3話
『サッ サッ』
誰かいるのか、風の音か?
でも多分、音がどんどんこっちに来てるから、
近くに人がいると思う。
<おーい!助けてー!
できる限りの大声を上げたつもり。
っても多分、誰も聞こえないんだろうけど。
『サッ・・・ザッ・・・』
やっぱりこっち来てるよね?
・・・おっと、眩し!
空を向いてるってことは、仰向けに倒れているんだろう。
あれ?人の顔が見える。
そこにいたのは10歳程度の子供だった。
うわー。ちょっと感動。
実は自分以外の子供とか見るの初めて。
葉っぱで服作ってるよこの子。
茶髪を伸ばしきっている。
髪を切っていないんだろう。
男の子だろうけど、顔が中性的で可愛らしい。
「これって、昔僕を殺そうとした物に似てるな・・・鎧だっけ?
でもなんでこんなとこに?」
歩いてきました・・・っても聞こえないだろうな。
「中に鼠が入ってる・・・。
でもうーん。
中がちょっと濡れてるけど、
乾かせばベッドになるかも」
そう言って入ってきた少年。
「頭も着けてっと」
少年が俺の頭を着ける。
お、外の景色が見えた。
様子見がいいか?
・・・でも俺も、他の人に会うのは何年ぶりかわからない。
それにもしかしたら、
今話しかけたら俺の声、聞こえるのかな?
<やぁ少年
「!?うわぁ!」
少年が暴れだす。
すると鎧も全く同じ動きで暴れた。
まるでひっくり返った亀みたいだ。
前の景色と、鎧の中が見えるこの視界で、
鼠と全く同じをしてた様子が見えたから、
多分そうだと思っていた。
やっぱり、中に入ってる生き物と同じ動きをするわけか。
「だ、誰!?」
<俺は多分、この鎧だ。着ごごちどう?
「・・・びしょびしょで気持ち悪い」
少年だけにストレートに言うな。
でも、人と会話するのって何年ぶりかな?
俺が21歳だから、6年ぶりくらい?
「ねぇ、この鎧って僕が動かしてるの?」
<多分な。でも、俺が自分で動かす方法もあるみたいだ
あの時は中の鼠が死んだ時だから、
中にいる奴が意識をなくすと俺が動けるのだろう。
でも、子供に言う内容じゃないよなそれ。
「・・・なんだか面白いし、楽しい」
<まぁ、体が一気にでかくなったんだ。新鮮で楽しいだろ?
「うん」
辺鄙なところに住んでるから、
正直関わったらまずい子かと思った。
でも、案外大人しい子だな。
それに好奇心も強いのか。
「・・・ねぇ、君って僕がもらっていいの?」
<あぁーそっか。俺って今鎧だもんな。
<誰かのものじゃないし、所有物にならなきゃダメか。
<じゃあ君が俺の持ち主にふさわしいか、面接を始めます
「面接ってなに?」
<取り敢えず俺の質問に答えてくれればそれで良いよん
「わかった」
そうと決まれば聞きたいことだ。
滅茶苦茶気になってることが1つ!
<なんで君こんなとこににいるの?ほかに人は?
「この島には僕しかいないよ?僕がここにいる理由は・・・」
その後少年の出自を聞いた俺は、この子に同情した。
いじめられることを受け入れるなんて、
俺はいじめられることも無かったし、
そもそも人と会ったこと殆ど無いけど、
悲しいことなんじゃないかと思う。
<そっかぁ、孤児かぁ・・・そういや名前は?
「無いよ?孤児院では下っ端海賊って呼ばれてた」
あぁ、喋れないからか。
っても、海賊でも喋れる奴はいるはずだろ、
風評被害も甚だしいな。
「鎧さんは?」
<俺は・・・名前忘れちゃったけど・・・
俺も、覚えてる範囲のことを話す。
そういや、西暦が2次になってからは、
名前なんて使ったことがなかったな。
正直言うと、こんなに人と話すのは初めてだ。
名前を必要としたのも、生まれて初めてかもしれない。
「じゃあさ、お互いに名前付けようよ」
<お、良いねそれ。じゃあ、俺の名前をつけてもらってもいい?
「良いよ。じゃあ『木偶の棒』」
は?
<やだ。却下
「え、でもぴったりじゃない?」
<自分で動けないからって変な名前つけないでよ!
「じゃあ~『ウドの大木』」
<やめて!
なんで俺を運んでた科学者みたいなネーミングセンスしてんのこの子!
「え~それなら・・・」
<『粗大ゴミ』もやめてね
「それも良いけど違うよ。『老害の住む豪邸』」
<っざっけんなっ!却下却下!
「でも僕、未来の話なんてわからない・・・」
あぁ、この子は俺を、未来から来た鎧だと思ってるんだな。
まあ、そんなことより俺の名前・・・
しばらく悩んでいたが、少年がこう言いだした。
「うーん、じゃあ僕の名前から付けてよ」
まぁ、11歳の子供に名前を付けろって言っても無理か?
・・・いや、この子変な子だけど。
よし、俺のネーミングセンスを見せつけてやる!
<じゃあ・・・うーん、『ヨウエイ』ってのは?
「なんでその名前に?」
<鎧である俺の中で、上を目指すって意味さ
ヨロイの中。
箱の中に上を入れて、ヨウエイ。
この子にゃカッコよすぎるかな?
「それってつまり、僕が鎧さんの持ち主でいいってこと?」
<そゆこと
「・・・でもネーミングセンスは微妙だね」
めっちゃいいだろ!
少なくとも木偶の棒とかよりマシだわ!
<オホン!何はともあれ、よろしくな。ヨウエイ
「うん。こちらこそよろしく!」
ヨウエイの名前が決まったが、
俺をどこまで動かせるか試してもらわないとな。
「ひとまず、どれだけすごいのか試して良い?」
<すごい?どゆこと?
「さっきから、体を動かしやすいんだ。
いつもに比べて動きがかなり速くなってる感じかな」
ふむ。
あれ。そいうえばこれ?なんだ?
頭の中に文字と数字が羅列されている感覚があるな。
なんだこれ、えーっと
『鎧in鼠
高さ0.8m
重さ500.6kg
パンチ力:0.6t
キック力:1.6t
100m3秒
ジャンプ力5m
中の鼠は嗅覚と視力が強化されている
視力4.0
200m先にある水の匂いを嗅ぐことができる』
なんじゃこりゃ。
てか、身体能力高!
これマジか?
ん、あれ?今の表示消えちゃった。
おっと、今度は別のが・・・
『鎧inヨウエイ
身長200cm
重さ500.8kg
パンチ力1.2t
キック力2.8t
100m8.7秒
ジャンプ力15m
ヨウエイと鎧が意思疎通可能である
ヨウエイと鎧の直感が統一化される
視力5.5
100m先にある物体の匂いを嗅ぐことが可能』
はぁ!?人間じゃねぇ!
<えーっと、ヨウエイ?
「何?」
<お前のパンチ力1.2tだってさ
「・・・?」
理解しきれていないようだ。
<えーっとな、そこにある木を殴ってみろ
「うん」
ヨウエイが高さ4m程の木を殴る。
普通子供だと、木はビクともしないはずだ。
『ドン』
木がへこんだ。
本当に1tくらいはあるだろうな。
パンチのスピードが多分、秒速20m程度だから・・・
衝撃力は30t程度か?合ってるかわからんけど。
メキメキと音を立てて木が倒れ始めた・・・
「僕のパンチで木が折れるって・・・うわぁ・・・」
<これ、すごいね・・・
二人して引いた。
いや、これはないわ。強すぎだわ。
<キックはこの倍くらいすごいらしいよ?
「えーっと・・・試したくない」
だな。
まあ、俺の足にヨウエイがすっぽり入ってる。
キックすると、ヨウエイが俺の体を跳ね回るから、
危ないだろう。
・・・その後も、色々と試してみたが、
先程確認したスペックに間違いはないだろう。
うーむ。
恐ろしいな、俺自身が。