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19.作戦開始!

平成最後の夏が終わってしまううううあああああああ( ;∀;)

19,作戦開始!


「うしっ、作戦開始!」

街中、商店の林立する大通りにクナ達と立つ。

「いやー、暑いですね」

額の汗をぬぐってクナが言葉を漏らした。

確かに暑い。この世界でも夏の働き用は非常に関心させられるばかりだ。

なぜこうも飽きもせず、テカテカギラギラしているのか……。

引きこもりにはちょっとキツイ。体が砂になっちゃうような気がするのだ。

「うぐぐぐ……」

後ろの方から力ない声が聞こえる。

なんだか疲れたような妹が立っていた。

寝不足の匂いがする。

「おい、大丈夫か?」

心配して聞くと、「だ、だいじょぶ……」と儚げに答えた。


「うし、では改めて……」

「作戦開始!」(アヌス退治)

「作戦開始!!」(クナ説得)

「作戦開始ッ!」(お兄ちゃんと仲良くなりたい)

かくして、それぞれの思いを乗せた作戦は始まった。


朝早くから商店街は人で賑わっていた。

しかし、買い物をするわけではなく、それぞれが思うままに雑談に興じている。

俺たちは昨日の事件もあるので、髪形を変えたり眼鏡をかけたりと変装している。

クナは髪を黒く染め、眼鏡をかけてピシッとした印象だ。

服装はこの世界に不釣り合いなスーツである。


「そういえばさ」

「なんですか?」

「なんかこの世界って俺のいた世界と似ているものとか多くないか?」

俺が指す似ているもの、とは、コンビニそっくりの雑貨店や、現代と見分けがつかない缶ビールやトイレ、今クナの着ているスーツとかだ。

町のメルヘンな雰囲気と対象に、建物の内側や売り物などは現代に流通するものに酷似している。

て、いうか、マジでそのスーツエロい。

胸元が大きく強調され、クナの個性が遺憾なく発揮されている。

しかし、やはりクナなので、胸を見ずとも顔はいいし、尋常ではない程細いくびれが俺の視線の糸を絡めて解いてくれない。

やがて視線はゆっくり上昇し、足先から移動してクナの目線と重なる。

文句ないです! なんて言おうかとも思っいると、クナが顔を赤くしてそのまま視線を解いてしまった。

「あ、あんまりジロジロみないでください……」

「ご、ごめん……」

なんだか初めて海に来たカップルみたいだ。ドキドキする。


「こ、この世界は元はクナさんの世界と一緒ですし、方法は違えど、なんだって同じように作れます、人間、考えることは同じってことです」

「魔法で世界を作っても、電気を駆使しても、なんとなく似るってことか?」

「そうです」

やばい、クナが頼れる弁護士みたい。

いや、これは女秘書だな、愛人にしたい選手権No,1確定だね。

「ぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……」

錆びたクレーン車が腰を捻るときのような音が聞こえたので後ろを覗いてみる。

クレーン車ではなく妹が何やら唸る音だった。

「お前、大丈夫か……?」

寝不足なのだろうか、一緒に寝てやったほうがいいのかな……。

妹なんて急にできたので、あまり考えていることがわからない。

でも、やっぱりお兄ちゃんだから心配になるものだ。

俺の妹がこんなに可愛い。

しかし愛するクラナはゴミでも見るような目で俺を一瞥すると、可愛い顔をふくれっ面にフォルムチェンジして、プイっと太陽さんのほうを向いてしまった。

「ふんっ」

昨日の夜騒いでいたからな、もしかしたら、同室だったソラの対応に困っていたのかもしれない。

それにしても、俺の妹と無条件で見つめあえる太陽さんには感謝してほしいものだ、なんか最近俺は妹に話されていなかったのだが、この上妹と目も合わなくなると思うと、太陽さんマジうぜえ。

一日位休めよ、あと何回最高気温出すんだよ、その向上心にはいつも圧倒される。

ちなみに、不機嫌のクラナの変装は一般人だ。村人A的な。

ついに自分が一般人であることに気づいてくれたようで、兄としては妹の成長に感動する。

しかしなんだかその人妻感は消したほうがいいぞ、緑っぽい、ポンチョのような貫頭衣に身を包んでいる。

それだけならいいのだが、買い物籠と後ろで一つにまとめられたポニーテールの金髪、まだまだ垢抜けない童顔に白いエプロンなんてついていたらそれはもう新妻だ。

妹にこれを言うのもなんだが、エロい。

ポニーテールにするなよ、お兄ちゃん鼻血がでそうになっちゃう。

もしもこれがライトノベルの中の世界で、妹が俺大好きだったら、クラナは俺の妹で妻なんだろうなあ。

きっと裸で味噌汁とか作っているのだろう。愛してる。


俺が家族に向けた全力の愛を心の中でなんとなく第三者に説明するように演説していると、顔がぐでぐでに緩んでいるのを気づかれたか、クナに足を思いっきり踏まれた。

クナの艶めかしいハイヒールは俺の臭い足の甲にたくさんの妬みを携え突き刺さる。

針となった靴は神経を的確に刺激するようにぐりぐりとねじ込まれる。

やがてそれは悲鳴ともつかない嗚咽と変化し、俺の体を光の速さで通り抜けたかと思えば、化粧を忘れたように澄み切った青空へと飛んで行った。「ぐおおおおおっ!!」

そんなことを考えて痛みを和らげる。泣きそう……。

クナは「ふん!」と言って歩き始めてしまった。みんな反抗期なの……?

今回はそんな彼女らと頑張ります。

ソラは……知らない。ベットとかにぐるぐる巻きにされてたら面白いな。


ここでまず、ぶらぶらと適当にアヌスの弱点探しを手伝う。

その後、指定の路地裏に構えているアヌスとこっそり合流。

クナに土下座して頼み込む。

これが今回の作戦だ。

今、俺がやらねばならないのは、全力でクナの機嫌を良くすること。

今日は媚びて媚びて媚びまくるぜ!



クナがさっそく聞き込みを開始する。

相手はぶらついていた若い男だ。

そいつにクナは走り寄り、少し息を切らして話しかける。

「あ、あのぉ~、ちょっと、いいですかぁ~?」

なんかクナの言葉がグニョングニョンに伸びている。

気の緩んだ声はまるで自分は隙だらけですよー?なんて見せつけているようだ。


「は、はいいいいっ!!」

男はやけに緊張している。

こういうお姉さんに話しかけられたことが無いのだろう。

俺も昔、学校の保健室の美人な先生に話しかけられてどぎまぎしてしまった記憶がある。

小学校時代の甘い記憶だ。

告白したら、「そういうのは、マリ君がもっと大人になってからね?」なんてからかわれた。

今思えば酷い黒歴史の一つだ。


「あのぉ~、私、アヌスって人について聞きたいんですけどぉ~……」

「ア、アヌス……?」

「お兄さん、いろいろ教えてくれそうだな~っておもって~……」

なんかすっごいエロイ。いろいろ教えたくなる。

「ま、まあ、知らないわけではありませんが……」

男の顔は真っ赤だ。

こっから見ていてもクナには魅了されてしまうのに、目の前だとなおさらだろう。

超絶美人がほんのり赤い顔で、隙だらけの体で現れたのだ。

見た目高校生くらいのあの若者には刺激が強いだろう。

そんなな中、俺の胸は薄靄がかかったように沈んでいた。

沈み始めていた。

なんでだろうな。


「わ、私に……、私に教えて……?」

クナは若い男に下から覗き込むように、甘えるように聞く。

完全に男を丸め込むつもりなのだろう。

男が不良とかだったらどうするつもりなのだろう。


「ぐへへへへへ、お嬢ちゃん、俺たちが手取り足取り教えてやるよ」

ほら来た、変な輩。

たちまちクナは色黒筋肉質な男たちに囲まれる。

まあ、クナだ、いざとなったら簡単にぼこぼこにするんだろうな。

「ほらほら、嬢ちゃん、そこの宿行こうぜ、たっぷり可愛がってやるからなぁ……」

男たちがふひふひ言っている。

きっと頭の中には自分たちがクナを抑え込んでいる映像が流れていることだろう。

「ほら、ほら、嬢ちゃん、行くぞー!」

「ぐへへへへっへへっへ」

男たちは勝手に盛り上がった。

若者はビビッてどこかへ消えてしまった。

クナはすぐボコるぞ、ほれ、ボコられるぞ?そーらボコられるぞ?


しかし何だろう、クナが何もしない。

抵抗するわけでもなく、ただただ男たちを怖がっていた。

遠目から見ている俺からでもわかる。

震えている……。

「嬢ちゃん、ほらどうしたよ、動かねえんじゃここで始めっちまうぞ!? ほーれ!」

リーダーだろうか、筋肉質の体の大男がクナの胸を撫でた。

「ひゃあっ!! や、やめてください……」

男たちはぐへぐへ笑っている。

「うぁ……うぅ……」

クナは今にも泣きだしそうだ。

でも何もしない。

あんなに強いのに、戦えば絶対に勝てるはずなのに。

「たまんねぇなあ、こっちこいよ、俺の嫁にしてやるぜぇ!」

そういって、もう一度クナの胸に手を向けた。


「やめろよ」

俺は男の手をありったけの力で掴む。

俺の制御不能の魔法で強化された握力は自分でもコントロールできないほど強くなり、男の腕からはグギギ……と軋む音がした。

クナが驚いたように目と丸くしてこちらを見ていた。

「へ……?」

クナの口から漏れた言葉は一文字だったが、喉に何か詰まっているかのように震えていた。

泣いていたのだ。


「くそお!! なんだぁてめぇ!? 離しやがれ!」

絵にかいたような悪役は必死に俺の手から自分の手を引きはがそうとする。

だが、離れない。

「離さねぇよ……」

俺が右手に少し力を込める。

ほんの少しだ、でも男からしては倍の激痛だろう。

「お、おおおお!!、お前ら、早く何とかしろ!」

逃げ出そうとするかと思ったが、リーダーの男は仲間に助けを求めた。

仲間もリーダーを見捨てず、俺に殴りかかってくる。

クナからチート級の魔力をもらった俺の肉体強化だ、銃弾だって避けられる。

そんな俺に攻撃が通じるわけもなく、俺はひょひょいとパンチをよけて、握る力を強める。

骨にひびが入るだろうギリギリのところで、それ以上力を入れるのをやめた。

「おいほら、このままじゃこいつの腕折れるぞ?」

すると、俺に腕を握られている男が耐え切れずに叫んだ。

「わ、わかあった、は、はははは、はなせ、はなせ、悪かった、悪かったよ!」

俺はバッと男の腕を解いてやる。

男たちは小さな舌打ち交じりにどこかへ消えてしまった。


「はぁ……」

一息つく。

骨とか折りたくないしな、あいつ等がもう悪さしないことを願うばかりだ。

「う、うぅ、ひっぐ……」

クナのほうに目をやると、らしくもなく大泣きしていた。

「大丈夫か?」

クナの体を支えてやる。

「う、うぅ~マリさぁぁぁん!」

すると、クナがガシッと俺に抱き着いてきた。

そんな女神さまの背中を抑え、頭をゆっくり撫でてやる。

「怖かったな、今度から気を付けような」

「うん!! うん!! もうあんなことしませえぇえぇん!!」

その後しばらくクナと抱き合っていた。

その間、女神さまは赤ん坊みたいに、みっともなくわーっと泣きわめいていた。

通りのど真ん中で抱き合っている俺たちを道行く人々は拍手で見ている。

不良退治の下りからやじうまが集まっていたらしい。

少し恥ずかしいから目を閉じてクナの顔に頭をよっかからせる。

クナはいつものようにいい匂いがしたし、暖かくてくすぐったい感覚だった。

胸の霧は薄れたようだった。



(19,作戦開始! 了)


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