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9.魔王は悲しみ、女神はその欲望をぶつけ続ける①

9.魔王は悲しみ、女神はその欲望をぶつけ続ける①




「なぁ、お前って......レズなのか?」

自分の妹が草原の真ん中でぬちゃぬちゃのキスをしてしまうような女の子だったら普通に嫌だ。

しかしクラナは顔を真っ赤にしてあたふたと怒りだした。

「そ、そんな分けないでしょ!? もしあいつのことを言っているのならとんだ勘違いよ!! だって私は......」

そこでクラナの声が詰まり、その顔を俯かせる。

ますます赤くなっているようだ。

「私は、なんだ?」

「なによっ! うるさいわね!! ばぁぁっか!!」




まぁ、白い少女......ソラだっけ? が一方的にやってたみたいだし、クラナは大丈夫なようだ、一件落着。

変態の消えた太陽はサンサン輝いて、激しい一日に一時の落ち着きを教えてくれた。

未だに爆発の源はビリビリと力強く放電を続けている。


「まだ収まりませんねぇ、あのビリビリ」

「ん、確かに。 いつになったら収まるんだ?」

クナが俺に近づいて来る。

俺の隣に立ったとき、体に染み渡るような、いつまでも嗅いでいたくなるようないい香りがした。

もう、世界から光は弱まったはずなのに、クナの金髪が太陽の光を反射しているのか、揺れる髪が輝いて見える。

「どうしました? マリさん?」

少しだけ腰を前に折り、俺の顔が覗き込まれる。

「い、いや、なな、なんでもないよ」

「そうですか」、と言ってニカッと笑いかけるクナ。

その目が開かれたとき、引っ張られたかのように視線を逸らしてしまう。

まばたきの回数が増え、チラチラとクナの横顔を見てしまう。

しかし、クナの方は俺の方を見てなくて、で、でも俺はクナがもしこっちを向けばきっと目を逸らしてしまうし、な、なにか話しかけようかな、で、でも何を言えば......? や、やばい、なんだこれ?

な、なんかどきどきする......?

まともにクナと話が出来ない。




く、くそっ何か切り出してやる!!

「お、おい、クナ------」

その時、放電を続ける真空空間から、一際大きな雷が大地に放たれる。

銅鐸を固い床に叩きつけたような轟音が響き渡り、真空空間はその色を黒に限定し始めた。

先程まで無かった雲が、どこから流れてきたのか大空を覆い、あれだけあった光は世界から薄れていった。

「っ!? な、なんだ!?」

「来たわね」

クナが真剣な顔になる。

「え?、急に? なにしに?」

対照にクラナは呑気な雰囲気だ。

もう怒ってないのかな?

あ、目合わせたらむすっとされた。



「お?」

ブラックホールのように黒い真空空間から、見知らぬ男性が姿を表す。

遠くだからあまりよく見えないが、黒いマントを着けているようだ。黒い真空空間と被って、よく見えない。


眉間にシワを寄せてクナが呟く。

「あいつが......魔王です」

その声は重く、男を睨み付けるその瞳を見れば、クナが怒っていることは一目瞭然だった。


「あれが、魔王......へぇ」

「はい、本名ファルシス・ヴィッツ・ヴェルサス、あれこそが巨悪の根元、我々人類の不倶戴天の敵、憎むべき、悪魔のような男です」

「そ、そんなに危険なやつなのか......」

禍々しい雰囲気を肌で感じとる。

緊張感と警戒心が入り交じり、自然と体がこわばって行く。


しかし、クラナは魔王を危険視している様子ではない。

「はあ、何言ってんのあんた、ファルシスさん優しくてかっこよくて、全然危険じゃないじゃない」

それにクナは緊張感の無い声音で反論。

「はぁっ!? あんたこそ何言ってんの!? 魔王よ!? 魔王、あんなに怖い人がいい人なはず無いじゃない」

「え、お前、見た目で決めつけるのか------」


その時、例えるならハサミで髪を切り落とすような、そんな短い時間で。

音もせず、俺の目の前に魔王が突然現れた。

飛んできたのか、瞬間移動なのか、見分けがつかないが、気がつけば、俺が転生していたように、気がつけばその男は俺の目の前に立っていたのだ。

それはあまりに速すぎて、F1カーに全速力で目の前まで迫られた、そんな風にも感じた。

「う、うおっ!!」

驚きに後ろに引っ張られ、尻餅をつく。


魔王は俺の顔を見下ろす。

細身の体だが、身長が俺の1.5倍ほどあり、尻餅して座っている俺から見れば、それは巨人と言ってもおかしくないほどに大きく見えた。

べジィタのように後ろに逆立った、灰色のM髪型。

顔の頬骨がうっすら見えるほどに痩せており、縦に長い顔に、堀の深い多くの皺が刻まれている。

その瞳は、ターコイズの宝石のような青色で、しかし、透明感は無く虫のような目だった。

何より、口元が見えないくらいに濃く、滝のように長く伸びた火山灰のような色をした髭が、重圧な雰囲気を倍増させている。

黒いウェットスーツのようなパツパツの服の上に、肩から足元まで伸びるマントを背中に着けていた。


ヤクザの年老いた組長のような、ドスの効いた重い、重い声で魔王はゆっくりと言葉を発する。

「なんだか強い力を感じ来てみれば……お前、見ない顔だな......?」

追い風に吹かれるような威圧を感じても、目を逸らさない。

逸らしたら殺されそうだ。

「お、お前は......!」



(9.魔王は悲しみ、女神はその欲望をぶつけ続ける① 了)


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