22.後の二人
22.後の二人
「はぁ……はぁ……んんっ!」
「お、おい……クナ……へんな声出すなよ……恥ずかしいだろ……」
俺の顔が熱くなる。
クナの体が自然と熱を帯びてきた。
「ま、マリさん……きついです……んんっ……」
「お、お兄ちゃん……私ちょっともれてるよ……? もっと、奥までいって?」
少女の体も熱くなる。
しかし俺も手一杯だ。
三人はちょっときつい……。
俺の顔が熱くなる……。
「も、もうこれ以上は無理だ……! 早くしないと出ちゃうぞ!?」
「ちょ、ここで出すのはダメです! もうちょっとまってください!」
「お、お兄ちゃん私も、私も、もうちょっと奥まで入れてくれないと……」
「お、おい、静かにしろ……見られちゃってもいいのか?」
「ふんっ! どこに隠れやがった……」
街中を駆け回る兵士の声が聞こえる。
あれから……ユウウェイの兵士に囲まれてからどうにかここまで逃げてきた。
クナと一緒に逃げ回り、偶然見つけた街に駆け込んだ。
そんで、兵士の目を避けて再び路地裏に隠れているわけだ。めっちゃ狭い……。
「ちっ、あっちを探すぞ!!」
兵士がどこかへと駆けてゆく。
危険を脱した俺たちは一気に雪崩れた。
「ふう……やり過ごせた……」
「ええ、ものすごく狭かったですね……私なんだか変な気持ちになってしまいましたよ……」
「お兄ちゃん……凄かった……」
「お前ら何言って……なんでお前までついてきてるんだ?」
赤毛の少女がそこにいる。
小さな手提げに小さな体で俺達についてきたみたいだ。
「お城の人は意地悪だから敵じゃない私も追いかけてくるんだよ」
「大変ですね……」
クナが憐れむように言った。
「お兄ちゃんたちは何でここに来たの?」
少女はチョコンと首を傾げた。
「俺たちは……
クナとクラナと路地裏を歩いていて……角を曲がったら……ここにいた?」
信じるわけないよな……自分でも何を言っていいるのかよくわからない。
しかし少女はすぐ何かに気づいたようだ。
「あー、拉致だね」
「拉致?」
「どういうことですか?」
クナが聞く。
「最近多いんだ、拉致 表の世界のあちこちにユウウェイへの入り口を作って、迷い込ませちゃうの」
「なんでそんなことするんだ?」
「うちの国すっごい人少ないからさ……迷い込ませた人たちを勝手に住民にさせちゃうんだよ」
「戻れないのか?」
「たぶんね」
「え、戻れないんですか?」
「戻れたら住民になんてならないよ」
え、じゃあ……。
「俺達、閉じ込められた!?」
「まあ、入り口を作ってる人を倒せれば話は別なんだろうけど……」
「ユウウェイへの入り口を作る人……んじゃまあ、そいつをボコりましょう!」
クナが腕をまくって瞳を輝かせる。
「いやいや、お前魔法使えないだろ……倒さないでも、話せば返してくれるもしれないぞ?」
「それはないでしょ……」
クナに幻滅された。
「うん、それはないかなー」
少女が割って入る。
少し寂しいような横顔でつぶやいた。
「入り口を作る人……跋扈様は、絶対に国民を逃がさない、逃げたものは直々に殺しに来る」
「跋扈……大魔法使いの一人ですか……」
「なんでそんなに詳しいんだ? 有名な魔法使いなのか?」
「まあ、国内じゃ有名な話なんだ、皆最強の跋扈様が怖い、誰も逆らえない、国王さえも跋扈様の言いなりさ、逆らったらどうなるか知れたもんじゃないからね。 だから知らない人はいない……それに……」
「それに……?」
少女は薄い色の儚げな笑顔で、何もかも投げたように笑って呟いた。
「跋扈様って……私のお父さんなんだよね」
--------------------------------------------------------------------------------------------
「うーむ……」
おじいちゃんが唸っている。
こう、老人がうーん、うーん、と唸ると、怒っているようにも、ただ考え事をしているだけなようにも見えて、何を考えているのか読み取れない。
仕方がないので勇気を出して話しかける。
「ファ、ファルシスさん!」
「はっ!? 寝ておった……すまぬな、で、なんじゃ?」
寝てたんかい。
「このままじゃあマジで情報が一つも得られません、一回クラナと合流しましょうよ」
あの後、ホテルでクラナにぐるぐる巻きにされた後、私はなぜかファルシスさんと別行動することになった。
そんで朝から聞き込みをしようと変装した体で大通りに出てきたわけだけど、ベンチで休もう、なんてファルシスさんが言ったきり、2時間ほどファルシスさんが眠ってしまっていた。
私も夏の涼しい風を浴びて、敵国ながら「お洒落だなー」と街を眺めていたらついさっき仕事していないことに気が付いた。
ファルシスさんが「そうじゃな……」と言ってゆっくり立ち上がった。
午前の緩い時の流れに優しい風が私たちの頬をかすめる。
静かな町で一匹の鳩が大空に飛び立った。
するとなんだろう、遠くのほうで不気味な鐘の音が鳴っり響く。
街を彩る動物たちは一目散にどこかへ消え、人々はざわざわとどこかへ行った。
生き物のいなくなった町のベンチの横、お爺ちゃんと二人雑談する。
「バーゲンセールでもやってるんですかね?」
「何かの祭りの合図かもしれないぞ?」
すると、どこからか真っ白な幽霊みたいな集団がここまで歩いてきた。
場違いなほどに真っ白なのでちょっとおかしいな、なんて思ったが、お祭りだったら参加したいので話を聞いてみる。
「こんにちは、この鐘は特売の合図ですか?」
「何を言っているのだ? 手錠を忘れたのか? そこのジジイを捕まえたならさっさと行くぞ、ほら、手錠を貸してやる」
「うっす」
なんだかわからないが手錠を集団の一人から受け取る。
カチャッとファルシスさんに手錠をかけた。
「えー、午前11時48分、強姦、放火、殺人、強盗、強制わいせつの疑いで逮捕しますね」
「そんな……」
ファルシスさんが少ししょぼんとした。可愛く……ちょっとかわいい。
まあ、このままだと再びベンチに腰掛けたファルシスさんがいつまでたっても動き出しそうに無かったので、手錠を引っ張り連れていく。
「冗談です、ついて行ってみましょう」
オサレな喫茶店を横切るとき、魔法の音が聞こえた。
癖のある炎と闇の魔法、それと何かを思い切りたたきつけるような爆裂音。
人がばった、ばったと倒されるその向こう――――そこには互いに背を向け戦うクラナとアヌスの姿があった。白い奴らと戦っている。
どちらも全く減らない敵に苦戦を強いられている。
私に親切に手錠を貸してくれた男の人が叫びながらこっちまで来た。
「お、おい、やばいぞ、ありゃあ邪炎と豪傑だ! いったん引く、お前もこい!」
「え?」
なんか大変そうだったけどよくわからんので無視してクラナのほうへと歩き出した。
「お、お前……無茶する気か!? やめろ!! 死ぬぞ!!」
「ふ、ここで戦わなくちゃ二人とも死ぬぜ……俺が抑えてやるから!、お前は早く行け!!」
「お、お前ッ! 手錠忘れてた時は正直なめてるとか思っていたけど、本当は結構いいやつなんだな! ここはお前に任せたぜ! 絶対に助けるからな!」
ふざけて会話に合わせたら変な方向に進んでしまった。
まあいいや。
「ちょっと、通ります、どいてくださーい」
ファルシスさんと二人で「すまんのう……すまんのう……」と白い人たちを潜り抜け、クラナのほうへと向かった。
途中アヌスに剣を向けられたけど軽くよけたら驚かれた。私強い。
-----------------------------------------------------------------------------------------------
さすがにびっくりした。
白いユウウェイの兵士の間を、真っ黒なファルシスおじいちゃんと、ユウウェイ兵と見分けがつかないほど、いや、それ以上に真っ白なソラがこっちに歩いてきた来た。
さも当たり前のように敵軍を平然と潜り抜けるソラをアヌスは敵と見間違えて切り殺そうとするくらいだった。
「何やってんのよあんた!?」
驚く私にアヌスが小声でつぶやく。
「クラナさん、そいつ他のやつとは少し違うみたいです、気を付けてください」
「ええ、まあ、常人からは想像すらできないほどの変態だからいつでも警戒しているんだけど……」
するとソラが真顔になる。
いつものだ。
「そ、ソラ……?」
ソラの体が小刻みに震えているようだった。
初期微動が本震への不安を高ぶらせるようにソラの震えが不気味に見える。
敵の皆は「あの子大丈夫か?」「あれって味方だよな……助けたほうがいいかな」なんて話していた。白いから完全に仲間だと思われてる。
「クラナ……そんなに私のこと考えていてくれたなんて……」
ソラの顔が歓喜の色に染まる。
「直球で警戒しているって言ったつもりなんだけど、できるはずのない語弊が生まれていたみたいね!」
私の炎と敵の雑魚魔法が飛び交う中でソラは私のことだけを両手を合わせて眺めていた。
「ちょっと、ソラ! 危ないからどきなさいよ! あてるわよ!?」
「ううん、いいの、クラナ、私クラナ大好き!」
「何言ってんのよアンタ!? ちょ、ちょっとやめ、マジで、ちょ、あああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
ソラが敵の前だというのに私にとびかかる。
見た目からは想像できないような力で抱き着かれた。
私は地面に仰向けで倒れた。
引きはがそうとしても瞬間強力接着剤もびっくりの接着具合、もはや脱出は不可能ね。
「やめええろおおおお!!」
まだ自由に動く両腕でがむしゃらに魔法を打ちまくる。
「お、おい、あいつ邪炎を抑え込んだぞ!? いまだ!!」
勘違いした白い奴らが一斉に攻撃を開始した。
「わああああああああああああああああああああ!!!」
怖すぎる。
いつもなら簡単によけられるような雑魚魔法もこう、ソラが邪魔でよけにくい。
雨のように炎が降り注ぐ。
ちょっと優秀な雷魔法とか使える奴は私の周りに電流の洪水を起こす。
今にも当たってしまいそう! ヤバい!
意識しなくても全身に力が入る。
間違って爆裂魔法を全方向に発射してしまった。
全方向に吹き飛んだ小さな赤い球は敵軍に当たっては、当たった順に爆発していく。
周りの建物も、大通りも、片っ端から破壊されていった。
しかしまだまだたくさん生き残っている。
一向に魔法の攻撃も減らない。
「もうやめてえええええええ、離してえええええええあああああ!!!」
渾身の力でくっつき虫を跳ね除けそうとする。
いまだにソラは私の腰に頭をうずめている。
だんだん上に上がってきて、顔を胸にうずめようとした、その時……!!
「ふへぇぇぇぇぇえええ!!?」
ソラが涙目で突然顔を上げた。
「え、か、解放された……? ソラ……?」
「く、クラナ、は、早く病院に!!」
「何言ってんの?」
ソラの顔がみるみる青くなっていく。
何か見てはいけないものを見てしまったようにソラが私から離れた。
「く、クラナに胸がある!! 救護班!? 救護班はどこ!? はやく取り除いて!!!」
「取り除かんでいいわああああああああああ!!」
激しい怒りとともに爆発誘発魔法が全身から発生する。
これは、炎などに触れると爆発する気体のようなものを全身から放出するというものだ。
気体は一体に広まり、白い集団を包んだ。
と、ちょうどその時、先ほど真上に打った爆裂魔法が空から降ってくる。
何にも当たらず爆発することのない赤い球は重力に従って帰ってくるのだ。
それが床に落ちたと同時に世界が真っ赤に包まれた。
周りにはやられた白い兵士と私、絶句しているアヌスとバリアを片付けるファルシスさんと真っ黒に焦げたソラだけが残った。
綺麗な街は、そこだけが戦争跡のように消え去っていた。
「や、やっちゃった!?」
(22.後の二人 了)
今日はちょうど27時間テレビです。
アニメの一挙放送とか、2〇時間とか長時間番組ってテンション上がりますよね。