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THE BLITZ  作者: Forest4ta
チャプター2
11/12

THE BLITZ チャプター2‐第2話:温かい場所

―1―


 ある会社のオフィスにて。そこはきれいな街の外観の一部であり夜に街の光の一部でもある。それを保ち続けていられるのは愚かで先を読まず社員という駒を使い捨てにしかできない経営者のおかげでもあり、それにひたすら文句を漏らすだけでその経営者に対して行動を起こさない駒のおかげだ。その一人が今居るこのオフィスでただ一人労働に従事していた。

 彼は何故自分だけこんなことにおとなしく従っているのか、何故上司を殴りたいのに殴らないという自分への疑問を仕事の邪魔にしないため脳の片隅に置いていた。しかし、そのままの位置に置いておくのは体力的にも精神的にも限界が来たのだ。人間は睡眠不足になることで心身に余裕がなくなりあらゆる行動に支障が出てくる。そして心に余裕がなくんり悪循環に陥る。彼は今、その流れに流されてしまっているのだ。よって、彼の心の中は現在は負の感情が立ち込めている。

 自分の不甲斐なさに、道を誤った後悔に情けなさを感じ全てを放り出したい一心でいっそここの窓から飛び降りて楽に死にたい。そういった気持ちが雨天の時に覆いかぶさる雲のように気持ちを覆っていた。

 

 「殺してくれ……」


 頭を抱え、懺悔のように体を埋めていた。その時に声が聞こえた。精神疾患で患うような幻聴の類ではなかった。


 「自分を殺してしまう、本当にそれでいいのかい?」


 「なっ……あんた誰だよ」


 勤務していた男性社員。驚くと同時に涙と指紋の付いた眼鏡を焦点に合うように調節した。


 「たった一つの命をなくすために自分の命を散らす。それは有意義って言えるかな」


 いかにもラフな外出用の私服を着ている男とセリフのギャップに困惑をした。


 「はっ……はぁ!?いきなりなんなんだよ!俺の命をどうしようが俺の勝手だろうが!もうこんな散々な目はごめんなんだよ!」


 「もっといい方法があるんだよ。あんたの嫌いな人間を傷つける、なんなら殺してもかまわない。そもそもだ、あんたが死んでも何も変わらないんだぜ?まぁ、その顔見る限りそんな気は無さそうな惨めで哀れな負け犬にしか見えないけど」


 男性社員はさらに困惑した。見ず知らずの男にいきなりネガティブな印象を持たれリスペクトが欠かれた意見を言われた。それが間違っていないのも驚いた。上擦った声が吐き出された。


 「だからなんだよ!そんなの無理に決まっているだろ!だいいち、人なんか傷つけたら捕まるかもしれないしどうしようもできないだろ」


 「いや、出来るさ」


 雰囲気に対してラフな私服を着た男、加賀魅は男性社員が驚いた時から携帯からある音楽を流し始めていた。正確には音楽というにはほど遠いただの音の羅列だ。


 「俺はね、人を信じているんだ。どんなに困難に打ちのめされてもいつかはその困難に打ち勝つために立ち上がれるってね。あなたもその一人のはずさ」


 「いや、僕は……いやでももしかすると……いや、やっぱりわからない。急過ぎるんだよ」


 困惑がまだ続いている男性社員。だが、ひとつの思いつきとそれを実行したい意欲が一瞬だけ湧いた。


 「もし、なにかを変えたかったり一つでかい行動を起こしたいならこの紙に書かれている番号へ電話してくれ。迎えにいくから」


 数日後、そのオフィスにて殺人が起きた。その男性社員によって殺害が行われ社員数人が死傷した。男性社員は逃亡後にその番号に連絡してから行方が掴めなくなった。奇妙なことに、その男性と酷似した声が灯夜の初任務と同日にPSPC本社手前へ置かれたボイスレコーダーの音声が置かれていた。

 そしてもう一つ奇妙な点が。実行犯は男性社員のみで彼はカッターナイフのみしか使っていないはずなのに身体が二つに割かれている遺体が発見された。


―2―


 「んじゃあ、いただきます」


 豪勢な食事を囲んでいる三人のうち一人が食事への礼を込めた。調理した者への感謝、素材となった生物への感謝、あらゆるものへの敬意と感謝をこめた「いただきます」だ。


 「君の好きなステーキだ。それもデカイ500グラム!本当に食えるんだよなぁ?」


 「食べきれなかったら意地でも帰さないからね!」


 冗談のように聞こえて心地いいが、実際かなりの金額がかかっているため冗談に聞こえないわけでもない灯夜。しかし、平らげる自信はあった。というより、これくらいはいつも摂取している食事より少し多い程度だ。それに、今日は訓練以上に緊張感がかかり、頭と身体を使ったというのもありこれでは足りないのではと思う節もあった。

 

 「食べきれますよ。それに、真さんだっていつもけっこうな量を食べてるじゃないですか。人のこと言えます?」

 

 「ほんとそうよね。もっと言ってあげてよ」


 冗談の言い合いに心地の良さを感じている灯夜。このような日常はリヒトワンドとして活動することを決めた日以来起こることが多い。普通の家庭で育った人間ならこのような日常に楽しさを見つけてもありがたさには気づかないものだ。しかし、人生を構成しているはずの記憶を失って以来碌な思い出がない灯夜にとってこの一年間はありがたみを感じるばかりだ。

 

 早紀さんの作るご飯、頂くことは多いけど今回に限って言えば今まで感じたことない美味さだ。ステーキだからかな?


 切ったステーキを口に入れ、好みの濃い味のステーキソースが舌に絡み、咀嚼することで旨味が膨らむ快楽に自然とうれしさが込み上げてきた。肉のこの感触としょっぱい味が好きなのだ。

 自分の好物を出してくれた自分を大切にしてくれている親同然の二人、この一年で友人や知人は出来たがそれもこの二人が居なかったら成しえなかったことだと自覚をしていた。


 「しかし、もう一年も経ったんだなぁ。最初はあまりに生活が不自然でびっくりしたよ!おまけに静かすぎて!それが今や、礼儀正しくて頼りがいのできそうな男に変わるだなんてな……」

 

 「なんだか、私たちの子供のようね。半分そうだけど、ね」


 既にビールを数缶飲み、酔っているせいか語調がややうるさい真と今飲んだばかりの早紀が息子的存在の灯夜に感慨を振り返っている。最初は歩くこともままならぬ赤ん坊が今やどこかへ行ってしまいそうな予感めいたものだった。それを感じるのは立派に成長した証拠だと真は暗黙だが理解していた。


 俺はこの日常を守らなきゃならないんだ。今、この瞬間に他の人が味わっているだろう同じような幸福を。リヒトワンドとして。だから、もっと強くなろう。でも、強くなるためにはその日常も捨てなきゃならないのかな


 食欲と幸福を求める欲を灯夜は味わいながら考え事に関する表情を出さないようにしていた。今のこの場を乱してはいけないと思っているから。皆が楽しんでいるのにこの疑問を出して台無しにするのは論外だと判断しているのだ。

 窮屈さこそないが、普通なら楽しいことの間に考えるには重たい内容だ。それを灯夜は背負っている。だが、苦を周りにまき散らさないことならお手の物だと灯夜は自負している。これはかれの秘密の能力だと勝手に思い込んでいるが、真にはそういったときは見通されていたのだ。自分は人に迷惑をかけているつもりはなくても他の人は心配をするのだ。

 

‐3‐


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 これは俺の夢だな。たぶん記憶を振り返っているんだろう。どこかに埋まっているはずの記憶を。

 これは独りで飯を食ってた記憶。薄暗い部屋で即席の料理を食べていたな。これは部屋の天井を意味無く一日中眺めてた記憶。これはまた独りで飯食ってる記憶。同じ記憶が巡り回ってくる。


 違う、もっと大事な記憶を思い出せ。こんなもんじゃないはずだ。これはただ僕の思い出したくない記憶を埋もれさせるための土でしかない。


 そんなのを思い出して何する気だ?今のままで充分だろ?なんで俺は自分から辛くなりたいんだ。


 辛くなりたいんじゃない。強くなるためには乗り越えるしかない。お前を……



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ―4―

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 目覚まし時計のアラームが鼓膜を響かせ、脳にその反応を受容させた。悪夢とは言い難いが、夢の中でまで面倒で疲れるような事態は避けたい。

 間違いないな。確実に俺の中にもう一人居る。

 先日の『卒業試験』まで疑念だと思っていたもう一人の自分。しかし、いざ実践へと向かった矢先に体を制御され、ついに確信へと変わった。

 去年の研究所での事件以降はなぜかこの『もう一人』を抑えられた。だから昨日まではこれをなにか別の錯覚だと思ってた。でもその間にその錯覚は気にはなっていた。どうしてあのような感覚が起きたのか、あの時どうしてあんな惨く人を殺せたのか、じゃあ初めてガーディアンスーツで人を助けた時はどうして人格を変わらなかったのか。それが真さんが出した答えである戦闘時に人格が入れ替わるってことだと思う。じゃあ、今までやってきた訓練は無駄だったのかって思いそうだけどそれは違う。今の俺と戦闘時の井崎灯夜は同じ人間だ。だから人格が違っても使ってる肉体は同じなので訓練や積んできた人間関係は決して無駄じゃないんだ。

 まぁ、なんにせよこれがわかったところで改善されるわけでも生活がもっと良くなるわけでもないんだ。頭の片隅に置いておこう。この問題は。さぁ、飯を食おう……もう一つ問題があったんだ。


 「布団の外、寒っ……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ―5―

 

 「ふぅ、こんなもんかな」


 寒さを流すビルの外とは裏腹に温かい気流が流れ嫌な気分もなく仕事をこなす者が居た。

 資料の整理と報告のテキストを打ち終えてデスクワークを終わらせようとした灯夜。主に島の巡回とスーツの状態を報告するための仕事だ。


 「お疲れ。もう一週間経ったけど慣れたか?」


 「まぁ、訓練してる時にデスクワークの仕方を習ったし慣れるもクソもないかな?」


 この一年で友人ともいえる関係となった灯夜と加賀魅、訓練では加賀魅も一緒となって鍛えられたということもあり親しい関係になるのはよほどコミュニケーションに障害が無い限りは当然ともいえる。

 

 「はっはは!クソって!」


 小学生が初歩的下ネタに笑いのツボを突かれたように笑いが起きた。


 「なんでそこで笑うんだよ」

 

 「いやさ、少し前だったら相槌だけや『あぁそうですね』みたいなので話を終えたりつまらないっていうか洒落がなかったりさ。変わったよな」


 自覚が無かったせいか馬鹿にされた感じがあった。昔のことを瞬間に思い出せてなかったのだ。


 「おまっ、そこまで……馬鹿にするなよ」


 「本当のことじゃん」


 「それで、どうしたの。いきなりにっちもさっちもよ」


 言ってることが意味不明で一瞬困惑した輝馬。瞬間になにが言いたいかが分かった。『にっちもさっちも』ではなく『藪から棒に』と。


 「……あー、そうそう。実はちょっと言っておきたいことがな。」


 手に持っていた写真を灯夜へ渡す。先週から話題になっていた『心ある力』と思わしき集団の写真と彼らの通行ルートをマークした航空写真。そしてとあるレビューサイトに載ってある洋食屋の情報が書かれたページのプリントだ。


 「これって?」


 「明日、ここを巡回してきてくれ。『心ある力』が爆弾を設置しているのを発見したんだ。もちろん、撤去をしたがまだ何か隠されている可能性が捨てきれないんだ。なので念のため今回はお前に任せたい。そうそう、ちなみにこいつらは先週以前からこのルートを巡回していた」


 このルートとは彼らが定期的に巡回しており、今回爆弾を設置したルートがチェックポイントのように設置していたのだ。何故彼らが巡回していたことを自分に黙っていたのかを即座に聞く灯夜。


 「黙るメリットあったか?」


 「あぁ。これはお前を疑っているわけじゃないってことをあらかじめ言っておくぞ。おそらくPSPCにスパイが居る。ほぼ確実に。黙っておくメリットは必要以上に警戒しないことで連中に悟られないようにするためだ。」

 

 鼻息を鳴らすことで理解をしたという相槌を示した。


 「で、何が起きると思うんだ?」


 「爆弾は囮だとして、ここ数日俺達に何らかの行動を起こすって合図が多いんだ。今回の爆弾設置はこのルートでなんかやらかしますよって合図だろう」


 「待って、真さんは今回は出ないのか?」

 

 「来るよ」


 それを聞いて灯夜の安心感が増した。自分一人では想定外の事態に対応できるかが不安なのだ。いくら訓練を終えており、もう一人の自分が戦闘をなんとか切り抜いてくれるとはいえ。

 安心感のあとにもう一つの疑問が出てきた。というより、最初からあったと言うべきだ。


 「この洋食屋のプリントは?こいつらが集まっている店?」

 

 「おデートに最適だ」


 「あ?」


 「だってお前、好きな人居るらしいじゃん」


 

 ―6―


 ビルの屋上は当然ながら風が強い。だが、ガーディアンスーツの機能の与圧と気温の調節によって寒波の影響は殆ど受けていない両者。しかし、片方は昨日受けた図星によって精神が若干不安定のようだ。溜息も出ている。


 「あーあー……」


 「いいじゃないか、一歩目が小さいより大きい方が後に有利じゃないか。今度行ってくればいい」


 「いや、ごもっともですし知り合って間もないって訳じゃないけどいきなりこんな良い感じの所へ飯に誘っていいものなのか……」


 「いいんだよ」


 その問題以外は余裕があった灯夜。今回はただの巡回だろうとタカを括っていたのだ。なにかがあってもどうせもう一人の自分が片付けてくれる。悔しいが便利に思っている。それに、今回はブリッツマンこと灯夜を鍛え上げた琴部真が付いている。不安要素が見つからないのだ。


 「さて、じゃあそろそろ行きますか」


 「待て、灯夜。ひとつ言っておくぞ。もしもの事態を想定しておけ」


 もしもの事態。そこは別に気にしてないわけじゃなかった。もし、もう一人の自分が戦闘時に目覚めなかった場合だ。しかし、そうなっても自分の戦闘能力は訓練で鍛えられていることもあり自信があった。余程のことが起きない限りはどうにでもなると自負していた。


 「えぇ、考えていますよ。じゃあ行きましょう」


 大丈夫かな


 真はいやな予感を感じていた為に願をかけた。これをただの取り越し苦労であってほしいと願っていた。

 灯夜は助走を付けながら背中のジェットウィングを、真は直立のまま脚部ブースターを起動。青空の二つ目と三つ目の太陽めいた光が街を駆け巡る。


最後のジェダイはけっこう好きだけどどれくらいの評価にしておくべきか迷っている作者のツイッターアカウント→(https://twitter.com/Zebra_Forest)

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