THE BLITZ チャプター1‐第4話:インクレディブル
‐1‐
スーツの中ではただ眠ってるような穏やかな気分になっていた。まるで布団に包まれているような暖かさだ。だが、状況はそれとは正反対だ。
街は壊れ果て、戦闘機が飛び交うが敵の設置した地対空ミサイルに撃墜され、怪物が混沌を作っていた。灯夜はそれを止めなければならなかった。だが、損傷が激しく味方も数少ない。それでも立ち向かう必要があった。
どうすればいいのか。それを考えている矢先に怪物が真正面から飛んできた。灯夜はそれを回避した。周囲では味方の兵士の放つ銃弾や上空からの機銃掃射の雑音が考える暇をなくしていた。
こんなのは無謀だ
灯夜は心身共に限界を迎え始めていた。攻撃の被弾により自身のストレスを増し、無線に飛び交う怒号は泣きたい気持ちを構築していた。限界だった
なんで俺は昔、こんなことを引き受けてしまったんだろう。もう帰りたい。早く休みたい
自分の選択を後悔し、過去に戻りたい気分だった。涙が出ていた。涙を瞬きで落とそうとした瞬間、ビルが正面に来ていた。
三途の川は死人へは動かない。だが、死人自身はそこへ渡ることは出来る。
‐2‐
「うあああ!」
自分の置かれていた状況とは矛盾するように仰向けになっていた。
シャツは汗でまみれており、起きたばかりのせいなのか悪夢のせいなのかわからない涙が目に張っていた。
「なんて夢だ……」
涙を拭いながら考えていた。もし、昨日引き受けていたらさっき見た夢と同じ状況になっていた可能性があったのではないかと。なら、引き受けなくて正解ではないかという答えに辿りつきつつある。
だが、あの時は苛つきからあのような態度を取ってしまっただけ。それを後悔していた。
「起きよう」
そこから身支度を整え、安いビジネスホテルから出た。自宅ではないのでどこかいつもと違うように外へ出た。だが、自宅に居るときはどうだったのかを灯夜は覚えていない。
‐3‐
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
昨日は20時くらいまで残って事務作業や任務の事後報告の資料作りに追われ、睡眠を必ず取る夜中の1時まで自主訓練をしていたこの体が眠気と低気圧の頭痛に悩まされている今朝。俺はあのやる気のないド阿呆について聞きたいことがある。
あのド阿呆、井崎灯夜とかいう恵まれた素質を持ちながらいい年して反抗期とはどういうことだ。
正直、あれのせいでストレスが昨日はみっともなく苛つきを見せてしまった。だが、平常心。その時はその時、今日は冷静かつ余裕があるように。
と思った矢先にだ、井崎風沙博士が視界に入った。伺いしたいことがあるからさっそく伺おう。
「井崎博士、息子さんの件について聞きたいことが」
「あぁ、『ヒーロー』をやらせるかどうかだろ。私に任せてくれないか。うまくいくと思っている」
まるでその質問が来ることを予知してたかのように瞬時に答えた。それもそのはず。俺と井崎博士は昨日の件で初めて会ったからだ。
俺はタスクフォース∞のオペレーターだが、同時に新しい『ヒーロー』の監視係を任されていた。その為、今回の『ヒーロー』の計画と開発の主任でもある井崎博士と出会う機会ができ、今この場で予想が容易い質問を投げかけ、そして瞬時に返された。
「……なるほど。で、私は何をすればいいんでしょうか」
ただ仕事が欲しかったわけではない。と表面的に思っていたが結果的にも無自覚にもただ仕事が欲しいだけに見えるだろうな。
「全部私で出来ることだ。君の仕事はあいつの監視だ」
反射的に質問へ返答した。
「僕は監視係ではなくてアドバイザーです。ついでにオペレーターの仕事もやってます。あと、それから、ここの会社のあの『スーツ』を知ってますよね?僕はあれを……」
まるで自分の能力を誇示するかのような答え方だった。事情を知らない者からしたらコンプレックスを感じているように見えるだろう。それを証明するように機密を漏らしかけた。まったく、馬鹿と言われたらその通りだ。
「新崎君、別に君の生い立ちや役職は関係ない。ただ、私一人で十分だし一人でやりたいだけなんだ。考えもある」
「俺がコンプレックスを感じているから仕事をくれと言ってるとお思いですか?いや、ただ自分のしたいことをしたいだけですよ。周りがそう言ってたり思ってるからって決めつけないでいただきたいですね」
俺はなにを言ってんだ。
「すいませんでした」
「いや、気持ちは理解出来るよ。新崎工業では君への意見をよく聞くことが多いからね。でも、これとは話が別なんだ」
これは素直な謝罪ということは理解できた。俺は自分の馬鹿さ加減を改めて把握し\謝罪を行った。
「わかりました。失礼しました、あんなことを言ってしまい」
俺は馬鹿だなぁ
そういう言葉でしか表現出来ない申し訳なさとコンプレックスが俺の頭の中をツン突いていた。
「じゃあ、失礼しました」
それを忘れるように歩きながらタスクフォース∞のオペレーションをおさらいしようとした。んで、始めた。それ遮るかのような一言が耳に聞こえた。
「彼と話してみたいのか?」
振り返って俺は肯定の返事をした。何故彼と話したいのか、もし井崎灯夜がヒーローとなる可能性があるのなら俺と共に新しい時代をより良くできるかもしれないからだ。
「これが電話番号とメールのアドレスだ」
「ありがとうございます。少しでも良い方向へ迎えられるように善処して見せます」
「あぁ、あとそれから君に一つ教えておきたいことが」
教えておきたいこと?なんだろう。この件で自分に足りないところは無いと勝手に思ってるがなんなんだろう。そう思いなが俺は井崎博士に再び近寄った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
[chapter:4]
灯夜はカフェに居た。メニューはそれなりに充実したカフェ。そこで一般的にはちょうどいい時間で昼食を済ませていた。なぜ、ここで済ましていたのかというと約束があったからだ。電話で知り合いと会う約束を今日突然取らされたのだ。
そこでホットドッグを頬張りながらテレビを見ていた特に他愛もない昼間のワイドショー。それを目的もなくただ眺めていた。そんな時、輝馬が言っていたこと、意味は後から付くという言葉を思い出していた。
「こんなのを見ることに意味は付かないよな、流石に」
「かもしれないですね」
予定調和かのように向かいの椅子に座ってきた男が着席すると同時に話しかけた。新崎輝馬だ。なぜ彼は自分を呼んだのか。灯夜はあえて聞かなかっただけだ。話を長引かせたくなかったから。
「面倒に思っているだろうけど、ただあなたと話してみたかっただけですよ。前は時間を取れなかったですし」
「俺を不要と思っているかと。昨日はイラついているように見えていたので」
輝馬は予想通りの質問へ返答をする。
「まぁ、その通りですよ。昨日はね」
「昨日は?」
手元に差し出された水を口にした後、輝馬が言う。
「昨日はあなたの言動に苛ついてしまったんですよ。まず、それの謝罪をしたいんですがよろしいですか?」
どこか変に感じるのだ。謝罪のためにこの島を出ようとしている自分を呼んで何が本当の目的なのか灯夜は怪しく感じた。どうせ二度と会うことはないだろうと考えていたので直球の返答をした。
「なにか企んでます?」
「やっぱり素直に話しますよ。あなたにはヒーローをやってほしいと思っているんですよ。あなたを必要としている」
必要としている。この言葉は嬉しく思うはずなのだがどうもそう感じられない。
「必要としてくれる……それは嬉しく思うべきでしょうけど俺では期待に応えられませんよ」
「ひとつ聞いていいですか?なんでそうどこか変わっているような態度を気取っているんですか」
輝馬は灯夜の性格に作りものっぽさが見えたのだ。本当の自分を見せないようにしているかのような態度はどこから来ているのか甚だ疑問なのだ。
「……俺は記憶を失ってるみたいなんですよ。一部の記憶を除いて。学生時代の楽しい思い出や悲しい思い出、子どもの頃に印象に残ったこと。普通の人だったら多くを構成しているかのような思い出が俺には無いみたいなんですよ。で、数少ない残ってる記憶は親父が俺を捨てたことと生活の中でどうするべきかの方法くらい」
「はぁ……それがその性格とどう繋がっているんです?」
少し嫌味が含まれている気がするが気にせず返答する灯夜。
「俺に変に気取ったところがあるのは……さぁ、特に考えていないですね。強いて言うなら、こうしたほうが本当の自分を見ないで済むんじゃないかなって理由ですかね」
「本心じゃないと」
深い呼吸をして安心した輝馬。
「じゃあ、ヒーローをやるつもりは無くもないってことですか?」
「いや、そうじゃないんですよ。選択して後に悔むことが怖いんですよ。何が起きるのかがわからないから。それも昨日反発した理由の一つで」
「なるほどね」と呟く輝馬。気持ちはわからなくもなかった。何が起きるかわからない怖さは痛いほど思い知ったから。選択によって救えた命も救えなかった命もあったことが輝馬の記憶にあるから。
「なぁ、灯夜さん。僕たちタスクフォース∞(インフィニット)は確かに最強の部隊だ。救助にも秀でてる。でも、正しいと思える選択でも全部を救うことはできない。たとえ最善を尽くしてもね。あー……だから何が言いたいかって言うと、選択を恐れていたら何も出来ないし、後悔をしたならその時の反省を活かせばいいんじゃないかなってこと。そうすれば、もっとより良い選択肢が出来るかも知れないですし」
どこかピンときた灯夜。
「親父が言いそうなこと……?」
「ん、まぁ教わった事ですよ。受け売り。井崎博士のことは親子なことだからよくわかるんですね」
否定の首ふりをする灯夜だが、頭の中では否定をしていなかった。
そう考えながらただ噛みやすさがある少し温くなったホットドッグをかじっていた。
食べ終わりそうなその時、皿の上にはもうミニトマトしかなかったその時にテレビから慌ただしい声が鳴り響いた。
≪速報です。南区の九尾徒市の…銀行で強盗が発生しその実行犯が九尾徒市街を車で逃亡している模様です。犯行グループは武装しているので、見かけたらくれぐれも近づかず、速やかにその場から逃げてください。えー、今から映像を中継します≫
長い説明がその場の動揺を作った。灯夜と輝馬も少なくとも動揺したが、皿に残ったミニトマトを食べるくらいの余裕は残っていた。それ程には実感が湧いていなかったのか、なんにせよ何が起ころうと不思議とは思わないだけなのか。
≪あ、ご覧ください、ブリッツマンです!ブリッツマンをこのヘリから確認しました≫
その瞬間、灯夜はテレビに目を移せるように首をテレビに向けた。
‐5‐
電撃が街を走った。走ったと言うには速すぎる。だが、この緊急事態では表現などどうでもいいくらいだ。
「あとどれくらいで接敵する」
男らしい低いかつ逞しさを感じる声がヘルメットの中を響かせている
≪接敵まで200。敵の装備は銃火器を確認。使用可能の攻撃はエナジー系の攻撃のみとお達しです。それと死者は出さないように。マスコミがヘリで中継してるようで≫
エナジー系なら人は傷つかない。近接で斬ろうとしない限りは。面倒なことを言うなぁ
そう頭の中でもう一つの口が呟いていた。独り言のように。
人間で言うところのたくましさを感じられるマッシブなボディ、濃い黄色がメインの塗装でシンプルな塗装パターン、青い線が張っているブリッツマンの全身。
「了解。間もなく接敵だ。加速する!」
直後、足の底部と脛とふくらはぎにあるブースターから更に大きい光の塊がアフターバーナーの炎のように逞しい光を描いていた。これはエナジーブーストという。
車は三台。中心の車を守るように残りの二台が挟んでいた。その車らの窓から銃を自分たちが脅威と見せかけるように構えた輩が出てきた。言うなら箱乗りの状態だ。
発砲。だが、ブリッツマンには効いていない。それかただ外れただけか。そこから確認する術はないが少なくともブリッツマンには何が当たったかという感覚はなかった。
それに反して銃弾が数発着弾した報告がバイザーに出てきた。飛行や戦闘の邪魔にはならない。これはエナジーフィールドというブリッツマンを保護しているエネルギーの膜が被弾したということだ。
ブリッツマンは最初の発砲をした車のバンパーに着地した。そのまま、車のエンジンルームであろう前部をエナジーショットで撃ち貫いた。車は足を切られた人間が転ぶかのように急停止。ブリッツマンは次の車、中心に居る車へ飛び移った。
飛び移りそこへ着地しようとするその数秒前、守られている車からショットガンが連射された。ブリッツマンに向けて。
散弾はブリッツマンから外れ、守っている車の後部座席の窓に向かっていた。
死者を出すわけには行かなかった。ブリッツマンは狙われていることには射撃される数秒前から気づいていた。その為、エナジーバリアを被弾するであろう車に張る余裕があった。
両手からエネルギー壁を貼るための波動が帯びられていた。腕を窓の幅の大きさまで広げ、紐を結ぶように窓の両端から中心に手と手の波動がぶつかり、バリアが張られた。
エナジーバリアとはブリッツマンに貼られているバリアだが、部分的に短時間張ることが出来る。それを散弾から彼らを守る為に自分と同じ防衛機構を窓に、正確には窓の外部に与えた。
窓は散弾から防御された。
「ヒロ、車の中の中心部には誰も座ってないな?」
≪確認。中心部を斬れば死傷者は出ない。いや、負傷者は出るな≫
電子音と人間の声が混じった声が応じた。
直後にブリッツマンの片手からは瞬間的に加速の為のエネルギー波が発射されていた。目的地は車両前部。右手にはエネルギーの波動が刃物の形を帯びている。
左手から加速のためのエナジーブーストが行われた。横から見ると斜め上に飛んでいた。回っていた。半回転し、車両前部に右手が触れかけの数センチ前だった。触れかけになった。車両前部の中心部が割れて、正確には斬られている。車は等速直線運動が行われており、ブレーキをかけてもすぐには止まらない状態だった。その為受動的なのに能動的に見えるようにブリッツマンに斬られにいってしまった。
犯行グループの車は残り一台。先程まで走っていた2つは走行不能にされた。一つはエンジンルームを破壊され、もう一つはケーキ入刀のようにされ2つに分けられてしまった。
ケーキの中身はブリッツマンに発砲したが届かない距離にあった。
残りの車両を追っていた。
「さぁ、これで終いかな。意外と早く済みそうだが……!」
ブリッツマンは気づいた。見えたのは強盗犯と人質。強盗犯の一人が人質に銃を突き立ていた。強盗らしさを見せるためでもなく、脅しのために。
ブリッツマンは察していた。これ以上近づけば間違いなく奴らは撃つだろう。現に銀行では数人が銃撃で死傷している。
飛行は着地を迎えた。これ以上追わないように。だが、それは余裕を持っていたからだ。強盗犯はもうすでに一台しか車を走らせていない。だが、ブリッツマンには回り道をして強盗犯に追いつく力量がある味方が付いていた。
人質を抑えた者は前を向いていなかった
≪ストラックチーム1-1、ターゲット車両を確認。これより射撃を行う≫
≪用意!……撃て!≫
射撃は車両のタイヤのみに集中していた。そうすればパンクによるスリップによって車は目的地への進行が止まるからだ。
スリップ発生。車の中はミキサーのように中身が混ざっていた。
「おつかれ」
そう言葉を残し、ブリッツマンは飛び去った。あとはストラックチームの仕事だからだ。
‐6‐
「凄い……あんなの見たことない」
灯夜は呟く。まるで現実以外で描かれるフィクションの映像や絵にしか見えなかったからだ。携帯電話のバイブレーションがテーブルに響いていた。それには気づいたが、いつもより時間がかかってしまった。圧倒の余韻が抜けずにいたからだ。
「もしもし」
灯夜は慌て気味に応えた。
≪灯夜、時間が空いているなら来てくれるか?≫
「……どこに?」
≪私の務めている研究所だ≫
映像を見た直後にあのヒーローを作ったであろう張本人から電話がかかった。少なくとも、灯夜はヒーローへの興味が出てきたことは確かだ。
それだけじゃない。『選ぶこと』を選んだのだ。選ばないだけの一方通行はやめ、新しい道を開こうとした。
「ということなので……」
「えぇ、いってらっしゃい」
灯夜が店を出た後、輝馬は誇らしげにニヤついた。
「どんなもんだい。これがうちのタスクフォース∞だ。あとは博士に任せよう」
未だに休みという事実は嬉しいが休みが明けたら塵になりそうな作者のツイッターアカウント→
@Zebra_Forest(https://twitter.com/Zebra_Forest)