THE BLITZ チャプター1‐最終話:戦いは始まっている
‐1‐
大きな衝撃の音がハイウェイを響かせた。エナジーブレード同士の衝突の音だ。
その後、再びエナジーブレード同士の衝突。鍔迫り合いの発生、エナジーブレード同士の一点に圧力が集中。
その隙にアサルトライフルの集中砲火がブリッツマンに浴びせられた。
「邪魔だぁ!」
ブリッツマンは鍔迫り合いを左腕のみで行い、右腕を空かせてグラントへエナジーショット、グラントの回避は右方向への前転によって行われた
前転の着地後、ライフルのサイトを覗き込み射撃。手慣れた身体の動きでこれらの行動を行う。グラントの長年の経験から本能的に回避と射撃が行えるのだ。
しかし、エナジーフィールドによって弾丸は無力化。それが狙いなのだ。エナジーフィールドは弾丸や爆発、一点への集中的な圧力から身を守れるが代償としてエネルギーが消費される。使い捨てのグロンムを含んだバッテリーを使用しているのでエネルギーが回復することはバッテリーを変えない限りはない。ちなみにこれはリヒトワンドも同じ仕組みを持っている。
ブリッツマンのエネルギーには余裕があった。先程の異能犯罪者との戦闘後に一旦電池を換える余裕があったからだ。
鍔迫り合いから解放される為にエナジーブレードでエルスと彼のブレードを力強く押した。その後、足の底にあるブースターで空中に舞った。
ブリッツマンの下にはストラックチームの亡骸が散っていた。
眠ってくれ
逃げ遅れたストラックチームの隊員に安らかな眠りを願い、エナジーショットをエルスへ放った。
直後、この状態でエナジーショットを撃たれたのならエナジーショットをぶつけるのが最善と判断しエルスもエナジーショットを放つ。二つの電撃がぶつかり、空中で衝撃が発生し、波動となった。
爆発直前にブリッツマンはエルスへ向かいハイパワーで降下。打撃の構え。エルスは対抗の為の防御の構え。
グラントはリロード。リロード完了直後に降下するブリッツマンへ射撃。ブリッツマンのエネルギー減少が更に進む。
ブリッツマンとエルスの物理的なぶつかり合いで衝撃波が生じることを予測し、グラントはハイウェイに残された車の側に身を隠した。
両者の衝突時、発生しているエナジーフィールド同士も衝突している。先程のエナジーショット同士のぶつかり合い同様衝撃と波動が発生した。
衝撃と波動に身を耐えながら、次の行動を両者は考えていた。格闘で先手を打つか、カウンターを打つか。
数秒後、格闘の乱打が始まった。一瞬の間に交代する攻守、隙を見せてはならない攻撃と必ず守らなければならない防御。これらが1分ほど続いた。
「付き合っちゃいられねぇな……」
その光景を目にボヤくグラント。
‐2‐
「ダメだ、ダメだダメだダメだ!!」
瓦礫と生命が天へと向かいかけている肉体へ叫んだ。自分の求めている行動を実現させるために瓦礫を取り除こうとしていた。
しかし、灯夜の着ている『繭』がエネルギーを切らしていた。エネルギーが切れれば人工筋肉から力は出ず、エナジーショットも出力出来ずにいた。
自分が無力で馬鹿ということを思い知ってしまった灯夜。今のこの状況で自分は何も出来ない。そして自分がやってしまった殺人に対して背負いきれない責任。
だが、今は気にしている余裕がなかった。いち早く風沙を助けたい気持ちが上回っているのだ。
考えるのは後でいい。とにかく助けないと
「クソ、なんで!持ち上がれよ!じゃあ、ショットでなら……クソッ!」
何も出来ないことを頭では理解していた。しかし納得しているわけではない。だから無意味な行動をしてしまうのだ。
無意味な行動を行っている最中、ひとつの肉体のように見えるなにかが目の前に迫っていた。
「ク……ソが……ざ……けた真似……し……やがって……殺すぞ……!」
普通なら肉片が辺りに散っていた筈の加賀魅の肉体が文字通りズタボロとなった容姿で一歩辺りの距離は短いながら灯夜と風沙のもとへ歩いてきている。
声と気配によって気づいた灯夜。恐怖と無力感、そして状況が意味不明の為に吐き気がこみ上げてきた。
加賀魅のもげかけていた腕が接着し始め、折れた片腕は逆再生するかのように元の形に戻っていった。肌の再生は今の歩行とシンクロしているかのような遅さと確実性。
殺してやりたいさ。でも、今のこの状況でどうしろっていうんだ。考えろ!このままじゃ二人共殺される!
灯夜に向けられた再生されたばかりの腕と拾われた拳銃。
銃声。しかし加賀魅は射撃していない。むしろ射撃を受けた。拳銃を持った腕と胴に。今の加賀魅の状態では衝撃と痛みに耐えることが出来ず倒れた。
「大丈夫か!クラウド、こちらストラックチームアルファ。リヒトワンドを確保!それと敵を確認し排除した」
灯夜の心に余裕が出来てきた。遅れてやってきた援軍。それが得体の知れない化物を無力化してくれた。それにこの人数なら風沙を挟んでいる瓦礫を持ち上げられ風沙を救助出来ると確信していた。
「あんた達!この瓦礫を一緒に持ち上げてくれ!助けたいんだ!」
灯夜はそれの要請前に加賀魅の状況を確認、アルファの隊員は要請を受けた後に確認。どっちの目にも加賀魅が立つ様子は見られなかった。
「わかった!よし持ち上げるぞ。1、2、3!」
息は初対面ながらピッタリだった。救いたいという目的が合致しているからこそのチームワークだ。
出てこい出てこい。……なんで出てこない。起きろよ!
「そのまま持ち上げていろよ!俺が出す」
一人の隊員が風沙を引きずり出し、肩に持ち上げた。隊員達のリーダーが合図をし、隊員達と灯夜はこのホールから離れようとした。
「待ってくれ、アイツにトドメを刺さないと。銃をくれ」
提案したのは灯夜だ。恨みと恐怖から生まれた攻撃の意思を発散したいのと救助の確実性を上げたいからだ。
「誰かもわからない部外者に銃を渡す訳にはいかない。俺が目標にトドメを刺す」
一人の隊員が提案した。
自分の手でそれを出来ないのが惜しいが、今の最優先事項は風沙の救助ということを忘れてはならなかった。
「フー……わかりました。お願いします」
灯夜は恐怖と憤怒で埋まっていた冷静さを掘り起こした。逃げるという選択を選ぶには十分な冷静さだ。
‐3‐
「クソ、逃しちまった……」
ブリッツマンは自分の任務が達成出来なかったことに不満を漏らす。
足止めにはなったものの、過激派であり、自らを『心ある力』と名乗る者たちの主要メンバーが二人も目の前に居たのに確保、もしくは殺害出来なかった悔しさ。
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苦戦を強いられていた。ブリッツマンとリヒトワンドと同じガーディアンスーツの青混じりの黒色を身に着けている男、身体の能力と皮肉抜きで臆病を最大限に活かした男。
彼らからの攻撃に耐えきれず、防御の一点に集中した。
その隙を突くエルスのパンチが振りかぶる構えの直前にグラントがある目的が失敗したことを無線で知らされた
「おい、撤収だ。どうやら、作戦は失敗のようだ」
構えを放棄し、攻撃をやめた。
「なら俺に掴まれ。一緒に逃げるぞ」
エルスは肩を掴まれ、足にエネルギーを集中させ解放。推力を得てロケットのように飛んだ。
「逃がすか」
ブリッツマンのエナジーショット。エルスはそれを察知。直後に足で得ている推力を停止させ一時的に重力の加速で落ち、エナジーショットは外れた。再び推力を発生させ飛んでいった二人。
ヘルメットのヘルメットの内部に舌打ちの振動が響いた。それが少しうっとおしくブリッツマンの中身である真は感じた。
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‐4‐
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ここは死んだふりをしておこう。脳天を撃たれただけだ。リアクションしなきゃいいだけ。
今、武装した敵5人を相手にしたら流石に敵わない。それに痛いしな。
俺は今の自分の置かれた状況と能力を判断し行動を決定した。じっとしていることを。
しかし、奴の持つ鍵は結局手に入らなかった。風沙はおそらく死ぬだろうからパスワードも入手出来ない。と、するとこれは一旦仕切り直しってところだな。
奴のスーツの中にある鍵はいつか何処かに移されるだろう。ならその移された後が重要だな。スーツの持ち主はおそらく実戦に置かれるだろうから鍵をそんな奴の中に入れたままは無いだろう。だから、移された時は何処に移されるだろう?俺たちの計画に鍵が不可欠なだけにこれは重要だ。
……だめだ。これ以上思考を維持できん。回復時は身体の機能や思考が低下するから嫌なんだよ。今は火傷や四肢の一部がもげるとで済んだが、もしバラバラになったらどうなるかわかったモンじゃない。
もう死ねないってのは気が楽でいいが、死ぬほど痛いのは嫌なんだよ。この能力を授かった時の痛み以上の痛みはまだないけど、もしその痛み以上を味わうんであれば死にたいな。そっちのがマシだ。
銃音が響き、俺の頭に衝撃が渡った。歯を食いしばったが咽頭から高音が漏れた。死にそう。死なないけど。
大丈夫かこれ?確かこいつらと対峙した時に頭を撃たれた事はないから俺の能力についてはまだ全容は明らかになってないはず。というか、こんなに近くに来たこと自体初めてだな。
そう頭で一瞬で考えた。同時に痛みを誤魔化す為の速い呼吸と叫び声がおそらくこのホールに響き渡ってるはず。状況を判断する余裕がない。
「こいつ、まだ生きているのか?」
おいやめろもう撃つなそれ以上は俺が
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‐5‐
色々あったな
今日はあまりにも灯夜は頭を稼働させすぎた。
やれやれだな。ヒーローになれと言われて説得され、そこから変な専門用語を言われてややこしくなったり研究所が襲われたんで親父の作ったスーツを使ってテロリストと戦ったり。それで、結果親父が死んだ。やっとわかり合えたはずなのに
笑い声が不意に漏れてしまった。事の可笑しさ、自分の無力感、敵の強さと恐ろしさ。全てが常識から外れていた。
研究所から脱出した後にあの二名、グラントとエルスが戻ってきた。灯夜はそれを見たときに何もすることが出来なかった。出来る気も、する気も。
体力が尽きたということもあるが、道中に風沙の息が絶えたということが灯夜へ追い打ちを突いた。
下半身が埋まっていたので上半身のみ動かすことが出来た。だからそれを自分のその時に求めたことにその上半身を活かし貪欲に動作した。
研究所からの脱出道中、隠れていた一名の『心ある力』の構成員に灯夜は狙われ、風沙が被弾した。
その時、灯夜は狙われていることに気づかなかった。前方から銃弾が飛来、しかし狙いに反して被弾したのは風沙だ。結果、風沙は頭部に被弾、即死。直後、ブリッツチームαの隊員が構成員に射撃、命中。構成員は死亡。
灯夜にとってこれがあまりにも受け入れ難い事実だった。父と仇があっけなく死んでしまったことが。
守るべき存在は守れず、討つべき存在は勝手に殺された。可笑しい事実だ。
仇を勝手に殺されたことには腹を立てていない。寧ろ殺してくれてありがたいくらいだった。仇をとることは重要ではない。守ることが灯夜のこの戦いで戦った理由だ。
行動の理由がなくなればなにも出来なくなることは不思議ではない。だが、灯夜はこの一連の動きが終わった後にも風沙を担ぎ外を目指した。事実を受け入れることを一秒でも伸ばしたかったからだ。
そして、今の状況に至る。
思えば、俺は失っただけじゃない。奪ってしまった。
自分が行ってしまった殺害を思い出した。自分がやった気がしなかったことは言い訳にしたくはなかった。だが、結局は自分が手を下した事実に目を向けなければならないのだ。
もし、俺に力があればこの結果はおそらく避けられただろうな。でも、あの状況じゃしかたないだろ
目を必死に背けようとした。
この状況をどうするべきはわかっている。強くなること。それは理解していた。強くなり自分を制御し、守れる力を持つ。
だが、灯夜は自信を失っていた。スーツを着て強くなれた自分でも敵わない敵がいる事実へ立ち向かうことは無茶なのだ。
「……俺には無理だ。終わらせよう」
「そういう訳にはいかない」
座り俯きながら負の感情を抱いている灯夜の背後に聞いた覚えがある声が響いた。
「輝馬さんか……なぁ、聞きたいんですけどこの部隊をここに向かわせるのにどれくらい掛かった?」
「あぁ、ざっと二時間。陽動に引っかかってしまって」
振り向き輝馬を乱暴に押し倒した灯夜。
「何が陽動だよ殺すぞ!あんたらがトロいから皆死んだんだぞ!研究所の人や親父が!もっとなんとか出来ただろ!?」
灯夜のストレスを発散するかのように出た怒声がヘルメットから漏れた。
「すまない。これでも俺達はベストを尽くしたんだ。君も同じだと思うけど」
「ベスト、ベストか!やったさ!でもどうにも出来なかった!これ以上どうすれば良かったんだ?教えてくれよ!」
輝馬はため息をついた。呆れのため息ではない。自分のストレスを誤魔化す為のだ。
「俺達はベストを尽くしても全てを救うことは出来ないんだ。それをさっき言ったはずだ」
何度も受け入れようとしたが受け入れられない事実を灯夜へ吐いた輝馬。だが、受け入れられることはない。
「わからないし、わかりたくもない。受け入れたくもない。これから先もね。クソっ、苦しい!」
ヘルメットを取り投げ捨てた灯夜。
「辛いのはお互い様なんですよね。なら、俺がやめることもわかってください」
受け入れた全てを捨てた男が輝馬の前に立っていた。
‐6‐
昼食が胃袋で消化されているであろう昼下がり。しかし、なにも食べ物が喉に通らなかった。3日前のショックがまだ抜けていないからだ。
部屋を整理していた男が立っていた。部屋のだいたいは業者によって整理され、どこかに送られることはたしかだ。その何処かは灯夜は把握していなかった。売られるかもしれないし、自分のものになるのかもしれない。それは正直どうでもよかったが。
亡くなった人の部屋って、なにも書かれていない紙のようだ
死人を出汁にしたポエムと言われたら反論は出来ない。それは自覚していた灯夜。
部屋を去る前にバッグに入れたラップトップの中に入っているデータを確認しろという旨のメールが灯夜の携帯に届いた。数週間前に押し倒した風沙からだ。葬式で会釈して以来会っていなかった。
「データを確認しろ」、か。なんのだろって……わかりやすいな
ラップトップを起動した後デスクトップに表示される壁紙とアイコンの一覧をパッと見た後に『灯夜へ』と題名されたフォルダが確認出来た。中身はビデオレターだ。
‐7‐
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お前は私の願いを叶えてくれる数少ない存在だろう。
今、世界に光が未来を指していくれている。人々を照らし、我々に希望をもたらしてくれている。
だが、いつしか光は消えてしまう。
私は人々に希望を持ち続けてほしい。灯夜、お前は光を継ぐことが出来る数少ない存在なのだ。
もし光が消えた時に、その時にお前が光として未来を照らし続ければ、人々は再び希望を持ち、また未来へ突き進むはずだ。
こんな無責任で難しいことを課す親の願いを必ず叶えろというわけではない。お前は選ぶことが出来る。心を持っているからな。
選択には後悔が必ずついて回る。だが自分に出来ることがわかった上で選択すれば同時に先へ進む勇気が湧く。
今、お前に向けてメッセージを送っているのも私に何が出来るかをわかった上で送っている。
灯夜、もし後悔をしてる事があればその後悔を繰り返すな。失敗を学べ。学んだ上で選択をするのだ。
それで選んだ選択肢がなんであれ、私は咎めない。私はそれを見届けるまでだ。お前が悔いを残さないならそれで十分だ
[chapter:―8―]
何が選択だよ。何が後悔さ
灯夜は選択をしていた。戦うことを。そして後悔をした。失い、奪ってしまったことを。そして学んだ。なにもしないほうがいいと。自分に出来ることは何もない。だからこれ以上は無駄。
「俺に出来ることって……なんだろうね」
ラップトップをしまい、部屋を出る灯夜。何かを感じとり、振り返りこう言った。
「……責めないって言ったはずだよな?責められてる気分だ」
‐9‐
「それで、引き止めなかったの?」
「えぇ、なにが悪いんですか?やる気の無い奴は戦力になりませんよ?」
寒くも暖かくもないちょうどいい外界の大気の外にある朝日が部屋を暖めている。
レザーチェアに座り大きいデスクに肘を乗せている熟年の女性のため息が部屋に広がった。
「貴方ね、あの男は重要なのよ。殺すわけにも放置するわけにもいかないのよ」
同じく座っているが応接用の椅子と机を使い茶を飲みながら自分のペースで報告を行っている輝馬。
「ん……たしかに重要な戦力になる可能性もありましたけど」
「違うわよ。井崎灯夜の出生を知っていれば意味はわかるでしょ」
輝馬は自身が持ってきた書類の中から守護者計画に関する紙の束を選択し、眺めた。
「確かに彼の出生を知ってれば躍起になる気持ちはわかりますけど、人間なんですよ。選ぶ権利は彼にあるでしょ」
一通りある部分を軽く読み、書類は置く。
「茉優夏おばさん、俺だって彼を引き戻したかったですよ。ですが、彼にその気がなければ彼は俺達の力になれないですし、俺達は彼の力になれませんよ」
「そうね。その気にさせなきゃね。ヒーローにさせなければ。ヒーローは人を救うのが使命なら……」
不穏をすぐさま察した輝馬。
「待って、ダメだ。無関係の人を巻き込むのは」
「巻き込みはするけど死にはしないわ。彼が救うもの」
頭を抱える輝馬。
この人は毎度こうだよ
‐10‐
スーツケースが灯夜に引っぱられ、移動の運動が行われていた。考え事をしながら空港に向かうバスへ一人歩いていた。
もし、ヒーローになって失うことも奪うことも受け入れなきゃならないなら、ヒーローなんて御免だな
風沙から託された希望と未来。そんな壮大な話には到底ついていけない灯夜。
ヒーローって、人を助けたり悪人を倒すだけかと思ってた。確かにその通りだったけど、なんでこんなにも重たくないとダメなんだ
灯夜は人を助けたいという気持ちは常識的人間なりにあるわけではなかった。だからヒーローになれと言われたときは憧れよりも戸惑いが大きかった。それがたとえどんな人間でも驚くとしても、人を助けることは自分の選択肢の中には入ってなかった。
あのスーツの力がたとえ強くなれるものとしても、着ることは勘弁してほしい。息苦しくなりそうだ。もう着る機会なんてないだろうけど
心の傷というものはそう簡単に消えるものではない。彫られた木の板が元に戻ろうとしても彫られる以前に戻らないように。
爆発音。高さが8階分あるマンションからだ。もちろん、その周辺に居る者達はその爆発音が鼓膜に響き、爆発の元を探した。灯夜もその一人だ。
‐11‐
まったくあの人は何を考えてんだ。マンションの空き部屋を爆破させて火事を起こす。それも灯夜の通行ルートのすぐ近くに
無茶苦茶な依頼に困惑をするも結局は従っている自分に可笑しさと苛つきを感じている輝馬。
これで人が死ななきゃいいんだが。計算通りなら、爆発はこの部屋で収まり、火事が起きるはず
マンションのあらゆる通路へ石油を撒き、爆発する予定の部屋の周りには放火犯よろしく派手に石油をバラまいた。住民が気づくのは時間の問題だが、逃げるのはわからない。その為、爆発後は自動ドアが作動しないように仕組んだ。
準備は整っている。格好も帽子とサングラスで正体がバレないようにした。
頼むぜ、リヒトワンド。これで人を救ってくれなきゃ俺が罪の意識を被ることになるんだ。それだけじゃない。死人が出るんだぞ。無実の人が
時限を設定し、部屋を脱出した。灯夜のもとへ向かうために。
[chapter:―12―]
「あの人達も死ぬのかな。誰か救いに行かないのか」
呟いた灯夜。あまりにも無力な自分を自覚していても悔しさは無い。それはもう前に実感した。それに自分とは無関係だからだ。だが、生まれて初めて持つよくわからない感情が頭の中で渦巻いていた。
ベランダには助けを求める人が。
俺だってどうにかしたいさ。でも、何ができるんだ
「誰か助けて!あそこにおばあちゃんが居るの!」
「消防車は呼んだのか!?誰か呼んだのかよ?」
「ブリッツマンたすけてよ!」
声があのマンションからも灯夜の周りからも聴こえてきた。それが彼にはうっとおしかった。研究所での事件を思い出すかのようで。
「誰かが行かねぇと誰かが死んだり誰かの大切な存在が奪われたりしまうぞ」
後ろには聞き覚えのある声。
「ブリッツマンが居るだろ。それに消防隊も」
「そうであって欲しいな。でも、ブリッツマンは今は違う場所で戦ってる。消防隊もそんなすぐに対応出来ない」
灯夜は背中にスーツケースの感触を感じた。自分のものではなく、変わった形のケースだ。
「ここから三軒行ったところの不動産屋を封鎖した。そのスーツケースには前に君が着た『繭』以外にもアーマーが揃ってる。それがあれば耐火には十分だろ。どうする?」
輝馬の手に持っていたスーツケースの感触が気づいたら無くなっていた。灯夜も既に居なくなってた。おそらく不動産屋を封鎖したと言ったあたりから居なくなっていたと判断した。直後、輝馬は安堵のため息をついた。
「ハァ、ハァ……!クソッ!やるに決まってるだろ……!!やらなきゃいけないんだ!!!」
‐13‐
着替えた直後に不動産屋から飛び出し、爆発したマンションに駆けつけたリヒトワンド。アーマーのライトシースを付けたにも関わらず動きやすさは『繭』の時と変わらないことに違和感を感じた。
ゴツいのに動きやすいのは身体が軽く感じるからだ。人工的な筋力が働いており、これでどんな重いものでも運べる。
イケる!これなら!
「でや!」
自動ドアのガラスを突き破った。直後、エントランスからも発生している火に襲われるリヒトワンド。しかし、バックパックから頭部に酸素が行き届いているので外からの呼吸はせずに済んでいる。
まずはエナジーフィールドを放ち見えるところから順に火の元を断つ
エントランスが済み次は階段、通路。徐々にエナジーフィールドによって消火活動を行っている。
「なんだあんた!?」
「逃げるんだ!」
「あっ……はい!」
理解を表面でした住民はすぐさまエントランスへ駆け下りた。
「ヒロ!何処が被害が大きい!?」
≪分析によると、この階の408号室。急ぐんだ!≫
408号室へ辿り着いたリヒトワンド。出入り口にエナジーフィールドを張る。
「次だ!逃げ遅れた人を救う!」
≪了解。ではまず最上階から探そう。そこの火災が大きく広がっている。エントランスに近い階なら逃げられる確率は高いから安心してくれ≫
外へ飛び出しエナジーショットの照射の反動で最上階へ向かったリヒトワンド。
≪待って!先程通り過ぎた部屋に子供を確認!≫
「窓を突き破る!」
子供にはやや刺激的音が響いた。
「ウワッー!ウワッー!」
「大丈夫!落ち着いて!僕はブリッツマンの仲間だ!君を助けに来たんだよ」
「ほんとうに?」
「あぁ、本当さ。ママとパパは?兄弟とかは?」
子供をあやすように自分なりに優しいトーンで言葉をかけた。
「ぼくはるすばんをしてて……それでえっと」
「オーケー、じゃあ僕に抱っこしてね。ここから飛ぶよ」
子供を自らしがみつかせたのを確認したリヒトワンド。窓から落下。
「うわーーーーーーーーーーーーー!!!!!!…………うわぁ!空を飛んでる!?」
「捕まってね!」
マンションの周辺に集まっている野次馬や脱出した者たちの元へ着地したリヒトワンドと子供。
「あぁ、ありがとうございます……!あの……名前を伺っても……?」
子供の保護者が迎えにきた。
「俺は……僕はリヒトワンドだ」
その後、再度マンションへ突入したリヒトワンド。
‐14‐
「急いで!ここから逃げて!」
輝馬は自分の声を撒くかのような勢いで声を怒鳴り散らしていた。とはいっても主に避難誘導と野次馬の仕切りだ。
頼むぞ、灯夜!
そう願をかけ、自分の出来る最善を尽くそうとした輝馬。最善を尽くすのは確実に灯夜も同じだとも理解はしていた。
「なぁ、あんた!手伝うぞ!」
「……わかった。じゃあまず、二人は俺と一緒に消化ホースを。そこの二人は野次馬をなんとかしてくれ!」
動揺が頭の中に走った。なんでこうなってくれたかはわからずにいた。この混乱の中で冷静にはいられなかったからだ。だが、何かが導いてくれたような気はしていた。
‐15‐
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自分が奪ったものを、奪われたものを戻すことは出来ない。でも、同じことを他の人へ味あわせないようにすることは出来るはずだ。その為に、俺は自分を鍛えていき、戦っていくさ。
未来や希望の為に戦うって理由はまだ付いていない。でも、自分の手に届くものの為に戦い守ることは出来るはず。選択したんだ。俺にできることを。
もう迷いはしない。こういうことはこれからも繰り返すかもしれない。でも、そこから逃げたりはもう絶対にしない。
さぁ、頭にある錘は振り払おう。戦いには邪魔だから。今しているこのヘルメットも息苦しいけど、いつかは受け入れられるはず。
「もう悔いは残さない」
僕はリヒトワンド。そして俺は井崎灯夜だ。ここから俺の戦いが始まる。いや、もう既に始まっている。
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