第6話 シーラ
「・・・ウ、ヨウ!僕はここにいるよ。」
「どこ?見えないよ」
「・・・今は、いいんだ・・・、待っているよ」
「待って!」
ガタッ!
頰が涙で濡れている。
何か大切な夢を見ていた気がするが、内容が思い出せない。
ここは、いつも通りサニの家の2階、僕の部屋だ。
「時間は・・・・」
ガーン ゴーン
9時を告げる鐘。
少し遅めの起床か。
いや、ここ2日のでは早い方だ。
昨日は11時、一昨日は15時まで寝ていた。
その前日はシアンにカルマの扱いを教えてもらっていた。
その反動は思ったよりも大きかったようだ。
ただ、一昨日もカルマの訓練をした。
その際に、カルマの持続力も鍛えたので、今日はそれほどダメージがない。
「何の夢だったんだろう・・・」
靄のかかった感じの気持ち悪さが頭を取り巻く。
考えても仕方ないのだが、どうしても忘れてはいけないものだった気がして、考えられずにはれいられない。
そんなことを考えながら、慣れた足つきで1階へと降る。
すると、大広間に居たシアンが
「今日は休みです、外に出てみてはいかがでしょう」と言った。
「え、おう。」
と返事をしてみたものの、外に出て何をすることもない。
「・・・・困ったな・・・」
まあ外に出るだけで多少のリフレッシュにはなるだろう。と思い、着替えてそのまま外に出る。
出るや否や、爽やかな風が髪を揺らす。
「こんないい陽気だし、散歩でもするか」
固まった粘土質の物質で出来た道を歩くこと20分、僕は時計塔に辿り着いた。
ウドーではどうやらこう言った教会を作り、バララークという神を信仰しているらしい。
そういえば、この建物には入ったことがない。
「入ってみるか。」
ガチャ、と木製だが立派なドアを開けると、中は教会らしい構造になっているのが見えた。
そして、少女が1人。
コン、コン、コンと足音を立てて歩くと、こちらを振り返った。
「貴方、だ・・・・」
そこまで言って、彼女の口は止まった。
「タキじゃない!」
「私よ私!覚えてない?昔から一緒に居た!シーラ!」
シーラだと!!!???待て、おかしい。
タキの日記によると、シーラはタキが9歳の頃に教会に入り、タキは会えなくなったらしい。
なぜこんなにも近くにいるシーラに会えない?
この疑問は彼女の言葉が解決した。
「なんで教会に勝手に入ってきちゃったの?」
「貴方は教会の子じゃないんだから、ダメでしょ?」
なんだと??
「あぁ、そうだったね、シーラ、久しぶりに会いたくってさ、内緒だよ、それじゃあね」
「内緒にはするけど・・・・・」
「けど?」
「まぁいいや、会えて嬉しかった、ばいばい」
1つの疑念に囚われ、素早く教会を後にした。
絶対におかしい。
なんであんな穴だらけのセキュリティなのに誰も破ろうとしないのか。
タキは会いたいと願っていた。
でも彼は会いに行かなかった。
導き出せる結論は1つ。
教会には圧倒的な権威があるのだろう。
恐らくこの地域で教会の力には揺るがない威厳が存在するのだ。
だから逆らおうとしない。
ただ、だとしても、それにしてはかなり不自然だ。
会いたいのなら教会に問い合わせればいい話だ。
なぜそんなこともしないのか。
「これは、ユキアツに聞く必要があるな。」
––––20分後––––
帰宅し、まず最初に教会についてユキアツに尋ねた。
「教会の権力はどうなってる?」
「まだ説明していなかったね、手身近に言うと、この国の人々はある1つの過去を恐れている。」
「それは?」
「戦争をしたがらないこの国が、どうして生き延びてこられたと思う?」
「えーと、なんでだ?」
「壁だ。」
「壁???」
「そう、他国との教会に、侵入不可の壁を作ったのだ」
「そんなでかいものを?どうやって?」
「教会の最高司祭が、一夜で出現させたんだとさ」
「・・・・・・」
なるほど、教会への異常な忠誠の理由も明らかになった。
要するに畏怖だ。圧倒的な力への畏怖。
だとしても教会の警備は緩すぎる。
「何故教会はそこまで傲慢な対処しかしないんだ?」
「この世界の人間と僕らでは、体験しているものが違うのさ、そういった威厳に逆らうことができるのは、自由社会に居た僕らだけだ。」
「だから、教会にある地図を盗もうなんて考える奴もいない?」
「いや、それは居るんだ。」
「????????」
「彼らの一部には禁止されていることをしないだけで、直接禁止されていないことの正否を判断する必要はない、と考える輩がいる」
「その為に教会は地図を隠したのか。」
「そうだ。」
この世界、国のことは段々わかってきた、今は、ユキアツの行動を辿ろう。
カルマを使って、この街をでる。
「しばらくの目標は決まっているが・・・」
この世界の歪みに、僕が干渉するべきではないのはわかっている。
けれど、このままにしておいて良いのか。
それに、シーラが最後に言おうとした何かも気になる。
「まだまだ先は長そうだ。」