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20、空ろな種族と始まりの鐘 ①

深夜のテンションってすごいですよね。

電話とかが永遠に止まる気がしない……。

20、空ろな種族と始まりの鐘 ①



泣きわめくクナを一旦落ち着けるため、近くの喫茶店へ三人で入る。

店の端のほう、店内からも、店外からも死角である席に座る。

クナとクラナが壁側、向かいに俺だ。

アイスコーヒーを三つ頼んでから会話が始まった。

「なあ、なんで魔法使わなかったんだ?」

クナに問う。

こいつなら、俺が助けなくったって、さぞ簡単に不良なんぞ葬れるだろう。

だがクナは一切の魔法を使わなかった。なぜだ?

黙っているクナに代わってクラナが答える。

「お兄ちゃんは知らないかもしれないけど、この女は……特別だから、魔法を使うとすぐにいろいろばれちゃうのよ」

妹の前に座る俺ですら注意しないと聞こえないほど小さな声で説明された。

クナが特別、というのはきっと、クナが世界中に知られている、ということだ。

アヌス曰く魔法の天才らしいからな。

妹は補足を加える。

「一応戦争中だし、私たちの国の守り神がクナだからね、自国にいないとかばれたらまずいでしょ?」

「そうだな……」

すると確かに魔法は使えなくて当然か。

だったら……

「お前、なんであんなに危険な聞き込みをしたんだ?」

今度はクナに問う。

彼女の口から聞かなくてはいけない。


クナは嗚咽交じりにつぶやいた。

「あはは……なんか調子乗っちゃいました……ごめんなさい……」

クナの目は、俺の目を見ようと持ち上げられるが、何か錘でもついているのか、すぐに下がって下を向いてしまう。

色濃くなった影は痛々しさを倍増し、生まれた雰囲気は出てくる言葉に重力をかけて重くした。

きっとひどく反省しているのだろう。

誰も知りえない、神として受かれ継がれてきた、クナもつ莫大な情報量とクナ自身が生まれつき持つ正義を、どうしたらうまく融合して力に変えられるのか、難しくてわからないのだ。

子供の頃からためてきた平和への憧れ、今、それを現実のものにするためになら、何でもやってやろう、なんて考えているのかもしれない。

だから方法を間違う、ゴールに向かって先走る。


何も知らない、この世界に来たばかりの俺には、こんなときなんて声をかけてやればいいのかなんてわからない。

クナのような天才の気持ちも、その葛藤も正義もわからない。

引きこもりの高校生には想像もつかない。

でも、何も知らないからこそ、のんきに出せる言葉がある。

何も考えていないような軽い言葉に、隠したほんの少しの優しさだけ乗っけて、人は人に声をかけられる。

俺はクナには目を向けず、なんでもない宙を向いて軽く一言だけつぶやいた。

なんの意味も持ってないように、不器用にも演技して。

「その……あんま無理すんなよ」

頑張ってるやつには結構この言葉が効くのだ。

そういうやつは、いっつもやることがいっぱいいっぱいな生活を送っているから、それをわかってやるように言ってやる。

クナからは声はしなかったが、恥ずかしそうに深く顔を下に向けていた。

なんだか俺は顔が熱くなるのを感じていた。

ごまかす様に頬杖をついて、興味なさそうに視線をキョロキョロ店の壁に向ける。

クナの頭の中が一瞬でも真っ白になってくれれば幸いだ。

そんなことを考えていると、妹が俺にジト目を向けてきた。

「な、なんだよ」

「別に」

なんだかプイっとそっぽを向いてしまった。

まあ、反抗期とか、そういうお年頃なのだろう。


それにしても会話が途切れてしまったな。

こういう喫茶店で、予定もなく誰かと集まった時とかは結構話が続かなくて困る。

仲の良い友達のはずなのに、いままでなんの話して仲良かったんだっけ!?みたいなことを考えてしまう。

たいてい、そういう時は相手も同じことを思っており、30秒ほど過ぎると互いにスマホを取り出すのだ。

そして何をいじるわけでもなく、目の前の相手とは関係のないことを考え出す。

そんな状況に似ていた。

と、いうわけで違うこと考える。

そういえばアヌスとの待ち合わせ時間が近づいている。

どうやってこっからアヌスに合わせるかな……?

そういえばアヌスが隠れている路地裏は、ここからでも近いはずだ。

善は急げ、今のクナだったら、アヌスの思いが届くかもしれない。

少なくともいきなり倒しにかかろうとはしないだろう。

「うし! 行きたいところがあるから、行こう」

アイスコーヒーを掃除機で吸い上げるかの如く超速で飲み切り、バッと立ち上がり、二人に告げる。

するとクナも真似してアイスコーヒーを5秒で飲み切り、「はい!」と元気よく返事した。

その後、30秒ほど妹が飲み切るのを待って、三人で店を出る。

約束の場所へと歩き始めた。



この町は来た時から今までどこから見ても超がつくほどウルトラおしゃれだ。

どれくらいおしゃれかというと、現代で言う、“える〇す”?とか“べ〇つ”?とかくらいおしゃれだ。

それは、この町が入念な設計計画の元、築かれたものだかららしい。

だから、どこから見てもおしゃれに見える。

すなわち、お洒落になれない裏の世界もあるわけだ。

見せたくない部分をすべて覆い隠すために自然に完成された巨大な空間、それがこの町の路地裏である。

入り組んだ構造をしたうす暗い通路は、人を遠ざけ、野良猫が群れを成す。

日が一日中当たらないため、菌が繁殖し、勝手にごみが捨てられ、かといって清潔にしようなんて考える者もいない。

アヌスとの待ち合わせ場所はこの路地裏の奥地にある。

確かこのレストランと右の店との隙間から入り、進んで当たった角を右に一回、左に一回、二つスルーして右に一回曲がると着くらしい。


埃臭い道をごみを避け歩く。

まず右に一回方向転換。

クナとクラナは不安そうにもついてきていた。

「にゃあああ」

落ちている箱の上では丸々と太った野良猫がけだるそうに欠伸をしていた。

「あの、クナさん、どこまで入るんですか?」

「ちょっと、待ち合わせてるやつがいるんだよ」

「なんで、こんなところで待ち合わせているんです?」

「そいつが有名人だからな、喫茶店とかじゃ騒ぎになるんだよ」

それに狭いとクナも動きにくそうだしな。戦いにでもなった時の対処も兼ねている。


だが少し狭すぎるな……。

アヌスが待つ場所は少し開けているらしいが、続く道はかなり狭い。

明らかに二人並んでは入れない。

俺一人でもきついくらいだ。

クナなんて狭いどころではないだろう。

さっきから「はぁ、はぁ、んくっ……」と熱く苦しそうだ。

対照的にクラナは何でもないように進む。

クナにはある胸が妹にはないからな、超動きやすい、めっちゃ快適。

でもそう考えると、胸がないと暑苦しくないから夏とか快適そうだよな。

やっぱ貧乳はステータス! 地球にエコ!

でも俺はやっぱそれなりにあるほうが女性っぽくていいかな……なんて思ったりするけどな!

「おにいちゃん……つぶやきが聞こえる……」

「え、ええ? 何言ってんだ? あはは」

俺としたことが、妹に対する大きすぎる愛が言葉として出してしまっていたらしい。

笑ってごまかす。

しかし何だろう、クラナなら石の一つでも投げてきそうだが、なにもされない。

怖くなって後ろをちょっとだけ見る。

するとそこには深淵を思わせる闇を従えた妹の姿があった。

目の奥には深い悲しみとこれまでの激しい経験が映っていた。

クナがはぐらかす様にからかう。

「ふふふ、お兄ちゃんはお胸の大きな人に気があるみたいですね」

するとクラナは宇宙の果てを思わせる深い闇を真っ赤な怒りに変えて反論する。

「あ、あんたはちょっとでかすぎるから駄目ね、お兄ちゃんは巨乳が良くても、爆乳は受け付けないのよ」

自信がないのか、若干の震え声は覇気がうすいようにも感じる。

クラナは一言、誘うようにまくしたてる。

「まあ、胸が無いのはエコで快適ですからねぇ、クラナちゃんはうらやましいなぁ、私のを分けてあげたい」

見ずともわかる。

微笑交じりのクナの顔はきっと楽しそうににやけているのだろう。

「そ、そうよね、タコみたいにブヨブヨの下品な乳だと大変よね、さっきから歩きにくそうじゃない? いっそ減らしたほうがいいんじゃないの? ほら、私に分けて御覧なさいな?」

クラナも必死に抵抗する。

「妹よ……。」

「おにいちゃん……」

「ふふふ、お兄ちゃんにも見捨てられてしまったみたいですねぇ、そんなクラナちゃんにはとっておきの魔法をかけて御覧に入れましょう!」

ちょうど細い通路を左に曲がるとき、クナがそんなことを口に出す。

俺は後ろを見る気もないのでがつがつ進むが、クナの魔法でクラナの体が発光したようだ。

背面からかすかな光が漏れる。

するとクラナは「ひゃあ!?」なんて可愛く叫んだ。

やれたれ、と一旦歩みを止める。

後ろを振り返るとなんということだろう。


クラナに……胸がある……だと……。救急車呼ばないと。


対照的にクナの胸がなくなっていた。

胸の大きい人用のクナの服がゆるゆるに垂れ下がる。

クラナの服はぱっつぱつであった。

「ほぇー、クラナちゃん、こっれはもう……ないというか……クレーター? 0じゃ無くてマイナスですね……」

そういってクナは動きやすそうにピョンピョンはねて見せる。

逆にクラナは重そうに唸った。

「なによこれ!? こんなの、ん!、ああ!、歩きにくいっ!!」

一気に最後尾にいるクラナの歩みが遅くなる。

「まあ、先に行ってるから、早く来いよ」

なんて冗談交じりにつぶやいて、俺とクナは、クラナをおいて2つ目の角を左に曲がる。

次の瞬間、暗かった通路はドッキリでした!!と言わんばかりに影が消える。

圧迫感あのある壁はなくなり、広い草原に出た。

「あれ、マリさん、もう裏路地攻略完了ですか?」

クナがんー!と気持ちよさそうに伸をして言った。

「んん、おかしいな、あと3つくらい曲がり角があったはずなんだけど……」

草原を二人で少し進んでみる。

すると、後ろから女の子供の声が聞こえた。

「ちょ、ちょっと!? あんた達いまどうやって現れたの!?」

振り返ると、赤い髪をした涼しげな格好の女の子が立っていた。

いままで通った裏路地は、なぜかもう見えなかった。


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「んん!!! んああああああああ!!! ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! ふんすっ!!!」

狭い壁に挟まった爆乳をスポん!!とはずす。

あの女のせいでこんな体になってしまった。

ちょっと嬉しかったりはしない、断じてそんなことはない。

「んもお!! ちょっと歩くのがはやいのよ! おいてかないで……よ?」

少し足取りを速めて角を左に曲がる。

きっとそこにはクラナ大好きなお兄ちゃんと忌々しい女がいると思ったんだけど、いない……?

ここから次の角までざっと100メートルはある。

こんな狭いとこでは体力強化の上、全力疾走しても、この短時間で次の角まではいけないはずだ。

そもそも魔法を使ったような音もしなかったし……。

「え、ど、どこいったの?」

やばい、この爆乳でここに取り残された!?

あの女にしか体の形を変えるなんて高度な魔法使えないし、もどれない。

こ、このままじゃ……野良猫のエッチな餌になっちゃう……何考えてんだろ。

え、本当にどうしよう。キョロキョロ辺りを見回しても二人はいない。

しかし、聞き覚えのある声が耳に届いた。


「お~い、そんなところで何をしているんですか? 大丈夫ですか?」

「え?」

うす暗くてよく見えない路地の奥、私たちが曲がろうとしていた二つスルーしたところにある角に、なんかでかい男が立っていた。

暗くてもわかるほどの筋肉。

堀の深い顔。

デカい剣。

忘れない声。

筋肉。

「アヌスぅ!?」



(空ろな種族と始まりの鐘 ① 了)


毎回誤字脱字が少なからず割と多くみられます。

不定期ですが直しておりますので(直したら報告します)是非来てみてください。

(変更が少ないときは、報告場所に変更点も一緒に載せておきます)

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