8.初期設定は間違えると大変なことになる訳ですが、この少女はもしかしてもしかして......!?
8,初期設定は間違えると大変なことになる訳ですが、この少女はもしかしてもしかして......!?
目を閉じている俺。
まぶた越しにも、強すぎる光が、瞳に攻撃を止めない。
即座に前腕を顔の前へ移動、光をガード。
眩しすぎて目を閉じていても、辺り一面真っ白なのは明らかだった。
俺の頭の中も真っ白だ。
約30秒、ようやく光が止む。
ゆっくりと腕をどけ、瞳で弱くなった光を受けとる。
目の前には「はぁはぁ」と息を切らし、座り込んでいるクナの姿。
向かって左にはうつ伏せで倒れ込み、動かず気絶しているクラナ。
右の方には、座ってはいるものの、右手を太陽に向け、展開されていたであろうバリアを分解する母さん。
空は雲一つ無い、いや、雲一つ残らず消え去った青空が浮かんでいた。
咄嗟に、座り込んでいるクナに駆け寄る。
抱き抱えるとクナは赤い顔で一言。
「設定って......間違えると大変なことになりますね」
クナはゆっくりと瞳を閉じる。
「お、おい大丈夫かっ!?」
杞憂、「へへっ」と笑ってクナは立ち上がる。
そして、辺りを見渡して苦笑した。
「ちょっと、あまりにも強すぎますかね、 少し信じがたいレベルですね」
実際俺も信じられない。
とても自分があの爆発を起こしたとは思えない。
「実はマリさんの魔法爆発の途中ずっとバリアを張っていました。 あの光、魔法が乗っていて、この距離で間近で受ければ私や魔クラナでも多分即死です。 見てください、爆発があったところ。 一度空間事態が消滅したようです。 今、それを埋めるために魔法反応が起きています。ビッグバンで空間が生成された時と同じ現象が起きています」
爆発があったところに目を向けると、そこの空間からバリバリと雷が生まれていた。
青や赤、黒に白と転々と色が変わっている。
空間の無いところから空間が生まれているらしい。
いや、危険すぎるだろ......空間が消えるってなんだよ......。
自分が強すぎる力を持ってしまった。
そんな現実に背筋が強張るのを感じた。怖いのだ。
あんな力をまともに使えるとは思えない。
人は、拳銃を持てば撃ちたくなるし、人を自由に殺せるノートがあれば、誰であろうと使ってしまう、そんな生き物なのだ。
クナは続ける。
「クラナちゃんはやられちゃったみたいですね、気絶しています。 途中までバリアを張って粘っていたみたいですが、耐えきれず、少しですが魔法を浴びたようです」
クナと共にクラナに歩み寄る。
見たところ、気絶しているだけなようだ。
しかし、罪悪感が否めない。
じわりじわり、と心を何かに侵食されたような気がした。
それはきっと恐怖で、罪悪感で。
「大丈夫です、マリさん」
震えていた手をパシッと掴んでクナが言う。
小さく微笑み、優しい眼差しで、暖かい声音で話してくれた。
「使いこなせれば、危険なことはありません。 強い精神さえあれば、悪い力は生まれません。 そして、それは鍛えれば誰でも習得できます。 一緒に頑張りましょ?」
俺の手を握るクナの手は温かく、冷たいものが溶けるような感じがした。
母さんに似ている。
しかし一言。
「それに、マリさんが色んな魔法が使えれば、あんなプレイや、こんな遊びが......ふひひっ」
俺は震えの収まった手で俺の目線より少し低い位置にあるクナの頭にチョップ!!
クナは潰された瞬間のタコのような声を出す。
「ふぎゃっ!! も、もう、冗談ですよ......へへっ」
俺はクナに一言。
「台無しだろ......んはっ」
恐怖が少しだけ、少しだけだが引いていく感じがした。
最初は只の変態だと思っていたが、本当はこいつも、母さんやクラナのように心優しい人なんだな。神か。
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「なになにー? どうしたのですかー?」
音さえも消し飛ばされた空間に一声響く。
突然の来訪者だ。
左腕に手提げをぶら下げて、真っ白な髪の少女がこちらに向かって駆けてくる。
「誰ですかねー?」
クナが呟く。変態の知り合いでは無いようだ、安心した。
白髪ショートの少女は一直線に、倒れているクラナに向かって、息を切らし走る。
「ふっ、ふっ、ふっ、ふぎゃぁあ!!」
俺とクナには目もくれず、通り過ぎようとしたとき、盛大にこけた。
どってーんとぶっ倒れた少女に手を伸ばす。
「おい、大丈夫かよ」
「ん、どうも」
少女は俺の腕を引いて立ち上がる。俺より頭一つ分くらい小さい。
起き上がった少女は加工のされていない鉱石のような無機質な真顔で応えた。
雪のように白い髪に土がついて少し汚れている。
元いた世界の女子高生が着ているようなやつよりかは少しばかりオシャレな、白い制服を着用しており、転んだ衝撃でブレザーが少しはだけていた。
しかし、白い肌に白い制服、スカートまで白いとなると、もう人の形をした雪にしか見えない。
色の無い顔つきだが、目鼻立ちはしっかりしていて、落ち着いている。
和服とか似合いそうな美少女だ。
「えーとたしかここに......」
立ち上がった少女はキョロキョロ辺りを見渡す。
その瞳に、尚も気絶しているクラナが映った瞬間、その白い肌が、日が射すように赤くなった。
そして先程の落ち着いた、感情の感じられない声音とは一転、餌を前にし、尻尾を振る犬のように叫ぶ。
「クラナぁっっ!!」
そこで、それまでつまらなそうにみていたクナの体がビクンと震える。
「こ、こいつは......!?」
「な、なんだよ......?」
「10万......20万......30万......よ、40万っ!? こ、この子、クラナをみた瞬間から魔力が、はねあがっています! この上がり具合はほぼチートです!! ほぼ魔力0から40万まで上がっている......? 語空が亀井仙人との修行中にスーパーヤイヤジン3まで習得してしまった......そんなレベルの上がり具合ですよ!? 一体クラナとの間になんの因果が......?」
すると、白い少女は倒れているクラナに抱きついた。
「「えっ!?」」
回りのことなど道端の石ころ、少女はクラナと頬をすりあわせだす。
そして先程の冷たい声とは対照に、発情期の動物のように鳴き始める。
「あぁ、クラナ、なんで学校に来てくれないの......? 私寂しい。 んんっ、クラナ、また私と遊びに行こ、私クラナとなら何処へでも行くわ。 クラナが死んだら私も死ぬ。 ね、だから......良いでしょ?」
そう言って、発情期はその2つの手のひらでクラナの耳を塞ぐように顔を固定。
ゆっくりと顔を近づけ、おしとやかな唇と唇を重ねだした。
唇と唇を重ねだした。
俺は現実が把握できず、えーと、なんだ、何が起きてるの?
対照に、少女からは甘い吐息が漏れる。
「ん、くはっ、あっ、クラナぁ、気持ちいい......。 クラナ結婚してぇ」
少女はその左手をクラナの腰に回し、右手でクラナの頭を抱える。
繋がった唇は尚も離されていない。
夏の頃、開けた草原で俺の妹が突如現れた美少女に犯されている。
妹はこの少女の、か、彼女なのだろうか......?
釣り上げられたマグロのように、ビクンビクンのと体を跳ねる赤くなった白い少女。
彼女は......マグロだった!!
「彼女は......マグロだった!!......じゃねえええええだろおおおおおおおっっっ!!」
俺が叫ぶと、白髪の変態は嫌悪感を無機質な顔に張り付け、眼光鋭くこちらを睨んできた。
「なんですか、お兄さん、うるせーですよ、貴方はそっちの女がいるでしょ。 こっちの事は気にしないでください」
あまりの堂々たる態度に俺は引き下がってしまう。
「な、なぁ、もしかして、俺がおかしいのか?......この世界じゃ、女の子同士がこんなに愛しあうものなのか......?」
クナに助けを求める。
そのクナは、少し顔を赤らめて重なる二人の唇に見入っていた。って、これ!!舌入れてる!?
「お、おい、クナっ!!」
「ひゃっ、ひゃい!? い、いやいやいや、レズビアンは悪いことではありませんし、いくらかこちらの世界にもいますが、人前でち、ちゅーするほどではありません!!」
いまだに白髪の発情期は倒れているクラナをちゅれちゅれしている。
「ん、んん......」
激しく頭を振られ、クラナが目を覚ます。
目の前に白髪の少女が自分に抱きついていることに気がつき、叫んだ。
「な、なにやってんのよ!? ソラァ!!」
しかし、ソラと呼ばれた少女は、その調子を崩すことなく続ける。
「あぁっ!! クラナ起きたぁ!! おはようのちゅーぅぅぅぅぅぅ」
「やめて」
馴れ馴れしく顔を近づける少女のおでこをクラナは左手で押さえる。
「んー!! んーっ!!」
唸りながら顔を近づけるのを止めない少女。
クラナの左手に頭を打ち付ける。
その度に、おしとやかな、しかしそれなりに膨れている胸が揺れた。
クラナは空いている右手で魔方陣を形成。
少女の脇腹に押し当て、爆発魔法。
雪のような少女を黒ずみのように真っ黒に染め上げ、吹き飛ばす。
大空に吹き飛ばされる変態は大声で泣き叫び、遥か彼方、いつまでも輝き続ける太陽の方向へと吹き飛ばされていった。
「ふぎゃあああああああああああっっっ!!!」
今日の収穫。
初期設定は間違えると大変なことになる訳ですが、この少女はもしかしてもしかして......変態!?
新しい変態が知り合いになった。
(8.初期設定は間違えると大変なことになる訳ですが、この少女はもしかしてもしかして......!? 了)