6話
<こりゃまずい
潮の流れがとても早い。
吹き飛ばされそうになりながらも、踏みとどまる。
「海の中ってこんな感じなの?」
ヨウエイが俺に尋ねるが・・・
<俺も詳しく知らないんだけど、
<普通6時間で潮の流れは変わるんじゃ・・・?
「もう、6時間過ぎてるよね」
そう。
あの島を出てからすぐに、夜となった。
正直何も見えない・・・。
だから現在は、移動することをやめて、
なんとか潮に流されないよう踏ん張っている。
朝になるか、潮の流れが穏やかになることを期待したのだ。
だけど潮の流れは全然収まらない。
「朝までどうしよっか?」
<こんなハプニングがあるとはな
俺の知っている海というのは、紫色の気色悪い物だった。
硫化水素などの有毒な物質で、『死』と『海』が融合する腐った世界。
だから青色の海を見たときは正直侮っていた。
夜の海もかなり危ないらしい。
<もし俺が気を失ったら・・・
俺は何らかの条件で気を失う。
もし気を失えば、潮の流れに捕まって、海の底へと沈んでしまうだろう。
最悪の展開がよぎってしまう・・・
ええい、気分が落ち込んでいるんだ。
別の話題で気分を変えよう。
<なあ、この世界にある大陸って、
<俺の世界にあった島を、5つに割ったような形なんだったな?
「うん。元々ひとつって言われても納得できる形だよ」
西暦1次9000年ごろ、大陸は移動し、全ての島が一つになった。
この世界は、その島を縦に5等分したかのような感じだ。
西暦1次1900年頃から、
水蒸気や二酸化炭素が増えて地球が熱暴走した。
その後、南極と北極の氷が全て溶けて、
地球にはメタンやら硫化水素やらが多量に発生した。
西暦1次2300年までの
「周りが何とかするだろう」だの
「自分は間違ってないし」やら
「俺には関係ないし」とか言ってたツケが廻った訳だ。
初動をしっかりしてたら、
俺みたいな火山に追われる奴は居なかったかも知れないと言うのに・・・。
俺はあれだよ、結露した水分をタオルで取って冷蔵庫で冷やして、
筋トレで熱くなったらそれを首に巻くとか体を拭くとか、
ゴミ拾いとか、いろいろやってるよ!
っと、愚痴っちゃったな。
「僕や鎧さんが前までいたアンヌリカ国、
今向かっているイグリス国、
その下にあるエリプト国、
イグリスの下のフラーシル国、
イグリスの向こう側にある日華国。
それぞれの国に行くには、10km程度の海を超えればすぐだよ」
<他に島国とかはないのか?
「島国?島は全部誰もいないと思うけど?
あ、ヌワラエリヤ島って島ならあるね」
<へぇー。いずれいろんな島や国を周ってみたいな
そんな会話を続けている最中、
俺はなんとなく不味い事が起こった気がした。
どうやらこれ以上は、現実から逃げられないらしい。
<ヨウエイ・・・
「なに?」
<多分俺、もうすぐ気絶すると思う
「え、今?」
もし潮に流されたら、俺達は陸から遥か離れた場所まで移動するだろう・・・
だから、気を失うわけ・・・
そこで俺は気を失った。
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「鎧さん!?」
前が見えなくなり、体が完全に動かなくなる。
瞬間足が地面と離れた。
「うわぁ!」
鎧が岩などにぶつかっているのだろうか
『ガコン!』
衝突音がけたたましく鎧の中を駆け巡る。
漂流する感覚から死を連想する・・・
その状態で30分ほどたったであろうか、
鎧の中に異変が起こる。
頑強な鎧が海に負けてしまったのだろうか。
補強したはずの隙間から水が入ってきたのだ。
「まずい、水が中に入り込んできた!」
このままだと・・・あれ?
衝突音も、鎧に入ってきた水も止まった。
外で音が反響しているようだ。
水の滴る音が聞こえる。
陸に上がったのかもしれない。
恐る恐る兜を外して外の様子を見る。
そこは洞窟になっているようだった。
奥から何かが動くような音も聞こえる。
鎧さんの方を向くと、洞窟の入口に座礁した姿が見える。
あれだけの衝突音を鳴り響かせた後の姿とはとても思えない。
初めて会った時と同じ、頭以外に傷がない。
それよりも今は、洞窟の奥が気になった。
どうしてだろう・・・とっても気になる。
薄暗いが、視界は確保できる洞窟を進む。
ああなった鎧さんはしばらく目を覚まさないだろう。
一人で奥に進もう。
水の滴る洞窟を少しずつ歩いていく・・・
その方向に向かった僕が見たのは、開けた空間だった。
そして
「~~~~~~~~~~!」
僕にはわからない言語を話す者たちがそこにいた。
異形の生物だ。
人だと思うけど、3本目の腕がある。
両腕の手の平を合わせて、肘までくっつけた腕を、
お腹から生やしているかのようだ。
それから、まるで尻尾みたいな足も生えている。
そんな異形が沢山いて、正直怖い。
手の中・・・であってるかわからないけど、
そこにはなんだろう、変な筒みたいなのを持っているようだ。
瞬間
『パォン!』
というとても大きな音が響く。
その後地面に何かが落ちたのであろうか
『カキィン』
『カランカラン』
そんな音も鳴っている。
何かが高速でこちら飛んで来たのを理解したのは、
その音を聞いてからだった。
僕の隣にある土の壁に穴いくつも空いている。
音は一度だったのに・・・
まずい!
そう感じた僕は、鎧さんのところまで走って、中に入り込む。
鎧さんの装甲なら、あの攻撃も耐えられるかもしれない。
<おかえりー
「あれ?もう起きてたの?
それにしても、なんか臭いね」
外の景色が見える。
鎧さんはてっきり寝てると思ってたけど、
起きてくれたみたいだ。
<うん、ちょっと前に起きたのさ。
<んで臭いのは火薬だな。
<今襲われてんだろ?スペック確認しとくぞ?
鎧さんの力は、最初に僕と会ったときに戻っているという。
『鎧inヨウエイ
身長200cm
重さ500.8kg
パンチ力1.2t
キック力2.8t
100m8.7秒
ジャンプ力15m
ヨウエイと鎧が意思疎通可能である
ヨウエイと鎧の直感が統一化される
視力5.5
100m先にある物体の匂いを嗅ぐことが可能』
<地上向けに戻ったのか・・・。
<てかあいつら銃持ってんじゃん。
<サプレッサーが形からしてベネリM4か。
<サルボサプレッサーのおかげで有名な銃だ」
「そんなことはどうでもいいから!
どうしよう、やられちゃうかも」
<まぁ、初めて銃で撃たれそうになったらパニックになるよな。
<落ち着け落ち着け
僕も過酷な人生だったが、
今日も大変な日だ。
少しすると変な生き物が増えていた。
3人でこちらに向かっている。
『パォン!』
再びけたたましい音が響く。
『カィン!』
でもさすがは鎧さん、攻撃を防げたみたいだ。
やっぱりこの中にいると安全だ。
「すごい・・・」
<丁度いいや、ヨウエイ、こいつらで実戦訓練だ!
「わかった」
こうして、2対3のバトルが始まった。