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俺には行ってみたかった国があった。遠い東にある苑という国だ。そこでは季節ごとに色が変わるという花が咲き乱れ、赤い建物が並び立ち不思議な衣服を着た人々が自由気儘に暮らしているという。
俺は生まれた時から期待されていた。公爵家の次男として生まれたのにもかかわらず、俺を跡取りにと推す声が絶えなかった。理由はこの眼の色のせいだ。輝く黄金の眼は『神の眼』とされそれを持つものは大量の魔力と幸運を持って生まれてくると言われている。
我が国、ハステル王国では基本的に長子が家を継ぐ。だから俺はこれ以上身内で争わないようにと、成人と同時に家名を捨てることになる宮廷魔術師になって国に仕えることにした。
だが、ここでも俺はこの眼のせいで周囲の期待に応え続けなければいけなかった。そしてそれと同時に、俺の身に宿るその膨大な魔力は多くの嫉妬と羨望と畏怖の念を起こした。
俺はもう耐えられなくなった。だから逃げたのだ。幼い頃から憧れていた、あの自由な国へ。
故郷を出てからどの位経っただろう。俺は黒いローブで顔を隠し、自分の持ってきた全財産と己の持つ魔力でなんとか長い道のりを凌いできた。
しかし、生まれが高位の貴族で筋金入りの坊ちゃんだった俺にとってこの旅は予想以上に厳しいものだった。時には騙され、魔力を使いきりぶっ倒れ、そして俺の財産はもう底をつきかけていた。
やっとの事で苑についたときには俺はもうほとんど死にかけだった。
ああ、いつから満足に食事してない?いつからまともな寝床で寝ていない?ああ、何もわからない。とりあえず、俺が今求めているのは食事と寝床とこの体を綺麗に出来る場所だ。
彷徨い歩いて、俺はどこか古い民家のような場所についていた。もう意識はほとんどない。何かを開けた気がするし何かをくぐった気もする。どこからか女性の悲鳴が聞こえてきて、背中にものすごい衝撃が走った。そのまま床に倒れた俺は意識を失ってしまった。