4話
俺のスペックを確認した後、
更に時間が経ってから一つわかったことがある。
<疲れないし腹が減らない?
「うん。本当はもっとお腹空くはずなのにね」
俺たちが出会って6時間。
動きまくってるのに疲れを感じず、
腹も減らない。
どうなってんだこれ?
普通なら腹が減るはずだし、
鎧の中で固まってると疲れも溜まるはずだ。
「まだ海臭いけど、慣れたら快適だね」
ちょっとずれた返答だ。
まあ、気にすることじゃないか。
いいことだし。
<そだね。風呂入りたい
「じゃあ、湧水が湧いた島に行く?」
<そだな。頼む。でもヨウエイ?どうやって行くの?
「あ・・・」
ジャンプ力15mでも、別の島はもっと離れてるだろ。
俺ってかなり重いから、別の島に移動もできないんじゃ・・・
「どうしよう」
こりゃ困った。
これじゃ街にも行けない。
永遠にヨウエイと2人暮らし・・・やだ!
そもそもここから一番近い街とかってどんくらい?
こりゃ困った。
SOSってそこの砂浜に書いたら助けが来るかね?
<俺、街とかに行きたい・・・
「鎧さんは街に行きたいの?」
<鎧さんて・・・まあ、とりあえずはそれで
<てか、人がいると嬉しいじゃん
<ヨウエイは街に行きたくないのか?
「僕は別に・・・」
なんだと?
まるで引きこもりのようじゃないか!
<ダメだぞ。
<俺なんて、滅び行く世界の中でも外を歩いてた男だぞ
<防護服着てたけど
「でも僕、街でやりたいこととかないし、興味もないんだ」
<それじゃ何のために生きてんだよ?
<何かやってみたいこととかないの?
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やってみたいことか。
僕にはやりたいことなんて無い
・・・いや、探偵ってなんかかっこよかった。
誰に対しても平等に接するようなあの人
・・・名前は確か『ケレン』だっけ?
なんだか無性に、あんな探偵になりたくなってきた。
「探偵・・・」
<なに?
「探偵になりたい」
<良いじゃないか。探偵。
<誰も解決できない不可解な事件!
<それをいろんな手がかりを基に推理し、
<見事犯人を捕まえる!なろう!探偵!
鎧さんが同意してくれる。
『良かった』と思う。
なんでだろう?
今まではそう思ったことないのに。
「じゃあ、どうやって街に出るか考えないと」
<むぅ・・・
鎧さんって思ったより頼りないんだ。
滅んだ地球で生きていたって言ってたから、
普通の人と違うんじゃないかって思ってた。
なんというか、すごい人なんじゃないかって。
普通って言うのが『対等』ってことなら、
僕にとって普通の人は、食べてしまった友達だ。
でも鎧さんは、今まで出会った人達と全然違う。
僕は鎧さんのことを『友達』として意識するようになっているのかもしれない。
それになんだか、ケレンさんに少し似ているかもしれない。
雰囲気がなんとなくそんな感じだ。
そんなことを考えたら、ケレンさんに会いたくなってきた。
「鎧さん」
<あん?どした?
さっきからうんうんうなってる鎧さんに話しかける。
「僕も、街に行ってみたい」
<そうこなきゃな!偉いぞヨウエイ!
初めて人に褒められた。
ちょっと嬉しいかも・・・。
街に行く決意を固めた僕は、
この島から出る方法を考える。
とは言っても、ここから出る方法なんて一つだ。
「船を作ろう」
<まぁ、素材はいっぱいありそうだな。
<で、どこに向かうんだ?
「ここからあの、太陽と反対方向に進むんだ。
後は、右である北方向かな」
今は夕方だから太陽は西。
反対方向に進めば東ってことになる。
<お前本当に9歳か?頭良すぎじゃない?
「孤児院にいた頃は、そうするといじめられなくなると思ったんだ。
結局そう言った知識を披露しても、嘘つきだって言われたけど」
<腹立つなそれ。・・・まぁ、船を作りますか!
「うん」
それにしても、本当に疲れない。
眠くもならない。
夜でも肉眼より明るく見える。
そのため、ずっと鎧さんを着たままだけど、今更か。
鎧さんに出会ってから6時間くらいかな?
6時間も鎧の中にいるけど、全然窮屈に感じない。
本当に不思議な鎧だと思う。
木を殴ったりして伐採し、葉っぱでマストを作る。
予備も用意しよう・・・
さて、船を作り始めて1時間程度経ったかな?
<なんか俺、ちょっと眠いわ
「え、そうなの?」
<うん。悪い、寝る
「そっか。うん。後は僕が作ってるよ。お休み」
この時は全然不思議に思わなかったけど、
鎧さんが寝た瞬間に、問題が発生した。
『ガコン!』
「重!」
『・・・ガシャアン!!』
僕は作りかけの船に思いっきり倒れた。
鎧の胸辺りが曲がっている。
僕がもう少し大きかったら、首が折れていただろう。
つまり、鎧さんが起きていないと、これは・・・
「すっごく・・・重い・・・棺桶って事・・・?」
鎧内部にクッションがあるけど、
急な動作で頭を打ったからだろう。
僕は変な体制のままで気を失った。
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<あー起きた。おはよ・・・何してんの?
朝起きると、ヨウエイは気絶していた。
<おい、起きろ。朝だぞ?
「うーん・・・」
お、ヨウエイが目を覚ました。
<どうしたんだ?眠たくなったのか?
「鎧さんが寝た瞬間、
鎧がすっごく重たくなって、頭打ちゃった」
え、俺が寝るとそうなるの・・・?
そういや、兵器開発してたとこで、
誰も動かせないって言ってたな。
そういうことか・・・
<悪い。大丈夫か?
「うん。大丈夫だけど、
お腹が空いちゃったから、ちょっと鎧脱ぐね」
<おうよ
そう言ってヨウエイが鎧を脱いだ。
<ついでに服洗ってきな。
ん?あれ、反応がない。
あ、鎧から出たら、やっぱりそうなるのね。
あ、視界からヨウエイが消えた。
うーん、この鎧の中から外を見る感じ、
あんまり好きじゃない。
鎧内側の胸部分が目になってるような、
ともかく変な視界だ。
あーしばらく暇かー。
早く戻ってこないかな?
暇な間、街に戻れる方法でも考えよう。
2段ジャンプ→無理
ワープ→無理
泳ぐ→無理
船→なんかそんな気分じゃなくなった
水面を走る→失敗=死
飛ぶ→飛べない
あー!駄目だ!無理無理。
ヨウエイが戻るまで、
俺はずっと街に行ける方法を模索した。