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王都に着きました

 魔王を倒して一ヶ月。

 僕達はもうすぐアーガレスト王国の王都に着こうしている。馬車に乗せた魔王の死体は不思議なことに、この一ヶ月間まったく腐る気配をみせなかった。オニキス曰く、魔王の膨大な魔力が腐敗を防いでるらしい。


 現在、御者はエリカちゃんが行っており、それ以外の全員は馬車の中にいる。

 馬車は王様が用意した立派なもので、小さな道を通りやすいように小さく作られているものの、魔法によって内部の空間を広げてある。また、勇者パーティーや登録された者以外が馬車や馬に触ると電魔法によって自動で攻撃する機能もある高級品だ。

 この高性能な馬車のおかげで僕達は多くの物資を持って魔王討伐の旅に出ることができ、大柄な成人男性くらいの大きさの魔王や、これまで倒してきた魔物達の一部などを乗せてもまだまだ余裕がある。


「アキトはこの旅が終わったらどうするんだ?」


 キリカが唐突に投げかけた言葉に僕の胸は締め付けられたように痛んだ。


「……僕はまだ考えてない」

「そうか」


 搾り出すように出た僕の言葉を、彼女は短い言葉で切った。


「キリカはどうするの?」


 少し間をあけてから僕は質問を返した。


「キリカは俺と結婚するに決まっている。魔王を討伐した勇者が王族と婚姻を結ぶのは当然のことだからな。我が国は王子と姫が一人ずつ。だからキリカは私と結婚することになる」


 そんな僕らの会話を聞いていたのかオニキスが自信満々に割り込んできた。


「私はまだそんなことは……」


「俺と一緒になれば贅沢をさせてやる。それに他の者達の生活も保障しよう。お前たちはこの世界の人間ではない。そんな君達がこれから平和に暮らしていく為に王族が協力しようというのだ。何を不満に思うことがある?」


「不満はない。ただ私は――」


「姉さーん。王都から騎士団の皆さんが迎えに来たみたいですよー」


 何かを言いかけたキリカの言葉をエリカの声が遮った。魔王を討伐した際に王様に手紙を送ったのだが、その返事に勇者パーティーの帰還に合わせてパレードをすると書いてあった。つまり、今接近してきている騎士団は僕達の迎えと、パレード用に乗る馬車を持ってきたのだろう。


 馬車を出ると祭儀用の鎧に身を包んだ五十人ほどの騎士が整列していた。その中で他よりも少しだけ華美な装飾をつけた騎士が前にでる。


「勇者パーティーの皆さん、魔王討伐お疲れ様です。これから王都にて門よりパレードをおこない王都中央広場にて式典に参加していただきます。お手数ではございますが、こちらの馬車に乗り換えてもらえますでしょうか」


 僕達は指示に従い、パレード用の屋根が無い豪奢な馬車に乗った。馬車は三台あり、一台目にキリカとオニキス、二台目が僕とサオリとエリカ、三台目に魔王の死骸が磔にされている。

 この馬車の分け方を見て、この国がこれから何を望み、どうしたいかを嫌でも理解させられる。

 このパレードは魔王が討伐されて、世界が平和になったことを民衆に印象付ける意味もあるのだろう。しかし、それ以上に討伐を成した勇者が王子と一緒になり、これからも王国は安泰であることを示したいのだろう。この国の王族は今までそうやって自国の民にも周辺国にも一目置かれる存在でいたのだから。


 馬車を乗り換えた僕達は、騎士団の先導で王都の門まで来た。


「開門せよ!」


 華美な装飾をした騎士が声を上げると、大型モンスターですら受け止めることができる重厚な門がゆっくりと開かれる。


「わああああああああああ」


 爆発するような歓声。万の拍手。僕達を迎えたのは民衆による熱烈な歓迎。僕はあまりに大きな音の圧に思わず怯む。ちらりと横を見るとサオリやエリカちゃんも驚きを残した顔をしている。

 前を向く。こういう状況に慣れているのか、オニキスは平然とした顔をして手を振っている。横にいるキリカは一見驚いていないように見えるが、口元がひくついているから必死に驚いたことを隠しているんだろう。


 門から王城までの道を、僕達は手を振りながら運ばれていく。僕のぎこちない笑顔ですら向けられた民衆は喜び、世界を救ってくれてありがとうと叫ぶ。この光景を見るだけで、今まで戦ってきて良かったと思えた。


 僕達を乗せた馬車は王城と門のちょうど真ん中にある広場で止まる。そこには王都で式典を行う際に使われる舞台がある。平時は簡素な木組みだけが残る場所なのだが、今は一面に純白の布が敷かれ、数々の装飾が施されている。その舞台にはどう見てもお金がかかっている服を着た、おそらく貴族であろう者たちが並んでいる。僕達は馬車から降り舞台の前に並ぶ。


 舞台上で他よりも一層煌びやかな服を着た偉丈夫が前に出る。その瞬間民衆は声を潜め目線を下げる。貴族であろう者たちも次々に跪き、僕達もそれにならうように膝をついた。


「勇者達よ。よくぞ魔王を倒してくれた。みな楽にしてよい」


 偉丈夫が発した言葉を聞き、貴族は立ち上がり民衆は顔を上げる。僕達も立ち上がり舞台の上を見つめる。

 偉丈夫はこの国の王オリオス。つまりオニキスの父親にあたる。オニキスと同じ金髪、正直魔王討伐パーティーのメンバーだと言われたら信じてしまうであろうほど鍛え抜かれた体。意志が強そうな瞳は、この国を背負ってきた重さを感じさせる。


「今日から三日間魔王討伐を記念した祭りをおこなう。城から食料と酒を出そう。みなで喜びを分かち合い、おおいに飲め! そして勇者の伝説を歌い上げよ!」


 王の言葉で民衆が沸く。オリオス王はその声を笑顔で聞いていたがしばらくすると右手を上げる。その瞬間、場は再度の静寂に包まれる。


「その前に一つだけみなに伝えねばならないことがある。勇者キリカ、そして我が息子である聖騎士オニキスよ上がってくるのだ」


 キリカとオニキスが舞台に上がり、オリオス王の後方で僕達や民衆に向かって立つ。ちなみにだが神に選ばれた騎士であるオニキスは、国に仕える騎士との混同を避けるために聖騎士と呼ばれている。


「こたびの功績はあまりにも大きく、勇者たちの報酬はそれ相応のものを用意しようと思う」


 ついにきてしまった。足元から何かが抜けていくような感覚が僕を襲う。キリカの隣にいるオニキスが僕の方を見てニヤリと笑う。それはまるで僕に対して勝ち誇るようないやらしい笑顔だった。


「ハァ……」


 小さなため息が僕の口からこぼれる。舞台上の人には聞こえていないが、僕の両脇にいるサオリやエリカちゃんには聞こえたようで視線を感じる。

 しかし、そんな視線にかまっている余裕はなかった。僕は舞台上で平然と立つキリカを見つめる。僕達が元々いた世界よりも美形が多いこの世界においても、なお抜きんでた美貌。王子であるオニキスと並んでも見劣りしないどころか、とてもお似合いのように見える。


 魔王を倒した勇者は、王子様と結婚して幸せに暮らしましたとさ、おしまい――物語としてはこれほど綺麗な終わり方はないだろう。民衆もオリオス王の次に紡ぎだす言葉を察しているのか、期待に満ちた目で舞台上を見つめている。


 僕はこれでいいのだろうか。ふとそんな考えが僕の頭に浮かぶが、もうどうしようもない事だと首を振る。


「さよなら。僕の初恋……」


 小さな呟きはあまりにも小さすぎて、妹やエリカちゃんの耳にすら届かない。


「そこでだ!我は勇者に相応しい褒美を用意した。それは――」


 群衆が息を飲む。魔王討伐という偉業、そして自国の王子と勇者の婚約という歴史的瞬間に立ちえる興奮がたちこめる。そこに……


「待っていただきたい!!」


 凛とした声が響き渡る。その場にいるすべての人が声の主である勇者に目を向ける。


「言葉を遮ってしまい申し訳ありません王様。でも、この場を借りて皆に伝えねばならない事が私にはあります!」


 そう言ったキリカの目は決意に満ち溢れており、オリオス王に向けた目線を僕によこすと、オニキスとは違いいたずらっ子のようにニヤリと笑った。

 ああ、その表情は知ってるよ。見覚えのあるその笑顔は小さい頃から変わっていない、そしてそれを見た時いつもろくな目にあわない。僕の額から一筋の汗が零れ落ちた。

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