6,俺TUEEEEEEE!!
6、俺TUEEEEEEE!!
変態のことなど微塵の興味もないので、あのやり取りのあと即座に異世界に戻ってきた。
戻った時、俺は眠りから覚めた状態だった。
きっと片方の世界にいるときは、もう片方の世界の俺は眠っている状態なのだろう。
そしてどうやら、こっちとあっちの世界は時間の流れががリンクしているらしい。
従って、俺は8:40位に起床したことになる。
あの変態とは20分程しか会話しなかったしな!
リビングを開けると母さんが料理をしていた。
美味しそうなスープの匂いがリビングに充満する。
「お、おはよー」
俺が一ヶ月ぶりに家族におはようすると、母さんは笑顔で返してくれた。
「おはようマリ。 早いのね」
クラナとお父さんの姿が見えない。
「クラナと父さんは?」
「父さんは仕事よ、クラナはまだまだ起きないわ」
妹はよく寝る子らしい。
しかしクラナは胸が小さい。
つまり寝る子はよく育つと言うのは嘘となる。Q.E.D証明完了。
禍々しい魔物の巣食う異世界と言うので、食べ物が、げてものだったらどうしようと考えたが、杞憂だった。
結構元いた世界と変わらず、小麦のパンや牛、豚、鳥等の肉、レタスやほうれん草等の野菜があるようだ。
朝食はトーストとオニオンスープ。
一ヶ月ぶりにまともな朝食を口にする。
オニオンスープ温かくて美味しい。
朝食を食べ終わった頃にクラナが起きてきた。
綺麗な金髪がボサボサに乱れている。
「ん、おはよー、お兄ちゃん」
眠そうに目を擦っている。
まだ眠いのか......10時くらいだぞ......かわいい。
クラナが朝食を取っているうち、俺は母さんと皿を洗いながら話をする。
「それにしても、マリは防御魔法も使えないの?」
「?、防御魔法って何?」
「え?、魔法学校で習ったでしょ?」
ん? 魔法学校? なんだそれ?
頭上に疑問符を浮かべる。
母さんは「この子どうした?」みたいな目で俺を見る。
しかし、俺は本気でわからないので「え?」と返す。
「魔法学校行ってないの!?」
魔法学校? この世界の学校かな? あ、俺転生してきたって伝えてないんだった。
「あ、お、俺さ、違う世界から転生してきたみたいで、女神クナ? とか言うなんかすごい変態の女神様......?に転生されられたと言うか......」
いや冷静になれ俺。転生なんて普通の人が信じるわけ無いだろ。
そこでクラナが持っているトーストを、母さんが皿を落とす。
あ、皿ひび割れた。
曖昧な説明だったけど伝わったのか?
母さんは震える声で俺に尋ねる。
「め、めめ、めめめめめめめめめめめ、めめ女神クナ?」
その目に光がない。
クラナがブフォブフォとむせ変える。危ないぞ。
俺は洗っている皿を置き、軽く手を拭いて、ポケットからスマホを取り出し、その画面を母さんに見せる。
「うん、この人」
「な、何これ? 何て読むの?」
え?、読めないの? 漢字だよこれ。
もしかしたら元の世界と言語が違うのかな?
俺は説明する。
「これでクナと話せるよ」
そして不器用にも無料通話のボタンをタップし、変態に電話を掛ける。
ててててててててー♪ ててててててててー♪ ズズッ「もしもし? マリさん? Wait Please.」
スマホが光だし、その画面からびよーんとクナが飛び出してきた。ドラ●もんの四次元ポッケからデカイ道具が出てくるときの、あの感じ。
クナは出てくると同時に首を捻って辺りを見渡し、元気よく口を開く。
「よぉっ! ソルレっ! それとクラナちゃああああん!!」
母さんとクラナは一斉に目をそらす。
更にクラナは気持ち悪そうな顔をした。
「俺が転生してきたことを説明してもらおうと思って」
俺がクナに促すと、奴は「あー、そうだったんですねー! ハハハー!!」とハイテンションで説明を始める。
「七代魔が頂点......私が関わるってことはもうわかっているのでしょう? ソルレ姉さん」
クナは顔をニヤリとぐにゃらせ、悪い顔でそう言った。え?姉さん? 七代魔?
心底呆れた具合に母さんが話始める。
「まったくあんたは......この子にそんな危険なことを......」
クナが母さんに歩み寄り、馴れ馴れしく肩を組んで言葉を返す。
「だぁーい丈夫でぇすぅよぉ!! 私は神なので、いろいろステータスをいじっておきましたしね」
クナが「ぐふふ」と笑いながら説明するのを母さんは静かに聞いている......ように見えるが、その頬がビキピキと筋張っているのがわかった。
やべぇ......怒ってるのか?
クナが続ける。
「実はマリさんは、あんたが昔奪われたあのマリさんです」
うおぉ、こいつ言いやがった。そんな簡単な、世間話でも始めるかのように言いやがった。
そんなの母さんが驚かないはずがない。
母さんは小さく、近くにいる俺ですら聴こえないほど小さい声で、多分「えっ?」と呟いた。
「へっ?」だったのかもしれない。
「従って、あんたの本当の息子です。 クラナのお兄ちゃん! どれだけすさまじい力の持ち主かはこれでわかったはずです」
クラナは顔を上げ、嫌悪感の消えた顔でクナを見る。
大きく見開かれた目がその驚きを表現していた。
それはどちらの事なのだろうか。血のことだろうか、力のことだろうか。
続ける。
「正真正銘、誰もが、神さえも恐れおののく魔力の究極完全体がこのマリさんです。 道を歩けば草木が芽生え、小指を伸ばせば星の1つや2つ簡単に消滅するレベル。 ......もしかしたら時間や空間でさえ......しかし、学校に通っていないので使い方はわからないと思います」
「よくもまあこんな台詞がペラペラと出てくるな」
こいつ、こんなチートじみた設定をつけられるのかよ。
あ、いやいや、この変態のことだ、口からでまかせ、ということもあり得る。
今まで黙って聞いていた母さんが口を開いた。
「で、でもあのクナはもう、し、死んで......」
重い声にクナは軽く返す。
「幼いマリさんが、死ぬ寸前に他の世界の母親の腹の中に転生させました。 その事を今まで忘れてて、思い出したので一昨日ここに戻しました」
え、じゃあ俺はソルレ母さんから産まれて、そのあと3年後にもう一回産まれたの?
え、それって俺17じゃなくね?こっちの世界じゃ20じゃね?
成人かよ。
クナの説明が終わる。
か、母さんはどんな顔をしているのだろうか。
母さんの方に目を向けようとしたとき、誰かの手に、ガシッと頭を掴まれた。
その手は俺の髪をくしゃくしゃにするように激しく撫でる。
あんまり強くて俺は顔を下に向けた。
クソッ何も見えねぇ 。
しかし声は聴こえた。
母さんの声だ。多分、クナに向かって。
「も、もうっ!!あんたは、いつもいっつも......勝手なんだから!!」
聴こえた声は普通の日常であれば喧嘩に使われるような台詞だった。
しかし、これは非常に吹っ切れたような声音である。
ズズッと誰かが鼻を啜る音がなるのと同時に、俺の頭をワシャワシャしていた母さんの手が退く。
顔を上げるとクナがクスッと笑っていた。
そして彼女は言う。
「じゃあ、マリさん、実際に魔法使ってみますか?」
(6、俺TUEEEEEEE!! 了)
6話はくどいような説明会ですが、7話は自分の好きな様に書きました。
6話と7話は①、②と繋がっているとお考えいただくと、良いかもしれません。