THE BLITZ チャプター1‐第6話:可能性
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車の中にエンジン音が不快に伝わってくる。ワゴンの中は人の臭いより銃火器の持つ鉄と火薬の臭いで満ちていた。
「リーダー、準備は出来てます?」
若年層の男性がリーダーに話をかけた。リーダーもその男性とは素性や性格、顔と体格が違うだけであとはだいたい同じようなものだ。
「あぁ、だいたいは整っているよ。もう少しで到着だから気は緩まないように」
「流石はこの中で二番目に手慣れているだけあるな。こん中で俺を故意以外で撃ちそうにないのはコイツくらいだろ」
若年層が多いワゴン車の中でただ浮いている男性が中の雰囲気をわざと悪くした。きっちりした肉体と年相応の鬚、背丈など見た目からもわかるように彼はこの中で最高齢のメンバーだ。そして唯一の外国籍のメンバーだ。
浮くのも無理はない、人生経験と銃を持った経験が薄いメンバーが多い中、彼は銃を使う実戦の経験の多い数少ない人員だ。
「グラント、俺をおちょくるのはいいがメンバーにちょっかいは出すな。するにしても度を弁えて、アドバイザーらしく助言だけに徹してろ。少なくとも雰囲気は変わらずに済む」
メンバーを雑魚と一括にされたような言動で彼、『弥田 加賀魅』は苛ついていた。同じ志を持つ者を馬鹿にされれば苛つくのは無理はない。
グラントはその発言を耳から受け止め、意味が脳に伝わったが、特に気にすることもなく頭の中の鼻で笑うことで一蹴した。直後に「わかったよ」の一言を口にした。
ワゴン車はこの時にも目的地との距離を近づけつつあった。隣合ったり後ろを付いている外装が同じようなワゴン車も偶然というには出来すぎているくらいにそのワゴン車と同じ目的地を目指していた。空からもだ。
「そういえば、先に行ってるはずの『先生』はどうした?」
グラントが言う。先生と呼ばれるのは学校の教師か弁護士か昔ながらの時代劇での用心棒くらいだろう。空からは『先生』が目的地へ向かっていた。
「彼は大丈夫だ。ただ、少し手間取って遅れたらしい」
「んまぁ、あそこの研究所の警備など取るに足らんだろう。……あー、彼には」
グラントは余計な一言を足しかけた。優しく言うのであればグラントと加賀魅と『先生』にとっては取るに足らぬ相手だが残りの連中には手こずるだろう、と。
[chapter:2]
「本当に来てくれるとは嬉しいよ。さて灯夜、単刀直入に聞くがヒーローになる決心が着いたということでここに来たという解釈でいいのか?」
「早まらないでくれよ。俺はただ気になってここに来たんだ。あのブリッツマンってのはどういう仕組みなのか、どうしてあんなことが出来るのかってのが知りたいってことで来たんだよ」
前回に比べれば随分親子らしい会話だ。だが、二人共親子という意識は少なくして話している。故意にせよそうでなくとも。
灯夜は知的好奇心から風沙の務めている研究所へ赴く以前に言われた「ヒーローになること」を選ぼうとしているところだ。つまり、前に比べれば意欲はあるということだ。
一方の風沙は絶対にヒーローにさせるべくなんとしてでも灯夜を引き留めようとしていた。さながら未練がありながらも家出しようとする子供と必死で止めようとする親だ。
ここで一つ問題があった。灯夜は風沙に対してまだあらゆることを許していないところだ。
「ところで、今向かっているのはブリッツマンが使っているスーツの製作所だったりするの?」
「間違ってはないがそうじゃない。正しくはもう一人のヒーローが使うスーツが保管されている場所だ」
それを聞いた灯夜は呆れを隠しきれずにいた。やらないと何度も言ったはずだが未だに諦めない親父に。
「人の話聞いてた?彼の使ってるスーツとかが気になってここに来ただけだよ。」
「まぁ、無理にやれとは言わないよ。今はお前がヒーローになるとは言っていないからな」
灯夜の気が頭の中のどこかに触った。でも、あの力を手にしたら考えはどう変わるのだろう。そこが気になっていた。
自分自身、自分のことがわかっていないだけにその状況に陥ったらどうなるのかが全く想像がつかないことに恐怖心を抱いていた。それを抱く自分に劣等感も。
だが、それが人間というものだろう。灯夜は自分自身が他の人間と劣っていることを他者との比較をせずに確定していた。そのために劣等感を勝手に抱いているのだ。
そうこう考えているうちに『もう一人のヒーロー』が着るであろうスーツのある部屋に着いた。中の広さはパソコンが載っている机が数台入っており、資料を保管する棚も数台あった。
入り口から見え、そこから遠い場所『スーツ』が保管されていた。その『スーツ』は服のように畳まれて保管されているわけではなく、ポッドと言えるべき物の中にあった。外から見れるようにガラスで囲われており、その中は空気に包まれていた。
スーツの外見はスピードスケートで選手が着るレーシングスーツと瓜二つの脚部と胴体と腕部を包むスーツは三つに分けられ、背中にはバックパックらしきもの。ヘルメット、そしてそれを固定させるための首輪がポッドの中に置かれていた。人間の態勢で言えば仰向けだ。色のベースは青と黒が入り混じっている。
「ぁ……意外とカッコいいかも」
息の混じった笑い声が机のある隣から聞こえた。
「あー、いや……デザイン良いな。そういえば、これでどうやって身体を守るんだ?」
「背中にバックパックがあるだろ。そこの中の加工されたグロンムがエネルギーを出力する。電池みたいなものでジェネレーターの中心的パーツだ。そこから出力されたエネルギーが身を守るバリアとなる」
だから撃たれても平気だったのかと納得した。
「じゃあ、ビームもあそこから作られたエネルギーが基になってるんだね」
「グロンムが電池として、そこから手にはエナジーショット、足からはエナジーブースを出力される。それとビームことエナジーショットはダメージの種類が選べる。打撃、電撃、貫通弾と状況によって選ぶのだ」
そこで灯夜に疑問が生じた。そんなことをすれば人の生死にも関わるんじゃないのか。ブリッツマンは敵の生死は厭わないのか。その疑問を口にした。
「彼はなるべく殺さないようにしている。まぁ、言ってしまえば責任を負いたくないのだろう。人を殺すことは簡単だが、その後の重荷を背負うことは容易くない。だが、それで良いと思う」
この中の言葉にはどれも皮肉は込められていない。
……
PSPCは警察としての職務執行が日本のそれとはもはや別物と変貌している。
単純な話、日本の警察には『島』限定で急増したテロや異能犯罪へ対抗するには無理があるからだ。初期の対応では警察官の装備や職務執行では対応の遅れや対抗出来ない。緊急時にはSATによって異能犯罪者を逮捕、最悪の場合射殺は出来るだろう。
しかし、そのケースが頻繁に起きるこの『島』ではそれの為のリソースや人員が不足している。その為、かつて『モノ』に対抗出来た『組織』がPSPCとして発足され、十分に活躍させるための『島』の地方自治法を優先させる特別法が実施され、PSPCはリソースも豊富に持つようになり、テロや異能犯罪への対抗を有利に行えるようになった。それほどに異能犯罪というのは厄介なものなのだ。
あくまで緊急時に対応出来るタスクフォース∞が出撃がし易くなっただけでPSPC所属の警官と日本の警官との違いは初期対応の制限がそこと比べると緩和されている程度の違いだ。
……
「でも、もし敵を殺さなければならない時はどうするんだ?」
「さぁな。私は彼ではないからどうともな。それは後々に彼にでも聞いてみろ」
灯夜がPSPCに入ること前提に話が進んでいることに灯夜自身が気づいた。
「……正直、俺に何が出来るんだ」
灯夜の一番聞きたい疑問だった。なにも能力を持たない彼にどうやってヒーローになれるかがただ疑問だった。だが、彼には素養があった。それに気づいていないだけで。
「お前には素晴らしい素養がある。アレを操ることに関してのな」
アレとはまさにスーツの事しか頭に思い浮かばない。実際その通りだった。それに灯夜はなんの関係があるのかを問うた。
「スーツを操るには適性が必要なのだ。お前には適性があるのだ。それも後にも先にもないほどの。力は使うべきだ。自分に何が出来るかわかったのなら」
それを聞いた直後、灯夜の頭には怒りの反応が来た。さっきは良い感情で自分の父の言葉を思い出したが、後に考えてみるとどうして自分をほったらかしにした人間が今頃になって父親面しているのか。利用して終わらせるつもりなんじゃないか。恐れと怒りの感情が混ざってきた。
要は説得力を感じないのだ。どぢて言い訳がましく、目的を達成しようとしてるかのような。
「じゃあ、なんでそれを教えてくれなかったんだ?それを言ってくれれば、とうの昔にその道を歩めたのかもしれないのに。自信を持って」
「幼いお前をこの戦いに巻き込みたくないからそうしただけだ」
また言い訳がましい言葉のように聞こえた。
「巻き込みたくないだって?俺はアンタに捨てられたんだ!何も言わずにただ仕事が忙しいからってな。親戚に預けたことでそうしてないと思ってるだろうけど、俺にとっては捨てられたも同然なんだよ!」
怒りを抑えきれなかった。理解はしていても。
「アンタに育てられたらもしかしたら何か変わっていたのかもしれないんだ」
灯夜は逃げていることを自覚していた。自分が変わろうとしていなかったことを。それを風沙のせいにしようとしていた。それに気づき自覚した後に深呼吸。
「ごめん、こんな八つ当たりをして。尚更俺はヒーローに向いていないってコトがわかっただろ」
「そうやってまた逃げるのか。今度は自分が変われる機会と戦いから。灯夜、お前は何故自分の可能性から逃げようとする?」
変われば今の自分でいられないのかもしれない。この自分が底に落ちた状況に甘んじていたいからなのだ。そうすれば、自分を卑下して逃げる名分が出来る。その状況に居心地の良さを感じていた。
「自分の選んだ道で戦うことが怖いんだ。そこで本当の自分を見るのが怖くて、挫けたらどうにかなってしまいそうで」
「私に手伝わせてくれ。今までの分を、親らしいことが出来なかったことの償いとして」
彼は自分に何が出来るかようやくわかった。ただ、戦うことだ。自分に持つ力を信じて。人を信じて。
[chapter:3]
「それで、このままジッとしていればいいのかな?」
スーツとヘルメットを装備し、ポッドの中で仰向けになっていた灯夜が言う。先程まで自分のやることがわからなかった者と同一人物だ。生気が違って別人に見えていても仕方がない。
彼はスーツに適応するための初期設定をされていた。
「あぁ、そのまま寝ていればいい」
机上のPCでスーツのセットアップをしながら答えた風沙。
「そうなんだ。あと……ウワッ!」
何を驚いたかは風沙には予想が付いていた。灯夜には予想外だが。
「なんだこれ!?いきなり声がして……」
≪動揺していたようなのでもう一度。こんにちは。私はヒロ。あなたの戦闘を支援するクラウド型のAIであります≫
「そいつはヒロだ。お前とブリッツマンの戦闘を支援するAI」
そんなことは二度聞かされてわかっていた。そして一つ疑問が出来た。タスクフォース∞のオペレーターはどうなるんだということ。これがあるなら少なくとも二人には不要なのでは。
「これがあったらあのオペレーターはなんの仕事しているんだ?」
「新崎君はストラックチームのオペレートをしているんだ。お前らにもするがだいたいはヒロの仕事だ」
≪言っておきますが、喋る必要はありますよ。耳から入る情報は伝わり易いので。戦闘中に目でテキストを追うよりは全然ね≫
じゃあなんでさっきは自分のところに居る暇があったのかという疑問より考えを見透かされている気分が優先されてた。こいつがさっきまで居なくて良かったと内心ホッとしている。
「チクッとするぞ」
え、何がと言う間もなく痛みが首筋から伝わった。たしかにオノマトペで言うところの「チクッ」だった。頭の中に何かが入ってくる気がしていた
「今、神経への適合とリンクの初期接続をした。これはナーヴ接続と言って、スーツの操作をするために必要なものだ。そうすれば、エナジーを使う武器の選択を行えたり飛ぶ時の推力の変更やバリアを他方へ張ることが出来る。要は脳みそがコントローラーになるようなもので」
「んな難しいこと言われても理解できない!気持ちが悪くなってきた。吐きそう!」
ウンチクというより操作事項の説明が途絶えた。先ほどとは全く違うテンションで先は思いやられそうだと風沙は困惑したが内心少し嬉しかった。
少し前まではこんな調子で話すことはなかったからだ。
[chapter:4]
「クソっ、あれが『死神』か!冗談にはなんねえぞ!」
「動きが捉えきれない!速すぎる!」
「ダメだ、撃っても効かない!退避すグワァッ!」
「こちら、ストラックチームのブラボー1-1だ、ブリッツチームの応援はまだか!?」
≪ネガティブだ。ブリッツチームは現在、異能犯罪者への対応に追われている。増援を送ったのでそちらで対応してくれ≫
また一つ、意外と余裕ができるなと思ったらあれで終わりになるのか
「対応出来ないから増援を送れと言って……おい、嘘だろこっちに来るな!」
これで終わりだ。あとは例の研究所に向かうだけ。銃弾が邪魔くさいな。だが、エナジーブレードを刺して終わりだ。
彼の言ったとおりに状況が終わった。山間部近くにある道路でタスクフォース∞を陽動する作戦だった。
味方の異能犯罪者と共同してタスクフォース∞を陽動するつもりだったがブリッツマンの出撃の早さが予想外でそこから退避し、研究所へ向かうとストラックチームに抵抗された。結果はさっきの通りだ
≪先生、今どこにいる?こっちは着きそうだ≫
「あぁ、今は山間部近くでストラックチームに相手されていた。今から向かうよ、研究所に」
作業用に映画を流すと集中出来ないことに気づいた作者のツイッターアカウント→
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