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テンダリスドール  作者: 比嘉 江志
第1章 回生
2/9

第2話 過去の声

2話です。説明口調が続いて申し訳ありません。

「・・キ・・・タキ!起きろ」

目まぐるしく鼓膜を叩く音で目を覚ます。

ここに来て5日目の朝。

呼び声はここに共同生活をしているカンギスのものだ。


窓から時計塔を見ると、その時刻は5時ちょうどを指している。

「飯は下においてある!」

「家事よろしくね!!」

カンギス、シグレの言葉に、おぼろげに返事をしつつ起き上がり、朝食と1通りの家事を済ませる。


ようやく家事が終わったころには、12時の鐘が鳴っていた。

「こうしちゃいられない」

急いで階段を上り、勢いを殺しきれず部屋に飛び込む。

正確に言うと、目的があるのは部屋ではなくとある本なので、この表現は適切ではないのだが。


「よしっ!!」

待ちきれない様子で、「タキ」と大きく名前の入った本を開く。


本の中の彼は現在14歳と8か月、残りのページ数から、間もなくこの物語も終わりを迎える。

この物語は彼の日記だ。彼の5歳から15程度の————途切れている部分もあるが————記録がつづられている。


普段ならなんでもないものだが、この状態においては周囲の環境を把握するのに最も適したものである。

この4日間で僕がこの日記から得た情報量は膨大で、そのおかげでカンギスとシグレとのスムーズなコミュニケーションを図ることができた。


カンギスとシグレは僕の4つ年上で働きに出ているらしい。彼らは、両親をそれぞれなくしている。それは

タキも同じようだが。

さらに、まずここは地球ですらないらしい。流石にこれを知ったときはがっかりしたが、来る方法があれば帰る方法もあろう。


それ以外にも得た情報は多くあるが、街の構造がまだわかっていない。

そう、今日は街を歩いて見ようと思うのだ。

僕は覚えた情報のおさらいをした後家から出ることにした。



————20分後————

ひとまず全容を確認するために外周を歩いてみた。

時計塔の見える面から、おそらく対面まで来ただろう。


ところで、僕はこの場所でおよそ3分程立ち止まっている。

「あやしい・・・。」

見れば誰もがそうこぼしてしまうであろう民家があるのだ。

それにかなりの豪邸である。


と、そんなことを考えていると、ドアが悲鳴を上げた。

「だれじゃ、そこに居るのは」

警戒心に満ち溢れたセリフを、その老婆は優しさに満ちた声で発した。


数秒の空白の後、

「なんじゃ、タキか」

安堵に胸を撫でおろす。

この人は、タキの日記にいた、この村最高齢のおばあさん。確か名前はサ二。

昔はよくお邪魔していたようだが、ここ数年あっていないらしい。


「久しぶりだね、タキ。上がりなさい。」

人と深くコミュニケーションを取ることは避けたいが、カンギスやシグレにすら察されてすらいないのだから、問題ないだろう。

「お邪魔します、久しぶりですね。」

とさりげない一言を言うと


「初めてだろう?」

と、”僕”の核心を突く切り返しが返って来た。

鋭く息を飲む。

「なんっ・・・」

「混乱するのはわかる。だから一つずつ教えてやろう。なに、時間はあるさ。」



————数分後————

サ二は、言葉通り僕を丁寧に迎え入れてくれた。

「で、あなたは何を知っているんですか。」


「その質問には答えが多すぎるね、もう少し絞って質問してくれるかい。」

「では、なぜ僕がタキでないとわかったんですか。」


わずかな沈黙を経て、彼女は語りだした。

「この年になるとね、アルカが見えるようになるんだよ。」

「それが何かはもう、知っているんだろう?」


アルカとは、カルマを発動する際に使う力の源だ。タキの日記に記されていた。

「お前のそれは、以前のタキとまるで違う。それだけだよ。」


「僕をどうするつもりですか。」

「何もしないよ、ここの人間に言ったりもしない。ただ・・・・・・・」


「ただ?」

「お前と同じような人間が、前にも居た。と言ったら?」

「なに!!!!!????」

「それは本当か!??」

驚愕に体を乗り出してしまう。


「まぁ落ち着け。ゆっくり話そう。」

その言葉とともに、僕は深い思考へと落ちていった。


「約20年前だ、その男はお前と同じように現れた。」

「ここの住人の体を借りて?」

「あぁ。男はカミシロ ユキアツと名乗り、ジンと言う男に入っていた。」

「カミシロ・・・・その男は今どこに?」


「・・・3年間この村に滞在していた。その後のことは知らない。」

「その男はどこに、いや何のために3年ここに?」

「ここで生まれた私には想像もできんが、彼にはこの世界の仕組みと全体像を知る必要があるのだとさ。」

「なるほど。」

少なくとも、カミシロはそこそこ頭が使える人間であることは確かなようだ。


「ユキアツはここに住んでいたんだ、当時の記録も残しているよ。」

「本当か?それはどこに?」

「そう言うと思ってそこに用意しておいたよ。ゆっくり読むと良い。」


・・・・・・・・・・・・・

「なぜ、僕にそこまでしてくれる?」

「・・なに、大した理由はないさ、外の世界の人間と話すのは楽しいんだ、良い余生だよ。」

何か含みのある言い方だったが、詮索するのは失礼だろう。


「今度はあなたの話も聞かせてくれよ、サニ。」

「こんな老いぼれに興味があるのかい、変な子だね。」

そう笑って、サニは元カミシロの部屋に僕を案内した。


ユキアツが残した記録を元に、僕は元に戻れるのだろうか。

ここに来てから、こんな不安と期待を何回繰り返してきただろう。

なぜだか、この気持ちは不快ではない。

サニも、こんな気持ちなのだろうか。


この世界と私の記録  カミシロ ユキアツ

そう書かれた本を手にとり、黙々と読み始めた。

それは2週間に1ページの分量で書かれて居るようで、とても軽々と読めてしまった。

ただ、たかが70ページ程度だったが、僕に希望を持たせるには十分すぎた。


「ふぅ。」

一息ついて最後のページをめくったが、空白になっているようだ。

「・・・・・・んん????」

見ると、新たな文字が刻まれている。

「新たな異端者よ、ここに私の全てを託そう。」

と、その文字はすぐに消えてしまった。


「これは、カミシロなのか?」

ペンを取り、紙に書き込む。

「あなたは、カミシロ、ユキアツですか?っと」


すこし待つと、

「あぁそうだ、ユキアツでかまわない。これは私の記憶だ、いつかやってくる君を待っていた。」

「好きに質問してくれ。」


「居たんだ!!この世界にも!!!僕と同じ地球の人間が!!」

夢中でペンを走らせた。

午前2時の鐘も、耳に入らなかった。


宜しければ、評価等おねがいします。

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