第4話 カルマ
4話です。
ゴーン ゴーン ゴーン
朝6時を告げる鐘で、勢い良く目を開ける。
「なんてったって、今日はカルマを教えてもらうんだからな!」
呟き、ベットからはね起きると、素早く身支度を整える。
こうも感情が昂ぶっているのは、この世界に来てから、やっと自分の中に頼れるものを作れるかも知れないからだ。
「ガタガタうるさいなぇ。」
「わかりやすくって、可愛らしいですね。」
バンッ!と扉を開ける音に続いて、
ガタガタガタッ!と階段を降りる音。
「シアンいるか!?」
「はい。こちらに居ますよ。」
「昨日の約束通り、色々教えてくれよ!!」
「もちろんです、が、ここでは危ないので、場所を移動しましょう。」
シアンは後ろ手にドアを開けて外に出る。
追いかける様にして僕も続く。
「ねぇシアン、どこに行くの?」
「この村の外れに、『霞の森』という場所があります。」
「そこに向かうのか?」
「えぇ。人目を避けられますし。」
そんな場所があるなんて、タキの日記には書いてなかったけど。
まぁそんな場所だからこそ、か。
そんな思考を繰り返すうちに、
「もう着きますよ。」
とシアン。
「え?まだ街から出てないけど?」
「そこの穴に飛び込んでください。」
「は?ちょっと待てよ?」
中を見に行ったのが運の尽き。
ドッ。
背中から鈍い音がした。
「うわああああああああああ!!!???」
落ちている最中、後ろから控えめな笑い声が聞こえた気がした。
–––––数十秒後–––––
「着きましたね。」
シアンの声に目を覚ますと、そこは木々に囲まれた半径15メートル程の空き地にだった。
「目が覚めた様ですし、早速始めましょうか。」
淡々と話すが、こいつはどうやってここに来たのだろう。
・・・・まぁ、いいか。・・・・
「おう。始めるか。」
「まず、カルマの説明からですね。」
「頼む。」
「カルマは、人の体内に存在するアルカエネルギーに、命令を与え、その性質を変化させるものです。」
「具体的にはどう使うんだ?」
「体の外に出してしまうと、その力は著しく下がってしまうので、基本的に身体能力の強化に使います。」
「あぁ、そうだったな。」
「次にカルマの発動方法ですが、これは感覚です。」
「えっと、つまり、どんな?」
「まず、体内のアルカを感じとる必要があります。目を閉じて、自分の体、心の内側に意識を集中してください。」
言われるがまま目を閉じ、心臓のあたりを強く意識する。
鼓動が、聞こえる。
今、今この瞬間の僕は何者だろうか。
この鼓動は僕のものではなく、タキのものだ。
それなら、この音を聞いている心は僕なのだろうか。
僕の中には、タキと僕の2人がいる。
そんな思考の中で、目の前に純白と漆黒の色をした2つの丸い光が現れた。
「うっわっっ!」
驚いて後ろに倒れると、目の前には先ほどの木々と、シアンが居た。
「見えましたか?」
この質問の意図を理解するのに時間はかからなかった。
「まぁ、一瞬だけど。」
「第1関門は突破の様ですね。」
シアンは嬉しそうに言う。
「次からは簡単です。もうあなたには、体の中を巡るアルカが感じられるでしょう。」
なんとなく、だが確実に、そこにあるものを感じた。
「そうみたいだ。」
「では、そのアルカを、出来るだけ体の外側へと送ってください。」
内に感じるエネルギーを発散するイメージで力を込める。
「こ、こうか?」
「もう少し外側に、もう少しです。」
「ふっっっ!!」
力を思い切り入れると、皮膚にどこか禍々しく、だがどこか美しい模様が浮かび上がった。
不思議ともとから知っているかのような懐かしさと、触れてはいけないような儚さを感じた。
「もう、力を抜いても大丈夫ですよ。」
「ん?お、おう。」
言う通り力を抜いてもエネルギーは体表に留まったままだ。
「アルカは体の中に向かって行きますが、それ単独の力では体表を通過できないのです。」
「なるほど、だから出るときは出るけど戻れないってことね。」
「はい。戻すときも自分の意思で戻せますよ。」
「これで何が変わったんだ?」
「その場で跳んでみてください。」
意味がわからないが、とりあえずやってみる。
まず激しい重力感、その後に急な浮遊感。
「はっ???????????」
地面が10メートルは下にある。
もうだめだ、目を瞑ろう。
と思うのもつかの間。
地面が足元にある。痛みやおかしなところはない。
「わかりましたか?」
「こいつは凄いな。」
「じゃあ、その状態で私に触れたら今日は終わりにしましょう。」
・・・・・・・・・・・
「いや、いくらなんでも楽すぎじゃ・・・」
「そう思うなら、やってみてください。」
浮かべた微笑はいつもと違う色を帯びている。
「じゃあ、いくぞ。どうなっても・・・」
言いかけたとき、20メートル程の場所に離れていったシアンの体に模様が浮かび上がった。
鮮やかで透明感のある赤の中に、毒々しいが美しい紫が咲いていた。
何より、これはやばい、しか出てこない。
緊迫した威圧感が僕の頭を縛った。
その、あるいは恐怖のような感情を振り切るようにして走り出す。
空気は轟音を耳に届けるが、減速はまるでしない。
右斜めからシアンに突進し、衝突する数歩手前で跳び、宙返りしながら彼女の肩へ手を伸ばす。
次の瞬間、彼女はそこに居なかった。
追いつかない頭を必死で回す。
つまり、回転で視線を切った一瞬に移動した、ということか?
そんなバカな。
「ヨウさん、貴方は確かに速くなったかも知れませんが、それは相手との距離の変化が生じ易い、ということですよ。」
「その力に見合った戦い方を教えるのが私の役目ですから、ゆっくり頑張りましょう。」
「夜までは、後何時間もありますし。」
彼女の言葉を聞いたかのように、太陽が視界の端で照りつけた。
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