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35.不気味な男

視点が変わりますね

35.不気味な男



キリノ村から馬を走らせ一時間程。

なだらかな草原の厚い雲の下、唯一つ、巨大な城が構えていた。

周りには他の建物は無く、木の一本すら生えていないその城は、大きな影に覆われ、雷鳴轟く禍々しい雰囲気だった。



「マリさん、あれがユウウェイの核心となる城です」



「すごいな……」



その圧倒的な威圧感は一切の生き物を寄せ付けない。

高さはどれくらいだろうか、雲にまで届いているようにも見える。

沈黙する巨人の様だった。




デブの貴族から聞き出した城の裏口より侵入する。

城の中まで薄暗く、不気味だった。


俺、クナ、アメリア、マッチョの貴族が入り切ったところで扉が閉まる。

侵入した場所は、扉が閉まると一切の明かりを失い、暗闇へと変容した。

クナが静かに明かりの魔法を使う。



「糞女神」



「なによエル糞」



「そのマッチョの魔法を早く解いて、研究室の場所をはかせましょ」



「そうね」



クナが貴族の頭に手のひらを向け「解除」と小さく言った。

すると貴族は驚き、素っ頓狂な声を上げる。

主にパンツ一丁な自分の姿に。



「うわああ!? なんだこれ? どこだここ!?」



そんな濃い髭を生やした哀れな貴族に、クナは追い打ちをかけた。



「ほら、ユウウェイの秘薬の特効薬って奴は何処にあるのですか? 今すぐ答えるなら殺しません」



「お前!? なんでそれを!」



貴族が寒い格好で逃げ出そうとする。

と、俺たちの入ったドアノブを掴んだ。



「くそお!! お前らに知られてたまるか!……!?」



「逃げようとしても無駄ですよ、外には誰もいません、いつまでも追いかけてあげます」



そういわれた貴族はドアノブから手を下ろす。

その手は力なくだらんと垂れた。



「観念しましたか、おとなしく言うのです」



「……まて」



貴族の様子がおかしい。

立派にふるまっていた、ピンとした背筋は重いものにつぶされたように丸く歪んでいる。

よく見ると裸体の上半身からはだらだらと、吹き出す様に汗が流れていた。



「え? 何ですって!? 聞こえませんよ」



「おい……待てよお前ら……」



ドアに背を向け貴族はこちらを向く。

その目は虚ろで、なにか絶望のような闇に支配されていた。

俺達の間には不安が走る。

まるでこれから自殺でもするかのように貴族は絶望しているのだ。

村長に見せていた凛とした態度からは想像のつかないような見た目である。

顔が急に老けたように見え、呼吸も荒い。

アメリアが焦ったように聞いた。



「な、なに? なにか隠しているの!?」



すると貴族は小さな声で低く聞いた。



「お、お前ら……この城に入る前に、大きな雲とか……なかったか?」



「あ、あったけど?」



「ああ、ならもうだめだ、俺は、俺たちは地獄に来ちまったんだよ……」



貴族の言葉に嘘は見えない。

あの厚い雲が何か関係があるのだろうか?

アメリアの頬に汗が伝う。

俺も不安を感じていた。

ただでさえ不気味なこの城の中、急に貴族が人格が崩壊したように妙なことを言い出すのだ。

俺が彼に聞く



「く、雲がどうしたんだよ、なんでそんなに震えて……?」



すると貴族は悔しがる子供のように、今にも泣きわめきそうな悲しいになった。

激しい滝のごとく話始める。



「あの雲は跋扈様の城を守る魔法で、あれがあるうちに城に侵入した奴は跋扈様の魔法が襲うようになってんだ! ユウウェイ最強の魔法はただ死ぬだけを許さない! ここで死んだ侵入者は全員! 例外なく全身バラバラで言葉を忘れるほどの恐怖を味わってから殺されているんだ!! あの雲のある時は国の兵士や貴族でも侵入者扱いだ! もうすぐ、もうすぐ殺されちまう!!」



そして貴族は容姿に似合わず、膝を抱えて泣き出した。


俺は唾をのむ。

これは跋扈の罠にかかったってことだ。

きずかれないように侵入して不意打ちをかけることが失敗したのだ。


震える貴族に大きな雷鳴が届く。

同時に俺たちの入ってきたドアが開いた。

そのドアは外につながっているはずなのに、開いた先は長い廊下があって、奥は暗く見えない。


そんな廊下には一人の男が立っていた。


冷たい風がオドオドと通り抜けるような、どこか寂しく、何か恐怖を感じる暗く陰湿な廊下のドアの前、そこには、黒い面をし、肩までのびた長髪に、そこからから足元まで伸びるオレンジのマントをした不気味な男が立っていたのだ。

男はファッショーに出るモデルのように自信たっぷりな足取りで、堂々と貴族の前まで歩く。

いつの間にか外の風の音は聞こえず、空間は無音に変わっていた。


男は貴族の前で止まる。

機械のような声で怪しく髪を揺らしながら、しかし綺麗な体を持って、アンバランスな感じに、話し始める。



「ようこそ、我が城へ、私はユウウェイ代表、跋扈こと、ルシファルス・レッド・テテク、と申します」



そんな全身がバランス悪く主張するテテクは、不気味で恐怖のあるものだった。

混沌に足が生えて歩いているようだ。

俺はその恐怖に身震いする。


テテクは一間おいて言葉を続ける。



「本日は、貴族でもあるうちの騎士が大変ご迷惑をおかけしました。 今すぐ排除しますね」



テテクは長く伸びた左手で貴族の頭を掴む。

長い指は相当な握力なのか、掴まれた貴族は簡単にテテクに持ち上げられた。

一瞬正気を取り戻した貴族はワンワンと泣き叫ぶ。



「ま、待ってくれ! お願いです待ってください! 何でもします、これからより一層! 国のために尽力いたします!! どうか、どうかぁ!!」



「これからもっと頑張ってくれるの?」



「は、はい、それはもう、いくらでも働きます! 働かせてください!」



「でも君は雲の下から城に入ったよね? 侵入者も一緒に」



「そ、それは、あ、操られてて!」



「そういう言い訳嫌い」



「あ、ああ、ああああああ! お、お願い待って、お願いやめて、やだ、ああ! あああああああ!!」



テテクは右手で出した魔法陣で貴族をどこかに転送させる。


その光景を見ていたアメリアが叫んだ。



「仲間じゃないの!?」



「仲間ですよ?」



「じゃあ……なんで……?」



「仲間だからこそ、裏切りは許せません。 あのような者には恐怖を与えて死んでいってもらいます」



そしてテテクは扉まで再び戻り、そこを開けて一言。



「まずは、お食事でもどうですか?」



さっきまで寒い廊下だった扉の奥には、たくさんの椅子と大きなテーブル、暖かそうな料理のある部屋になっていた。


その部屋からは貴族の男の悲鳴が聞こえる。



「あああああ!! いやだいやだいやだやめてくれ! いやだいやだいやだ!!」



アメリアは絶句した。

小さく体が震えている。



「ここにいる誰もが恨む男の歌でも聞きながら食べましょうよ、ほら、早く」



むごい行いにクナが叫んだ。



「あなた! 何を考えているんですか!?」



それにテテクはゆっくりとお面を外して答える。

まず、傷だらけのおでこが見えた。



「いやいや、客は普通もてなされるべきなのですよ」



次に目が見える。

顔の奥から、血を涙のように流し、眼球は無かった。



「あの男、恨んでいるんでしょう? いっしょに痛めつけられるのを見ながらご飯でも食べましょうよ」



そして鼻、口が見える。

鼻先は削れ、口には大きな縦に走る傷が、こちらから見て右にあった。


余りに不気味な姿にクナが後ずさりをした。

あんなものは生き物ではない。

ゾンビのような、死人のような、魔物のような。


まさに混沌である。



お面を外し、テテクは、機械音も外れたがやはり不気味な声で、叫ぶ。



「さあ! さっさとお食事をして、早く帰りなさい!!」




「マリさん……?」



立体グロ画像のような奴を前にクナもアメリアも動けない。



「クナ、こいつは倒さなくちゃいけない」



俺は扉の奥に進んだテテクの背中を追う。



「キリノ村に変な薬を巻いて、自分の部下を痛ぶり、自分の娘を危険にさらした」



「マリさん……」



静かだった部屋に、テテクの歪んだ笑い声だけが響く。

アメリアは腰を抜かして座っていた。

俺の足が速くなる。



「今ここで倒す!」



そういって俺は走り出した。

薄暗い部屋を抜け、扉を通り抜ける。


身体強化を使おうとした瞬間、右の脇腹に強い衝撃が走り、俺は部屋の奥まで吹き飛ばされた。

それをやった男、テテクはドアの前でニタニタと笑っていた。



「甘い! 甘いですよおおおおお!!」



俺は右手に魔力を集め、テテクへと殴り掛かる。



「マリさん、だめ!!」



「テテク!!」




(不気味な男 了)


ブルートとレッドは誤字とかではありませんのでご了承ください。


気が付けばもう今年も日が無いようですね。

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