魔王を倒しました
仕事の合間に息抜きで書いたものです。
『お願いします……世界を救ってください……』
異世界に召喚された僕たちに、縋るようにそう言ったのはお姫様だった。
最初は渋っていた僕たちだったが、元の世界に帰る方法もなく、またそれを成すだけの力があることがわかり了承したのは召喚から一か月後の事だ。その半年後僕たちは魔王城に乗り込んだ。
「こんな最後は認めない!絶対に認めんぞ!!」
目の前で魔王が何か叫んでいるが、僕にはもう関係ない。青白く光る拳を振りかぶり顔面に叩きつける。
「グハッ……なぜだ……なぜ勇者ではなく僧侶である貴様に……!」
すこぶるどうでもいい。勇者じゃないと魔王を倒しちゃいけないなんて法律もないし、とうの勇者は今傷だらけで倒れている。
でも気持ちはわかる。魔王を倒すのは神に勇者としての使命を与えられた者の役目だ。僕はその勇者をサポートする役目を持つ僧侶なのだから。これがもし勇者と共に前衛で戦う戦士や騎士であれば魔王もこんな疑問を持たなかったのかもしれない。
そんな事を考えながら、僕は魔王の胸倉をつかんだまま何度も殴った。
しばらくすると魔王は動かなくなり、魔王城の玉座の間とも言うべき場所に僕達勇者パーティ以外生きてる者はいなくなった。
「アキト……終わったのか?」
後ろから声をかけられたので振り向くと勇者であるキリカちゃんが両側から仲間に支えられ立っていた。
キリカちゃんを一言で表すなら黒髪美人。本人はあまり好きではないらしい釣り目が周囲に少しキツイ印象を与えるも、顔だちはとても綺麗で整っており、今は鎧で隠れて見えないが、服を押し上げる二つの山脈はとても大きい。身長は僕より小さいとはいえ、女性にしては大きい身長。それなのに僕よりも長いんじゃないかと思われる足を持っている。
「ああ、終わった。僕達の勝ちだ!」
笑顔でそう伝えたら、キリカちゃんの目に涙が浮かんだ。彼女を支えていた魔導師のサオリ、戦士のエリカちゃんも泣き始める。
サオリは僕の妹だ。僕の見た目はあまり特徴もなく、まさに平凡という感じなのだが、サオリはとても愛らしい外見をしている。大きなアーモンド形の目、高い位置で二つに結んだ髪型は幼い印象が残る彼女にはとても似合っている。胸は……今後に期待しよう。
エリカちゃんはキリカちゃんの妹で、キリカちゃんと違って身長は小さくサオリとあまり変わらない。しかし胸はキリカちゃんをも上回り、いつも彼女と話していると顔と一緒に視界にはいる谷間が気になって仕方ない。髪型はキリカちゃんと違って肩あたりで切りそろえている。
「終わった……終わったんだ……」
異世界に召喚されて七ヶ月。多くの困難を僕達は乗り越えてきた。一つ一つが脳裏に浮かび消えていく。僕も彼女たちに感化されたのか涙をこぼす。
その様子を見て心配したのかキリカちゃんがフラフラとおぼつかない足取りで僕に近づいてきた。
「アキトは大丈夫なのか?最後魔王と殴りあってたみたいだが」
「大丈夫だよキリカちゃん。ちょっと力を使いすぎたのかボーっとするけど体は全然異常ないよ」
安心させるようにキリカちゃんの目を見ながらこたえると、彼女は僕の言葉に疑問をもったのかかわいらしく首をかしげる。
「キリカちゃん?あぁ、そういえば小さい頃そう呼ばれていたな。最近は呼び捨てでしか呼ばれてなかったからなんだか新鮮な気持ちになるな」
「え……あ、そうだね。頭がボーっとしてるからかな?間違えて昔の呼び方をしちゃったよ」
そう言うとキリカちゃん――ではなくキリカが僕の顔を両手で挟み込む。そのまま至近距離で見つめられるとなんだか無性に顔面が熱くなってくる。
「おい。終わったのだからさっさとここを離れるぞ。アキトは魔王の死体を担げ」
見つめあう僕達に声をかけたのは勇者パーティの中で唯一の現地人であり、神に騎士としての役割をあたえられたオニキスだった。オニキスはこの世界に召喚した国の王子でもあり、勇者パーティにはお目付け役としても同行していた。ようするに僕達が逃げないかどうか監視するのと、魔王を確実に倒したの確認をするためにいるのだ。
魔王に勝った余韻に浸っていた僕達は王子の一言を聞き、まだここが魔王城であることを思い出し急いで脱出した。
僕達を召喚したアーガレスト王国に向かう馬車で僕は御者をしながら思う。
僕達の旅は終わる。でも僕達の人生は終わらない。そしてどんなに愛していても僕はキリカと――――勇者である彼女とは一緒になれない。