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第22回SFサバイバルゲーム  作者: 野川太郎
1/1

スタート前

 俺こと、哀川正一は胸が弾んでいた。

 多くの生徒たちが転送装置で登下校する時代。俺の家では未だに転送装置を設置させてもらえず、自転車登校をしている中。気持ちの良い追い風が俺の助けてくれる。

 年に一度の『あの祭典』がまた始まるのだ。

 普段、何の輝きを放つこともできない俺が、活躍できる学校行事。

『第22回SFサバイバルゲーム』が始まる。最も金をかけた超好景気国家の日本にできる学校行事。やはり、バカバカしい。そして、くだらない。だから、面白いのだ。

 最近はそれしか考えていなかった。それが楽しみで仕方がなかったのだ。

 もちろん、氷川や高倉、林にはそのことを悟られないようにしていた。しかし、顔に出てしまうようで、すぐに3人に突っ込まれたのだ。

「今度は4人でいっしょに戦いましょうね・・・・・特に、正一。いいわね!」

 氷川ごときに偉そうに。そう思った俺は反論したのだ。

「よし、分かった。全員この俺の盾になって戦え! それが不服ならこの俺の囮になってもいいぞ。この俺が生き残ればそれでいいんだよ!」

 そんな馬鹿な会話を昨日していたのだ。

 空を見上げながら、自転車のペダルを動かす。町には相変わらず、人がいない。ごみ収取用の転送装置で朝のゴミ出しは完了する。出勤する働く大人たちは、人間用の転送装置で各会社の転送装置へと出勤する。ことは一瞬だ。しかし、維持費がかかるため、俺の家では『アナログ出勤』を義務付けられているのだ。

 ケチな両親だ。まったく!

 そんな不満を抱えながら、必要性の無くなった『道路』を自分の所有物であるかのように自転車で走行する。

 使用されなくなった道路や信号機と呼ばれる機械。横断歩道と言われる白いライン。もう必要がないんだな・・・・

 これが時代の流れであり、名残りでもある。

 もし、転送装置が使えなくなったら、この道路は使われるのかな・・・・・

 俺は少し悲しくなった。

 技術の発展は人生の質や効率を上げるものだ。けれど、それは同時に過去の価値観を同時に破壊する。

 きっと、俺はそういう風景が好きなのだろう。定期的にあの『草原』にも通っている。機械だらけの景色が嫌いなのだ。自然が大好きだから、自転車で通うことが面倒でもあるけれど、それほど苦ではないのかもしれない。『アナログ出勤』も悪くないか・・・

 しばらくすると、時間が流れるように、俺もまた学校へと流れついた。

 まだ残っている自転車小屋に一人だけ向かっていく。すぐ近くにある2メートル以上の高さである筒状の転送装置から生徒が出てくる。

 彼らは自身が恵まれていることと、自然を見ずに学校に登校する『損』を自覚しているのだろうか?

 彼らの朝の習慣は決まっている。俺を馬鹿にすることだ。

 自転車小屋へ向かう俺に、数人の男女が嘲笑っている。「転送装置が使えない貧乏人」「残念な人」 

 そんな言葉が飛ぶこともしばしば。しかし、俺は気にしない。間違ったことは何もしていないからだ。俺のような人間を笑うやつらが本当の『馬鹿』なのだ。彼らはそのことに気づかない。馬鹿だから理解できない。馬鹿を相手にする必要はないのだ。それこそ、時間の無駄だからだ。

 そんなことを考えていると、衝撃的な光景を目の当たりにする。

「おはよう、正一!」

 氷川が自転車に乗りながら、叫んでいた。しかも、自転車に不慣れであるはずの高倉が自転車をこぎ、氷川が後部に腰を据えているのだ。

「お前たち! なんで二人乗りしてんだよ!」

 氷川は高倉の腹筋に両手を回し、笑みを浮かべている。

 けれど、高倉の方は疲労困憊の様子である。しかも、自転車に「補助輪」が搭載されているのだ。

「氷川、もう限界! 早く降りてくれ!」

「もうー 痩せたいって言ったのはタッカーでしょ!」

 氷川は膨れている。そんな二人に俺は近寄り、言ってやった。

「氷川・・・・お前が重いんだよ! お前も痩せろ!」

 俺と林はやせ形である。けれど、高倉は少し太り始めたのだ。筋肉質でもあるが、一年前と比べ、明らかに太ってきた。だから、俺が一つ助言をしたのである。

「転送装置の登校をやめて、自転車通学してみたら」と。

 すると、氷川がそれに協力すると言い出したのだ。同じ通学路だったからだ。高倉の両親が昔使用していた自転車で通学する。しかし、この時代に「補助輪」なしで自転車登校できる生徒はほとんどいないのだ。きっと、俺と別の学校で生きている草川くらいだろう。

 俺と氷川、高倉と林の四人で、高倉家に最近はお邪魔している。その時に、補助輪を物置小屋から一生懸命探し出したのだ。

 ドライバーを用いて、試行錯誤の末に取り付けることに成功した。

「正一! それ失礼じゃない! 最低!」

 氷川からの叱責を食らった。

「今度は氷川が高倉を乗せて自転車をこいで来いよ!」

 転送装置が開発されてからの子供の体力低下をよく耳にする。しかし、実際にそれを目撃することはインパクトが違う。近未来の弊害が俺の目の前にある。それが少し滑稽でおもしろいのだが・・・

「私・・・一応女の子だし・・・・そういうことはね・・・」

 わざとらしく、あざとい笑みを浮かべながら、氷川は言った。

「あ、そうそう。一つ言い忘れてたけど・・・・・・・・聞きたい?」

 俺は含みのある言い方をした。

「何よ! 行ってみなさい!」 

「俺の体力が・・・・」

 氷川の命令口調と高倉の嘆きが飛んでくる。

「自転車の二人乗りは一応法律違反だし、基本的に男女のカップルでしかしないから!」

「・・・・・・・・・・えぇぇぇ!」

 二人同時に驚きを見せた。

「それ、聞いてないわよ!」

「俺たち、犯罪者になっちまうのか?」

 二人の同様に、俺はほくそ笑んだ。

「二人はそういう関係ですよね・・・・・・ぷぅ!」

 俺の意地の悪い言い方に二人はつい赤面してしまった。

「正一酷い! それを知ってて二人乗りさせたのね!」

 氷川の赤面した頬が少し可愛いと思ってしまった。けれど、すぐに冷静さを取り戻し、言い返す。

「俺がそんな卑劣な生徒に見えますか? こんな健全な男子生徒に向かって?」

 俺は両手の手のひらを胸に当てた。

「どこまでも汚いやつだぜ! さすがは哀川」

 高倉からの皮肉が飛んでくる。

「SFサバイバルゲームで敵になったら、真っ先にぶっ倒してやるんだから!」

 氷川は頬を赤らめた状態で高倉を放置し、一人校舎へと向かっていった。

 こんな感じで、変わることのない毎日が続いていく。俺は非常楽しかった。彼らと出会えて本当によかったと思っている。

「待てよ。俺も校舎に行くよ!」

 俺もまた、高倉を放置し、氷川と肩を並べながら校舎へと歩いていく。

「二人とも、待ってくれ!」

 高倉は自転車を小屋へと置き、疲れ切った状態で走ってくる。




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