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第1話:勇者爆誕…の筈だったのに

──もしも異世界に行けたら。

──もしもこの世界から解放されたら。

──もしも全てをやり直せたら。

そんな事を思ってはや半年。高校3年の2月現在、就職希望にも関わらず内定がひとつも貰えない地獄に面していた。

正直ベッドに突っ伏して、こんな事考えてる余裕がある程時間は残されてない。殆どの企業は募集をやめ、残されたのは言ってしまえば余り物だ。


「いっそ本当に異世界に飛べればいいのにな…」


そんな救われもしない現実逃避で、俺は吸い込まれるような眠気に身体を任せた。



──



見知らぬ天井、見知らぬ壁、そして体験した事が無いようなふかふかな感触のベッド。

目が覚めた時には既に五感のあちこちに家とは思えない感覚が伝わる。


「夢か」


眠りについて、目が覚めたら見知らぬ所にいた。大抵の人間は意識がハッキリしてれば夢だと答えるだろう。

かく言う凡人の俺も当然その結論に辿り着いている。


「あ、起きましたかショータさん!」


ただでさえどんな夢か整理出来ていないこの状況に更なる爆弾投下。

誰が望んだか、いや夢なら俺か。俺がいる謎の部屋に突如として現れた金髪美少女。


「挨拶が遅れて申し訳ありません。私はこのリルオンド王国第五王女、フィアナ・リルオンドと申します」


「ど、どうも」


「すみません。場所をあまり選んでいられなかったので、私の部屋に呼び出してしまって」


しっかりした挨拶に外国風の名前、あまつさえコスプレと言われたらそれまでのザ・異世界ファッション。

正直ここから先の受け入れは簡単だった。

なんたって異世界を夢見たのは俺なんだから。

折角の異世界夢だ、ここは全部乗ってやるさ、目が覚めるまで好き勝手やらせてもらう権利はある筈だ。


「フィアナだっけか?俺は有明ありあけ翔太、よろしく」


「はい!よろしくお願いします!」


俺が素直に自己紹介に踏み切ったおかげか、フィアナは嬉しそうに俺と握手を交わす。

因みに悲しい事に人生歴18年、フォークダンスを除けば今この瞬間が女の子と初めて手を繋いだ瞬間である。

さて、ここは異世界転生ものによくある展開で攻めてみようか。


「ところで俺を転生させたのは君か?」


「話が早くて助かります。やはり事前にご連絡差し上げたのは正解でしたね」


「やっぱり…ん?連絡?」


「はい、言語解析でショータさんの言葉に合わせたので拙い文章だったかもしれませんが…」


照れ臭そうに俯き気味に話すフィアナ。かわいい。

しかし連絡か、こっちではそんな設定になってるのか…でも、夢ならいつも大抵は非現実的でも脳内で辻褄合わせができてる筈。

ここはあえて乗らずに行くか。


「悪いがそんな連絡は貰ってないぞ?だって俺はついさっきまで就活に追われてる身だったんだから」


「え?いやいや、そんな筈は…ちょっと待っててくださいね!」


そう言うとフィアナは慌てた様子で部屋を飛び出して行った。

ガシャン!という危なげな音が聞こえたが大丈夫だろうか。


数分後、ジー〇ーもびっくりな真っ青な顔をして帰ってきたフィアナにさっきまでの元気は欠片も残っていなかった。


「フィアナ、大丈夫か?」


「どうでしょうか…正直お互い大丈夫じゃない可能性の方が高いですね」


ふらつくように手を伸ばして、俺の服を掴む。

フィアナから感じ取れる精一杯の対応。


「ショータさん…」


「ちょ、フィアナ?」


遂には泣き出す始末。

夢でよかった、こんな所他の人に見られたら人生引退宣言も発信する羽目になりかねない。



──



夢じゃありませんでした。

いや、夢じゃないだけならいい。だって叶わないと思っていた事が現実になったんだから。

それにオマケに俺を召喚した美少女付きときた。文字通り夢を形にした理想形態、これ以上の幸福はない。

問題は…


「人違いかぁ…」


「本当に申し訳ありませんでした…。まさか同姓同名の方がいらっしゃったとは知らずに」


「いや、そこは全然いいんだ。些細な事だ。気にしてるのは」


「魔王軍、ですよね」


フィアナの恐る恐ると言った質問に、俺は大人しく頷いた。

はぁ…よりによってこんなおまけ付きとはな。


「さっきの話だと、その魔王軍を潰す為には勇者の剣が必要。でも、勇者の剣には適任者が必要で、それは俺と同姓同名の別人、と」


黙って頷くフィアナ。その様子は見てて本当にいたたまれない。

そしてフィアナがこんなにも落ち込んでいるのには主に2つの条件が絡んでいる。


「勇者候補を見つけたと王様に大々的に告知してしまった事、そして俺はこの世界から元の世界には戻れないって事か…」


フィアナ曰く自分の父である国王に転生の件を伝えてしまい、国際会議にまでその話を持って行ってしまったらしい。

勿論そこまでであれば「いやまぁ異世界だし関係ないや」でしらを切る事だってできる。

ただ、もうこの世界から帰れないとなれば話は変わってくる。


「この世界で生きて行くためには、既に宣言済みの勇者として凡人の俺が戦っていくしか無いか」


「そうして頂けると幸いです、私も全力でサポートしますので…。

転生の書は向こう100年使えないので、元々のアリアケショータさんも呼べなくて」


という訳だ。

つまり俺はこれからフィアナのドジで勇者だなんだと崇め奉られながら、魔王軍と渡り合う凡人になる訳だ。

死ぬ自信しか無い。

とはいえここで生活する術が無い以上、王女様に匿ってもらえるこの状況は捨てたくない。

王女様ともあればきっと強いのだろう。協力してくれるのであれば、こちらとしても断る理由は無い。


「分かった、フィアナがサポートしてくれるなら俺も協力するよ」


「い、いいんですか?私のミスなのに…」


「まあな、改めてよろしく頼むよフィアナ」


「はい!」


フィアナの曇った顔が一気に光を取り戻す。

うんうん、可愛い子はやっぱり明るくなきゃな!



──



フィアナに連れられてやってきたのは、厳重に魔法陣が重ねられた部屋だった。

と言うかサラっと流したけど、何気にこれが初めて生で拝んだ魔法じゃないか?


「ショータさん、こちらが我々リルオンド王家に代々伝わる剣です」


「これが勇者の剣か、何だかんだテンション上がってきた!」


夢にまで見た本物の武器!意外とこの状況も悪くないかもしれない!


「それでもまだ未完成に近いんですけどね」


「あー、やっぱり俺には勇者としての…」


「違います!そうじゃなくて、その剣は"生ける剣"なんです」


「生ける剣…?」


「本来であればその剣そのものに魂が宿ってるはずなんですが、今は見当たらなくて」


「もしかして死んだのか?」


「その剣に関してはそれはありえません。恐らく何かしらの理由でさまよっているのかと。

資格者というのはその魂が選ぶので」


成程。人違いの俺には縁のない話だが、本物の勇者様ならその魂と共鳴して、莫大な力で魔王軍を殲滅出来る筈だった訳か。


「まぁ、俺の場合必要は無いからな。魔王軍倒す中で、もし見つかったら戻しておくよ」


「うっ…申し訳ありません…」


「もういいって、実力不足なら仲間で補えばいい」


「仲間ですか?」


「そう仲間、勇者パーティでも組んで魔王軍に挑めばいい。ギルドとかで募集してるだろ?」


「ギルド?」


「知らないのか?仲間を募集したり、クエストを受注して魔物を倒したりとか」


何気ない問い掛けだったのだが、フィアナは数秒考えた後また悩み始める無限ループに陥った。


「どうしたフィアナ?」


「いえ、ギルドという物が分からなくて…そちらの文化かと思いまして想像力を働かせていたのですが、私の脳内にその枠組みに該当する施設はありませんでした」


「マジか」


と言うか良く考えたら当然の事だった。

俺は異世界=ギルドがあるのは当然だと思ってたけど、これは現実。

そんな都合よくはいかないってことか。


「でも仲間を募集するのでしたら、今は丁度いいかもしれませんね」


「どういう事だ?」


フィアナは腰のポケットから4つ折りの紙を取り出して見せてくれた。

それはリルオンド王国のイベントについて記載された言わばビラだ。


「これは…お祭り?」


「はい、数日後に年に一度の王都の誕生を祝う誕生祭が行われるのです!その為に、各所からこの中心街に人が集まっているので、より多くの人を集めるのであれば最適かと!」


「お祭りか…確かにいいかもな、それで行こう!」


「はい!」


こうして紆余曲折を経て俺達の仲間探しが始まった。

まだ見ぬ仲間、そしてまだ見ぬ外の景色に胸を踊らせて外へと向かう。


「でもショータさんの仲間という案は非常にいい作戦ですね!私も魔法は見習いレベルにも満たないので、正直不安ではありましたから!」


「そうか見習いにも満たない…は?ちょっと待てどういう事だ?」


「いやー、お恥ずかしい事に魔法は苦手なもので」


苦笑いで軽く話すフィアナ。

あぁ、ダメかもしれない…いや、まだチャンスはある…かもしれない。

まだ見ぬ仲間、そしてまだ見ぬ外の景色に胸を踊らせつつも、一抹の不安を抱えて外へと向かった。


この選択が後々面倒事を数多く引き寄せるとも知らずに。


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