1話 新天地
初投稿です。
「天はあなたに苦しみを与えない、我らはあなたの憂いを溶かそう、どうか安らかに眠れ。」
棺は、言葉に送られるように宙に浮き、燐光を周囲に散らして消えた。
死者が出た場合、このタギキ村ではその死者に関しての情報を村中から集める。
私は、幼い頃彼女―名前はマキ、年齢は31―によく面倒を見てもらっていた。彼女が亡くなって、本当に悲しい限りである。
私が7つの頃、彼女はカルマのできの悪い私を辛抱強く、朝から晩まで見てくれた。それから何年も何年も、翌年もそのまた翌年も、彼女は私の面倒を見てくれた。彼女がもういないのだと思うと、、涙が止まらず、昨晩も朝まで泣いてしまっていた。
と、ここまでがタキことタギキ村の15歳少年の記録である。
だが、僕は、今書き終えた内容の9割9分を実体験として持っていない。
まず、僕は「タキ」ですらないのだ。僕の名前は藤崎洋、16歳の高校1年生、日本生まれで日本育ちの純日本人だ。
ところがいつの間にかこの少年の中に入ってしまっている。全くどうしてこんなことになってしまったのか。
――――3日前――――
「ふぅ。」
少々疲れを感じ、机から離れて椅子の向きを変える。
ふと目をやると、時計は10月10日23時02分を示していた。
明日は休日だがそろそろ眠りにつこうとベッドに倒れ込む。
「・・・・・・・・」
明かりのついた部屋で、おもむろに天井を見つめる。
「・・・・・・ん?」
浅いまどろみの中で、薄灰色の天井は、その色を濃くしながら、その存在感を薄めていく。
いつの間にか、あたりは暗くなり、くっきりと見えていた天井は暗さでぼんやりとしている。
驚きのあまり体を起こすと、周囲には僕の部屋ではなく、四方に褐色の壁がそびえ立って居た。
「っは???」
大声もあげられずに絶句する。理解が追いつく前に激しい焦燥感と孤独感がおそってくる。
「・・・・・・・・・・」
頭を伏せると、多少安心するようだった。
・・・・ここは、どこだろうか・・・・・。
恐る恐る見渡すと、ドアと窓が1つずつ。4畳の部屋のようだ。部屋にはとても生活感のある物品が置かれている。
窓の外を見ると、ここは何かの建物の2階のようだった。
外には暖かい黄緑色の街灯が数十個見えた。それから数々の住宅と、その向こうには森が広がっている。
「・・・・街・・・・・???」
その街の中央にいっそう高くそびえる壁、あれは、そう、ちょうど協会のような雰囲気を醸し出している。
その壁面にあるのは・・・・
「時計!!!????」
歓喜のあまり頭を飛び越えて目が針を追った。
夜、そして針は1時32分を指している。
時計の造りと数字の表記は日本と同じ。時計の下部には10/11と表記がある。
「!!!!!!!!!」
僕がまだ日本に居たときの日付は2064年10月10日(金)の23時頃だったはずだ。
ということは、暦が同じならばそれほど時間はたっていないはず。
しかし、そうだとすればこの街はなんなのだろうか。
すくなくとも建物の造りからして日本ではないだろう。
ようやくもとの思考へと戻りつつある僕を新たな衝撃が襲った。
人が居る。それも3人。
大柄な男性、大人の女性、小さな、恐らく5~7歳とおぼしき女の子。
走る緊張。鼓動は体全体でそれを聞いているかのように高鳴っていた。
幸い、こちらには気づいていない。
しかし、どういうことだろうか。今まで世界
の民族衣装とやらを見せられてきたが、そのどれとも形が違う。
それに加えて、髪色は薄い茶色に緑が混じったような色、容貌は優しく、和の雰囲気と洋の雰囲気を併せ持っているようだ。
ますますここがどこだかわからなくなってきた。
「・・・・・・・・・」
そもそも考えてわかることでもないか。
落ち着きを取り戻した思考は、現状の把握を優先した。
ただ、必要な最低限の情報は得る必要がある。
それを調べるには、まずこの建物に人がいるか確認する必要が・・・・。
「ん?うわっ!」
腰を上げ、部屋をでようとすると、立てかけられていた鏡に藤崎洋ではない人間がいた。
体格は同程度だったので、特に違和感を覚えなかったが、容貌が違う。
どこか幼い顔をしている。
まぁ、ここに来てからはそんなこと続きでもうなれてしまったが、どうやら僕は肉体ではなくその精神を別の誰かに移されたらしい。
部屋を出て、すぐ右にあった階段を下ると、そこに人の気配はなかった。その代わり、そこには1枚の書き置きがあり、
1週間ほど隣町へ行く カンギス シグレ
と記されていた。
おそらく父と母の外出中にその子供の中に僕が入ってしまった、といったところだろうか。
「はぁ・・・・・・。」
この意味不明な事態に体が疲れを隠せない。とりあえずここに人が来ないと言うことなら、今日はもう寝て考えるのは明日にしようか。
再び2階へ上り、ベッドに倒れ込むと、急速に睡魔が襲ってきた。
これからどうなるのだろうか。
6割の不安と4割の好奇心に煽られるようにして、僕は明日を急いだ。
いかがでしたでしょうか。是非感想をお寄せください。