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聞いちゃいないわ…①

 


営業を終了した銭湯で日課の風呂掃除をする。しかし今日は浴場に見慣れない人影が一人増えていた。


 ゴシゴシゴシゴシゴシ


 いつもより猛スピードでブラシを擦る音が二つ。一人は赤い髪が特徴の長身の男で、もう一人は金色の瞳をした男前。


「ちょっと!ブラシが壊れるからもっと優しく!」


 私の叱責に二人は手を少し緩めるが、それでも数分後には元の強さに戻っていた。


「聞いちゃいないわ…」


 私のため息はブラシの音によってかき消された。



 遡ること1時間前…。


 この国の人は早寝早起きの習慣があり、午後10時には営業を終了している。

 どちらかというと、うちは憩いの場としての意味合いが強いので早くに営業を開始したいためだ。

 閉店作業を終えて、風呂の掃除を始めようと重い腰をあげる私たち。レイヴンが増えて作業がだいぶ楽になったが、それでもまだまだこの作業は辛い。


「くーん、くーん」


 本日終了の看板を出しに行こうとすると、まだ店前にいたクロが外でなにやら吠えていた。

 誰か人でも通ったのだろうか?しかし、それにしてはやけに甘えるような声である。


「クロー?」


 カラカラと引き戸を開けると、そこには赤い短髪の男がしゃがみこんでクロを撫でている姿があった。


「え、紅!?」


「よう、遅くに悪いな。声かけるか迷ったんだが…何か手伝おうか?」


 申し訳なさそうに頭をかきながら立ち上がった長身の男。紅は私の幼馴染でもあり、お得意の牛乳屋さんの次男坊でもある。


「一応脱衣所の清掃はあらかた終わったんだけど、お風呂がまだで…本当に?手伝ってくれるの?」


 なんとなく、今日は疲れていたのでなかなか嬉しい提案だ。実は紅はこうしてたまに営業終わりにふらっとやってきては風呂掃除を手伝ってくれることがあった。偶然だろうが、見計らったように私が疲れてる日に来てくれるので非常に助かっている。


「あ、まってね。今レイヴンに聞いてくるわ」


「は?」


 突然不機嫌そうな声になった紅に私は首を傾げた。なぜか、紅は扉の奥を睨むようにして立っている。


「そいつって最近お前んちに住み着いたっていう素性不明の男だろ?たかだか従業員に、しかも居候してるような奴に確認する必要なんてないだろ」


「そんな言い方しなくたって…」


「そもそも、俺は反対だったんだ!それをお袋が…」


「ルーシー?」と背後から心配するような声がして、レイヴンが顔を覗かせた。そういえば朝の牛乳を受け取るのは私の仕事なので、この二人が会うのは今日が初めてだ。


「レイヴン、ちょうどよかった!紹介するわね。この人は紅、いつも牛乳を卸してくれている牛乳屋さんで私の幼馴染でもあるんだ。朝はいつも彼が届けてくれるのよ」


 私がレイヴンに紅を紹介すると「いつもお世話になっています」と頭を下げた。その様子に紅は面白くなさそうにどうもとぶっきらぼうに答える。私は苦笑いをしつつ紅にもレイヴンを紹介した。


 お互いの挨拶が終わったところで、私は時間が押していることに気づいた。寝るのが1時過ぎるとさすがに次の日の営業に支障をきたす。


「今日は紅が風呂掃除を手伝ってくれるらしいの!さっさと三人で終わらせちゃいましょう!」


 なぜか睨み合っていた二人を引きずって、私たちは浴場へと突撃した。




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