背中合わせ
ひんやり冷たい後ろの気配、誰かがそこにいるのは確かなんだ。
だけど生きた人間とは思えぬ程の冷たさ、背筋が凍る、それほどに冷たい。
僕は絶対に振り向かない。
だって後ろの正体に気付いてしまったとき、絶対に正気じゃいられなくなる、そう本能が警告している。
いつまでも消えないその冷たさが、不気味で不気味で仕方がない。
お前は一体誰なんだ。
目の前は、暖かい光がほんわりと漂っている。
それは掴めない事を、僕は知っている。
僕の体は、前と後ろが北海道と沖縄みたいに分かれている、なかなか面白いけど、それはとても気持ちが悪いんだ。
「やあ」
ついに後ろのあいつが話しかけてきた。
咄嗟に息を止める。
早くなる鼓動、世界は、氷河期のように凍りついた。
その声に、とても聞き覚えがあった。
僕は声を絞り出し、震えながら答えた。
「…ごめんなさい…」
過去の過ちが、脳裏を物凄いスピードで流れる。
ああ、僕の全てが壊れる。
「どうして謝るの?君はよく頑張ったよ。何も謝るの事なんてないさ。」
あいつのその言葉に、僕は余りにも無力な自分を呪った。
そんな言葉を言わせたいんじゃない、もっと、もっと、心のうちを、本当の気持ちを。
「君は過去を悔いているみたいだけど、僕にはもう過去も未来もない。今しかないよ、だから、そんなに怯えないで、苦しまないで。」
「違う!」
咄嗟に振り返ってしまった、目の前に広がる光景が、全てを物語っていた。
「やっと会えたね」
そこに居たのは、こちらに笑顔を向ける
ロープで首を吊った、あのときの自分だった。