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キリカが会いにきました

 夜も深くなり僕は自室で今日あったことを日記に書き込んでいた。異世界に来てできた習慣の一つだ。書き終わった文字を流し見て、特におかしな文章が無いことを確認するとパタンと閉じる。


『今日も大変だった。魔王を倒したら静かな生活がおくれると思ったんだけどな』


『それはキリカと共にですか?』


『それは……正直わからない。僕が望んだとしてキリカは一緒になってくれるかどうか。それにキリカも僕と一緒になることを願ってくれたとしてもこの国が許さないだろうしね』


『すべてを捨てて僕と一緒になってくれないか、そう言うだけで万事上手くいくと思うんですけどね』


『そんな単純な話じゃないよ。それに今の僕を彼女が受け入れてくれるかどうか。それが一番の問題だと思う』


『人間は難しく考えすぎなんですよ。女神ラヴィオンとして助言します。愛の名のもとに全力でやりたいようにやりなさい。国もその他有象無象も関係なくアキトのやりたいように』


『失敗したらどうするのさ』


『その時は神の世界へあなたをいざないましょう。永遠ともいえる平穏な世界でくんずほぐれつ肉欲にまみれた怠惰な生活をするのです』


 愛の女神様がそれでいいのか。


 ラヴィオンに対して、諦めにも似た感情を抱いているところへノックの音が響く。


「アキト入るぞ」


「キリカか。こんな時間にどうしたんだ」


「あぁ……ちょっとな」


 普段ははきはきとした物言いをするキリカが珍しく言いよどんでいる。


「最近二人で話す時間があまりなかったじゃないか。だからたまには……な?」


 扉を後ろ手に閉めモジモジするキリカ。真っ直ぐに伸びた黒髪はしっとりとしており良い匂いがこちらまで漂ってくる。たぶん風呂上りなのだろう。その証拠に頬もほんのりと赤く。格好も水色の半袖ショートパンツのパジャマ。所々にフリルが縫い付けられており非常に可愛らしく、彼女の雰囲気とのギャップが素晴らしい。


 水色の布を押し上げる双丘に目を奪われ、まずいと思い目を逸らすとすらりとした輝くような足が目に入り眩しかった。


 なにこれ素晴らしい。


 部屋に入った彼女はベッドに座り、自身の右隣をポンポンと叩く。


「ほら、こっちに座ったらどうだ。そんなに遠くては話も出来んぞ」


 言われた通りに隣へ行くとキリカが満足そうに笑う。しかしすぐにその表情をひっこめこちらをうかがうような顔をつくる。


「アキト、あの、なんだ。最近どうだ?」


『なんですかその久々にあった娘にどう接したらいいかわからない父親みたいな切り出し方』


 ラヴィオンが突っ込みを入れると思わなくて吹き出しそうになってしまったが、なんとか顔面の筋肉で抑える。


「えっと、最近って言うか今日の話なんだが。なぜ闘技場に来てくれなかったんだ」


 キリカの対策を練ってました……だなんて言えるわけもないしな。どうしたものか。


「それとアキトは……アキトはどうするんだ」


 どうするとはどういう事なのだろうか。僕はキリカの質問の真意がわからず答えあぐねてしまう。

 先ほどから何も言わない僕を不審に思ったのか、小首を傾げながら見つめてくるキリカ。こうやって見るとキリカまつ毛長いな。


「アキト」


 僕を見つめながら少しずつ顔を近づけてくるキリカ……って近い近い近い!風呂上りのせいかシャンプーと彼女自身のあまい匂いが混じり合い僕の鼻孔をくすぐってくる。ぶっちゃけ良い匂いすぎてクラクラする。


「キ、キリカ近い、近すぎるよ」


 僕はキリカの顔を両手で抑え、距離をとろうとする。


「答えないアキトが悪いんだ。アキトはどうするのだ!」


 そんな僕の行動に対して、反抗するよう更に力強く顔を近づけてくる。


「どうするってなんなんだよ。わかるように言ってくれよ!」


「どうするとはどうするのかを聞いているのだ!」


 コミュニケーションしよう!?

 そして力をちょっと抜いてくれないかな。勇者と僧侶で力比べをした場合、僧侶が負けるに決まっているじゃないか。それに顔がどんどん近づいてこのまま、キ、キスをしてしまうんじゃ……


「待って……キリカ……うわっ」


 もう限界だった。顔を近づけてくるキリカに押し負け僕はベッドの上に倒れこむ。その上に押し倒すような形でキリカが覆いかぶさった。


「――アキト」


 キリカの癖ひとつない長い髪が黒い雨のように僕に降り注ぐ。まるでキリカに包み込まれるような錯覚をうけながら、真っ直ぐに見つめてくるキリカと視線を交わす。


「アキトはなぜ私に挑んでくれないんだ?」


「え?」


「アキトはなぜ私に挑んでくれないんだ!」


 挑んでくれないんだ?

 どういうことだ。挑むってキリカの夫を決める戦いの事だよな。え、挑んでくれって事は、キリカは僕と結婚したいってこと?いやいやいや、だってキリカが僕を。そんなそぶり今まで一度も……いや、一度もなかったのか。どうなんだ。思い出せない。


 混乱している僕の様子を理解したのか、しばらく僕の様子を見つめていたキリカは上半身をおこした。そして、そのまま立ち上がり部屋を出ていこうとする。


「アキト、あと十一ヶ月だ。私はいつでも待っている。手加減はしない。全力でかかってこい」


 ドアノブに手をかけて振り返ったキリカは決意を込めた目をしていた。僕は閉じられる扉の音で、彼女の真意を聞かねばならないことを思い出しベッドから跳ね起きる。


「待ってくれ!」


 扉を開けながら声をあげる。


「アキト様……」


 そこには突然扉が開いたせいかビックリした様子のターシャ様がいた……ネグリジェ姿で。お姫様は驚きの表情を恐ろしい速度でひっこめると、いろいろなものを含みまくったせいでドロドロしている笑顔で言った。


「夜這いにきましたわ!」


 そのまま部屋に押し込まれる。勇者との力比べの次はお姫様との力比べが始まるとかどうなってるのさ。とりあえず……


「サオリいいいい、助けてえええええええ」

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