこれ。


「そんな看板いつの間に作ったんだ」


「これはさっきそこにいた人に貰ってきたんです。丁度いいかなって思いまして」


フィアナの視線の先にいた女の子を連れてどっかに行く強面のお兄さん。

真昼間だと言うのに女の子をナンパしているのを見るに、そういう仕事だったんだろうな。


「うっし、それじゃあその看板使うのは気が引けるが始めるとしますか!」


「はい!沢山のいい人を見つけましょー!」



──



あれから3日経った。

規格外に大きい王城も、最初は興奮した広場も歩いている獣人も正直慣れてしまった。

そして何より


「3日目だと言うのに全然集まりませんね…」


成果は0人、ただただ無残に時間だけが過ぎていく。

人は沢山通るのに、興味を示す人が全然いない。


「なぁフィアナ、ずっと気になってたんだがお前本当に王女なのか?」


「失礼ですね、私はこう見えても立派な王家の血を引いてますよ」


「じゃあなんでその王女様に誰も寄ってこないんだ?」


「それは…あれ?何ででしょうか?」


…フィアナってもしかしたら人望無いのか?


「一旦やめるか」


「そうですね…考えてみればここにいる人は皆お祭りが目的でした。それなのにこの話に乗ってくれる筈もありませんでしたね」


「いや、別にそれはあんまり関係ないような。その場のノリで結婚する人だっているくらいだし」


そんな話をしつつ、立て看板を撤去して王城に戻ろうとする俺とフィアナ。

その時だった。


「お前ら!そこをどけ!」


1人の男が大きなカバンを抱えて逃げている。後ろには何か鎧をまとった人達が追いかけてくる。

どっちも正義には見えないが。状況判断的に悪人はカバン男だろうな。

異世界ってことも相まって驚きはしない。


「そこの女!早くどけ!」


「あらあら、慌てちゃって。そんな事じゃモテないわよ?」


「うるせえ!」


「仕方ないわね…」


男の目の前に現れた1人の美少女。

黒髪に和服を纏ったおおよそこの国の子とは思えない装い。

俺が知ってる和服と違うのがあるとすれば、服がちょっとファンタジーテイストになってる辺りだろうか。

そんな冷静な分析をしていると、その和服美人が腰に手をあてて構えた。


「天狼流参ノ型」


「おい!聞いてんのか餓鬼!」


「…『雪月花』」


それは一瞬の出来事だった。

周りの空気が冷え込んだと思った瞬間、次に目に付いたのは凍ったカバン男だった。

考えても何が起きてるのか理解ができない。


「何が起こったんだ…」


「魔法ですよ、武器を使った魔法です。

あの方は恐らく刀に冷気を纏わせるタイプの人ですね」


これが本格的な魔法…本物はこんなに凄いのか。


「それじゃ、あとは騎士団に任せるよ〜。私が用事あるのあっちだから」


男の身柄を引き渡すと、和服美人は俺達の方に振り向いた。


「ごめんね〜ちょっと騒がしくしちゃって。まだ魔王軍討伐パーティ募集してる?」


まさかの展開に俺とフィアナはお互いに目を合わせた後、全ての事柄を計算して自然と笑顔が溢れた。


「してます!してます!何なら私達はいつでもしてますよ!」


「なら良かった。話は聞いてたんだけど、辿り着くまでに時間がかかっちゃったから、賭けだったんだよね〜」


フィアナと違ってふわふわした感じのその少女。

あんな強力な魔法を使える仲間いるのは心強い!


「全然集まらなかったから助かるよ!俺は有明翔太、よろしく」


「私は神宮雪菜じんぐうゆきな、よろしくね」


神宮雪菜…この名前、まさかとは思っていたがもしかして!


「なぁ雪菜、ちょっと聞いてもいいか?」


「ん?何?」


「お前ってもしかして…日本から来たのか?」


「ニホン?どこかの国?私はカグラから来たんだけど。でもびっくりだよ、私と同じ系統の名前してる人にこんな所で会えるなんて」


全くびっくりした様子が伺えないが、どうやら日本出身じゃないらしい。

とはいえ、カグラという場所には多少なりとも日本文化が浸透してるようだ。

という事はもしかたら以前この世界に俺みたいに来たやつが居るって事か…後で調べてみるか。


「ショータさん、どうかしましたか?」


「いや、何でもない。それより折角仲間ができたんだ!パーっとやろうぜ!」


「お、いいですね!丁度お昼ですし、私おすすめのお店があるのでそこでご飯にしましょう!」


「決まりだな!雪菜もそれでいいか?」


「親睦を深めるのは大切だからね、着いていくよ」



──



フィアナの紹介で向かったレストラン『スペリア』

以外にもそんな高級店ではなく、日本で言うファミレスの位置づけだった。


「え?王女様ってそんな扱いなのか?」


雪菜から聞いた王女様、フィアナの客観的事情。


「うん、皆言ってるよ。王女様が普通に街を出歩いてるから『あ、また居る』程度の認識だって」


「そういう事でしたか、道理で普段フランクに話しかけてくれる訳です」


「こんなにボディガードも無しに出歩いてる王女様なんて世界中探してもフィアナちゃんくらいなものでしょ。ま、そのフランクさのおかげで私もここに辿り着けた訳だけどさ」


俺の疎外感は兎も角、女子2人組はすっかり仲良くなったようだ。

あ、この肉何だか知らないけど美味しい。


「そう言えば雪菜さんは何で協力しようと思ったんですか?自分で言うのも何ですが、3日も誰一人声をかけてこなかったのに」


「こっちにも色々と事情があるからね、王女様なら分かるでしょ?」


「…そう言うことですか、でしたらこちらも深く入り込む気はありません」


「そうしてくれると助かるよ」


急にシリアスな顔になったと思ったら、あのフィアナが人の気持ちを察して話を断ち切った。

気になる所はあるが、フィアナの発言もあり俺もこれ以上は踏み込めなかった。


「そういうフィアナちゃんは何で今になって魔王軍に抗う事にしたの?」


これはファインプレー、俺も気になってはいた。


「それでしたら簡単なことです。私は一人っ子なので、いずれはこの国の女王になるのが決まっています。しかし、私は抜けてる部分もありましてどうしても1人でできる気がしなくて…なので…」


「フィアナ…」


そんなシリアスな顔して、相当な悩みなんだな…。

恐らく抜けてる自分にも大きな何かアドバンテージが欲しかったと。


「なので、いっその事私発案で勇者に魔王軍を倒してもらって、そのまま勇者を国民皆さんに認めてもらって私と二人体制で王国を支えてもらおうと考えた訳です!」


正直殴ってやろうかとも思いましたよ、はい。

つまりフィアナは今こう言ったんだぞ?「私はドジっ子なので、後はショータさんがしっかり王様やってくれますよね?王様になるまではサポートしますから」と。

だが俺は理不尽な立場上フィアナに考えを改めさせる発言は控えたい。

俺が望んだ異世界生活はこんなじゃないんだけどな。



──



親睦を深めるはずが、俺の中でフィアナとの溝が広がった気もするがそこは言わない事にしよう。


「それじゃあ翔太君、フィアナちゃん、またね。何かあったら呼んでくれれば駆けつけるから」


「はい、こちらこそ雪菜さんには期待してます!」


「じゃあな、雪菜」


それぞれ別れを告げ、雪菜は自分の家に、俺とフィアナは王城へと帰路に着いた。


「あ、ショータさん、今日は私寄るところがあるので先に帰っていてください。

もしかしたら夜遅くなるかもしれないので」


「ん?ああ、分かった。気を付けろよ」


「はい、それでは」


やっぱり王女様ともなると色々大変なんだろうな。

ましてや人に頼る事前提のフィアナと来たらその努力は人一倍大変だろう。


「さてと、俺は帰るか」


王城に居候という普通に見たら羨ましい待遇だが、毎回「お帰りなさいませショータ様」と堅苦しく出迎える使用人達には慣れる気がしない。

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