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捕らえられてはどうでしょう②

 

 着いた場所は、市場を越えて先にある職人街だった。奥まった場所にあるが、市場に負けず劣らず活気に溢れている。中には店頭に表品を並べてるところなんかもあってそれなりに人通りがあった。


 そこに急に現れた西洋風の建物はとても目立っていた。看板に苑語でコードンウェルと書かれているのがやけに浮いている。


「あったあった、コードンウェル…ここね」


「コードンウェル?北方にある国の名前か」


「あら、詳しいのね。ここのお爺さんはコードン人なのよ」


 扉を開けるとカランコロンと鈴の音が鳴って暖かな温もりに体を包まれた。店内には木が使われた調度品が多くあり、苑風の建物とはまた違った落ち着いた雰囲気がある。


「いらっしゃいませ…おや、ルーシーさんお久しぶりです」


「久しぶりソル爺、今日は魔術道具のことでやってきたの。あぁ、レイヴン。こちらはソルデンテ…さんで私たちはソル爺って呼んでいるのよ」


 出迎えてくれたのは、白髪の髪をオールバックにした灰色の瞳を持つ初老の男性だった。黒いベストに同色の蝶ネクタイと、腰下の長くて黒いエプロンをつけた姿はまるでどこかのバーテンダーのようだ。


 下の名前を思い出せなかったので中途半端な紹介になってしまったが、まあ大丈夫だろう。そんな考えが見透かされたのか、ソル爺はちょっと笑うと丁寧に腰をおり挨拶をした。


「ソルデンテ・リーシュ・モルグリアでございます。ルーシーさんのお連れとあればこちらも精一杯サービスさせていただきます」


 レイヴンもそれを受けて手を差し出した。ソル爺は伸ばされたその手を握り返す。


「リーシュソルデンテ、俺のことはどうかレイヴンとお呼びください」


「ほう…見た所ハステルの方のようですがコードンウェルに誰か知り合いでも?」


「昔にちょっと」


 その会話に私が首を傾げていると、ソル爺がコードンウェルについて色々と教えてくれた。北にある大国コードンウェルは女神アイシャを信仰する一神教らしい。アイシャは眼を司る女神で、コードン人は眼には特別な力があると信じられている。


 そして、コードンウェルでは敬称としてその人の瞳の色を名前の前に持ってくるらしい。大抵はフルネームにその瞳の色が入っているので例えばソル爺ならソルデンテ・リーシュ・モルグリアを敬称で呼びたい時はリーシュソルデンテ、これでソルデンテさんという意味になる。


「でも、なぜリーシュなの?」


「リーシュとはコードン語で灰色という意味です。コードン人の瞳の色は大抵灰色か青、緑で分けられますので青がミラで緑がルードこれだけ覚えておけば大丈夫なんですよ」


 苑とハステルしか行ったことのない私にとってそんな文化のある国があることに驚いた。


 ソル爺やレイヴンは最初から苑のことをよく知っているようだったし私も外国についてもっと勉強するべきだろうか。


「あ、じゃあ私は?私の場合はなんて呼ばれるのかしら」


「ルーシーさんは、アイシャの眼をお持ちですからアイシャルーシーだと思われます」


「アイシャ?」


 アイシャとは先ほど言っていた女神のことだろうか。私の平凡なこの眼が女神の眼などと名付けられるような大層なものとは思えなかった。


「リーシュソルデンテ、失礼ですがアイシャの眼とは…?」


「レイヴンさん、私のこともソル爺でよろしいですよ。その前にどうぞ席に座ってコーヒーでも飲んでいってください」


 確かにずっと立ちっぱなしだったので足が疲れていた。促されるままにカウンター席に腰を下ろすとレイヴンが興味深げに辺りを見渡している。確かにここはハステルにはあまりない場所かもしれない。


「ルーシー、ここはどういった場所なんだ?見た所魔術道具の店には見えないんだが」


「カフェ、というところよ。コーヒーを飲んだりもできるんだけど、学園都市の多いコードンウェルではこういう語らいの場やゆっくりと勉強できる場所が好まれるらしいの」


 カフェ、コードンウェル。なぜか職人街にある上にこういった西洋風の建物が悪目立ちしているのかいつも閑古鳥が鳴いている状況である。しかし、ソル爺の魔術道具関連の仕事が時々くるそうで結果的に赤字にはなっていないらしい。たぶん従業員が家族だけというのもあるんだろう。


 とりとめのない話をレイヴンとしていると目の前に二つコーヒーが置かれた。


「アイシャの眼とは、運命を捕らえる者の眼のことを指します」


 ソル爺はそっと自分の眼を指す。


「その眼を持つものは良くも悪くも定められた運命を変え、逃さない力を持つ。あなたの眼のように、重なり合う色相はまるで檻のようにそれらを()()()()()()()()


 その朗々とした語り口調にゴクリと喉がなった。というか重なり合う色相?私の眼は紺一色だった気がするのだけれど。


「レイヴン?そんな眼をしてるかしら私」


「あー、いや…」


 なにか気まずい顔をして眼をそらすレイヴン。身を乗り出して顔を近づけると背を仰け反らせて私から離れる姿に思わず口を尖らせる。


「なんで避けるの」


「別に避けてない」


「避けてるじゃない!」


 ニコニコしながらそれを眺めていたソル爺にレイヴンが助けを求めるような顔を向ける。


「アイシャの眼を持つものは神でさえもその未来は予測が不可能とか。諦めて捕らえられてはどうでしょう」


 その言葉にレイヴンががっくりとうなだれるのがわかって、私は何のことかわからずに首を傾げた。




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