9話
今まで俺たちが居た島は、
沈んでいる船であることがわかったが、
今はそんなこと関係ない。
船の下にタコがへばりつき、
足を伸ばして船に攻撃を加えていた。
船から出た時に、そのことに気づく。
そういえば初めて船で戦った時、
地面に穴を開けると赤い物が見えてたなぁ・・・。
あれがこのタコだったとして、
あの船の船員は、タコに襲われてたから気が立ってたのか?
「せりゃあ!」
とにかく殴ってみる。
しかし、このタコ、全長10mくらいある。
俺たちの攻撃が全く効かない。
ならば!
せい!
『ブクン』
あれ?
両腕から射撃したはずなんだが、弾が弱い。
泡は結構出てくるけど、弾はタコの分厚い皮膚に、殆どはじかれた。
「水中だから、ダメなのかな?」
<これは不利にも程があるぞ?
タコの腕に絡め取られる。
これは、非常にまずい。
<あれ?相手の攻撃も効かないみたいだな
「吸盤に刺が生えてるから、
それが刺さったらまずいけど、耐えれそうだね」
鎧の外から『キシ!キシ!』と、
刺を弾く音が聞こえる。
お互いに効果的なダメージを与えることができない。
逆に言えば、一撃与えることができれば、
それで勝つこともできるだろう。
「うまく攻撃する方法ないかな?」
ヨウエイも同じことを考えているようだ。
<水中から出て戦えば良いんじゃないか?
「そっか。でも水面まで結構あるね」
大体60mってくらいか?
<一度拘束を解いて、一気に水面まで向かうか
「わかった」
俺達は、腕を思いっきり広げて拘束を解いた。
パンチ力が6t程だから、
パワーは俄然、俺たちが有利だ。
自由になった体で、すぐさま水面まで向かう。
ええっと、20ノットって時速37km程度で、
つまり・・・60mは大体6秒か。
幸いあのタコは動きが鈍い。
やっと6秒が経って水面を出た。
よし、タコも着いて来ている。
<タイミングを合わせて、タコを踏み台に飛ぶぞ
「うん。わかった」
来た!
俺達はタコを踏み台にして30m程飛んだ。
タコも海から出てきたようで、
今が殴る最高のチャンスだ。
<「くらええええ!」
思いっきり殴る。
『ボスン』
あれ?
思ったより効いてない。
「なんで?」
俺とヨウエイはなぜパンチが効かないのかを考える。
まさか!?
スペックを確認したらこうなっていた。
『鎧inヨウエイ 12ゲージ弾装填 + 左手7/8 + 右手7/8
身長200cm
重さ500.8kg
パンチ力1.2t
キック力2.8t
100m8.7秒
ジャンプ力15m
ヨウエイと鎧が意思疎通可能である
ヨウエイと鎧の直感が統一化される
視力5.5
100m先にある物体の匂いを嗅ぐことが可能
12ゲージ弾
ダブルオーバック(9粒)
有効射程60m
危険射程120m
最大射程200m
弾薬を最適な状態に自動改造
発泡タイミングは鎧が決定権を持つ』
そっか!
さっきまでは水中専用だったが、
海を出たことで地上専用に戻ったのだ。
使い勝手の悪い・・・。
水中でのパンチ力は恐らく1t程度。
今も1t程度。
つまり、海の中で殴るのと大して差はないのだ。
<ヨウエイ!駄目だ!水中から出ると、地上用に戻る!
「地に足付けてないのに・・・」
<ほんとそれ
つまり、こいつに有効打を与えることはできないのだ。
いや、まだキックを出していない。
鎧という性質上蹴りは出しにくいが、
今ならタコの真上にいる。
やってみよう。
<ヨウエイ!あのタコを思いっきり踏むぞ!
「・・・わかった!せい!!」
思いっきりタコを踏む。
水しぶきを上げてタコが海に戻された。
俺たちも水中に落ちて様子を見ると、
どうやら顔が凹んで痛いらしい。
そう思っていると、足元にタコの足が絡みつき、
俺たちを海中に誘う様に引きずり込む。
<まずい!どんどん引きずり込まれる・・・!
「どうしよう・・・このままだと・・・」
何か他に攻撃方法はないか?
ここに来て初めて焦る。
何とかしてあいつを倒さなければ・・・。
「鎧さん。あのシェルって弾、残り幾つ?」
<両手に7発ずつで、残り14発
「じゃあ、もしかすると攻撃できるかもしれない・・・」
なに?そんな方法あるか?
前から思ってたが、実は俺より頭良いんじゃ?
<どうするんだ?
「うん。僕の言うとおりにやってほしいんだ」
そうして、ヨウエイの作戦を聞いた俺は、
そんな賭けに勝てるか不安になった。
<それ、うまくいく保証はないだろ?
「でも、この状況だよ?」
話が長かったため、水深200m程度まで運ばれた。
太陽の光がほとんど見えない。
それはつまり、
2度と地上に戻れない可能性ができたということになる。
<わかった
「うん」
タコの顔がすぐそこにある。
俺たちを食べる気なのだろう。
顔だけで大きさ10m程度だ。
これに勝つには、水中専用の6.1tパンチが必要不可欠だろう。
ヨウエイが両手の拳を
腰と同じ高さに置く。
左手は手のひらを下向きに固め、
右手はそれを180度反対にして固める。
俺は、両手の弾をいつ撃つか。それだけに集中する。
タコの顔がどんどん近づき、すぐ側まで来る。
<「・・・」
お互いに意識を集中させる。
「・・・・・・来た!」
パンチが一番打ちやすいタイミングだ。
俺は両手のシェルを同時に発泡する。
ヨウエイは左手をまっすぐ前に、
右手をまっすぐ後ろに下げる。
『ボシュン!』『ボシュン!』『ボシュン!』『ボシュン!』
そして、右手を肩と同じ高さにして、
思いっきりパンチを放つ。
上に浮く気泡の中を、
俺の拳が進んでいく。
地上で拳を振るう時と、殆ど違いは無い感覚。
だが感覚が少し違うのは、
今この瞬間は、
俺の拳が今まで以上に強く進んでいるからだ。
『ボゴオォン!』
タコに良いパンチが命中した。
完璧だ!
気泡の中なら拳が強いまま、水中で攻撃できるんじゃないか?
そんなヨウエイのアイディアは上手くいったわけだ。
タコが少しも動かなくなって、海の底に沈んでいく。
<よっしゃああ!
「よかった。うまくいった」
叫ぶ俺とは対照的に、落ち着いた感じのヨウエイ。
しばらく勝利の余韻に浸ってから、
水面を向くと、あるものが見えた。
<あれ?あの船って、まさかあいつら?
俺たちが島だと思っていた船が動き出していた。
船に空いていたはずの穴も全て塞がっている。
あの船は一体なんだったのだろう。
『ビュウウウウウ!!』
そんな俺たちの疑問を他所に、船は遥か彼方に去っていった。
「どうしよう。放逐されちゃった・・・」
<早く陸に向かおう・・・
さっきタコに勝ったテンションは既に下がりきり、
俺達は泳いで陸に向かうのだった。