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聞いちゃいないわ…②



「聞いちゃいないわ…」


 最初は良かった。彼らは真面目に仕事に取り組んでくれたおかげでいつもの倍は早く作業が終わりそうだった。しかし、紅のとある一言から雲行きが怪しくなってきたのだ。


「なんか、遅くないか?本当にレイヴンさんいつもこの仕事してるの?」


「どういう意味だ…」


 明らかに喧嘩を売ってるとしか思えない発言にさすがのレイヴンも眉をひそめる。お互いに手を止めて睨み合う二人。そんなことよりもさっさと終わらせてお風呂に入りたい。


 そのあと、なぜか二人はどちらがより早くより綺麗に掃除できるかを競争し始め、もうすでに綺麗になってる床をさらに念入りに磨いていた。


 呆れた私は、その間に魔術道具の点検作業を済ませる。


「くっ、おっさんのくせにやるな!」


「おっさん!?」


 紅の言葉に思わずブラシを落として驚くレイヴン。紅はどこか勝ち誇った顔をしているが、そうか…26も彼にとってはおっさんか…。


 紅は今年で19歳になるが、レイヴンとは7、8歳離れている。しかしその言葉は、前世で三十路今世の分を足すと40オーバーの私の胸に深く突き刺さった…もう考えるのはよそう。


 頭を空にするためにいつもより念入りに点検作業を行っていると、浄化機という魔術道具が脆くなっているのに気づいた。


「ああ…浄化機が壊れそうだわ」


「なんだそれ?」


 勝負が終わったのか、いつのまにか現れた紅が背後から覗いてきた。私の手元にあるごつい機械を不思議そうに見つめている。


「お風呂の水を綺麗に保つやつよ。私もよく仕組みはわかってないんだけど、これは特注で作ってもらったものだからかなり高くて…」


 すると、なんとか復活したレイヴンも私の手元を覗き込んできた。


「そういえば苑は魔術道具の技術が飛び抜けて高いと聞いたことがある。なんでも、魔力発生装置の改変を成功させたとか。うちの教会連中がやけに騒いでいたのを覚えている」


「ああ、聞いたことがあるわ。確かストーン教だっけ?この世に魔力石を作り、人々に魔力発生装置を与えてくれた神だったかしら」


 今でこそ魔力発生装置などと呼ばれてはいるが昔は神器などといって拝められていたのだという。なにせこの魔術道具は誰が作ったかもわからず、なぜか人の集まる場所には一つ必ず置いてあるのだ。私としては気味が悪いことこの上ないが、エリックという神を知っている以上、これが神の仕業だったとしても不思議ではない。


 苑ではストーン教などというものは存在しないが、ハステルの王都ではこの装置を巡って今も国と教会とで水面下の争いが起きているという。


「なんか、そのハステル?っていうのは面倒臭そうな国だな」


 紅が嫌そうに、自分は苑で生まれてよかったなどと呟く。私の中では特別悪い国という認識はないが、長い間そこで生きていたレイヴンもそれには同感だと苦々しい表情をする。


「あぁ。古臭い分、柵が多く生きづらい場所だった。それと、悪いがここまで精密な魔術道具は俺でも修理するのは無理だ。制作者本人か、これをよく知る人物に頼んだほうがいい」


「はぁ…やっぱりそうよねー」


 急な出費にため息が漏れでる。後ろのレイヴンもどことなく気落ちした様子だ。


「役に立てずに申し訳な…うわっ!」


 レイヴンが出した唐突な叫び声にびっくりして振り返ると、そこにはびしょ濡れになった彼とニヤニヤしながら水の魔法石を持った紅がいた。


「そんな小難しい話より、さっきの勝負の続きしようぜ!」


 まだ終わってなかったのか、あの勝負。私が呆れた顔で注意しようとすると、隣から地獄から這い出てきたような低い声が聞こえてきた。


「俺と魔法で勝負しようとは、なかなかいい根性している」


「はっ、かかってこいよおっさん!」


「え、ちょっ、だめだって!」


 制止の声ももはや聞こえてないのか、レイヴンは近くにあった水の魔法石を一つとるとそれを握りしめた。すると魔法石が淡い光を出して輝き始める。その見たこともない現象に紅が慌てて声を張り上げたがもう遅い。


「な、なんだよそれ!どうなってんだ!」


「わめいても遅いぞ、ガキが…!」


 ブチ切れたレイヴンの声に反応するように魔法石がより一層輝き、中から大量の水が飛び出した。滝のように流れる水に押し流され、紅の体が浴場にぶつかる。


 水はごうごうと音を立てて排水口に消えてった。


 強力な魔法を使ったせいか、手の中の魔法石がパリンッと音を立てて割れる。レイヴンの光っていた黄金の眼がス…と通常に戻っていった。


「これに懲りたら、もう俺にケンカを売るな」


 決め台詞を言い放つレイヴンの肩にそっと手が置かれた。


「本当よね、ところでレイヴン?あなたの手の中で割れているそれ、どうするつもりなのかしら?」


 ぎぎぎ、という擬音を出してこちらをぎこちなく振り向く彼に私はにっこりと笑った。背中を打ち付けて悶えていた紅もいつのまにか青ざめた顔でこちらを見ている。


「ただでさえ、金かかるってのに!どう落とし前つけてくれるのよ!」


「「ご、ごめんなさい」」


 この日夜遅くまで説教をしたせいで、次の日は寝不足だった。代わりに馬車馬の如く働くレイヴンの姿があったとか。



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