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今日も1日頑張ろう

 




  それももう16年前の話だ。エリックの言っていた異世界っていうのも転生っていうのもどうやら文字通りだったらしくて、私は魔法のある別世界に赤ん坊として生まれた。てっきり銭湯屋の娘として生まれるかと思いきやなぜか教会に孤児として捨てられていたのだが、東から旅行に来たという夫婦に引き取られてみればなんと彼らが銭湯屋を経営していた。エリックはどうやら私の望みをちゃんと叶えてくれたらしい。


 ここは東の国、えん

 四季がはっきりとしていて、煌架抄こうかしょうという茎がしな垂れたように咲く花が有名な国だ。この花は不思議なことに四季によってそれぞれ春は赤色、夏は水色、秋は黄色、冬は紫色に色を変える。

 また、独自の文化を持っており建築物は苑風といって赤色の建物が多く、着物や着流しといった他の国では見られない服を着る習慣がある。


 私が暮らしているのは王都にある市街地の真ん中だ。苑の王都ははっきりと区分けされていて、まず市街地があり、奥に貴族街と王族の住む城が、そして東に温泉街や花街などがあり西には市場や職人たちの住まう場所となっている。

 地元民にはなにかと観光地である温泉街は行きづらくそのため市街地の中にあって気軽にいけるうちの銭湯屋はそれなりに人気がある。


 そして私は両親からこの銭湯屋を引き継ぎ今日も一人でせっせと仕事をしていた。


「おールウ嬢、と黒坊。今日も精が出るねぇ」

「るーちゃん、くろちゃん!今日も行くねー」

「ルーシーや、飴いるかい?」


 日課の朝の散歩で市街地をまわっていると、近所に住む、おじさん、子供達、おばあちゃんが声をかけてくる。彼らはうちの常連さんなので丁寧に挨拶をして別れる。ご近所づきあいは大切だからね。


「ばうばうっ」


「おお、煌架抄の花が紫色になってる!通りで寒いわけだ」


 我が愛しの相棒である黒のゴールデンレトリバーらしき犬、クロが道端に咲いている紫色の花を見つけた。ちなみになぜクロの種類が不確定なのかというと、この世界では犬の種類にいちいち名前がついていないのだ。


「あー、寒い。このまま市場いって食材買ったら帰ろうか」


「ばふっ」



 家に帰ったら、まずは銭湯の掃除をしなければならない。冬は早めに開けるようにしているのでなるべく早朝から動くようにしている。


 お風呂を掃除して、部屋の点検を行い、魔法石に魔力を貯める。この世界は電気の代わりに魔力で動いてるものが多いので使い切るたびに魔力の乏しい平民は専門の店に魔力を補充しに行かなければならない。しかし、私は幸い多めの魔力持ちなのである程度の魔法石に自分で魔力を貯めることができる。何事も節約が大切なのだ。


 会計をするカウンターの、足元にある暖房器具に魔力石を入れて暖める。店は冬は9時から開けているが今は8時半だ。暇な時間をどう過ごすか考えていると引き戸を叩く音がして「牛乳屋でーす」と声が聞こえた。


「あ、はーい」


 慌てて引き戸を開けるとそこには1人の若い男が牛乳瓶の入った箱を抱えて立っていた。彼の名前はこう。赤髪の短髪に灰色の目をしていて、顔は整っているが強面な印象がある。彼の配達は早いし彼の家の牧場でできる牛乳はとても美味しいので贔屓にしている。


「毎朝ご苦労様、はいこれお金ね」


「そっちこそ。あ、ちょうどな。今日も配達終わったら来るから」


「いつもありがとーね」


「別に、俺らガキの頃からの付き合いだろ?それにうちには恩があるし」


 実は紅とは幼馴染なのだ。こちらに引っ越してきた時、不安でいっぱいだった私をたくさんの場所に案内してくれたのが紅だ。仲良くなって彼の家が牛乳屋だと知り、うちに卸してくれないかと頼んだのだが、その時にフルーツ牛乳やコーヒー牛乳のレシピを教えた。結果的にうちには3種類の牛乳が卸されることになって客が増え、彼の家の配達量も増えたそうだ。


「俺もう行くわ。じゃあまた」


「うん、頑張って」


 紅はそう言ってクロを撫でていくと去っていった。

 そろそろ、お客様も来る時間だ。


 今日も1日頑張ろう。




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