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キラキラと輝く銀髪が風に揺られ、馬車の外を覗いていた首を慌ててひっこめました。
何重にも重なったような不思議な色合いをした紫色の瞳は私の密かな自慢ですが、今では伏せがちなために黒にも見えていることでしょう。
「はぁ…」
何度目かもわからないため息を吐いて私はまた、外に眼をやりました。外で駆けずり回っていたはずの子供達は私の乗った馬車を見た大人たちに頭を抑えられ、膝をついてこうべを垂れています。
まるでここは鳥の籠のようです。
「ぐっ…」
微かに呻き声が聞こえてきた気がして私はばっと顔を上げました。慌てて窓の外に眼を向ければ一人の男性がうずくまってるのがわかります。
いけない!助けないと!
「馬車を止めなさい!!!」
大声で叫ぶと、慌てて御者が馬を止めてくれました。急停止により馬車に負荷がかかったのかぎしぎしと嫌な音をたてますが、気にせずワンピースの端を持ち上げて駆け下ります。
中に乗っていた侍女の焦った静止する声が聞こえきても無視です。急いで駆けよろうとすると、人々が跪きながらも私を避けるので簡単にたどり着くことができました。
「大丈夫ですか?どこが苦しいのでしょうか?」
「あ…む、むねがっ…ぐるじっ…うぅ…」
見れば男性は胸元を強く掴んでいます。私は男性の胸を掴む手を優しく掴み、少しずらして胸元に右手を置きました。
そして左手は首から下げた紫色の魔法石を掴み『ヒール』と念じます。できるだけ魔術の力が心臓あたりに集中するように力を込めると、男性の呼吸が緩やかになり呻き声も小さくなっていきました。
「ストーン神のご加護がありますように」
実はこれを言う時、とても不信なことですが私は少しにやけてしまいます。だってストーン神ですよ?この神は魔法を行使する上で大切な魔力石をこの世界に与えてくださった最上の神…と言われていますが石の神様ってそのまますぎます。
なので例に漏れず今日も一人で笑っていると、男性を心配していた方でしょうか。隣から「聖女の微笑みだ…」と呟く声が聞こえてきました。
するとあたりから「聖女さま…」「紫色の眼だ、まさかあれが噂の…」などと人々が反応をしはじめるではありませんか。なんでしょう?ちょっと言ってる意味がわかりません。
「ナンシー様!お戻りください!」
「すぐに退きなさい!さもなくば切り捨てます!」
間を縫って侍女と護衛の騎士がやってきます。護衛に至っては剣まで抜いているではありませんか!
「お待ちください!皆様、通してください!」
するとざっ…と先ほどよりも高速で一本の道が作られました。それはまるでモーゼの十戒のような光景です。ぽかんとしている侍女たちの元に戻ると私はふぅと息をつきました。
そして振り返ってにっこりと笑うと奥の方にまで聞こえるように大きな声で言い放ちます。
「では、皆様お大事に!それと私は決して、決して聖女などではなくただの悪役令嬢ですのでお忘れなく!」
そのまま護衛に手を借りて、令嬢らしく優雅に馬車に乗り込みました。うふふ、決まりましたね。
またもやにやけ顔が止まらなくなった私を見た侍女が「聖女の微笑みっていうよりただのアホ面ですけどね」とか言ってますがやはり無視するとしましょう。
それにしても不思議なものです。何故私の方にこの力が出現してしまったのでしょう?